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M&Aとは?M&Aの目的やメリット・デメリットを手法ごとに解説します

M&A / 基礎知識

  • 公開日2024.10.31
  • 更新日2024.11.05

M&Aとは?M&Aの目的やメリット・デメリットを手法ごとに解説します

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M&Aは、「合併と買収」を意味する言葉です。よく耳にする言葉ではあるものの、いざ自社で行うとなると、なにからやればよいかわからない方も多いかもしれません。そこでこの記事では、税理士である筆者が、M&Aについてわかりやすく解説しています。

売却側と買収側に分けた基本的な概要から、成功に向けたポイントや事例まで網羅的にまとめているので、この記事を読めばM&Aの進め方がわかり、適切なM&Aの方法を選択できるでしょう。

M&Aの意味 

M&A(エムアンドエー)とは、「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語では「合併と買収」となります。ふたつ以上の会社がひとつになったり(合併)、ある会社が、ほかの会社を買ったりすること(買収)を指し、企業または事業の全部や一部の移転を伴う取引で、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味します。

M&Aの目的

M&Aの目的は、企業がより大きな成長を目指す、経営を効率化する、後継者不足に悩む企業の事業承継、新たな技術やノウハウを取得することなどにあります。

日本国内におけるM&A件数の推移は、新型コロナウイルス感染症が流行した時期に一旦下がっていますが、令和に入り年々増加傾向にあります。その数値からも、日本でのM&Aの需要が増加していることがわかるでしょう。今後も国内企業においては、M&Aにより経営課題を解決し、日本経済を支えていくと考えられます。

中小企業庁 2024年版 中小企業白書より

また、M&A・事業承継の公的な支援機関である事業承継・引継ぎ支援センターにおいても、相談件数が急増している状況です。中小企業のスモールM&Aの需要も多く、M&Aの実施件数も増加しています。

中小企業庁 2024年版中小企業白書より

事業承継・引継ぎ支援センターとは、後継者問題を抱える中小企業や小規模事業者を対象としたM&A・事業承継の公的な専門機関です。事業承継や会社の引き継ぎに関するアドバイスや情報提供、マッチングサービスを行っています。

全国の47都道府県に無料相談窓口が設置されており、各センターでは専門家が相談に応じています。無料で利用でき、M&Aの検討段階における初期の相談先として各種サポートが受けられるのでおすすめです。

売却側の目的

M&Aの売却側の主な目的は、以下の通りです。

── 事業承継

現状の日本企業においては、中小企業の後継者不足が社会問題化しています。特に、中小企業では、後継者が不在のケースが多くなっています。すると経営者は、引退時期を迎えているにもかかわらず、そのまま経営し続けることとなり、経営者の平均年齢も高止まりとなっています。最新の中小企業白書においても、60代経営者の約4割と、後継者不在率も高くなっています。

中小企業庁 2024年版中小企業白書より

そんな、親族内や企業内に後継者候補がいない場合に、事業を存続させるための方法としてM&Aを行う場面も増えており、後継者問題の課題解決につながっています。

── 資金調達

M&Aの売却側にとって、M&Aは資金調達(ファイナンス)における手段のひとつとなります。売却側における資金調達の方法としては、買収先の企業に対して株式を売却し、その対価により資金を得る「株式売却」と、特定の事業の全部または一部を売却し、その対価として資金を得る「事業譲渡」の方法が一般的となっています。

1度に大規模な資金調達が可能になり、新たな事業への投資や負債の返済などに充てることができ、経営基盤を安定させることが可能となります。

M&Aを進めるうえでは、メガバンクや投資銀行のほか、地方銀行などにも相談窓口が設置されています。M&Aにおける資金調達において金融機関の専門知識を活用することができ、強い味方となってくれるでしょう。

── 事業の選択と集中

自社単独では成長に限界を感じていた企業も、M&Aにより他社と提携すれば、さらなる成長を期待できます。例として、親や親族から引き継いだ伝統的な事業を、他社の技術や経営資源を活用することで、現代に通用する事業にアップデートさせ成長させるケースや、大手企業グループの傘下に入り、業界再編の波に対応するケースなどがあげられます。

また、複数の事業を展開する企業の場合、不採算事業を譲り渡して事業の整理を行うことで、主力事業に経営資源を投下できるようになります。このように、事業における「選択と集中」のために譲渡を行うケースも見受けられます。

── 従業員の雇用の維持

M&Aには、従業員の雇用を守れるメリットもあります。経営者としては、自社を長年支えてくれた従業員を家族のように考えており、中堅・中小企業のM&Aでは多くの場合、「従業員の雇用維持」を条件のひとつとして買収側に求めることも多いです。

M&A後、従業員は新たなオーナー経営者のもとで、従来通りの雇用が継続し、顧客や取引先も継承されるケースが一般的で、従業員にとっても将来設計の選択肢が広がります。また、上場企業や大手企業の傘下に入ることができれば、従業員によりよい労働環境や労働条件、安定した雇用の場を提供することも期待できるでしょう。

── 創業者利益

M&Aにおいて、企業の創業者(オーナー経営者)は、自社をM&Aによって売却することにより、利益を得ることができます。オーナー経営者が保有する株式をM&Aにより買収先へ売却することで現金化でき、第二の人生を歩む資金や新しい事業を起こすための資金を得ることができます。

最近ではM&Aでの売却を前提に事業を起こし、ある程度の売却価値が出た段階で売りに出し、また新しい事業を起こす連続起業家もいます。創業者利益と言えばIPO(株式公開)が知られていますが、公開には時間やコストがかかるので、M&Aが有効な選択肢となります。

買収側の目的

M&Aの買収側の主な目的は、以下の通りです。

── 事業規模の拡大

現在のビジネスにおける環境は、競争が激化し、変化が激しくなっています。市場で勝ち残るためには、事業を拡大してスケールメリットを得ることが重要で、事業拡大を目的としたM&Aはビジネスにおいて勝ち残るための戦略としても有効です。
自社が未開拓の市場へ迅速に参入し、新たな収益源を確保することや既存事業と関連性の高い事業を買収し、事業規模の拡大も期待できます。また、競合他社を買収することで、市場シェアを拡大し、競争優位性を確立することもできるでしょう。

また、ベンチャー企業においても、M&Aにより短期間での事業成長が期待できます。このように、M&Aを活用すれば、自社の自助努力による事業の拡大では得ることのできないスピードで会社の事業規模を拡大することができ、市場シェアの拡大が可能となるでしょう。

── 新規事業の開始

M&Aによって、自社が保有していない優良な事業や技術・ノウハウを持つ企業を買収すれば、新規事業を立ち上げるコストや時間の削減できます。同時に、新たな収益源を獲得し、事業の成長を加速させることができるでしょう。

また、事業の多角化を図ることで、主力事業以外の収益源を確保でき、より安定した収益を得られます。これは、経営基盤を安定させることにもつながるでしょう。

H2:M&Aの売却側のメリットやデメリット
M&Aを行う場合、売り手企業は会社売却により、経営課題の解決や従業員の雇用維持など、さまざまなメリットがある反面、思ったような売却金額を得らない場合や、企業同士のミスマッチが起こる可能性もあります。

ここでは、売却側のメリット・デメリットを見ていきましょう。

売却側のメリット 売却側のデメリット
  • 従業員の雇用を維持
  • 技術、ノウハウが承継できる
  • ブランド力、信用力を強化できる
  • 個人保証(経営者保証)を解除できる
  • 創業者利益を得られる
  • 後継者不足問題を解決できる
  • 事業の継続と拡大が図れる
  • 既存取引先との関係性が変わる可能性がある
  • 従業員の雇用環境が変わる可能性がある
  • 企業文化のミスマッチがあり得る
  • 想定通りの価格で譲渡できない

 

売却側のメリット

売却側のメリットは以下です。

── 従業員の雇用を維持

M&Aで株式譲渡や事業の売却を検討される際、多くのオーナー経営者にとって気がかりなのが、譲渡後の従業員の処遇です。中小企業においては、「人」に依存する側面が大きく、実際の中小企業のM&Aでは、従業員の雇用継続が条件として盛り込まれるのが通例となっています。

現状より大きなグループの一員となることで、従業員の活躍の場が広がります。これまで自社ではできなかった従業員の育成強化や、多様なキャリア開発や人材育成など、従業員の士気向上、従業員家族の安心につながるケースも多いようです。

── 技術・ノウハウが継承できる

後継者が不在の場合、廃業を選択すると、長年磨いてきた技術や蓄積したノウハウが失われてしまいます。M&Aによる事業承継の場合、売却側の経営権だけでなく、これまで育ててきた技術や試行錯誤を重ねたノウハウも買収側企業に引き継ぐことができ、技術やノウハウを未来に引き継いでいけるでしょう。

── ブランド力・信用力を強化できる

M&Aにおいて、上場企業や大手企業が買収側企業である場合、大手企業のグループ企業としてブランド力や信用力が強化されます。これにより、市場での知名度が上昇。新たな取引先とのビジネスチャンスにつながる可能性が高まります。

── 個人保証(経営者保証)を解除できる

個人保証(経営者保証)とは、企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者などの個人が返済を保証することです。中小企業では経営者が個人保証を行い、金融機関から融資を受けているケースが多く見られます。M&Aにおいては、買収側による融資の肩代わりや保証そのものを引き受ける形でM&Aが実行されることが多く、個人保証の解除が可能です。

── 創業者利益を得られる

M&Aで株式を譲渡する際の株式の価額には、将来の超過収益力等を加味した「のれん」が上乗せされます。買収側により評価されることが一般的であるため、株式譲渡の場合、オーナー経営者は大きな創業者利益(株主利潤)を得ることができるでしょう。

── 後継者不足問題を解決できる

独自の技術やノウハウ、販売先等を保有していていても、後継者が存在しない場合は、事業の継続が難しくなります。このとき、他社に譲渡すれば、これまで培ってきた歴史やノウハウ・人材を活かして企業の存続を図ることができ、廃業を免れることができるでしょう。

── 事業の継続と拡大が図れる

後継者の不在で廃業を検討する際、自分の代で会社をなくすのは、忍びないので避けたいと考えるオーナー経営者も少なくありません。成長意欲のある企業や歴史や想いを引き継いでくれる会社に自社を託せば、事業の継続とさらなる拡大が図れる可能性があります。

売却側のデメリット

売却側のデメリットは以下です。

── 既存取引先との関係性が変わる可能性がある

M&Aを検討するうえでは、既存顧客や主要な取引先との契約内容の確認が必要です。M&Aにおいて、経営者の交代、担当者の変更、契約条件の変更などが起きた場合、取引先や関係企業からの反発や優良顧客が離れてしまう事態も考えられます。

売却側の経営者が、当面の間は買収側企業に在籍や関与し、取引先の間に入り関係性を継続するための橋渡し役になるなど、関係性が変わらない工夫が必要となります。

── 従業員の雇用環境が変わる可能性がある

M&Aによる統合後、従業員の雇用条件が悪化してしまう場合もあります。

M&Aの売却側企業にとって、M&Aにより従業員の雇用を守ることが重要な要素となり、売却側の経営者にとっては、長年共に過ごした大切な従業員の雇用維持はうれしいことですが、雇用環境の変化に対応できるかは、悩みの種となってしまいます。
このような場合、M&Aの交渉段階において、従業員の雇用環境を維持することを条件に交渉する必要があります。

── 企業文化のミスマッチがあり得る

企業は、これまでの歴史や風土により、それぞれに独自の文化や慣習があります。M&Aによる統合後に、この文化のミスマッチが大きくなると、売却側・買収側の社員の人間関係やマネジメントに支障が出て、会社運営に支障を来します。

社内手続き、人事制度や社内システムの統廃合、組織体系などのハード面の統合ができても、企業文化の統一には時間を要するものです。双方の文化にどのような違いがあり、それが許容できる範囲なのか。事前に双方で理解しておくことや、コンサルティングなどの外部専門家を活用しながら慎重に進める必要があります。

── 想定通りの譲渡金額で譲渡できない

M&Aが実現するためには、売却側は買収してくれる相手企業を見つける必要があり、買収側は財務体質やのれんの価値、法務リスクなどを見て、買収の可否を判断します。PL・BS・CFの財務三表や決算書などをもとに企業価値算定が行われ、買収価額の交渉となりますので、企業価値算定により高い収益性が見込めない場合などは、売却代金が想定を下回る可能性があります。

M&Aの買収側のメリットやデメリット

M&Aにより、企業買収する際の買収側企業においても、メリット・デメリットが存在します。重視すべき点など、目的の明確化が重要です。

買収側のメリット 買収側のデメリット
  • 事業の多角化が可能
  • 経営効率の改善が図れる
  • 人材の確保ができる
  • 技術力、生産能力を向上できる
  • 予定していた収益や相乗効果が出ない
  • 統合後の組織がうまくいかない
  • 優秀な人材の流出
  • 簿外債務が発生する可能性がある
  • のれん代の減損リスクがある


買収側のメリット

買収側のメリットは以下です。

── 事業の多角化が可能

M&Aによって、新規事業に参入したり、既存事業以外の分野に進出したりと、多角的な事業展開が可能になります。市場競争が激しいなか、企業が生き残るためには、既存の中核分野(コア事業)をさらに、その周辺分野や新規の市場で活かせるような相乗効果(シナジー効果)を生むM&Aが重要です。多角化によって、収益の拡大やリスク分散につながるでしょう。

── 経営効率の改善が図れる

同業の企業を買収した場合、商流が非常に似通っており、仕入れ・加工・物流・販売などさまざまな面でスケールメリットが発生します。また、管理部門や情報システムにおいて、一方の会社が長けている場合、経営や社内業務を効率化することができ、人件費の削減などの経費節約も期待できるでしょう。

── 人材の確保ができる

M&Aによって、優秀な人材を確保できることもメリットのひとつになるでしょう。現在の日本においては、人口減少が今後も続くと予測されており、2050年には9,500万人まで減少すると予測されています。よって、優秀な人材は、これからますます、確保が難しくなっていきます。

M&Aでの人材確保であれば、組織として成果を出しているチームや人材をそのまま迎えることができます。新たに採用すると、組織のなかで活躍できるかは未知数であり、人材戦略としては不確定要素となりますが、M&Aで獲得した人材は、すでに実績があることから合理的な手段となるでしょう。

国土交通省 「国土の長期展望」中間とりまとめ 概要

── 技術力、生産能力を向上できる

自社が持たない技術を持つ企業を買収すれば、新たな製品開発やサービスの提供が可能になり、技術を補完し合うことで技術力の向上が可能になります。また、特許やノウハウといった知的財産を獲得することで、自社の技術力向上にもつながるでしょう。また、買収した生産設備を活用すれば、生産能力が拡大します。スケールメリットを享受することにより、製品コストの低減にもつながるでしょう。

── 優遇税制

中小企業者のうち、2027年3月31 日までに事業承継等事前調査に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けたものが、株式取得によってM&Aを実施する場合に(取得価額10億円以下に限る)株式等の取得価額として計上する金額(取得価額、手数料等)の一定割合の金額を準備金として積み立てたときは、その事業年度において損金算入できる制度です。

なお、この制度は、準備金として積み立て事業年度では、損金算入ができるため、減税となりますが、準備金を取り崩した事業年度では益金算入となり、税金が課されるので、トータルでの減税効果はありません。よって、単年度の所得のみではなく、取り崩しが完了するまでの全期間の所得を予測し、検討する必要があります。

中小企業庁 中小企業事業再編投資損失準備金概要・手引き

買収側のデメリット

買収側のデメリットは以下です。

── 予定していた収益や相乗効果が出ない

M&Aは、企業規模の拡大や新しい市場への参入により、利益の拡大を目指すものです。しかし、必ず期待通りの結果となるとは限りません。M&Aでは、財務諸表だけでは表現できないのれん(無形資産)に対しても対価を支払っており、のれんを上回るだけの利益が計上されないリスクがあります。

また、M&Aによって、元々業界や文化が違う事業同志が融合することにより得られると期待していた相乗効果についても得られないことがありますので、事前のシミュレーションが重要です。

── 統合後の組織がうまくいかない

社風や従業員の待遇が違う企業が統合すると、統合後の組織がうまくいかないこともあります。経営理念・社風・企業文化、ブランド、人事制度、業務プロセス、情報システム、店舗などの物的財産、財務会計については、M&Aの成約前にできるかぎり統合後の姿をシミュレーションしてください。経営者同士で合意しておくほか、適切なタイミングで関係者に対して丁寧に説明していくなど、トラブルを未然に防ぐ対策が必要です。

── 優秀な人材の流出

M&Aの目的のひとつに、優秀な人材の確保があります。万が一、人材が流出してしまえば、買収側の企業は想定していた価値が得られません。人材流出の要因としては、人事評価や報酬制度の変更や企業文化の変化、仕事へのモチベーションや将来性の見通しなどの理由があげられます。

このような場合、M&Aの成約前に優秀な人材が残る体制づくりができるか確認し、重要と思われる人材には、売却企業の経営者も交えて会社に残ってもらえるか否かを話し合っておきましょう。人材流出を防ぐ対策が重要となります。

── 簿外債務が発生する可能性がある

場合によっては、売却側企業の「簿外債務」を引き継ぐこともあります。これは、中小企業においては、経理処理において「税務会計」を用いることが多く、上場企業などで行われる会計基準を採用しないために「簿外債務」が発生する可能性があるからです。

また、M&A成約後は、従来の会計処理に加え、連結会計制度が導入され、連結財務諸表の作成も必要となります。従来の個別会計に加え、連結仕訳が必要になり、会計事務の負担が大幅に増すことになります。

このような思わぬ簿外債務については、買収後に発覚する事態を回避するため、事前のデューデリジェンス(DD)において、徹底して調査することが重要です。会計事務負担に耐えられるリソースの確保も必要になるでしょう。

── のれん代の減損リスクがある

M&Aにより買収する際は、買収側企業は「のれん」を支払うことが多くあります。のれんは、売却側企業のブランド力や人材の力、顧客との関係性、知的財産等の目に見えない無形資産を、将来にわたって利益を稼ぐ力(超過収益力)として評価したものです。買収時に対価を支払い取得します。

のれんは内・外部環境の影響により、価値が変わり、買収時に見込んでいたシナジー効果が見込めなくなった場合、のれん代の減損が発生し、予定にない損失が計上されます。適切なデューデリジェンス(買収監査)により、把握を行い、スムーズなPMI(M&A後の統合プロセスのこと、詳細は後述)によって対処していく必要があるでしょう。

なお、のれんの減損は、国際会計基準(IFRS)を採用している上場企業の場合となりますので、国際会計基準を採用していない場合は考慮する必要はありません。

M&Aの手法

M&Aは、狭義の意味では、企業の合併・買収を意味し、広義の意味では、企業の合併・買収だけでなく、提携まで含める場合もあります。ここからは、M&Aのスキームごとに図解を用いて、それぞれの特徴を見ていきましょう。

買収

買収には、以下のような方法があげられます。

── 株式譲渡

株式譲渡とは、売却側企業株主が取引主体となって、株式を譲り渡し、買収側企業は、譲渡対価として「金銭」で買い取ることで経営権を取得する取引です。事業譲渡と並んで、実務ではよく活用されています。

株式(経営権)の譲渡による経営権を獲得するため、株主(≒経営陣)のみが変化をし、会社内の資産や組織構造には変化がないことが特徴です。株主が変更するのみなので、すべての資産・負債、取引上の契約を引き継ぎます。簿外債務や不利な契約、不利な雇用、環境問題等も引き継ぐことになる点に、注意が必要です。

また、M&Aにおいては、行政上の許認可や権利を獲得するために買収を行うことが多いですが、事業譲渡の場合は、許認可や売却側企業が所有する権利、契約関係は新たに再取得・再契約する必要があります。一方、株主譲渡の場合は、原則としてこれらをすべて承継するため、利用しやすくなっています。

注意点として、取引基本契約や賃貸借契約には、一般的に株主構成が大幅に変更となった場合に、事前通知を求める場合や契約を一旦解除するという 「チェンジ・オブ・コントロール条項」が含まれている場合があります。

この条項があるからといって、すべてのM&Aで引き継げないという訳ではありませんが、買収側企業が大企業の場合、契約が引き継がれることが多く、M&Aの交渉段階で、契約書の内容を吟味し、M&Aアドバイザーと相談しながら進めていく必要があります。
また、株式譲渡の場合は、すべての株主から譲渡についての合意を得る必要があります。合意の得られなかった株主については、排除するために特別な手続き(スクイーズアウト )を行わなければなりません。株主の数が多く、株式が分散している場合(特に株主間に対立が見られる場合)には、譲渡の手続きが煩雑となります。

※スクイーズアウトとは、少数の株主や特定の株主から、大株主が強制的に株式を取得する手法を指し、意見の対立する少数株主や連絡がとれなくなった株主に対して金銭等を交付して強制的に株式を買い取り、株主から排除する方法です。手続きに制約があるため、事前に条件の整理をすることが必要です。

メリット デメリット
  • 売却側企業は、取引により現金を手にすることができる
  • 事業譲渡にくらべて手続きが容易
  • 行政上の許認可や取引上の契約等が原則、承継される
  • 買収側企業は、売却側企業の法人格をそのまま引き継ぐため、簿外債務等を引き継いでしまう恐れがある
  • 譲渡対価として支払う金銭が必要になる
  • 株主から株式譲渡の合意が必要

■主な手続き

  1. 経営陣による大筋合意
  2. 譲渡承認の請求
  3. 取締役会・株主総会での承認
  4. 決定内容の通知
  5. 株式譲渡契約の締結
  6. 株主名簿の書き換え、証明書の交付
  7. 決済の手続き

 

── 株式交換

株式交換とは、売却側企業株主が取引主体となって、株式を譲り渡し、買収側企業は、譲渡対価として「買収側企業株式」を交付し、経営権を取得する取引です。先程の株式譲渡の大きな違いは、譲渡対価が「株式」という点です。

株式交換の場合は、株主総会の特別決議(議決権の半数超の株主が出席および議決権の2/3以上の賛成)で承認を受ければ株主交換を行うことができ、反対した株主の株式も強制的に買収側企業に移動することになります。よって、株式交換に不服の場合は、会社に株式の買い取りを請求できます。

また、株式交換の対価は、買収側企業の新株または自己株式(会社が保有する自社株)となるため、買収資金は不要です。よって、手元資金が不足している場合や、負債による調達を避けたい場合にも選択しやすい手法と言えます。

合併などと異なり、売却側企業が別会社として存続するため、売却側企業の組織・事業の特質をそのまま残し、緩やかに経営統合を進めることが可能です。よって、売却側企業の従業員に抵抗感が生じにくく、スムーズな経営統合が期待できるのも利点となるでしょう。

株式交換のデメリットは、新株を発行して譲渡対価とすると、買収側企業の株式数が増加するため、各株主の持分比率が下がる点にあります。そのため、株主総会での影響力が減少し、期待される利益(配当金)の額も小さくなると考えられるでしょう。上場企業の場合は、株式の希薄化で市場評価が下がり、株価が下落する危険がある点に注意が必要です。

また、売却側企業の株主に買収側企業の株式が交付されることは、その売却側企業の株主にとってはメリットかもしれませんが、買収側企業の既存株主や経営陣にとっては、好ましくない事態であることも多くなっています。株主構成が変わることへの対策が必要になるでしょう。

メリット デメリット
  • 買収側企業は、譲渡対価としての金銭を用意する必要がない
  • 別法人として存続するため、ゆっくりとした統合が可能
  • 少数株主を強制的に排除することが可能
  • 1株の価値が低下し、株価が下落するリスクがある
  • 買収側企業の株主構成が変わる
  • 手続きが煩雑でクロージングまでに日数がかかる


■主な手続き

  1. 取締役会決議・株式交換契約締結
  2. 適時開示(上場企業の場合)
  3. 公正取引委員会への事前届出(一定の場合)
  4. 金融商品取引法上の手続き(一定の場合)
  5. 事前開示書類の作成と備置
  6. 株主と債権者への対応(株主総会の開催・債権者保護手続き・反対株主株式買取請求手続きなど)
  7. 株式交換の効力発生
  8. 変更登記
  9. 事後開示書類の作成と備置
  10. 株式交換無効の訴えへの対応


── 株式移転

株式移転とは、すでに存在している株式会社を対象として、その会社の発行済株式の全部を新たに設立する会社(特定親会社)に取得させる取引です。対象会社の株主は、新たに設立された特定親会社の株主になります。

株式移転によって設立される会社を株式移転設立完全親会社、株式移転により完全子会社となる会社を株式移転完全子会社と言います。株式交換は、すでに存在している会社を特定親会社とするのに対し、新たに特定親会社を設立して株主となるのが株式移転です。

株式移転は、グループ内の組織再編を目的として用いられるのに対し、株式交換はグループ内の組織再編に加えて、他社の買収を目的として用いられる点に違いがあります。株式移転による組織再編では、新設の親会社が株式移転の対価として新株を発行するだけなので、取得のための資金が不要です。

また、株式移転による組織再編が行われても、既存企業は子会社として存続するため、早急な改変をすることなく事業を継続できます。そして、新設会社が子会社の全株式を取得するため、少数株主(親会社以外の株主)がいなくなり、少数株主を排除することが可能です。

株式移転のデメリットは、株式移転計画の立案から株主総会での承認、反対株主の株式買取請求への対応など、さまざまな手続きが必要になる点です。

株式移転において、株主総会の開会前、並びに株主総会でも反対の意思表示をした株主は、株式買取請求権を行使でき、株式の買い取りについては、会社側と株主において価格を協議し、合意した金額において売買することになります。

メリット デメリット
  • 親会社は、譲渡対価としての金銭を用意する必要がない
  • 子会社として存続するため、急な統合が必要ない
  • 少数株主の排除が可能
  • 1株の価値が低下し、株価が下落するリスクがある
  • 手続きが煩雑
  • 反対株主の請求に対する対応
  • 共同株主移転(2社以上での株主移転)の場合は、株主構成が変動する

■主な手続き

  1. 株式移転の大筋合意
  2. 基本合意の締結
  3. 株式移転契約の締結
  4. 事前開示事項の備え置き
  5. 株式総会における株式移転の承認
  6. 反対株主による買取請求手続き
  7. 事後開示の備え置き

 

── 第三者割当増資

第三者割当増資とは、売却側企業が新たに株式を発行し、買収側企業に新株引受を行ってもらう取引です。売却側企業に資金が注入されるため、会社の財務基盤が強化され、M&Aのうちのひとつとなります。

第三者割当増資では、発行会社と友好的な取引であることが前提となり、発行会社の100%の議決権を取得することができないこと、および発行会社が現金を直接調達できることが大きな特徴です。

株式譲渡は、株主間での取引となるため、発行会社に影響がありません。一方、第三者割当増資は、発行会社が新株を発行し、発行会社に資金を入れることになります。つまり、経営権を移転させたい場合には株式譲渡、資金調達を行いたい場合には、第三者割当増資が用いられることとなります。

第三者割当増資のメリットは、資金調達をすることで純資産が増加し、会社の信用力の指標とも言える自己資本比率が高まり、事業規模拡大のための資金として活用できる点にあります。また、第三者割当増資の引受先との関係を強化することも可能です。

なお、第三者割当増資を利用する場合、会社から新株を発行して引受先は資金を拠出して発行会社へ払い込みますが、この一連の流れについて、株式の譲渡を行う訳ではないので税金が課されることがありません。

第三者割当増資のデメリットは、必ず既存株主の株式が残るので、100%の議決権を取得することができない点です。既存株主の保有割合が下がることで、株式の希薄化も懸念されるでしょう。

また、第三者割当増資の場合、既存株主の株式数に応じて増資する株式数が決まるため、場合によっては多額の資金が必要です。なお、資本金は、1,000万円以上と1億円以上のラインを超えることで増税になるケースがあります。増資金額によっては、税金負担が増す点にも注意しておきましょう。

メリット デメリット
  • 資金調達ができる
  • 信用力の強化や事業規模の拡大
  • 増資引受先との関係強化
  • 手続きが簡便
  • 税金が発生しない
  • 100%の議決権を獲得できない
  • 株式の希薄化
  • 多額の資金が必要
  • 増税の可能性あり
  • 対価を受け取るのが会社であるので、オーナー引退にはなじまない

■主な手続き

  1. 取締役会での募集事項の決定・株主総会での決議
  2. 株主への通知・公告
  3. 引き受けの申し込み希望者への通知
  4. 引き受けの申し込み
  5. 割当先の決定、申込者への通知
  6. 出資の履行

 

── 株式公開買付(TOB)

TOB(株式公開買付)とは、不特定多数の株主から市場外で株式等を買い集めるM&A手法です。「Take-Over Bid」の略であり、不特定かつ多数の人に対して、買付価格や期間、株式数などを公告し、証券取引所を通さずに株式の買い付けを行うことを言います。ほかの株主から株式を売却してもらうため、TOBの買付価格は市場の取引価格よりも高くなるのが一般的です。

TOBは、主にほかの上場企業の株式を取得して子会社化する場合などに活用されます。一定以上の株式を取得することで、株主総会での決議を単独で成立させたり、特別決議の阻止ができたりする権利が得られます。取得した株式の比率に応じて取締役の選任や解任、合併の承認、完全子会社化なども可能です。

大量の株式取得が市場外で行われる場合、ほかの株主にとっては、突然大株主の変更が生じることで、影響を受けることになりかねません。また、売買に参加できる株主とできない株主が出てしまうなど、不平等が生じる恐れもあります。

よって、金融商品取引法では、適切な情報開示と株主間の取り扱いの平等を確保するために、会社支配権に影響を与え得るような一定の株式取得については、TOBを用いることを義務付けています。

株式公開買付(TOB)のメリットは、短期間で大量の株式をまとめて取得できる点です。証券取引市場を通して株式の大量注文を行うと、自身の買い注文が原因で株価の急激な上昇が起こり、予想以上の価格でないと株式を買い付けることができなくなります。

結果として株式を大量に取得できない可能性がありますが、TOBでは一定価格で株式を買い付けるため、前もって費用を用意し株主から同意を得られれば、短期間で大量の株式をまとめて取得可能です。

また、目標株式数に満たなかった場合はTOBを中止することもできます。効率的な株式取得が可能になるほか、TOBであればあらかじめ公開した価格で株式を買い付けるので、株式市場における株価変動の影響を受けません。

なお、株の売り手におけるメリットは、市場価格に20~40%のプレミアム分が上乗せされた価格を提示されることが一般的であり、市場価格よりも高く売却できる点です。また、買収者からの資金が対象会社に投入されることで、経営基盤の安定や経営状況の改善がなされる可能性があります。

株式公開買付(TOB)のデメリットは、買付価格にプレミアム分を上乗せすることが一般的であり、コストがかかる点です。また、一般的に敵対的TOBは、友好的TOBにくらべて買収の成功率が低い傾向にあります。敵対的TOBを仕掛けた場合、対象企業が買収防衛策を講じて抵抗してくることで、想定外のコスト発生や目標株式数を取得できないことが多く、成功率が低くなるでしょう。また、株の売り手におけるデメリットは、買収対象会社の経営陣は、支配権を奪われる点です。

メリット デメリット
買い手
  • 短期で大量の株式を取得できる
  • 一定の株式数が取得できなかった場合は、キャンセルできる
  • 株価変動の影響を受けにくい
  • 市場買付けよりも買収金額が高くなる
  • 敵対的TOBは成功率が低い
売り手
  • 市場価格よりも高値で株式を売却できる
  • 経営状況が改善する可能性がある
  • 現経営陣が経営権を失う

■主な手続き

  1. 公開買付開始公告
  2. 内閣総理大臣への公開買付届出書の提出
  3. 意見表明報告書の提出
  4. 対質問回答報告書の提出
  5. 公開買付報告書の提出


── 事業譲渡

事業譲渡とは、会社(譲渡会社)が事業の全部または一部をほかの会社(譲受会社)に譲渡することです。株式譲渡・会社分割・合併等と比較して、契約によって譲渡の対象となる事業を選択することができ、対象資産や負債についても契約によって比較的自由に選別できる点が特徴となります。事業譲渡には、事業の全部を譲渡する「全部譲渡」と一部門を切り離して譲渡する「一部譲渡」のふたつがあります。

売り手のメリットは、自社内で継続したい事業を残し、切り離したい特定の事業を切り出して売却できる点です。会社に負債がある場合、当面の会社運営に必要な資金分だけ売却して現金化を行い、それを元手に継続したい事業に投資することが可能になるでしょう。

また、会社全体を売却の対象とする株式譲渡では負債も引き継ぐため、引受先は買収をするのにリスクがあります。一方、事業譲渡の場合は、引受先が見つかる事業のみ譲渡できるので、譲渡できる可能性が高まるでしょう。

合わせて、特定の事業のみ切り出して譲渡するため、売り手は会社を存続することができます。譲渡代金を元手に債務を返済し財務を健全化したり、譲渡代金をもとに新しい事業を起こしたりすることも可能です。

買い手のメリットは、譲り受けたい事業の範囲が指定でき、利益が見込める事業や譲り受けたい人材を選別できる点です。事業譲渡ではのれん相当額の償却や有形固定資産の減価償却費を、譲受企業側の損金として計上することができ、節税につながります。

売り手のデメリットは、債務の債権者や従業員と個別に承諾を得る必要がある点です。たとえ譲渡側と譲受側で合意に至ったとしても、実際に事業譲渡が行えるかどうかは、その後の債権者や従業員、取引先等の契約が行えるかどうかの結果により左右されます。

また、事業譲渡は、株式譲渡等の比較的シンプルな譲渡方法とくらべて時間がかかる場合があります。対象事業に関わるすべての契約(債務・従業員・取引先・業務提携先等)に対して、相手方の同意を得る必要があり、その契約の数が多ければ多いほど手間や時間、コストがかかります。

合わせて、売り手は当事者の意思表示がない限り、同一の市町村、隣接する市町村の区域内においては、20年間譲り渡した事業と同一の事業を行うことができません(会社法第21条:譲渡会社の競業の禁止) ので、長期の計画が必要となります。

なお、事業譲渡により、譲渡代金を受け取った場合には、譲渡益に対して法人税、住民税等の税金がかかります。売り手に繰越欠損金等がなければ、手取り額が減ることになるでしょう。

買い手のデメリットは、譲渡対象事業に紐づく契約先の全社と買い手企業が新たに契約を結び直す必要があるので、手続きが煩雑になる点です。また、事業譲渡では、対象事業を譲り受けて、その対価として譲渡代金を支払うので、消費税が課税されます。

メリット デメリット
買い手
  • 特定の事業を指定して売却できる
  • 会社に負債があっても譲受先が見つけやすい
  • 会社が存続して経営が継続できる
  • 経営者だけでは進められない
  • 時間がかかる
  • 競業避止義務により、同じ業界でビジネスができない
  • 売却益に法人税がかかる
売り手
  • 対象事業の範囲を指定できる
  • 負債・債務を引き継ぐ必要がない
  • のれん相当額の償却、有形固定資産の減価償却等の節税ができる
  • 譲渡完了までに手間がかかる
  • 譲渡代金の支払いに消費税がかかる

■主な手続き

  1. 取締役会決議
  2. 事業譲渡契約の締結
  3. 株主総会
  4. 事業譲渡の通知
  5. 反対株主の
  6. 株式買取請求手続き
  7. 効力発生


── 会社分割

会社の一部(事業など)を分割してほかの会社に移転することを会社分割と言い、吸収分割と新設分割の2種類があります。既存の会社に事業などを移転するのが「吸収分割」、新設会社に移転するのが「新設分割」です。

事業譲渡と会社分割の相違点は、以下となります。

事業譲渡 会社分割
取引先などの契約 
個別承継  包括承継
債権者保護手続き 不要 必要
譲渡対価 現金 株式
簿外債務の引き継ぎ なし あり
雇用関係 個別承継 包括承継
消費税 課税される 課税されない
税金の優遇
なし あり

 

── 新設分割

新設分割は、事業を承継するための新しい会社を設立して、その会社に事業を承継する取引です。新設分割は、承継した事業の対価を誰が受け取るかによって、「分社型新設分割」と「分割型新設分割」の2種類に分類されます。

■分社型新設分割

分社型新設分割とは、譲り渡した事業の対価を譲渡企業自身が受け取る新設分割のことを言い、譲渡企業が譲受企業を資本的に支配することになります。

■分割型新設分割

分割型新設分割とは、譲り渡した事業の対価を譲渡企業の株主が受け取る新設分割のことです。よって、譲渡企業の株主は譲渡企業・譲受企業両社の株主になり、譲渡企業と譲受企業の間に資本的な支配関係は生じません。

新設分割のメリットは、特定の事業のみを切り出して新会社に移転したり、複数の事業を組み合わせて1社にまとめたりすることが容易に行えるため、グループ再編や合弁会社立ち上げの際に事業の組み合わせ(ポートフォリオ)を柔軟に検討することができ、柔軟なM&Aが可能になります。

事業譲渡では、権利義務1点1点について移転手続きが必要で、取引先や従業員と個別に交渉することが求められます。一方、新設分割では、分割事業に含まれる権利義務がまとめて新設会社に承継されるため、移転手続きが不要です。一部の業種を除いて許認可を引き継ぐことも容易に行えるでしょう。

また、事業譲渡では、新設会社に事業を移転したりする際にはまとまった資金が必要になります。一方、新設分割においては、新設会社の株式等(株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債)と引き換えに事業が承継されるため、会社立ち上げにおける大きな資金は不要です。

新設分割のデメリットは、事業譲渡にくらべて手続きが煩雑となる点です。会社法に基づく手続き(債権者保護手続き・株主総会など)および労働契約承継法に基づく手続き(従業員の権利を保護するための手続き)が必要になります。

また、分割により取得した対象事業に偶発債務(将来的に発生する恐れのある債務)が含まれていると、新設会社に引き継がれてしまうため、後々大きな問題となる可能性があります。なお、事業譲渡であれば、契約で定めた特定の権利義務だけが承継されるため、偶発債務を引き継ぐ心配はありません。

メリット デメリット
  • 対象事業を選択でき、柔軟な組織再編・M&Aが可能
  • 権利義務の引き継ぎが容易で、迅速な会社立ち上げが可能
  • 会社立ち上げに大きな資金が不要
  • 会社法・労働契約承継法に基づく複雑な手続きが必要
  • 偶発債務を引き継ぐ恐れがある

■主な手続き

  1. 新設分割計画の作成
  2. 必要書類の事前開示と備え置き
  3. 株主総会での特別決議の承認
  4. 反対株主への株式買取請求受付通知の送付
  5. 債権者保護の手続き
  6. 新設分割の登記
  7. 債権者による債務履行請求への対応
  8. 必要書類の事後開示と備え置き
  9. 新設分割無効の訴訟への対応

 

── 吸収分割

吸収分割とは、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割し、既存のほかの法人に承継させる組織再編のスキームです。吸収分割などの会社分割のスキームでは、事業の譲り渡し側は分割会社と呼ばれ、分割契約書などの公的な書類では、一貫して分割会社と表記します。

吸収分割には「分社型吸収分割」「分割型吸収分割」の2種類があります。

■分社型吸収分割

分社型吸収分割とは、分割会社が自社の事業を分割し、承継会社へ譲り渡す代わりに譲渡対価として株式や金銭などを、分割会社自体が受け取る分割手法となります。

■分割型吸収分割

一方の分割型吸収分割とは、事業承継の譲渡対価である株式や金銭などを、分割会社の株主が受け取る分割方法です。対価が株式の場合、分割会社の株主は、承継会社の株主になり、両社の株主となります。

分割型吸収分割のメリットは、事業承継の譲渡対価として、承継会社は分割会社に対して株式の発行を選択できれば、多額の現金を用意する必要がない点です。新株発行によって必要な資金を調達できるため、債務リスクを負うこともありません。

また、吸収分割による事業承継は、従業員や取引先との契約などをそのまま継承できるため、事業譲渡などにくらべ手続きを簡略化することができます。承継会社へ移籍する労働者に個別に同意をとる必要もないので、手続きが簡便です。なお、労働契約承継法に基づいた手続きでないと、分割そのものが無効となる可能性があるので注意が必要です。

分割型吸収分割のデメリットは、承継会社が上場企業の場合、株価に関するリスクがある点です。吸収分割の対価として株式の発行をすると、一株あたりの利益が減少するため、株価が下落するリスクがあります。合わせて、分割会社の株主が承継会社の株主となるので、承継会社の株主構成も変化します。

また、吸収分割は、組織構造や企業文化が大きく変化します。企業規模の縮小や事業部門が変更することで、従業員に不安を与えることもあるでしょう。こういったことから、従業員が原因になり、スキルや経験豊富な従業員が退職してしまうと、承継会社の業績にも悪影響を及ぼす可能性があります。事前に、人材流出を防ぐ対策が必要です。

メリット デメリット
  • 手持ち資金が少なくても実行可能
  • 移転手続きがシンプル
  • 労働者の同意なしに移籍させることが可能
  • 株価や株主構成が変化
  • 人材流出の可能性

■主な手続き

  1. 分割会社・承継会社トップ同士による会社分割の大筋合意
  2. 基本合意を作成し、取締役会承認後、基本合意締結
  3. 分割契約書を作成し、取締役会承認
  4. 労働契約承継法に基づき、従業員への通知
  5. 事前開示事項の備置
  6. 株主総会の承認、債権者保護手続き、反対株主買取請求手続き、吸収分割新株の上場申請、公正取引委員会への事前届出
  7. 会社分割の効力発生日後、登記申請
  8. 事後開示事項の備置、分割会社株主への新株交付


合併

合併とは、複数の会社をひとつの会社に統合することです。英訳すると「merger」。M&A代表的な手法で、ほかの会社を完全に取得するのが特徴です。

合併によるM&Aは、ほかの会社を完全に取得する場合や、グループ企業における組織再編(グループ企業の親会社と子会社の合併など)、業績不振の企業に対する救済、税務メリット(繰越欠損金の引き継ぎなど)の獲得などあらゆる目的で、会社の規模を問わず、幅広く活用されています。

■主な相違点

新設合併 吸収合併
消滅会社 両社とも消滅 引き継がせる会社
存続会社 新会社 引き継ぐ会社
権利・義務の承継 新会社 存続会社
免許・許認可の承継 再度、申請が必要 そのまま引き継ぎ
株主への対価 株式・社債 株式・社債・現金

■買収との違い

買収とは、片方の企業がもう片方の企業から株式や事業を買い取るM&Aスキームの総称であり、具体的には、株式譲渡・事業譲渡・会社分割などの手法が当てはまります。

そんな買収と合併の違いは、消滅する会社の有無にあります。買収によるM&Aでは、経営権や一部の事業は買い手企業に移りますが、売り手企業の法人格は引き続き存続することとなります。

一方、合併では、買収される側の会社を解散(消滅)させたうえで、保有する権利や義務を買い手企業がそのまま引き継ぐことになります。そのため、合併では法人格の消滅を伴う会社が必ず存在します。なお合併では、法人格が消滅する会社(被買収企業)を消滅会社、消滅会社から権利義務を引き継ぐ会社を存続会社と言います。

── 新設合併

新設合併とは、ふたつ以上の会社が行う合併であり、すべての法人格を消滅させたうえで、新たに設立する会社に権利義務を承継させる合併の手法です。新しく会社を設立したうえで、そこに消滅させた会社が持っていたすべての権利や義務を引き継がせる手法で、株式や事業用資産のみならず、従業員との雇用契約や取引先、ノウハウ、技術なども引き継ぎ対象となります。

新設合併によるM&Aを実施する主な目的は、「グループ内における組織再編」です。会社の組織を編成することで、機能の統合によるコスト削減や生産性向上などを図ります。

新設合併のメリットは、株主に対する対価として、株式や社債などを利用でき、買収における現金を調達する必要がない点です。また、新設合併では、すべての会社が1度消滅します。完全に対等な立場でのM&Aを行いやすく、社内の従業員も対等なM&Aであるという認識を持つため、不満を抱いたりモチベーションが低下したりするといった事態が生じにくくなります。

合わせて、新設合併では、複数の企業がひとつの法人に統合されることによるシナジー効果を得られる可能性があります。ふたつ以上の事業・会社がひとつに統合されることで、個々で活動しているときとくらべて、より大きな成果を生み出しやすくなるでしょう。

具体的には、ブランド力の強化により収益が増加する効果や、管理部門などの重複する分野を集約することで費用を削減できる効果、ほかには、研究開発において共同開発による技術力の向上などが期待できます。

株式譲渡によって他社を買収する場合、売り手と買い手はそれぞれ別の法人格を持ったまま企業活動を存続しますが、新設合併では、1度すべての法人格を消滅させます。そして、完全にひとつの会社へと統合されますので、シナジー効果が大きくなることが期待できるでしょう。

そのほか、新設合併では、事業規模が拡大する点も期待できます。取引先や顧客の増加や生産規模が大きくなることで、売上を大きく増やせる可能性があるでしょう。また、自社が持っていない設備や技術力・ノウハウなどを獲得し、弱点を補強することも可能となります。

新設合併のデメリットは、手続きが煩雑である点です。合併によるM&Aでは、債権者保護の手続きや株主総会による特別決議など合併による事務手続きが非常に多く、時間と労力がかかる手続きを実施しなくてはなりません。

加えて、新設合併の場合、会社を新たに設立する必要があり、また、事業に必要な許認可や資格を再度取得する必要があるので、さらに手続きが増えることになります。

また、対価に現金を利用することができません。よって、新設合併では、合併に携わるすべての会社の法人格が消滅するので、新設合併に際して現金を対価として交付してしまうと、理論的には新設会社の株主を確保できないリスクがあります。

このほか、新設合併では株式や社債等のみしか対価として認められていません。相手企業の株主に現金を交付できないため、オーナー社長のリタイアや新規事業の立ち上げに必要な資金を獲得したい方には、不向きな方法となります。

合わせて、新設合併では会社設立や登記の手続きを行う必要があるため、吸収合併とくらべて会社の設立に関連する費用に応じて、コストが増大します。

また、PMI の負担がとても重くなっています。組織文化や経営理念、働き方などあらゆる部分に違いがある複数の会社がひとつの会社になるので、単に法律上の手続きを済ませるだけではなく、システムや企業文化などを統合する手続きを徹底して行うことが重要です。

メリット デメリット
  • 買収資金を準備する必要がない
  • 対等な立場での合併となる
  • 統合によるシナジー効果を得られやすい
  • 事業規模が拡大
  • 手続きが煩雑
  • 対価に現金を利用できない
  • 会社設立に伴うコストの増大
  • 統合作業の負担が重い

■主な手続き

  1. 事前準備・交渉
  2. 取締役会の承認
  3. 合併契約の締結
  4. 事前開示書類の備置
  5. 株主総会の招集・承認
  6. 債権者保護手続き
  7. 反対株主の買取請求手続き
  8. 効力発生・登記
  9. 事後開示書類の備置

 

── 吸収合併

吸収合併とは、会社がほかの会社とする合併のうち、ひとつの会社の法人格のみを残し、それ以外の会社の法人格を消滅させたうえで、消滅する会社の権利義務のすべてを存続する会社に包括的に承継させる手法です。中小企業の事業承継における合併については、この吸収合併の方法がよく使用されています。

吸収合併の場合は、消滅会社に与えられた許認可や免許を、存続会社がそのまま引き継ぐことが可能となり、すべての法人を消滅させる新設合併にくらべて、手続きの負担が抑えられます。

吸収合併のメリットは、権利義務を「包括的」に承継することができる点です。承継すべき権利義務が多い場合は、吸収合併を利用するメリットが大きくなるでしょう。また、吸収合併では、ふたつの会社の経営資源を統合することによって、関係性が強化されるので、結果として、シナジー効果の早期発現が期待できます。

合わせて、合併比率を1:1の割合で行う対等合併では、対等な立場でのM&Aを社内外の関係者に印象付けることができます。合併に際して受け取る配当金などの経済的価値が1:1となり、合併当事者が対等な立場で経営を続けることができるでしょう。

また、吸収合併を行う際、存続会社は消滅会社の株主へ合併対価を支払う必要があります。合併対価は現金だけでなく、会社法では、存続会社の株式や社債、新株予約権なども認められています。存続会社の株式を合併対価とすることで、手元資金が減ることなく吸収合併を実現でき、資金調達も不要となります。

そのほか、100%子会社など一定の条件を満たす場合の「適格合併」では、消滅会社の資産・負債を「簿価」で引き継ぐことができます。また、消滅会社に繰越欠損金がある場合は、存続会社が引き継ぐことができるので、将来得られる利益と相殺することにより節税が可能です。

吸収合併のデメリットは、手続きがとても煩雑である点です。必要な手続きが会社法によって明確に定められており、必要な手続きを怠ると、合併無効の訴えにより効力が無効とされ、法律に充足した手続きを行う必要があります。

また、合併の効力発生日からひとつの法人として事業運営されるため、その日までに統合作業を一定程度完了させておく必要があります。PMIの現場担当者の負担が大きく、短期間で集中してプロジェクトに臨まなければなりません。

そのほか、消滅会社に簿外負債や不要な資産があった状態で吸収合併すると、存続会社にそのまま承継されてしまいます。合併対価を株式とすることで、存続会社の株主は、自身の持株比率が低下することになり、上場会社であれば株価が下落する恐れがあります。

メリット デメリット
  • 権利義務を包括的に承継
  • シナジー効果を期待できる
  • 対等合併なら対等な立場の印象づけが可能
  • 株式を合併対価として利用でき、資金調達が不要
  • 消滅会社の繰越欠損金を引き継ぎ可能
  • 手続きが煩雑
  • 効力発生日までに一定の統合作業完了が必要
  • 簿外負債を引き継ぐ可能性
  • 存続会社の株主の持株比率が低下

■主な手続き

  1. 事前準備・交渉
  2. 取締役会の承認
  3. 合併契約の締結
  4. 事前開示書類の備置
  5. 株主総会の招集・承認
  6. 債権者保護手続き
  7. 反対株主の買取請求手続き
  8. 効力発生・登記
  9. 事後開示書類の備置


合弁会社の設立

合弁会社とは、ふたつ以上の会社が、共通の利益のために必要な事業を遂行させることを目的に、契約などにより共同で設立、または取得した会社のことです。業種や強みの異なる複数の企業によって、それぞれの資金・人材・ノウハウといった経営資源を共有して運営されるのが特徴です、合弁会社の設立により複数社で経営資源を共有することで、自社だけでは難しい事業規模の拡大や経営の多角化を図れます。パートナー企業とのシナジー効果が最大化すれば、大きな利益を上げられる経営戦略のひとつと言えるでしょう。「ジョイント・ベンチャー(Joint Venture)」とも呼ばれ、頭文字をとって「JV」と呼称される場合もあります。

会社法で定められている会社の形態には、「株式会社」「合名会社」「合資会社」「合同会社」の4つがありますが、合弁会社は会社法上の定義がある企業形態ではありません。つまり、共同出資により設立される会社を称する言葉となります。

このため、合弁会社が設立される際には、会社法に基づく4つの会社形態に分類されることになり、出資者が有限責任となることから「株式会社」「合同会社」として設立されることが多い傾向にあります。

合弁会社のメリットは、新規事業や海外進出する際のコストやリスクを、自社とパートナー企業で分散でき、自社が背負うコストやリスクを減らせる点です。新規事業や海外進出は、自社だけで一からはじめると、資金・人材・ノウハウ・技術といった経営資源が必要です。

膨大な手間や時間、コストが必要になり、また、昨今の市場の流動性のなかでは、新規事業には失敗がつきもの。投資回収のリスクが伴います。よって、これらのコストやリスクを複数社で分散して運営できる点が、合弁会社を設立する最大のメリットとなるでしょう。

また、合弁会社は、参加企業それぞれが持っている経営資源を組み合わせることで、シナジー効果を生み出すことができます。それぞれの得意分野を活かし、不足する部分を補い合いながら、1社単独ではできない事業推進が可能になるでしょう。

そのほか、国の法規制によって、外資系企業の会社設立に対して制限が設けられていることもあげられます。現地の法人と合弁会社を設立することで、制限のある国への進出が可能になり、事業をスムーズに展開できるでしょう。

合弁会社のデメリットは、自社の技術やノウハウが流出することや盗用されてしまうリスクがある点です。秘密保持契約などの法的なリスク管理をはじめ、自社の技術・ノウハウ・人材などの経営資源を守るための対策を盛り込みながら、体制を整備してください。パートナー選びや、動向調査を念入りに行うことが重要です。

そして、合弁会社では、参加企業同士で利害関係が複雑化し、経営方針の調整が難航してしまうリスクがあります。経営戦略や事業計画に関する意思決定に時間を要する可能性が考えられるでしょう。

また、パートナー企業が不祥事を起こすなどで社会的信用を失墜した際には、共同で会社を運営している自社にも悪影響が及ぶリスクがあります。自社も顧客からの信頼を失ったり、採用時の応募人員が減少したり、最悪のケースでは、自社の株価の暴落などの重大な損失に発展したりすることも考えられるでしょう。

メリット デメリット
  • リスクとコストを分散できる
  • 参加企業同士の強みを掛け合わせられる
  • 新規事業や海外進出時のハードルが下がる
  • ノウハウや技術が流出する恐れがある
  • 意思決定のスピードが鈍化する
  • パートナー企業のリスクが自社に波及する

■主な手続き

  1. パートナー企業のリサーチ・選定
  2. 基本合意の締結
  3. 締結条件の確認・調整
  4. 合弁会社設立契約の締結
  5. 会社の設立


業務提携

業務提携とは、企業が資本参加を伴わずに共同で事業を行うことで、一社単独では達成が難しい課題を解決して、競争力向上や事業成長を目的として取り組まれる施策です。お互いが資金、技術、人材等の経営資源を提供しあって、相乗効果(シナジー)を得ることにより、事業競争力の強化を目指します。

提携する分野や目的、企業間の関係などにより多種多様な業務提携の形態が生じ、業務提携の主な種類は、「生産提携」「共同販売」「技術提携」などがあります。それぞれ具体的には、新規事業への進出、販売力の強化・補充、技術力の強化・補充、技術の共同開発、生産力の強化・補充のなどの目的もさまざまです。

■生産提携
生産提携は、相手方に対し、生産の一部や製造工程の一部を委託することにより生産能力を補充するものです。

■共同販売
共同販売は、他社の有する販売資源やブランド、販売チャネル、販売人材等を活用する方法です。他社の販売チャネルや販売人材を活用する販売店契約、代理店契約の場合と他社のブランドや信用力も活用するOEMや、ブランド・ノウハウ等を提供するフランチャイズなど、いろいろな方法があります。

■技術提携
技術提携は、他社の有する技術資源を自社の技術開発、製造、販売等に活用するプロセスです。特許やノウハウのライセンス契約、新技術・新製品の共同研究開発契約が代表的なものとなります。

資本提携との違いは、以下の図の通りです。

■主な相違点

業務提携 資本提携
経営権の取得 なし あり
シナジー効果 業務のみ効果あり 業務以外も効果あり
増収による影響 業績に影響なし 配当や株価に影響あり

業務提携のメリットは、他社の経営資源やノウハウが活用できるため、新事業や技術開発などに対して有効なシナジー効果が得られやすく、同時にリスクを軽減できます。

また、資本業務提携の場合は、出資が必要となり多額の資金が必要になりますが、業務提携の場合、一時的に多額の資金が必要になることはありません。契約の締結のみで、比較的簡単に提携できます。

業務提携のデメリットは、経営資源や内部情報を相互に公開するため、自社の技術・ノウハウが業務提携以外の目的で利用されてしまうリスクや、情報が外部に流出してしまうリスクがあります。

また、自社が他社の技術を意図せずに盗用する形になってしまったり、他社の情報を誤って流出させてしまったりするケースも問題となります。よって、秘密保持契約の締結や情報管理体制の構築が行われ、流出を防ぐ対策が施されますが、明確に規定することや秘密情報や事業メンバーの行動を厳格に管理したりすることは容易ではありません。管理方法が重要となります。

また、資本の移動がなく、比較的身軽な提携が可能である反面、裏を返せば提携関係が希薄化しやすいことを意味しています。主要人材の異動などをきっかけに提携関係が希薄化し、自然消滅に向かってしまうケースも少なくありません。

メリット デメリット
  • シナジー効果が得られやすい
  • 多額の資金調達が不要
  • ノウハウや技術の流出
  • 提携関係の希薄化・自然消滅

■主な手続き

  1. 目的と戦略の策定・検討
  2. 提携先の選定~交渉開始
  3. 秘密保持契約の締結
  4. 基本条件の交渉~基本合意締結
  5. 提携事業や提携先についての調査・分析(フィージビリティ・スタディとDD)
  6. プロジェクトチーム編成・体制づくり
  7. 最終条件の交渉~提携契約締結
  8. 業務提携の開始

M&Aの流れ

準備
  • 目的の明確化、社内キックオフミーティング
  • M&Aアドバイザー・専門家の相談、決定
  • 決算書等の資料準備
  • M&A案件探し
交渉
  • ノンネームシートの提示
  • ネームクリア
  • インフォメーションメモランダムの提示
  • トップ面談
  • 意向表明書の提出
  • 基本合意書の締結
最終契約
  • デューデリジェンスの実施
  • 最終譲渡契約の締結
  • クロージング(決済)

ここからは、M&Aの一連の手続きの実行や管理(エグゼキューション)や大まかなスケジュールについて紹介します。

検討・準備フェーズ

まずは、検討・準備フェーズの進め方を見ていきます。

── M&Aの目的や方向性の明確化

M&Aにより達成したい目的やM&Aの方向性を明確にします。具体的には、事業承継、資金調達、事業拡大など達成したいことを明確化してください。M&Aをやるべきなのか、本当の目的はなにか。戦略とともに社内で共通認識がなければ、M&Aを実現できても、一体なにをすべきか、これからどうするのかという重要な視点が抜け落ちます。間違っても、M&A自体が目的化しないよう注意することが重要です。

── M&Aアドバイザー・専門家への相談

M&Aにあたりどのような手続きが必要なのか、M&Aの実現可能性などについて、M&Aアドバイザーや専門家に相談しましょう。

── 依頼先の選定

M&Aの取引や交渉は、特殊な部分も多々あります。慣れない交渉により、本業がおろそかになり、M&A取引完了の直前で業績低迷や交渉が決裂、あるいは不利な条件となることもあります。

また、より広いネットワークのなかで買い手探しを行っていく必要性もあることから信頼できるM&Aアドバイザーを探す必要があります。複数のアドバイザーの話を聞き、もっとも信頼できるアドバイザーと契約を締結し、アドバイザーと協力し、アドバイザーを中心にM&A取引を進めていくようにしましょう。

── 自社の資料の準備

M&Aの交渉前に、まず自社の企業価値評価額(株価)を算出しておく必要がありますので、自社の資料準備を行いましょう。自社の資料は、決算情報や会社概要のみならず、さまざまな資料の準備必要となりますので、アドバイザーと確認しながら、準備を進めてください。資料準備の際には、資料の網羅性が非常に重要です。万が一、資料の漏れがあると、後々のトラブルとなりかねませんので、注意して進めましょう。

売り手側から資料の提供を受けたら、その資料をもとにM&Aアドバーザーがノンネームシートを作成します。ノンネームシートとは、潜在的な買い手候補に対して、売り手企業の概要やM&Aの条件を提示するための資料です。

具体的には、業務内容や所在地、売上高、従業員数、強みや弱みなどを記載します。ノンネームシートは、情報漏洩を防ぐために、すべての情報を抽象的に記載しているのが特徴です。よって、非公開情報も多く抽象的な情報のみでは、買い手企業に自社の魅力を伝え切れせん。

そこで、ある程度M&Aの流れが進んだら、より詳細な情報を買い手候補に伝えます。具体的な情報を伝える手続きをネームクリアと呼びます。M&Aアドバイザーは、ノンネームシート作成の段階で、後々ネームクリアを行ってもよいか売り手企業に確認し、取引を進めていきます。

── ロングリストの作成

買い手企業は、M&Aの検討初期段階で、ロングリストとショートリストを作成します。ロングリストとは、譲受企業(買い手)の買収ニーズに基づいた候補企業を、一元的にリストアップした資料です。

候補企業のなかから業務内容、業種、エリア、売上規模、従業員人数などを確認し、より譲渡可能性が高く、自社のニーズによりマッチした候補企業を、絞り込んでいきます。こうして絞り込まれたリストは「ショートリスト」と呼ばれ、さらに具体的な検討資料として用いられます。

── インフォメーションメモランダムの提示

買い手候補となる企業は、ノンネーム閲覧から売り手企業の候補先を絞り込み、NDA(秘密保持契約書・機密保持契約書)の締結後にネームクリアされた段階で、インフォメーションメモランダム(IM)をもとに売り手企業の価値を見定めます。

IMは、売り手企業の詳細な企業情報がまとめられた資料です。事業の内容、過去の損益計算書・貸借対照表、事業計画、雇用状況などの情報が記載されています。

買い手企業において、M&Aを進めることが決まれば、面談、条件提示、基本合意へとプロセスを進めます。そのため、IMには売り手企業の現況や将来性がわかる情報を具体的に記載しなければなりません。そして、買い手企業は、デューデリジェンスによって、その内容を精査します。

交渉フェーズ

ここでは、交渉フェーズの進め方を見ていきます。

──トップ面談

売り手と買い手のマッチングが行われ、ある程度情報交換、質疑応答が終わり、買い手企業がM&Aに積極的な姿勢を示すと、次はトップ面談が実施されます。ネームクリアで詳細な情報がわかっていても、不安や疑問が残ります。そこで、売り手と買い手の経営者同士が、顔を合わせて面談するというものです。

M&Aの流れでもっとも大切なことは、経営理念や組織文化の相互理解と互いの人間性や会社経営に対する想い、考え方を確認することです。社長同士の価値観や会社経営に対する想いに共感し合えればM&Aが成功する可能性が高まります。

── 意向表明書の提出・受領

トップ面談でお互いに信頼できる相手であることが確認できたら、具体的な条件面の調整へ進みます。前段階で実施するトップ面談は、信頼関係の構築や価値観の理解が目的ですが、この段階になると買収価格や従業員の処遇、M&Aの方法を決定する流れとなります

買い手側は意向表明書と呼ばれる資料により、買収方法、買収価格などの提案条件を売り手に提出することとなります。

買い手候補が複数いる場合、売り手企業は買い手候補を選定しなければなりません。交渉を進める買い手を絞り込むために用いられるのが、意向表明書です。意向表明書は、買い手企業の意向を売り手企業に伝え、円滑なM&Aの成約へとつなげる重要な役割を担っています。

── 買収条件の調整

M&Aにおける買収の条件交渉を行い、買収条件の概要確定を目指します。理想の相手が見つかったとしても、条件次第によっては、振り出しに戻ることも考えられるでしょう。条件の調整はミスマッチを防ぐためにも重要な手順となります。

トップ面談では互いの理念などの根本的なことを確認しますが、このステップではもっと具体的な話になり、譲渡側企業は「買い手候補企業が急に冷たくなった」と感じることや「こんなはずではなかった」と感じることもあり得ます。

具体的には、以下のような事項の条件を調整していきます。

  • M&Aの方法:株式譲渡、事業譲渡、合併、持株会社、株式交換など
  • 買収価格:株価、退職金など総額の決定
  • 社員の処遇:役員や社員の引き継ぎ条件
  • 社長の処遇:会長として残ってもらう等
  • 契約時期:引渡時期の決定等


── 基本合意書の締結

売り手・買い手双方の希望条件がおおよそ一致した時点で、基本合意書を締結します。基本合意書に記載されるのは、主に下記の項目となります。

  • 独占交渉権や秘密保持義務に関する内容
  • 買収方法
  • 買収価格
  • 今後の交渉期間
  • 最終契約の締結時期

■独占交渉権の付与

買い手はデューデリジェンスをはじめるにあたり、もし一方的に売り手から交渉が打ち切られると、監査費用が無駄になり、多大な損害を被ることになります。そこで、基本合意書に規定していなければ、売り手が第三者と交渉しても契約違反には問えず、法的拘束力を付与していなければ損害賠償請求もできないとされています。

買い手はデューデリジェンスをはじめるにあたり、独占交渉権の付与を受ける必要があります。独占交渉権を付与した売り手は期間中、ほかの買い手候補の企業と自由に交渉することができなくなり、その期間は、一般的に2ヶ月~半年程度に設定されるケースが多いです。

■秘密保持義務の設定

秘密保持契約はその名の通り、M&Aに関する情報の一切を秘匿するために締結される契約になります。

M&Aに関する情報の漏洩は、従業員や取引先の不信感を招き、最悪の場合は従業員の退職や取引の打ち切りなど売り手企業の経営に深刻な影響を与えるので、すべての情報は秘匿しなければなりません。

デューデリジェンスで多くの機密情報を提供する側である売り手は、秘密保持の保証がなければ安心して情報を提供することはできません。

また、買い手としても、売り手に安心してもらうことで、デューデリジェンスにおいて積極的な協力を獲得し、結果リスクの把握がしやすくなることから、M&Aにおいて安全に遂行するうえでは不可欠な手続きと考え、秘密保持義務について明確にしておく必要があります。

契約フェーズ

ここでは、契約フェーズの進め方を見ていきます。

── 買収監査(デューデリジェンス)の実施

基本合意契約を締結したら、次にデューデリジェンスの手続きを実施します。デューデリジェンスとは、M&Aを行う相手企業の情報を詳細に調査する手続きで、買収する側(買い手)が公認会計士や弁護士の専門家に依頼して、相手企業の調査を実施します。

M&Aには、さまざまなリスクがあります。一例として、訴訟の存在や減損リスク、簿外債務、税務上の懸案事項などがあげられるでしょう。リスクを抱えた企業を買収すると、M&Aの効果が現れず、むしろ経営状態が悪化する恐れもあります。

このデューデリジェンスにおいて、大きな問題がなければ最終譲渡契約に進むこととなります。M&Aの失敗につながるリスクを回避するためにも、デューデリジェンスの手続きは不可欠で、非常に重要です。

具体的なデューデリジェンスは、以下の項目で行われます。

種類 内容 専門家

財務

売り手の財務諸表が適正に作成され、株価算定の基礎となる情報提供ができているか調査する 公認会計士、財務経理担当者
法務 売り手が締結している契約で、M&A後に買い手に振りになる項目、M&A実行の妨げになるような問題を調査する 弁護士、法務担当者
ビジネス ビジネスフローなどを確認し、特に事業計画が妥当かどうかを調査する コンサルタント、経営企画担当者
労務 労務問題やメンタルヘルスの問題がないか等を調査する 弁護士、社会保険労務士、労務担当者
税務 過去の税務申告において、将来において追徴課税などが課されないかどうか調査する 税理士、財務経理担当者
環境 売り手の工場などに汚染等の問題点がないか調査する 環境コンサルタント、不動産担当者
IT 売り手のITシステムの問題点、M&A後に課題となるべき点などを調査する ITコンサルタント、ITシステム担当者

 

── 最終条件の調整

最終条件の交渉では、お互いにM&Aを目指す理由・目的を改めて確認します。それぞれが譲れない条件を主張するとともに、相手方の主張内容やその背景、事情にも配慮したうえで、交渉を進めていく必要があります。

デューデリジェンス(買収監査)が終了すると、通常7~10日後に監査を実施した監査法人から「買収監査報告書」が提出されますので、以下の項目を調整していきます。

  • M&Aスキーム
  • 譲渡価額(株価)
  • 役員退職金
  • クロージング日
  • 対価の支払方法
  • 従業員の雇用や処遇
  • 譲渡オーナーの処遇
  • 譲渡オーナーの連帯保証、担保提供の解除

 

── 最終契約の締結

M&Aにおける最終譲渡契約書(DA:Definitive Agreement)とは、M&Aの最終段階において締結される当事者間の最終的な合意事項を定めた、もっとも重要な契約書です。

中小企業のM&A取引においては、一般的に株式譲渡と事業譲渡に大別され、株式譲渡の場合は「株式譲渡契約書」、事業譲渡の場合は「事業譲渡契約書」など、スキームによって名称は異なりますが、これら契約書を一般的に「最終譲渡契約書」と呼びます。

■最終譲渡契約書の一般的な構成要素

構成要素 留意点
取引対象物(株式、事業等) 株式等の所有権は、クロージング日に移転するため、クロージング日を基準日として算定するのが合理的で、最終譲渡契約書の締結段階では、仮金額等を定める
譲渡代金の支払方法 譲渡代金の支払方法について、一括や分割払いを定める
クロージングの実施方法 クロージング(取引対象物の引渡しと譲渡代金の決済)の実施方法を定めます
表明・保証 売り手と買い手がM&Aの契約にあたって事実として開示した内容が真実かつ正確であることを表明し、契約の相手に対し保証を行います
クロージングの前提条件 クロージングの前提条件として、相手が最終譲渡契約上の義務を履行しない場合、案件を見送る(決済しない)ことができる旨を規定する
クロージング前後の誓約事項 クロージング前後においての、事業や会社運営に対して、一定の制約や通常業務以外の重要な業務執行を禁止する規定を盛り込む
個人保証・担保提供の解消 売り手において、金融機関からの借り入れに際し、社長個人の個人保証や個人財産の担保提供について、一定期間内に解消する作業を行う
デューデリジェンスの反映 デューデリジェンスにおいて発見された問題点やリスクの対処について、買収スキームの変更や譲渡価格の調整や前提条件に盛り込み、最終譲渡契約書に反映させる
解除 表明・保証やクロージング前後の誓約、クロージングの前提条件が満たされていない場合、契約の解除が可能となる
賠償・補償 契約解除により、損害が発生していれば損害賠償を請求し、クロージング後の違反に対し補償期間を定める

 

── クロージングの実行

クロージングとは、売り手が取引対象物を引渡し、買い手は譲渡代金を決済するというM&Aの最終段階の手続きです。一般的には、最終譲渡契約締結日後、1~2ヶ月以内にクロージング日を設定します。

── 関係者への情報開示(ディスクロージャー)

M&Aにおいての情報開示は、売り手・買い手双方の従業員や取引企業、取引のある金融機関などのステークホルダーに対し、M&A実行の事実を伝えることを指します。

一般的には「M&Aが実行された直後(契約締結後)」に情報開示が行われます。一般的には自社の従業員であってもM&A実行前に公表されることはなく、これにより、M&Aを予定していることが第三者に伝わることを防ぎます。

M&Aの情報開示を行う主な対象は以下の通りとなります。

  • 親族
  • 従業員(幹部社員・一般社員)
  • 取引先
  • 金融機関(銀行・証券会社など)
  • メディア
  • 証券取引所


経営統合作業

ここまででも何度か出てきたPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)とは、 経営統合作業のことを意味し、M&A成立後の「経営統合プロセス」のことです。

M&Aは、成約が目的ではありません。統合後に継続的に価値を創出することが目的であり、定量的な面だけでなく、人材や企業文化など定性的な面も考慮することがM&Aの成功につながっていきます。

具体的には「ビジョンと経営目標の共有」「意思決定機関の再構築」「管理会計の統合」「情報システムの統合」など一連の取り組みを行い、M&Aによるリスクの最小化と、成果の最大化を図ります。

M&Aは価値を創出することで初めて成功となり、価値の創造はPMIによって左右されます。両社において、マネジメントレベルの格差がある場合はなおさらのことです。その格差がクリアになったときに価値が生み出されます。片方の優れたマネジメントが導入され、フェアな人材を登用することで従来よりも優れたマネジメント体制を構築できるでしょう。

M&Aを成功させるポイント

ここでは、M&Aを成功させるポイントについて見ていきます。

情報漏洩の対策

M&Aは、機密情報が多く情報の管理は非常に重要です。情報漏洩はあらゆるところから可能性がありますので、それぞれの発生源を紹介します。

■社長自身
情報漏洩が起こる可能性として大きい原因は、社長自身にあります。デスクにM&Aの資料を置きっぱなしにしていた場合やM&Aアドバイザーとの会話を従業員に聞かれてしまうことも少なくありません。

■知り合いの社長
秘密を守ってもらえると思って、知り合いの社長にM&Aのことを打ち明けたのに、情報漏洩につながることもあります。M&Aに悩んで相談することや宴の席でこっそり打ち明けることも、情報漏洩につながるため注意が必要です。

■従業員
従業員から情報漏洩が起こることもあります。社長のデスクに置かれたM&A会社の書類を見て、憶測で誰かに話をする。会社宛てに送られてきたM&A会社からの資料を開封してしまう。こういったことでも情報漏洩が起こります。

このほかにも、さまざまな要因で情報漏洩が起こり得ます。M&Aは一部の人員で行うことや打ち合わせの場所などにも配慮する必要があるでしょう。

── 競業避止義務の遵守

競業避止義務とは、法令や契約により、ある者が特定の者が行う営業・事業活動に対して競争行為を行わないという義務のことを言います。事業譲渡の場合、会社法上、競業避止義務を負うことが明記されています。ほかのスキームにおいても、M&Aの実効性を高める目的から、M&Aにおいて競業避止義務が定められることが一般的です。

競業避止義務に反する具体的なケースは、買収後に買い手のビジネスに競合するようなビジネスを売り手が行う場合となります。例えば、買い手が小売店を買収したケースを考えてみましょう。

買収後、すぐに売り手が同じタイプの小売店を、売却したばかりの小売店の近くに開業した場合、買い手のビジネスと競合します。結果として、買い手の買収後の売上が減少することとなり、競業避止義務がなければ、買収の価値が大きく棄損してしまうリスクがあります。

M&Aの競業避止義務の期間は、契約書のなかで双方の合意があれば自由に定めることができます。事業譲渡の場合、契約書に競業避止義務の条文がなかった場合でも、譲渡会社は競業避止義務を負うこととなり、その期間は原則20年となります。M&Aを行う場合、競業避止義務の期間は、2年~5年間程度のケースが多く見受けられます。

── 税金の把握

M&Aの税務は、手法や適格要件などによって異なります。

■手法別の税務

項目 株式譲渡(個人) 株式譲渡(法人) 事業譲渡(法人)
税金 所得税、住民税 法人税、法人住民税(県市民税、事業税) 法人税、法人住民税(県市民税、事業税)、消費税
税率 20.315% 約30%

法人税:約30%、消費税:10%

課税方法 分離課税 総合課税 総合課税
納税者 個人株主 労務問題やメンタルヘルスの問題がないか等を調査する 法人

■株式譲渡益(キャピタルゲイン)
個人株主が株式や債券、不動産などの資産を売却して得られる利益(売却差益)は、所得税・住民税の課税対象となります。そして、税金の計算上、譲渡所得に該当し、申告を行う場合は、申告分離課税となります。

譲渡所得の算出方法:譲渡所得額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

■退職所得
オーナー経営者が引退した際に、長年の功績に対し、役員退職金を支給される場合も多いでしょう。退職金に対しては、所得税・住民税が課税されます。

退職所得の算出方法:退職所得額=(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1/2

■税制適格要件
M&Aを含む組織再編税制には、「税制適格」と「税制非適格」に分かれます。M&Aを進める際は、この税制適格と非適格を理解しておくことで、税務処理や税金対策をスムーズに行うことができるでしょう。

「税制適格」とは、組織自体の統合や分割を主な目的とし、組織変更の前後において経済的実態の変更がないような組織再編のことです。税制適格要件を満たす場合、資産・負債を帳簿価額で移転することができます。移転時に課税関係が発生せず、課税は将来に繰り延べられるため、税金対策として有効です。

種類 要件
100%
グループ内再編
  • 金銭等の授受がないこと
  • 組織再編後も100%支配関係が継続
50%超
グループ内再編
  • 金銭等の授受がないこと
  • 組織再編後も50%超の支配関係が継続
  • 主要な資産や負債を引き継ぐこと
  • おおむね80%の従業員を引き継ぐこと
  • 移転事業を継続すること
共同事業再編
  • 金銭等の授受がないこと
  • 主要な資産や負債を引き継ぐこと
  • おおむね80%の従業員を引き継ぐこと
  • 移転事業を継続すること
  • 移転事業に関連性があること
  • 事業規模と売上がおおむね5倍以内であることまたは双方役員が組織再編後も継続して就任すること
  • 発行株式総数の80%以上を継続保有することが見込まれること

■事業承継税制
事業承継税制とは、中小企業の円滑な事業承継を支援するための税制です。法人の場合、非上場株式にかかる相続税、贈与税の納税が猶予および免除される法人版事業承継税制があり、平成30年度税制改正で拡充されております。

利用には、要件を満たす必要があるので、進め方としては、税理士などの士業や士業事務所に相談しながら、手続き方法のアドバイスや助言を受ける方法がおすすめです。

■クロスボーダーM&Aの税務
クロスボーダーM&Aとは、海外企業とのM&Aのことです。一般的には、M&Aの当事者のうち、売り手企業または買い手企業のいずれか一方が外国企業である場合を指します。

M&Aにより海外にグループ会社を有することとなった場合、税務リスクが大幅に広がるでしょう。特に注意すべき税務リスクは「移転価格税制」や「タックスヘイブン対策税制」がです。また、子会社の所在国の税制にかかる税務リスクも関わってきますので、日本の専門家だけでなく、海外の専門家との連携による検討が必要となります。

M&Aでの企業価値評価の算定方法

M&Aの企業価値評価(バリュエーション=valuation)とは、企業を買収する際に、その企業にどれくらいの価値があるのか算定することです。この算定金額をもとに交渉が行われ、最終的な買収金額が決まります。

方法 算定イメージ メリット デメリット
インカムアプローチ 利益÷割引率
  • 将来性を反映させやすい
  • 個別価値を反映させやすい
  • 利益予想・割引率に恣意性が入りやすい
  • 清算予定の会社には不向き
  • 評価理論が難解
マーケットアプローチ 利益×倍率
  • 客観性が高い
  • 取引相場に近い
  • トレンドを反映できる
  • 個別の事象を反映しにくい
  • 類似会社が必須
  • 市場株価の影響が大きい
コストアプローチ 資産時価-負債時価
  • 客観性が高い
  • 実態BSの把握が可能
  • 収益性を反映できない
  • 場の状況は反映できない
  • 帳簿の相違が影響する

コストアプローチ

主に評価対象企業の貸借対照表のうち「財産的価値」および「純資産価値」に着目して価値を評価する手法のことです。

── 簿価純資産

簿価純資産法は、貸借対照表に従った「帳簿資産合計」を企業価値とする方法です。帳簿上の資産から負債を差し引き、算出された純資産(自己資本)を株式価値として評価し、これらを発行済み株数で割れば一株あたりの株価が算出されます。

この方法はわかりやすく、計算も容易です。しかし、帳簿上記載されている資産や負債の評価額は、現時点の価値を表示しているとは言いにくいため、株式売買取引目的で株式価値を評価する局面で直接利用されることは多くありません。重要性の小さな子会社株式の評価などで利用されるケースが多いでしょう。

── 時価純資産法

時価純資産法は、「時価資産合計」を企業価値とする方法です。時価純資産法とは、貸借対照表の資産負債を時価で評価し直して純資産額を算出し、一株あたりの時価純資産額を持って、株主価値とする方法となります。

すべての資産負債を時価評価するのは、実務的に困難なことから土地や有価証券等の主要資産の含み損益のみを時価評価することが多く、修正簿価純資産法と呼ぶこともあります。具体的には、土地や建物の時価は、簡便的に「固定資産税評価額÷0.7」で算出する方法が一般的です。

時価純資産+営業権では、修正された時価純資産に営業権を加算して株式価値を算出します。営業権とは、企業が長年培ってきたブランド力や人的資源など、帳簿上で評価できない要因によって期待される超過収益力のことです。

時価純資産に営業権を加算することで、評価対象企業の収益力を考慮した企業価値を算出できるため、中小企業のM&Aにおいて多く採用されています。

■計算例
評価対象会社:X社
発行済株式総数:10,000,000株

簿価純資産法:22,852百万円÷10,000,000株=2,285円/株
時価純資産法:36,060百万円÷10,000,000株=3,606円/株

公認会計士協会 企業価値評価ガイドライン より

── 清算価値法

会社が保有する全資産・負債を売却・弁済して、評価する方法です。個別資産の処分価額を用いて一株あたり純資産の額を算出していきます。個別資産の時価を集計する個別集計法のひとつに分類される方法で、単に時価純資産法という場合は、この清算価値時価純資産法を指すことが多いです。

解散を前提とする会社の場合は、この評価法が該当しますが、そのような場合は、前提となる解散の方法によって、より安値の早期処分価額を時価として適用することや、処分コストや弁護士費用その他事務経費も控除する場合があります。

マーケットアプローチ

上場している同業の類似企業や過去のM&Aの類似取引事例など、「類似する企業・事業・取引事例の各種財務指標」と比較することによって相対的な価値を評価する手法で、客観的な評価方法となります。

── 市場株価平均法

市場株価法とは、対象企業自身の株式の市場価格を基準にして評価する方法です。通常は、急激な株価の変動による影響を抑えるために、数ヶ月間の平均株価で評価を行い、上場会社のみが採用できるバリュエーション(企業価値評価)方法となります。

■計算方法

日付 株価
4月1日 600
4月2日 620
4月3日 613
4月30日 615

4月の平均市場価格:620円

── 類似企業比較法

類似企業比較法とは、対象企業と類似する上場企業の各種指標を参考にして株式価値を算出する手法のことです。上場企業の指標をもとにした倍率を用いるため、マルチプル(倍率)法とも呼ばれています。

■PBR法
PBR(Price Book-value Ratio)とは、株価純資産倍率のことで、企業の時価総額が純資産の何倍で買われているかを表す指標であり、株価を1株あたりの純資産額で割ることで算出できます。

■PER法
PER(Price Earnings Ratio)とは、株価利益率のことであり、1株あたりの利益に対して株価が何倍で買われているかを表しています。

■EBITDA法
EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization)とは、日本語で「利払い前、税引前、減価償却前、その他償却前利益」を意味する言葉です。支払利息・税金・減価償却費の3つを排除した利益を比較します。

マーケットアプローチでは、EBITDAを用いた評価方法がもっとも公平に収益性を算出できると言われています。支払利息の金利は融資の状況で変動し、税金は国により異なります。また、減価償却費も計算方法がさまざまあり、EBITDAではこれらを取り除くことで、本来の価値を評価できます。

実際の企業評価では、事業価値 (EV)をEBITDAで割ったEV/EBITDA倍率を使用し、EV/EBITDA倍率が低ければ、買収企業はM&Aの買収資金を短期間で回収することが可能となります。

■計算式

対象会社の事業価値 =対象会社の正常EBITDA×類似会社の平均EV/EBITDA倍率

■計算方法

・対象会社のEBITDA:100百万円
・対象会社の非事業用資産:50百万円
・対象会社の有利子負債:200百万円

・類似企業の主要財務指標

方法 算定イメージ メリット デメリット
株式価値

6,000

13,000

19,000

営業利益 400

320

1,600

法人税等 80

60

320

支払利息 20

10

400

減価償却費 150

1,000

2,000

現預金 2,000

800

6,000

有利子負債 5,000

7,500

11,000

EBITDA 650

1,390

4,320

EV(企業価値) 3,000

6,300

14,000

EV/EBITDA倍率 4.62

4.53

3.24

EBITDA:営業利益+法人税等+支払利息+減価償却費

EV:株式価値-+現預金+-有利子負債

・平均EV/ EBITDA倍率:4.13倍
・対象会社の事業価値 :100百万円×4.13=413百万円
・対象会社の株式価値:413百万円+50百万円-200百万円=263百万円

── 類似取引比較法

類似取引比較法とは、類似するM&A取引における売買価格と比較して、株式価値を算出する方法であり、上場企業で多く使われています。比較を行う、過去M&A案件の株式価値や企業価値をベースに各種倍率を算出し、その倍率を用いて株式価値を算出します。

■計算方法
・評価対象店舗:X店
・評価店舗売上:700百万円
・評価は、売上高を基準に行う

・類似取引

方法 算定イメージ メリット デメリット その他
A店 570 1,000 330 57.89
B店 580 800 380 65.52
C店 740 900 420 56.76
D店 890 1,300 420 47.19
平均 56.84

X店評価額:700百万円×56.84%=397.88百万円

インカムアプローチ

対象企業において将来見込まれる利益やキャッシュフローに基づき価値を評価する手法となります。

── DCF法

DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法とは、将来企業が創り出すフリーキャッシュフロー(FCF)を用いた株価算定方法です。FCFとは、その企業が自由に使える資金を指し、下記の通り計算されます。

FCF=営業利益×(1−税率)+減価償却費−運転資本増価額−設備投資額

■具体的な計算方法

■計算方法
・割引率:5%
・継続価値:2,000百万円
・非事業用資産:300百万円
・有利子負債:500百万円

×1年 ×2年 ×3年 ×4年 ×5年 ×6年以降
FCF 80 80 80 100 100 2,000
現在価値 76.1 72.5 69.1 82.2 78.3 1,567.0
1,945.2

・株式価値:1,945.2+300-500=1,745.2百万円

── 収益還元法

企業が生むと予測される収益のトータルを現在価値に変換し、企業価値を評価するのが収益還元法です。将来事業を実施するプロセスで獲得できる平均収益の営業利益あるいは計上利益を資本還元率で割り引き、企業価値を計算します。

■計算方法
・予想平均収益:5,000万円
・資本還元率:10%
・収益還元法:5,000万円÷10%=5億円

── 配当還元法

配当還元法は、株主へ支払う配当金に着目して企業価値を計算する方法です。具体的には、将来の配当額の予測値を利率で割り、これを元本の株式で除して企業価値を算出します。ただし、この手法は企業の配当政策に依存しており、確定的な配当額を見積もることが難しい企業には適用しづらい側面があります。

■計算方法
・予想配当額:1,000万円
・資本還元率:5%
・配当還元法:1,000万円÷5%=2億円

仲介会社を利用してM&Aをする場合にかかる主な手数料

M&Aにおける仲介手数料の相場は、取引金額や契約内容(仲介やファイナンシャルアドバイザー)によって異なりますが、一般的には取引金額の5%程度が相場とされています。なお、手数料の計算方法は、レーマン方式を採用する仲介会社が一般的です。段階的な手数料率を適用することで、取引金額が大きくなるほど手数料率が下がる仕組みになっています。

相談料

相談料とは、M&Aの正式な依頼をする前に、M&A仲介会社に相談した際にかかる相談手数料のことです。ほとんどのM&A仲介会社では、実際には相談料はかからないところが多くなっています。念のため、初回の問い合わせ時に相談料の有無を確認しておくとよいでしょう。

着手金

着手金とは、M&A仲介会社へ正式な依頼を行った後に支払う費用です。着手金は、無料の場合に加えて100万円~200万円程度が必要となる場合に分かれています。

着手金が必要な仲介会社の場合、M&Aを本気で行う気はないが、仲介会社に試しに登録をしてみたという買い手や売り手がいないことを意味しています。つまり、本気でM&Aの成功を目指している企業が集まるという点が着手金のメリットです。一方、着手金は企業価値算定や相手先剪定などを行うことから、基本的に返金されることはありません。

中間報酬

中間金とは、M&Aの基本合意契約を締結した際に支払う手数料です。基本合意契約とは、M&Aの大枠の内容を記載したもので、買い手候補企業が「買収する」意志を表明するために結ぶことが多くなっています。

基本合意契約を締結するとほぼM&Aは成立すると言われていますが、一般的には法的拘束力はありません。デューデリジェンスの結果次第では「買収しない」という結論に至る可能性もあり、M&Aが成立しないことはよくあることです。なお、M&Aが成立しない場合でも、着手金と同様に中間金も返金はありません。

中間金の相場は、100万~200万円程度の報酬が発生する場合や成功報酬額の10~20%の場合もあります。なかには、中間金が発生しない仲介会社もあります。

デューデリジェンス費用

デューデリジェンスでかかる費用の相場は、どのデューデリジェンスを依頼するか、案件規模や複雑さによって変動します。

デューデリジェンスは、専門的な知識を必要とするため、それぞれの専門家に依頼するのが一般的です。ただし、公認会計士や税理士、弁護士などの専門家に依頼すると、費用は高くなる傾向にあります。

成功報酬

成功報酬費用とは、M&Aの最終契約締結後に支払う手数料です。M&Aの金額をもとにレーマン方式と呼ばれる計算式により、成功報酬が計算されるケースがほとんどとなっています。少額のM&Aの場合は、M&Aの金額に5%程度の手数料率を乗じて計算された金額が相場です。レーマン方式の計算方法については、次項で解説していきます。なお、成功報酬費用は、M&Aが成立しなければ支払う必要はありません。

ほとんどの仲介会社では、レーマン方式と言われるる取引金額に一定の料率を掛けて算出する成功報酬の方法を採用しています。成功報酬の計算方法は、基準となる価額(「譲渡額」、「移動総資産額」、「純資産額」など)に報酬率を乗じて算出します。

■基準となる価額の一例
譲渡額:株式価額等の譲渡額
移動総資産額:譲渡額+すべての負債(銀行借入金役、買掛金など)
純資産額:資産―負債

■乗じる割合の一例

基準となる価額 報酬率
5億円以下 5%
5億円超~10億円以下 4%
10億円超~50億円以下 3%
50億円超~100億円以下 2%
100億円超 1%

中小企業庁「中小M&Aガイドライン改訂(第2版)」参照

■計算例
譲渡額5億円の株式譲渡

・着手金、月額報酬、中間金:なし
・成功報酬:レーマン方式(基準:譲渡額、最低手数料:1,000万円(税抜))

・手数料
1.着手金、月額報酬、中間金:0円
2.成功報酬:5億円×5%×110%=2,750万円(税込)
3.最低手数料:1,000万円×110%=1,100万円(税込)
4. 2.>3. ∴手数料総額:2,750万円(税込)

M&Aの主な相談先

FAは、ファイナンシャルアドバイザーの略称です。M&Aを検討している企業とアドバイザリー契約を締結し、M&Aにおける計画の立案や案件情報・売却先情報の提供からクロージングに至るまで、一連のサポート・助言業務などのアドバイザリー業務を行います。

M&A仲介型のアドバイザーにおいては、M&Aにおける目的を明確化し、最適な戦略を立案し、交渉までの仲介サービスを行います。

専門性の高い業務であるM&Aは、M&A当事者のみで実行するのは非常に困難です。専門家であるM&Aアドバイザーの存在は大きく、支援実績が多く、業界の動向に精通した信頼できるアドバイザーに依頼することでM&Aの成功の確率が高まるでしょう。なお、M&Aの検討段階では、マッチングサイトなどで気軽に最新事例の情報を得るのも有効です。

M&Aの成功事例

ここからは、M&Aの成功例と失敗例を紹介します。

事例1:廃業を検討していた中小製造業者の同業者間への事業譲渡

企業概要 詳細
譲渡側企業 A社は、計測機器の製造業を営んでおり、従業員3名、売上高は3,000万円、業歴は40年
譲受側企業 B社は、計測機器の施工・メンテナンスを行っており、売上高5億円

*M&Aの背景・目的

10年前に先代経営者の他界に伴い、当時すでに65歳を超えていた社員XがA社の社長に就任した。その後、業績は伸び悩み従業員の高齢化も進んだため廃業を検討したが、取引先に迷惑を掛けられないと、事業の継続を決断した。

地元信用金庫に相談をしたところ、M&Aの公的機関として事業承継・引継ぎ支援センターを紹介された。X社長は、自社の事業規模や財務状況からM&Aは難しいと考えていたが、同センターでの相談は無料と聞いたため、取りあえず相談した。

*M&Aが成立に至った経緯

X社長の予想に反し、事業承継・引継ぎ支援センターから4社の紹介を受け、うち2社と面談。A社の技術力や商圏を高く評価したB社への事業譲渡実行に至った。

A社の製品は熟練の技術が必要であるため、A社の従業員は引き続き雇用され、また取引先との関係からX社長は、顧問としてB社の事業拡大に貢献している。

事例2:家族経営である中小企業の業務提携

企業概要 詳細
譲渡側企業 C社は、寿司・懐石料理店を営んでおり、従業員5名(うち家族3名)、売上高は3,500万円、業歴は30年
譲受側企業 D社は、レジャー業を行っており、売上高50億円

*M&Aの背景・目的
地元で寿司・懐石料理店を営むC社は、多数の地元常連客に愛されていたが、厨房設備等が老朽化したことに伴い、設備の更新を検討していた。

しかし、多額の費用を要することがわかり、自身の年齢から多額の借り入れを負うことに抵抗があり、また家族からも反対されたことから、廃業を考えていた。お店の常連でもあった地元信用金庫の担当者に相談したところ、飲食業への参入を検討していたD社をスポンサーとして紹介された。

*M&Aが成立に至った経緯
家族経営を行ってきたC社は、当初は第三者がスポンサーとなることに抵抗があったが、D社社長と面談を重ねるなかで、信頼関係を構築した。C社社長は、家族経営の維持を条件に、D社から資金援助を受けるのと引き換えに飲食店経営のノウハウをD社に提供するという業務提携の合意に至った。

C社は、社長の希望通り、家族経営を継続したまま、D社からの支援により、老朽化した店舗設備を更新し、内装等も新装することができた。また、D社と協働してグルメサイト等によるPRを行った結果、新規顧客やインバウンド需要による外国人観光客の獲得にも成功している。

事例3:赤字経営のホテルを株式譲渡によるM&A

企業概要 詳細
譲渡側企業 E社は、ホテル事業を営んでおり、従業員20名、売上高は10億円、業歴は45年
譲受側企業 F社は、ホテル事業を行っており、売上高50億円

*M&Aの背景・目的
E社社長は、裸一貫でホテル事業を立ち上げ、丁寧かつ時流をとらえたサービスが評判を呼び、業界でも有名な経営者となった。しかし、近年は競合他社が増えたこともあり、客足が徐々に遠のき始め、最近3期は経常損失を計上していた。また、後継者候補であった一人息子は病気で亡くなっていた。75歳となったE社社長は、まだ自分の体が動くうちに中小M&Aにより事業を残したいと考え、顧問税理士に相談した。

*M&Aが成立に至った経緯
顧問税理士から紹介されたM&A専門業者が業界内に太いパイプを有していたため、約2ヶ月でF社とのマッチングが成立。E社は、E社の知名度だけでなく、丁寧なサービス、教育体制と人材の質を評価した。

E社社長も「自分の会社を評価してもらえた」と喜んだ。E社長は、E社の全株式をF社に譲り渡し、E社から引退した。E社社長は、株式の対価である譲渡代金と退職慰労金を受け取り、老後資金として十分な額を確保することができた。引退後は、悠々自適な日々を過ごしている。

事例4:債務超過である会社の事業譲渡

企業概要 詳細
譲渡側企業 G社は、卸売業を営んでおり、従業員30名、売上高は12億円、業歴は50年
譲受側企業 H社は、卸売業を行っており、売上高30億円

*M&Aの背景・目的
G社社長は、創業者である父からG社の経営を引き継ぎ、2代目経営者としてG社を運営していた。しかし、父の代に金融機関から借り入れた金額が合計約20億円あり、すでに大幅な債務超過となっていた。

金融機関への返済で資金繰りが圧迫され、新規投資する余力もなく、このままでは近いうちに破綻すると考えたG社社長は、知人の弁護士に事業再生の相談を行った。

*M&Aが成立に至った経緯
G社社長は、弁護士に委任して中小企業再生支援協議会の手続きを活用するとともに、当該弁護士の紹介したM&A専門業者に譲受側(スポンサー)探索を依頼し、これによりスポンサー1社が確定。当該スポンサーは、G社の販路や地域における知名度を高く評価し、G社の全事業を事業譲渡の手法により譲り受けた。

G社社長は、G社の金融機関からの借り入れについて個人保証(経営者保証)があったが 、「経営者保証に関するガイドライン」により経営者保証を外して当面の生活費と(華美でない)自宅を残すことができた。

G社社長は、破産を回避できたことに安堵した。今は、自分が本当にやりたかったけれども父に反対されて実現できなかったビジネスの立ち上げを目指している。


事例5:後継者候補が承継を拒んだため中小M&Aに移行

企業概要 詳細
譲渡側企業 I社は、建設業を営んでおり、従業員5名、売上高は1億円、業歴は20年
譲受側企業 J社は、建設業を行っており、売上高10億円

*M&Aの背景・目的
I社代表者は、創業者である父から引き継ぎ、2代目としてI社を経営していた。I社社長は、自身が65歳を超えたこともあり、事業の承継を考え、明確に意思確認はしていなかったが、同業他社で修行をしていた長男を後継者として迎え入れようとした。

しかし、I社の経営状況がよくないこと等から、長男は経営者保証に対する不安等を抱き、継ぐつもりがないことをI社社長に伝えた。経営を委ねられる従業員はおらず、廃業も考えていたところ、事業承継・引継ぎ支援センターからのダイレクトメールでM&Aによる事業継続という方法があることを知った。

*M&Aが成立に至った経緯
I社のベテランの職人の技術力が評判であったため、同センターにより2ヶ月で同業者J社とのマッチングが実現し、I社社長はI社の全株式を譲渡。J社は、人手不足のなか、I社のベテラン従業員を採用することができ、職人の育成および事業拡大を図ることができた。I社社長も顧問として職人の育成に寄与している。


事例6:適切なタイミングを逸して、低額での事業譲渡

企業概要 詳細
譲渡側企業 K社は、ギフト用品販売(小売業)を営んでおり、従業員15名、売上高は2億円、業歴は40年
譲受側企業 L社は、ギフト用品販売(小売業)を行っており、売上高9億円

*M&Aの背景・目的
K社は創業者・会長が90歳と高齢ながらまだ実権を握っており、その婿養子・現社長に発言権はなかった。K社の取扱商品や販売方法は時代遅れで徐々に売上が減少し、遂に2期連続で経常赤字に陥った。

K社社長の経営意欲は低下しつつあり、危機感を持ったK社会長も渋々了解のうえ、地域銀行から紹介された事業承継・引継ぎ支援センターに譲渡相談することになった。

*M&Aが成立に至った経緯
同センターは、他地域の同業他社L社に、K社との中小M&Aについて打診した。L社は他地域への進出を希望しており、K社事業を譲り受ける意思も固まっていた。一方、K社は業績と資金繰りが急激に悪化し、事業の継続が危ぶまれた。

K社会長は、長年の取引先や従業員のことを第一に考え、譲渡代金の早急な支払いを条件とし、当初オファーを受けていた金額よりも相当低額でL社へ事業譲渡を実行した。K社会長は、既存取引先に迷惑を掛けず、従業員の雇用継続が図れたことは満足しているものの、決断が遅れたために低額での譲り渡しとなったことに後悔の念を残していた。


事例7:従業員の雇用が引き継がれることを条件とした事業譲渡

企業概要 詳細
譲渡側企業 M社は、メッキ加工業を営んでおり、従業員10名、売上高は2億円、業歴は45年
譲受側企業 N社は、溶接加工業を行っており、売上高10億円

*M&Aの背景・目的
M社は、代表者が80歳間近となるなか、熟練の職人を抱えていたものの、親族・従業員に承継意思のある後継者が不在のため、中小M&Aを検討し始め、顧問税理士に相談した。

*M&Aが成立に至った経緯
M社は、顧問税理士にすすめられM&Aプラットフォームを活用した。複数件の譲受側候補のうちの一社が、他地域で溶接加工会社を営むN社であった。

N社は、M社の熟練の職人の技術力を評価し、自動車用金属部品の加工の点で自社事業との相乗効果(シナジー)があると考え、事業譲渡契約締結に至った。M社およびM社社長は、従業員の雇用継続を第一条件として伝え、譲渡額は譲歩した。

N社は、M社およびM社社長との約束通り、M社従業員の雇用をすべて引き継いだ。それと並行してN社は、全従業員へのヒアリングを行い、中小M&Aを機に人事制度改革・働き方改革等を進め、待遇の改善が実現した。


事例8:M&Aの成立後にも一定期間経営に関与することを条件としたM&A

企業概要 詳細
譲渡側企業 O社は、家具等製造業を営んでおり、従業員20名、売上高は3億円、業歴は35年
譲受側企業 P社は、家具等製造業を行っており、売上高60億円

*M&Aの背景・目的
O社代表者は、65歳になったが、子はおらず、ほかの後継者候補もいないことから、事業承継・引継ぎ支援センターに譲受側探索の相談をした。O社社長は、長年勤しんだ事業に愛着があり、引き続き事業に関与したいと考えていたが、他人に譲った事業に関与させてもらうことは難しいだろうと半ば諦めていた。

*M&Aが成立に至った経緯
O社は、決して大規模ではないがよい製品を作ると業界内では評判であり、譲受側P社(同業の大手)がすぐ見つかった。O社社長は、言い出してよいものか悩みながら、事業を譲り渡した後も引き続き事業に関与したい、その代わりに譲渡額については譲歩してもよいとトップ面談でP社に正直に打ち明けた。

P社は、O社の生産体制にとってO社社長の高い技術力が重要であると認識しており、O社社長による提案を受け入れ、非常勤(週3日勤務)で技術指導を依頼することにした。譲渡額は若干減額したが、O社社長はO社の全株式をP社に譲り渡した。

O社社長は、希望通り引き続き事業に関与している。一方、毎週4日間の休日は、妻と一緒に「夫婦水入らず」の時間を楽しんでいる。

事例9:中小M&Aに反対していた従業員の理解を得ることができた株式譲渡

企業概要 詳細
譲渡側企業 Q社は、中古厨房機器販売業を営んでおり、従業員7名、売上高は1億円、業歴は30年
譲受側企業 R社は、中古厨房機器販売業を行っており、売上高20億円

*M&Aの背景・目的
中古厨房機器の市場は市況が厳しく、Q社も前期から赤字に転落してしまっており、会社に資産が残っている段階での廃業を検討していた。Q社代表者が顧問の公認会計士に相談したところ、高額の廃業費用、従業員への影響等を考慮し、よりよい選択肢として中小M&Aを提示された。

*M&Aが成立に至った経緯
顧問の公認会計士がM&Aプラットフォームを活用して譲受側候補を探索した結果、他県で新品厨房機器販売を営むR社とつながった。R社も、業界全体が苦しいなか、生き残りのための中小M&Aと考えており、両社のニーズが合致した。

これに対し、数名のQ社従業員は、「すぐに全員解雇される」と誤解し、中小M&Aに反対した。そこでR社は、Q社社長と共同で従業員説明会を開催し、あくまで会社の将来を案じての意思決定であり、従業員の雇用も守る旨を膝詰めで丁寧に説明したところ、全員からの納得が得られ、円満にQ社社長との株式譲渡契約締結に至った。

R社は約束通りQ社従業員の雇用を守り、事業を継続している。

事例10:事業の一部を中小M&Aにより譲り渡し、廃業費用を捻出

企業概要 詳細
譲渡側企業 S社は、製造業・小売業を営んでおり、従業員30名、売上高は8億円、業歴は30年
譲受側企業 T社は、製造業を行っており、売上高10億円

*M&Aの背景・目的
S社は、製造業・小売業のふたつの事業を営んでいた。小売業は黒字で採算がとれている一方、製造業は常に大幅な赤字であり、不採算部門であった。しかし、製造業のみに利用している工場の閉鎖には、数千万円単位の廃業費用が見込まれており、S社の代表者は、製造業の部門の閉鎖を決断できずにいた。

そのような状況で、S社社長は、70歳となり、後継者候補もいないことから、顧問税理士に中小M&Aの相談をしたところ、その関与先であるT社を紹介された。

*M&Aが成立に至った経緯
T社は、S社の小売業部門の独自性・流通網に大きな魅力を感じる一方、製造業部門は不採算部門として認識し、小売業部門のみの譲り受けを希望した。そのため、S社は、T社に対し、小売業部門のみを一部事業譲渡した。

S社は、T社から受け取った事業譲渡対価から、製造業部門の廃業費用を捻出することができたため、S社社長はS社を解散・清算して無事に廃業することができた。

事例11:着手が遅れ、資金繰りが尽き、中小M&Aが不成立となった事例

企業概要 詳細
譲渡側企業 U社は、設備工事業を営んでおり、従業員5名、売上高は5,000万円、業歴は40年
譲受側企業

*M&Aの背景・目的
U社代表者は、70歳で、後継者候補もいないものの、多忙な毎日に追われ、事業承継を考える暇がなかった。U社は、金融機関から約2億円の借り入れを行い、なんとか事業を継続していたが、U社社長は、体力が徐々に落ち始め、満足に営業できなくなってしまった。

それと並行して、U社は顧客が少しずつ離れていき、3年前に約1億円あった売上高も約5,000万円に落ち込んだ。資金繰りは日に日に悪化していき、2~3ヶ月以内に資金繰りが尽きることが見込まれる状況に陥ってしまった。そこで、U社社長は弁護士に相談し、社外の第三者に事業を譲り渡そうと決意した。

*M&Aが成立に至った経緯
資金繰りが悪化するなかで、U社が譲受側(スポンサー)を探す時間的な余裕はほとんど残されていなかった。また、弁護士が紹介したM&A専門業者が懸命にスポンサー探索を行った結果、スポンサー候補が複数社、U社に関心を示したものの、活気を失ったU社の事業を譲り受ける決意をしたスポンサーは現れず破談となった。

U社は、資金繰り悪化に耐えきれず破産し、廃業した。また、U社の金融機関からの借り入れについて個人保証(経営者保証)していたU社社長も、同時に破産した。

M&Aのまとめ

M&Aは、企業の成長戦略(事業拡大や新規参入など)において重要な役割を果たしますが、同時に大きなリスクも伴います。また、さまざまな手法(スキーム)があり、法務や税務の専門知識が必要になります。また、自社のM&Aの目的を満たすための最適解を探し出すためには、専門的な知識とアドバイザーが必要になるでしょう。

合わせて、M&Aは、売り手と買い手の思惑が一致しなければ、成功には辿り着けないほか、M&Aを行うタイミングも非常に重要となります。それぞれのスキームのメリット・デメリットをよく理解し、各専門家と連携を図りながら、綿密な準備のもと、M&Aのミスマッチを防ぎ、M&Aを有効に活用してみてください。

この記事の監修者

末永 寛

税理士

末永 寛

一般企業における経理事務を約25年経験した後、大手税理士法人勤務を経て税理士事務所開業。フリーランス・中小企業専門の税理士として、税務業務のみならず、将来の企業運営も含めた経営サポート業務を提供。また、近年の電子帳簿保存法やインボイス制度への対応も含めたITツールの導入にも積極的に導入サポートを行っている。

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