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M&Aの成否に直結!?M&Aの相談先の選び方

M&A / 基礎知識

  • 公開日2024.11.08
  • 更新日2024.11.15

M&Aの成否に直結!?M&Aの相談先の選び方

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M&Aの相談先は、M&Aの成功を大きく左右する存在です。しかし、多くの方にとって、M&Aは初めての経験であり、どういった相談先があるか、わからない方も少なくないでしょう。そこでこの記事では、税理士である筆者が、M&Aの相談先候補先についてピックアップし、それぞれのメリットとデメリットをわかりやすく解説しました。この記事を読めば、M&Aの相談先を適切に選択できるようになります。相談先が決まってからの流れなどもまとめているので、M&Aの相談先選択にお役立てください。

企業がM&Aを検討する理由

日本におけるM&Aの件数は、年々増加傾向にあり、2023年におけるM&A件数は4,015件と高い水準にあります。この傾向は今後も続くと予想され、M&Aにおいては、事業承継だけでなく、企業規模の拡大や事業多角化など、成長戦略の一環としても、中小企業の間で広がりを見せることが予想されています。
 


中小企業庁 2024年版  中小企業白書より


企業がM&Aを検討する理由は、企業の規模や業界または各企業の状況によってさまざまですが、一般的に以下の3つの目的が挙げられます。


後継者不在による事業承継

2024年現在、日本では、中小企業の後継者不在による倒産・廃業が社会問題化しており、中小企業の経営者が引退時期を迎えているにも関わらず、後継者不在により、そのまま経営し続けている企業が増えています。


最新の中小企業白書においても、60代経営者の約4割が依然として後継者不在となっており、以前として後継者不在率は高い水準となっています。その中で、親族や社内に後継者候補がいない場合には、事業を存続させるための方法としてM&Aを行うケースが増えており、有効な選択肢となっています。


中小企業庁 2024年版中小企業白書より


経営の立て直しによる会社の存続

経営状態の厳しい企業が、他社に自社の事業などを売却して財務状況の改善や企業の再生を図るケースとしてM&Aを検討することもあります。事業などの売却では、一時的な資金調達が可能になることや、経営陣の交替など企業再生への取り組みによって、企業だけでなく技術やノウハウを守ることが期待でき、合わせて従業員の雇用を守ることができます。


事業規模の拡大による成長戦略

自社単独では成長に限界を感じていた企業が、M&Aにより他社と提携することで、さらなる成長を図ることも可能です。親や親族から引き継いだ伝統的な事業を他社の技術・ノウハウや経営資源を活用することで、現代に通用する事業にアップデートさせたり、成長させるケースや大手企業グループの傘下に入り、業界再編の波に対応したりするケースもあります。


また、複数の事業を展開する企業の場合、不採算事業を事業譲渡して事業の整理を行うことで、主力事業に経営資源を投下できるようになり、事業における「選択と集中」のために譲渡を行うケースも見受けられます。


M&Aをする際の主な相談先とメリット・デメリット

M&Aを行う場合、企業にとって、会社売却を行うことは、大きな決断です。意思決定に悩みを抱える経営者が多く、専門知識を有する専門家のサポートを必要とするケースも多いでしょう。また、M&Aを専門的にアドバイスする機関は、さまざまな種類や形態の専門機関があり、自社に合った相談先を選ぶことが重要です。では、M&Aを行う際の相談先候補を見ていきましょう。


M&A仲介会社

M&A仲介会社は、M&Aを検討している企業同士の間で、中立的な立場でM&Aが成約するようサポートを行います。売り手と買い手双方の企業へのヒアリングに始まり、相手先の選定、条件交渉や計画立案、バリュエーション(企業価値評価)、必要資料の作成、契約締結、クロージングに至るまで、ワンストップでM&Aの全工程をサポートします。


また、仲介会社の中には、FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)として、売り手(譲渡側)か買い手(譲受側)のどちらかの専属アドバイザーとして、M&Aのサポートを実施する会社もあります。


M&A仲介会社に依頼するメリットは、仲介会社独自のネットワークから多数のM&A相手候補を探せることです。候補先選定において、売り手と買い手双方の希望に沿った企業を探してくれるため、M&Aの満足度が高く実現しやすくなるでしょう。また、M&Aの専門家として豊富な知識や実績を持っており、実行やアフターフォローまで幅広くサポートしてもらえます。


デメリットとしては、着手金や中間金などの手数料が発生することが挙げられます。売却金額の1〜5%程度の成功報酬が発生するのが一般的です  。M&Aの規模が小さい場合でも数百万円単位の報酬が必要になる場合も少なくありません。


売り手と買い手企業  にとって大きな負担となる可能性があり、最低手数料の設定も高額になる傾向があることから、複数の仲介会社より比較検討することをおすすめします。  また、売り手と買い手における条件が折り合わなければ、希望売却価格より低い価格で売却することもあります。


銀行などの金融機関

M&Aを進めるうえで、銀行などの金融機関は、買い手(買収側企業)の買収資金の調達と融資の相談において、欠かせない存在です。近年では、M&Aの需要の増加に伴い、専門窓口を設ける投資銀行やメガバンクも増えています。


M&Aの買い手企業にとって、融資による資金調達が可能か否かは重要な意味を持ち、融資にあたっては、金融機関が独自の基準で審査を実施します。仮に審査が通らなかった場合には、そのM&Aに潜在的なリスクがある可能性も考えられます。金融機関の目線での判断が加わることで、違った観点で判断することが可能です。


メリットは、大規模な金融機関であればM&Aの相談を専門に請け負う窓口を持ち、専門の担当者に相談できる点です。  資金調達に関して専門的なアドバイスを受けられるほか、M&Aでは避けて通れない資金繰りの問題についても、専門家の目線で適切にアドバイスしてくれるでしょう。また、弁護士や公認会計士のような各士業やM&Aの専門機関との連携体制が構築されており、必要に応じて専門家の紹介やサポートも期待できます。


デメリットは、金融機関が対応しているのは、基本的に大企業が実施する大型M&A案件が多く、中小企業やスタートアップなど、中小企業規模のM&Aは相談を受け付けていないことがある点です。また、仮に相談できた場合も、会社の規模に見合ったM&A先が見つからない可能性もあるので、M&Aが成立しないこともあり得ます。


また、主な金融機関は、仲介方式ではなく、ファイナンシャル・アドバイザーの形式を採用していることが多いです。


商工会議所などの公的機関

商工会議所や商工会は、地域の商工業の改善・発展をサポートする非営利の公益経済団体で、中小企業を対象としたM&A・事業承継支援を手がけています。相談は無料で、必要に応じて各分野の専門家を紹介してくれるほか、気軽に相談できる点が魅力です。


商工会は、地域に根差して活動を行っており、商工会議所は、M&Aや事業承継の必要性の認識や、経営状況・課題の可視化を重要視し、積極的に支援を行っています。


商工会議所などの公的機関に相談するメリットは、中小企業の経営支援実績が豊富であり、相談しやすいことにあります。中小企業同士のM&Aであれば、中小企業の文化や内情を熟知しており、適切なアドバイスが期待できるでしょう。


合わせて、補助金や助成金などの公的支援制度の情報も持っており、経営者に寄り添った支援が期待できます。また、事業承継・引継ぎ支援センターなどと連携している場合も多く、相談内容により公的窓口への働きかけも可能です。


逆にデメリットは、商工会議所や商工会の会員になる費用がかかることです。また、公的機関であるため、スピード感のある対応は期待できません。


各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者問題を抱える中小企業や小規模事業者を対象としたM&A・事業承継の公的な専門機関です。事業承継や会社の引継ぎに関するアドバイスや情報提供、マッチング支援を行っています。各都道府県に設置されており、各センターでは専門家が相談に応じ、無料で利用することができます。


全国の47都道府県に無料相談窓口があり、地方都市でも相談しやすいのがメリットです。国の公的機関であることから無料相談が可能。利害関係がなく、第三者目線の公平なアドバイスが得られることもメリットとなります。民間のM&A仲介会社や金融機関では相談が難しい、小規模なM&Aや個人の事業承継でも対応・相談が可能です。


デメリットは、事業承継を主な目的とした公的機関であり、M&A案件も事業承継を目的としている点です。取扱件数が少ないうえに複雑なスキームには対応できず、サポート範囲が限定されます。また、スピード感のある対応も難しい可能性があります。


また、M&Aの実施においても、地元のつながりを中心に進める傾向があります。地域の範囲を広げて幅広くM&Aの相手先を探したい場合は、M&A仲介会社に依頼したほうが、条件に合致した企業が見つかりやすいでしょう。


とはいえ、事業承継・引継ぎ支援センターは、ここ数年、相談社数・成約件数とも増加傾向にあり、相談実績も増えています。中小企業において、最初の相談先としては、有効な手段となるでしょう。



中小企業庁 2024年版  中小企業白書より


弁護士

M&Aにおいて弁護士が果たす役割は、M&Aにおいて複数回行う契約締結について、法的リスクを検出し、対策を行うための交渉・助言を行うことです。また、M&Aでは秘密保持契約(NDA)などの契約を締結するため、弁護士のような法の専門家に作成・レビューを依頼することは重要な意味を持ちます。


M&Aを進める際には、会社法や金融証券取引法に従った形で各種手続きが必要になるため、適切に行われているかどうかの確認も依頼できます。さらに、売り手と買い手の企業間で訴訟に発展しそうな事態が発生しても、弁護士であれば法的な観点から適切なアドバイスや対策を行うことが可能です。


弁護士にM&Aの相談をする最大のメリットは、各種契約書を正しく、確実に作成してもらえる点です。M&Aを行う場合には、秘密保持契約書やアドバイザリー契約書、基本合意書など、さまざまな契約を締結しますが、不備があるとトラブルへと発展する可能性があり、法律家の目線で間違いのない契約書を作成してもらうことは重要です。


また、法務デューデリジェンス(M&Aを行う際に、対象となる企業における法務面でのリスク『契約内容や訴訟等』などを調査すること)の場面においても、専門知識が必要で適切なアドバイスを受けることができます。そのほか、相手企業とのトラブルが発生した場合にも、法の専門家であれば安心して任すことができます。従来から顧問を依頼している弁護士や弁護士事務所であれば、既に信頼関係ができているため、相談しやすくスムーズに進むでしょう。


逆に、弁護士に依頼するデメリットは、M&A支援が本業ではなく、経験やノウハウが不足しており、財務・税務面の知見が不足している可能性が高い点です。


M&Aにおいて、企業価値の算定や企業の財務状況・収益性を分析する財務デューデリジェンスには、税務・財務・会計の知見が欠かせません。充実したサポートを受けるためには、弁護士とともに公認会計士や税理士への依頼が必要です。すると、管理工数が増えてコストがかかり、金額面がネックとなりやすいと言えます。


公認会計士や税理士

公認会計士や税理士は、M&Aにおいて、企業価値の算定や財務デューデリジェンスや税金対策及び税務デューデリジェンスなどを税務・財務・会計の専門家としてサポートを行います。


買い手企業において、売り手企業(または事業)を譲り受ける際には、財務面でのリスクの有無や買収価額の妥当性判断をしなければなりません。財務・税務デューデリジェンスの結果が、その判断材料のひとつとなり、非常に重要な役割となります。


公認会計士や税理士に相談するメリットは、M&Aに必要な財務や会計に関する高度な専門知識をM&Aに活かせることです。M&Aの実施に際しては、相手先企業に簿外債務や保証債務などの潜在的なリスクが潜んでいないか調査することが重要です。公認会計士や税理士に相談することで、会計や財務面の問題を見落とすことなく洗い出せるでしょう。


また、公認会計士や税理士であれば、既に顧問契約などにより信頼関係が構築されていることも多いです。自社の内情を深く理解しており、財務状況も把握しているため、相談もスムーズに進むでしょう。


公認会計士や税理士に依頼する主なデメリットは、必ずしもM&Aに精通しているとは限らない点です。M&A事態を扱っていないことも多く、経験が十分でないこともあり得ます。また、M&Aで重要なポイントとなる相手先企業探しについても、専門分野ではありません。サポート範囲が限定され、ノウハウの不足が懸念点になる可能性があります。


M&Aマッチングサイト

M&Aマッチングサイトとは、インターネット上のシステムを介してM&Aの売り手企業と買い手企業を引き合わせるサービスです。サイト上には、さまざまな法人が登録されており、売り手企業と買い手企業とが、それぞれ希望する条件に合致する候補先企業を探すことができます。


後継者不足などM&Aによる承継は増加しており、後継者が不在で廃業を検討する場合も、廃業を決定する前に、M&Aマッチングサイトを利用することで、事業を継続できるかもしれません。


メリットは、無料で登録できるマッチングサイトがあり、M&Aに多額の費用をかけられない中小企業においても、M&Aの機会を大幅に拡大する点です。また、売り手自身が相手方を探せるので、ダイレクトに情報が獲得でき、M&Aの締結がスムーズになることもあります。


デメリットは、サイトによってサポートに差があり、サポートのレベルが異なる点です。自社の求めるサポートが必ず受けられるかは、事前の確認が必要になるでしょう。また、掲載情報から会社を特定されるリスクもあることから、どこまで企業情報を開示するかの見極めも重要です。

相談先 メリット デメリット

M&A仲介会社

・多数の候補企業から交渉相手を探せる

・相談からクロージングまでワンストップでの支援が受けられる

・交渉がスムーズに進みやすい

M&Aが成功しやすい

・着手金や中間金などの手数料が発生する会社が多い

・希望よりも低い価格でM&Aが成立することもある

FA会社

・自社の希望をかなえやすい

・期間が長くなる傾向にある

FASコンサルティング会社

・財務に特化した専門性の高いサービスが受けられる

・期間が長くなる傾向にある

金融機関(銀行など)

・自社の事情を熟知している

・中小規模のM&Aには対応していないこともある

公的機関(商工会議所など)

・公的な支援制度に関する情報に詳しい

・公的窓口へつなげてもらうことができる

・会員であれば無料で相談できる

・会員でなければ相談できない

・入会費や会費がかかる

・サービスの質やスピード感は劣る可能性がある

事業承継・引継ぎ支援センター

・相談窓口が全国にあり利用しやすい

・公的窓口であり無料で相談できる

・利害関係がないため公平な助言が受けられる

・スピード感のある支援が難しい

・支援範囲が限定される場合もある

・支援実績がまだ十分にない

弁護士

・契約書作成などの法的アドバイスが受けられる

・トラブル時に法的解決の支援が受けられる

M&Aに詳しく支援実績があるとは限らない

・財務や税務面の知見が不足している可能性がある

・依頼費用が高額になりやすい

公認会計士・税理士

・顧問税理士や会計士であれば相談しやすい

・財務や税務面での専門的なアドバイスが受けられる

M&Aの支援経験がない場合もある

・サポート範囲が限定されやすい

M&Aマッチングサイト

・多額の費用をかけず、中小企業でも導入しやすい

・ダイレクトに情報を獲得できる

・サポートの差がサイトによって異なる

・会社を特定されるリスクがある

H2:譲渡企業(売り手)のよくある相談内容

譲渡企業(売り手)から、よくある相談内容には、事前準備や、承継後のことなどが挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。


M&Aで行うべきこと

M&Aにおいては、事前に準備することが多いです。具体的な検討事項は、M&A戦略の策定、希望売却価額の設定や仲介業者の選定、関係機関の確認、契約手続きの整理など。これらの準備については、M&Aの専門家に相談するケースが多く、専門家を早めに見つけて準備することから始まります。


会社や事業の承継後はオーナーがどうなるか  

M&Aを行った後、それまで会社を所有していたオーナーは、一般的に退任することが多いでしょう。M&Aが成立した後は、会社の経営には関与せず、新たな人生を送るオーナーが多いです。一方、M&A後も代表権のない社長として、そのまま会社に残る社長もおり、M&Aと同時に「引退」ということも少なくなりつつあります。


その他では、買い手に売却した会社の顧問として残り、一定期間、これまでの経験やノウハウを伝えるために売却後の会社に残り、売却資金を元手に、新たなビジネスに挑戦することもあります。M&A後にどのように過ごしたいかは、買い手との交渉内容により変化します。どうしても譲れない部分は、交渉の段階で明確にしておくことが重要です。


買い手企業とマッチングするか

売却側企業の相談で多いのは、買い手企業が見つかるのかというものです。M&Aにおいて、相手先企業が見つからなければM&Aは成立しません。実際のところ、信頼して事業を任せられる相手先が見つからないこともあり得ます。


しかし、たとえ減収傾向にある企業でもノウハウや技術・保有する顧客・地域での認知度など、買い手側企業と統合後の収益見込みや条件がマッチすれば  、買い手企業が現れる可能性は十分にあります。候補先企業の有無だけではなく、売却価格の妥当性やM&Aが最適解なのかという点も含め、アドバイザーに相談することが必要です。


自社の価値はどれくらいか

売却価格の相場や目安は、売り手側企業にとって関心の高い部分で、企業価値が高ければ高いほど売却価格も高くなります。ただし、M&Aの最終価額は、買い手側企業との交渉によって決定します。


よって、交渉時にベースとなる「企業価値評価」は、簡易的な算定であればM&A実行前に無料で行っている専門家も存在しますので、目安とすることが可能です。中小企業のM&Aでは、1~5年分  の営業利益に純資産を足した金額になるケースも多く、事前の参考数値としては、比較的簡単に求められます。


M&Aにかかる期間

M&Aにかかる期間は、ケースによりさまざまで、一般的に半年~1年程度必要と言われていますが、実際には3ヶ月程度で成立するケースもあれば数年かかるケースもあり、ケースバイケースと言えます。


売り手側企業の経営者が体調不良などにより、M&A成立を急ぐケースもありますが、相手先が簡単に見つかるかは不明で、適切なタイミングを見極めることは困難です。十分な時間を確保し、余裕を持って準備していきましょう。


企業秘密はどのように守るか

M&Aを進めるうえで、売り手側企業は、自社の機密情報を買い手側候補に開示しなければなりません。特に売り手側企業にとって、自社の企業秘密をどう守るのかは重大な事項であり、秘密保持の方法について初期相談時に質問されることも多いです。
M&Aでは一般的に、会社名を明かさず企業情報の概要のみを開示し、その後、本格的な交渉の直前に秘密保持契約を締結します。万一、情報漏洩が起こった場合はどうなるのか、M&A仲介会社の情報管理体制は万全かといった相談も多く見られます。


M&A仲介会社には守秘義務があり、預かった機密情報は厳重に管理する体制を整えているはずですが、不安がある場合は事前に質問しておくとよいでしょう。


譲受企業(買い手)のよくある相談内容

譲受企業(買い手)は、M&Aを行う際の障壁や不安要素について、従業員の理解やM&Aの効果と情報不足を挙げており、M&Aにおいては、意思決定のための情報取得や統合(PMI)の計画性が重要であるとわかります。重要な部分がより見えやすくなるよう、譲受企業(買い手)から受ける、よくある相談内容を確認してみましょう。



中小企業庁 2023年版中小企業白書より


M&Aで行うべきこと

M&Aを進めるために、売り手側と買い手側では必要となる準備が異なります。買い手は、M&Aを行う目的を明確に設定してください。なにを基準に相手を選定するのか、交渉を行うための判断基準が定まります。


また、事業拡大による同業種の買収と、新しいマーケットの開拓による異業種参入では、期間や関連業法が異なってきます。M&Aの目的や条件を明確にし、準備を行うことが求められるでしょう。


M&Aによって得られる成果

一般的にM&Aを行うと、生産設備や装置などの有形のものから、技術や取引先、ブランド、製品開発力などといった無形のものまで、数々の資産を得ることができます。これにより、事業の多角化や事業領域の拡大、新たな市場、新規事業への進出などを容易に行うことができ、事業拡大をスピーディに行うことが可能です。


M&Aに関する資金繰り

買い手企業において、M&Aで他社(あるいは事業)を取得する場合、多額の資金調達が必要になることも少なくありません。調達すべき資金額の多さは、買い手側企業にとっても重要な事項です。


M&A戦略の重要な要素となり、必要資金の目安は使用スキームや譲渡対象(範囲)によっても変化します。そのため、買い手側企業は、M&A実行前に必要な資金の目安や融資の可否についての相談を行うケースが多く、早めに準備をしておく必要があります。


M&Aにかかる期間

M&A完了までに、どの程度の期間が見込まれるか、という相談も多く見られます。買い手側企業は、M&A後の事業展開を想定し、M&Aの実行について経営判断を行っているので、大まかな目安を知って計画をたてる必要があります。


M&A成立までの期間は、個々の状況によって大きく変わります。M&Aアドバイザーの経験によって、  ある程度の目安を知ることができますが、売り手企業の状況や希望により大きく変動するので、あくまでも目安であることに注意が必要です。


買収後の統合(PMI)の計画  

M&A後の統合プロセスでは、M&Aの効果を最大化させるために、PMI(Post Merger Integration)を行います。M&Aの成功は、PMIの成功次第と言われるほど重要なプロセスにあたります。期待する経営効果が実現できるか否かは、PMIにかかっていると言われるほどです。よって、PMIを専門に扱う会社もあり、PMI専門会社に依頼することで、よりPMIを成功に導く効果も期待できます。


M&Aで統合するものは、各M&A案件により異なりますが、経営方針の統一、企業間の異文化の融合、コスト削減と効率化、取引先の共有、業務システムや制度などの統合を行い、シナジー効果を最大化していきます。


また、PMIを実施する際の課題の上位に挙げられているように、従業員の一体感の醸成やモチベーションの向上は、M&Aの成否の中でも大きな要素であることがわかります。M&Aは、異なる会社同士が統合するため、企業風土や経営方針などが異なるケースがほとんどです。従業員の中には、買収されたことを好意的に思わない人もいるでしょう。そのような従業員が会社に残ると、一体感の醸成が難航することや、モチベーション低下による退職などにつながり、業務に支障を来たしかねません。よって、業務に支障が生じないよう事前に説明などを実施し、従業員の理解を得ておくことが重要です。



中小企業庁 2023年版中小企業白書より


M&Aの相談にかかる料金の相場は?

M&Aにおける仲介手数料の相場は、取引金額や契約内容によって異なりますが、一般的には取引金額の1~5%程度が相場とされています。なお、手数料の計算方法としては、後述する、レーマン方式を採用する仲介会社が一般的です。段階的な手数料率を適用することで、取引金額が大きくなるほど手数料率が下がる仕組みになっています。


なお、M&A支援機関の中で、最低手数料を設定している会社が多く、もっとも多い最低手数料は500万円  となっています。仲介会社に依頼する際には、最低手数料の有無と金額を事前に確認しておく必要があるでしょう。なお、大手M&A仲介会社の最低手数料は、2,000万円を超える会社が多くなっています。



中小企業庁 中小M&Aガイドライン第2販より


相談料の相場

相談料とは、M&Aの正式な依頼をする前に、M&A仲介会社に相談した際にかかる相談手数料のことです。現在、ほとんどのM&A仲介会社では、相談料はかからないようです。念のため、初回の問い合わせ時に相談料の有無を確認しておくとよいでしょう。


着手金の相場

着手金とは、M&A仲介会社へ正式な依頼を行った後に支払う費用です。着手金は、無料の場合と、100万円~500万円程度が必要となる場合に分かれています。着手金が必要な仲介会社の場合、M&Aを本気で行う気はないが、試しに仲介会社に登録をしてみた利用者がいないことを意味しています。


本気でM&Aの成功を目指している企業が集まるという点が、着手金のメリットとなるでしょう。一方、着手金は企業価値算定や相手先選定などを行うことに充てられるので、基本的に返金されることはありません。


中間金の相場

中間金とは、M&Aの基本合意契約を締結した際に支払う手数料です。基本合意契約とは、M&Aの大枠の内容を記載したもので、買い手候補企業が「買収する」意志を表明するために結ぶことが多くなっています。


基本合意契約を締結すると、M&Aはほぼ成立すると言われていますが、一般的には法的拘束力はありません。デューデリジェンスの結果次第では「買収しない」という結論に至る可能性もあり、M&Aが成立しないこともあり得ます。


なお、M&Aが成立しない場合も、着手金と同様に、中間金も返金されません。中間金の相場は、100万~200万円程度という場合や、成功報酬額の10~20%の場合、中には中間金が発生しない仲介会社もあります。


成功報酬の相場

成功報酬費用とは、M&Aの最終契約締結後に支払う手数料のことです。M&Aの金額をもとに、以下レーマン方式と呼ばれる計算式により、成功報酬が計算されるケースがほとんどです。少額のM&Aの場合は、M&Aの金額に5%程度の手数料率を乗じて計算された金額が相場となっています。なお、成功報酬費用は、M&Aが成立しなければ支払う必要はありません。


成功報酬の計算方法(レーマン方式)

ほとんどの仲介会社では、レーマン方式と言われる取引金額に一定の料率をかけて算出する成功報酬の方法を採用しています。成功報酬の計算方法は、基準となる価額(「譲渡額」、「移動総資産額」など)に報酬率を乗じて算出します。


◆基準となる価額の一例
譲渡額:株式価額等の譲渡額
移動総資産額:譲渡額+すべての負債(銀行借入金、買掛金など)


◆乗じる割合の一例

基準となる価額

報酬率

5億円以下

5%

5億円超~10億円以下

4%

10億円超~50億円以下

3%

50億円超~100億円以下

2%

100億円超

1%


中小企業庁「中小M&Aガイドライン改訂(第2版)」参照


◆計算例
譲渡額5,000万円の株式譲渡


・着手金、月額報酬、中間金:なし
・成功報酬:レーマン方式(基準:譲渡額、最低手数料:1,000万円(税抜))


◎手数料
1.着手金、月額報酬、中間金:0円
2.成功報酬:5,000万円×5%×110%=275万円(税込)
3.最低手数料:1,000万円×110%=1,100万円(税込)
4. 2.<3. ∴手数料総額:1,100万円(税込)


M&Aの相談前に準備しておきたいこと

M&Aを行う際には、事前準備をしておくとスムーズに進みます。相談前に準備しておきたいことは以下です。


M&Aを行う目的を定める

最初に、M&Aという手段により達成したい目的を明確にしておきましょう。なぜM&Aをするのか。事業承継、資金調達、事業拡大など、M&Aにより、なにを達成したいのかを明確にします。


次に、どのような企業に買収してほしいのかを決め、理想の相手像を具体化します。最後に、譲渡の範囲を決めます。事業全体を譲渡するのか、一部の事業を譲渡するのかを決定することで、M&Aの目的が明確になり、今後の交渉においても迷いや不安の解消につながります。


M&Aに関する基礎知識を蓄える

M&Aでは、さまざま種類のスキームが存在し、代表的なスキームとしては株式譲渡や事業譲渡があります。どのスキームを選択するかによって、M&Aによって得られる利益や、税務・会計上のメリット・デメリットが存在し、必要な手続きも変わってきます。


よって、目的や対象企業・事業の特性に合わせて、どのスキームが最適かを考慮することが求められ、基礎知識を蓄えることは非常に重要です。


◆M&Aのスキーム一覧

支配権

分類

買収スキーム

対価

種別

詳細

支配権獲得あり

M&A

(狭義)

株式

合併

新設合併

吸収合併

株式交換・株式移転

会社分割

新設分割

吸収分割

現金

事業譲渡

全部譲渡

一部譲渡

株式譲渡

相対取引

公開買付(TOB

市場買い集め

新株引受

第三者割当増資

新株引受権取得

支配権獲得なし

提携

(アライアンス)

業務提携

業務・資本提携

合弁会社(JV

 

資料を準備する

M&Aの交渉を進める前に、まず自社の企業価値評価額(株価)を算出しておく必要があります。M&Aの最終的な取引価格のベースともなるため、事前に把握しておきましょう。


また、M&Aにより買い手探しを進める際に、最初に匿名の範囲で情報がまとめられた「ノンネームシート」を買い手候補企業に提示し、関心を持たれた際には、より売り手企業の詳細情報を記載した「企業概要書」を提示します。


よって、譲り受けを検討している売り手企業は、買い手の対象企業が特定されない範囲で情報がまとめられた「ノンネームシート」を確認し、M&Aを検討しますので、企業概要書は重要な役割を果たすこととなります。


このとき、企業価値評価を行うためには、各種決算書類が必要になります。さまざまな角度から企業実態を明らかにする企業概要書の作成では、決算書のほかさまざまな資料を参考にする必要があります。次のような資料を準備しましょう。

区分

必要資料例

会社概要

会社の歴史、事業内容、製品・サービス紹介、強み、弱み等

事業計画

中長期的な事業計画、売上高や利益の予測等

経営計画

経営戦略、組織体制、人材育成計画等

決算資料

過去数年の損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書等

不動産に関する資料

所有不動産の登記簿謄本、固定資産税課税明細書等

知的財産一覧

特許、商標、著作権等

主要契約

顧客との契約書、仕入先との契約書、金銭消費貸借契約書等

従業員に関する資料

従業員数、賃金体系、労働組合との関係等

訴訟・係争関係資料

会社が関与している訴訟や紛争に関する資料

規程類

組織図、社内規程等

 


M&A実施の流れ

M&Aを行う際は、以下のような流れで進んでいきます。表で具体的な流れを見て、その後、詳細を見ていきましょう。


◆M&Aの流れ

 

内容

1

目的の明確化、社内キックオフミーティング

2

M&Aアドバイザー・専門家の相談

3

M&Aアドバイザー(依頼先)の決定

4

自社の資料準備

 

M&A案件探し

 

・ノンネームシートの提示

 

・ネームクリア

5

企業概要書の提示

6

トップ面談

7

意向表明書の提出

8

基本合意書の締結

9

デューデリジェンスの実施

10

最終譲渡契約の締結

11

クロージング(決済)

12

統合プロセス(PMI)の実施

 


M&Aの目的や方向性の明確化

M&Aにより達成したい目的やM&Aの方向性を明確にしましょう。具体的には、事業承継、資金調達、事業拡大など達成したいことを明確化します。M&Aをやるべきなのか、本当の目的はなんなのか。戦略とともに社内で共通認識を持っておく必要があります。共通認識がないと、M&Aを実現できても、一体なにをすべきか、これからどうするのかという重要な視点が抜け落ちてしまいます。間違っても、M&A自体を目的にしないようご注意ください。


M&Aアドバイザー・専門家への相談

M&Aを行うには、売り手企業として行うべきことや準備すべきことが多々あります。そのため売り手企業とは、M&Aにあたりどのような手続きが必要なのか、M&Aの実現可能性などについて、M&Aアドバイザーや専門家に相談しましょう。


依頼先の選定

M&Aの取引や交渉は、特殊な部分も多々あります。慣れない交渉により、本業がおろそかになり、M&A取引完了の直前で業績低迷や交渉が決裂したり、不利な条件となったりするもあります。


また、より広いネットワークの中で買い手探しを行っていく必要性もあることから信頼できるM&Aアドバイザーを探す必要があります。複数のアドバイザーの話を聞き、もっとも信頼できるアドバイザーと契約を締結してください。そして、アドバイザーと協力して、M&A取引を進めていくようにしましょう。


自社の資料の準備

M&Aの交渉を進める前に、まず自社の企業価値評価額(株価)を算出しておく必要がありますので、自社の資料準備を行いましょう。自社の資料は、決算情報や会社概要のみならず、さまざまな資料の準備必要となります。アドバイザーと確認しながら、準備を進めてください。資料準備の際は、資料の網羅性が非常に重要です。万が一、資料の漏れがあると、後々のトラブルとなりかねませんので、ご注意ください。


売り手側から資料の提供を受けたら、その資料をもとにM&Aアドバーザーがノンネームシートを作成します。ノンネームシートとは、買い手候補に対して、売り手企業の概要やM&Aの条件を提示するための資料のことです。


具体的には、事業内容や所在地、売上高、従業員数などが記載します。ノンネームシートは、情報漏洩を防ぐために、すべての情報を抽象的に記載しているのが特徴です。よって、抽象的な情報のみでは、買い手企業に自社の魅力を伝え切ることができません。


そこで、ある程度M&Aの流れが進んだら、より詳細な情報を買い手候補に伝えます。具体的な情報を伝える手続きを、ネームクリアと呼びます。M&Aアドバイザーは、ノンネームシート作成の段階で、後々ネームクリアを行ってもよいか売り手企業に確認し、取引を進めていきます。


企業概要書の提示 

買い手候補となる企業は、ノンネーム閲覧から売り手企業の候補を絞り込み、NDA(秘密保持契約書・機密保持契約書)の締結後にネームクリアされた段階で企業概要書をもとに売り手企業の価値を見定めます。


企業概要書は、売り手企業の詳細な企業情報がまとめられた資料で、事業の内容、過去の損益計算書・貸借対照表、事業計画、雇用状況などの情報が記載されています。


買い手企業において、M&Aを進めることが決まれば、面談、条件提示、基本合意へとプロセスを進めます。そのため、企業概要書には売り手企業の現況や、将来性がわかる情報を具体的に記載しなければなりません。買い手企業は、デューデリジェンスによって、その内容を精査します。


トップ面談の実施

売り手と買い手のマッチングが行われ、ある程度情報交換、質疑応答が終わり、買い手企業がM&Aに積極的な姿勢を示すと、次はトップ面談が実施されます。ネームクリアで詳細な情報がわかっていても、不安や疑問が残るケースも少なくありません。そこで、売り手と買い手の経営者同士が、顔を合わせて面談するのです。


M&Aの流れでもっとも大切なことは、経営理念や組織文化の相互理解と互いの人間性や会社経営に対する想いを確認することです。社長同士の価値観や会社経営に対する想いに共感し合えれば、M&Aが成功する可能性が高まるでしょう。


意向表明書の提出・受領

トップ面談でお互いに信頼できる相手であることが確認できたら、具体的な条件面の調整へ進みます。そして、これと並行して、この段階になると買収価格や従業員の処遇、M&Aの方法を決定していきます。


このとき、買い手側は意向表明書と呼ばれる資料により、買収方法、買収価格などの提案条件を売り手に提出することとなります。
 


買い手候補が複数いる場合、売り手企業は買い手候補を選定しなければなりません。そして、交渉を進める買い手を絞り込むために用いられるのが、意向表明書です。意向表明書は、買い手企業の意向を売り手企業に伝え、円滑なM&Aの成約へとつなげる重要な役割を担っています。


基本合意書の締結

売り手・買い手双方の希望条件がおおよそ一致した時点で、基本合意書を締結します。基本合意書に記載されるのは、主に下記の項目となります。

  • 独占交渉権や秘密保持義務に関する内容
  • 買収方法
  • 買収価格
  • 今後の交渉期間
  • 最終契約の締結時期


── 独占交渉権の付与

買い手はデューデリジェンスを始めるにあたり、もし一方的に売り手から交渉が打ち切られると、監査費用が無駄になり、多大な損害を被ることになります。そうならないよう、買い手はデューデリジェンスを始めるにあたり、独占交渉権の付与を受ける必要があります。基本合意書を規定していれば、売り手が第三者と交渉した場合、契約違反には問うことができます。言い換えると、独占交渉権を付与した売り手は、期間中は他の買い手候補の企業と自由に交渉することができません。この期間は、一般的に2ヶ月~半年程度に設定されるケースが多いです。


── 秘密保持義務の設定

基本合意契約とほぼ同じタイミングで締結するのが秘密保持契約です。秘密保持契約はその名のとおり、M&Aに関する情報の一切を秘匿するために締結される契約です。M&Aに関する情報の漏洩は、従業員や取引先の不信感を招きかねません。


最悪の場合、従業員の退職や取引の打ち切りなど、売り手企業の経営に深刻な影響を与えるので、すべての情報を秘匿する必要があります。デューデリジェンスで多くの機密情報を提供する側である売り手は、秘密保持の保証がなければ安心して情報を提供することはできません。


また、買い手としても、売り手に安心してもらうことで、デューデリジェンスにおいて積極的な協力を獲得し、結果リスクの把握がしやすくなります。M&Aにおいて安全に遂行するうえで秘密保持義務の設定は、不可欠な手続きと考えられるでしょう。

中小企業庁 中小M&Aガイドラインより一部抜粋


買収側によるデューデリジェンスの実施

基本合意契約を締結したら、次にデューデリジェンスの手続きを実施します。デューデリジェンスとは、M&Aを行う売却する側(売り手)  の情報を詳細に調査する手続きです。買収する側(買い手)が公認会計士や弁護士の専門家に依頼して、相手企業の調査を実施します。


M&Aには、さまざまなリスクがあります。たとえば訴訟の存在や減損リスク、簿外債務、税務上の懸案事項など。リスクを抱えた企業を買収すると、M&Aの効果が現れず、むしろ経営状態が悪化する恐れもあるでしょう。


このデューデリジェンスにおいて、大きな問題がなければ最終譲渡契約に進むこととなります。M&Aの失敗につながるリスクを回避するためにも、デューデリジェンスの手続きは不可欠で、非常に重要です。具体的なデューデリジェンスは、以下の項目により行われます。

種類

内容

専門家

財務

売り手の財務諸表が適正に作成され、株価算定の基礎となる情報提供ができているか調査する

公認会計士、財務経理担当者

法務

売り手が締結している契約で、M&A後に買い手に振りになる項目、M&A実行の妨げになるような問題を調査する

弁護士、法務担当者

ビジネス

ビジネスフローなどを確認し、特に事業計画が妥当かどうかを調査する

コンサルタント、経営企画担当者

労務

労務問題やメンタルヘルスの問題がないか等を調査する

弁護士、社会保険労務士、労務担当者

税務

過去の税務申告において、将来において追徴課税などが課されないかどうか調査する

税理士、財務経理担当者

環境

売り手の工場などに汚染等の問題点がないか調査する

環境コンサルタント、不動産担当者

IT

売り手のITシステムの問題点、M&A後に課題となるべき点などを調査する

ITコンサルタント、ITシステム担当者

 


最終交渉と最終契約書の締結

M&Aにおける最終譲渡契約書(DA:Definitive Agreement)とは、 M&Aの最終段階において締結される当事者間の最終的な合意事項を定めたもっとも重要な契約書です。


中小企業のM&A取引においては、一般的に株式譲渡と事業譲渡に大別され、株式譲渡の場合は「株式譲渡契約書(SPA)」  、事業譲渡の場合は「事業譲渡契約書」など、スキームによって名称は異なりますが、これら契約書を一般的に「最終譲渡契約書」と呼びます。


◆最終譲渡契約書の一般的な構成要素

構成要素

留意点

取引対象物(株式、事業等)

株式等の所有権は、クロージング日に移転するため、クロージング日を基準日として算定するのが合理的で、最終譲渡契約書の締結段階では、仮金額等を定める

譲渡代金の支払方法

譲渡代金の支払い方法について、一括や分割払いを定める

クロージングの実施方法

クロージング(取引対象物の引渡しと譲渡代金の決済)の実施方法を定めます

表明・保証

売り手と買い手がM&Aの契約にあたって事実として開示した内容が真実かつ正確であることを表明し、契約の相手に対し保証を行います

クロージングの前提条件

クロージングの前提条件として、相手が最終譲渡契約上の義務を履行しない場合、案件を見送る(決済しない)ことができる旨を規定する

クロージング前後の誓約事項

クロージング前後においての、事業や会社運営に対して、一定の制約や通常業務以外の重要な業務執行を禁止する規定を盛り込む

個人保証・担保提供の解消

売り手において、金融機関からの借入に際し、社長個人の個人保証や個人財産の担保提供について、一定期間内に解消する作業を行う

デューデリジェンスの反映

デューデリジェンスにおいて発見された問題点やリスクの対処について、買収スキームの変更や譲渡価格の調整や前提条件に盛り込み、最終譲渡契約書に反映させる

サンドバッキング・アンチサンドバッキング条項

M&A契約において、買主の表明保証違反に関する認識の有無にかかわらず、クロージング後の表明保証違反に基づく補償請求を認める条項となる。アンチサンド条項は、サンドバッキングを認めない条項となる。

解除

表明・保証やクロージング前後の誓約、クロージングの前提条件が満たされていない場合、契約の解除が可能となる

賠償・補償

契約解除により、損害が発生していれば損害賠償を請求し、クロージング後の違反に対し補償期間を定める

 

 
中小企業庁 中小M&Aガイドラインより一部抜粋


クロージングの実行

クロージングとは、売り手が取引対象物を引渡し、買い手は譲渡代金を決済するというM&Aの最終段階の手続きです。一般的には、最終譲渡契約締結日後、1~2ヶ月以内にクロージング日を設定します。


クロージング後の統合プロセス(PMI)

PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)とは、 経営統合作業のことを意味し、M&A成立後の「経営統合プロセス」 を指します。M&Aでは、成約が目的ではありません。統合後に継続的に価値を創出することが目的であり、定量的な面だけでなく、人材や企業文化など定性的な面も考慮することがM&Aの成功につながっていきます。


具体的には「ビジョンと経営目標の共有」「意思決定機関の再構築」「管理会計の統合」「情報システムの統合」など一連の取り組みを行い、M&Aによるリスクの最小化と、成果の最大化を図ってください。


M&Aは、価値を創出することで初めて成功と言えるもので、価値の創造はPMIにより左右されます。特に、両社においてマネジメントレベルの格差がある場合、その格差がクリアになったときに、その価値が生み出されます。片方の優れたマネジメントが導入され、フェアな人材を登用することで、従来よりも優れたマネジメント体制を構築することができるでしょう。


M&Aの相談先の選び方

M&Aでは、どのように相談先を選ぶかも重要です。相談先を選ぶ基準を設けておけば、相談先を探しやすいので、選び方も見ていきましょう。


サービスやサポートがしっかりしているか

最近では、初期の相談から交渉、クロージングまでを一貫して支援するM&Aの専門家が増えています。M&Aの工程は非常に複雑です。M&Aに不慣れな場合は、一貫支援を行っている専門家へ相談するとスムーズな進行が期待できるでしょう。


また、M&A後のPMIサポートが含まれていない場合もあります。サポート範囲・サービス内容を事前に確認して相談先を選ぶようにしましょう。


M&Aの実績が豊富にあるか

成約実績数は、M&Aの相談先を選ぶ際の重要事項となります。成約実績数が豊富にあるということは、優秀なM&Aアドバイザーが多数在籍している可能性が高いです。成約実績の多いアドバイザーは、知識や経験が多いので、本質的なアドバイスやサポートが期待できるほか、結果としてM&Aの成功率も高くなるでしょう。


相談に対する専門性が高いか

M&Aが成立及び完了するまでには、多くのプロセスがあり、M&Aの専門知識だけでなく、企業価値評価やデューデリジェンス、契約書のチェックなどにおいても各分野の専門性が必要です。そのため、財務・法務・税務などの各プロセスや相談内容に対して専門性があるかという点も確認しておく必要があります。


信頼できる担当者であるか

M&Aアドバイザーは、M&Aの成否において、重要な役割を担います。M&Aを行ううえでは、自社の財務状況などのデリケートな部分もアドバイザーと共有しなければなりません。もし信頼関係が構築できなければ、満足度の高いM&A実現は難しくなります。相性が合わない場合は契約しないことや、担当者変更を申し出るといった選択が必要です。


必要な情報を提供してくれるか

M&Aアドバイザーは、交渉や手続きなどM&A工程がスムーズに進むように調整やサポートを行うことが主な役割です。必要な情報を適切なタイミングで漏れや抜けがないよう、提供することが求められます。事前の相談時から、必要な情報を適切に漏れなく提供してくれるか否かを見極めるようにしましょう。


報酬水準が妥当であるか

M&Aの専門家については、専門家ごとに手数料体系が異なります。なお、M&A成立時に発生する「成功報酬」は、どの専門家へ依頼した場合でも必要となりますが、算出方法や報酬率は各社各様となります。


また、成功報酬以外では、着手金・中間金・リテイナーフィー(月額報酬)が発生する料金体系もあります。料金体系を事前に確認し、報酬水準が妥当であるかを検討していきましょう。


情報管理を徹底しているか

M&Aは、機密情報が多く情報の管理は非常に重要です。特にM&A仲介会社においては、当事者の情報を双方からもらっている状態です。つまり、相手に提出不要な情報を渡してしまうリスクがあります。よって、情報の管理体制を確認し、安心して任せられる会社を選択するようにしましょう。


素早く対応してくれるか

M&Aアドバイザーは、M&Aが完了するまで、調整や手続きのサポート役を担い、重要な役割を担っています。M&A完了までには非常に多くの行程があり、重要な工程を任せるため、対応の素早さが求められます。相談の段階から、相談に対する回答のスピードを確認するようにしましょう。


M&Aについて相談する際の注意点

M&Aについて相談する際には、以下の点にご注意ください。


相談相手を見極める

M&Aにおける相談相手は、M&Aアドバイザーが中心となり、M&Aの成否において重要な役割を担います。また、専門知識や業界経験、実績も必要となりますが、コミュニケーション能力も欠かせません。わかりやすく説明し、コミュニケーションが円滑に行えるかも重要な要素となります。


複数のアドバイザーと比較する  

M&Aアドバイザーを決定する際、さまざまな要素で総合的に判断することになります。このときは、一人のアドバイザーを見て決定するのではなく、セカンドオピニオンとして複数のアドバイザーと会うことをおすすめします。実際に話をして、専門知識や実績のみならず、コミュニケーション能力や相性を比較して、決定するようにしましょう。


相談相手は限定する

M&Aは機密情報が多く、情報漏洩のリスクがあります。よって、相談相手が多すぎると情報漏洩等のリスクが高まりますの。相談相手は限定し、信頼のできる人を選定するようにしましょう。


情報漏洩に注意する

M&Aは、情報漏洩に細心の注意が必要です。情報は、売り手企業のみではなく、M&Aアドバイザー、買い手企業においても情報が提供されます。よって、情報管理が徹底されている会社を選び、自社においても情報管理を徹底する必要があるでしょう。


以下では、主な情報の流出経路を挙げています。


── 社長自身

情報漏洩が起こる可能性として大きい原因には、社長自身の管理不足が挙げられます。デスクにM&Aの資料を置きっぱなしにしていた場合や、M&Aアドバイザーとの会話を従業員に聞かれてしまうこともあるでしょう。


── 知り合いの社長

秘密を守ってもらえると思って、知り合いの社長にM&Aのことを打ち明けたのに、情報漏洩につながることもあります。M&Aに悩んで相談することや、宴の席でこっそり打ち明けることも、情報漏洩につながるため注意が必要です。


── 従業員

従業員から情報漏洩が起こることもあります。社長のデスクに置かれたM&A会社の書類を見て憶測で誰かに話をする。会社宛てに送られてきたM&A会社からの資料を開封してしまう。こういったことでも情報漏洩が起こります。


M&Aの相談相手となるアドバイザーについて

M&Aの相談相手となるアドバイザーについても見ていきましょう。


FA(ファイナンシャルアドバイザー)の特徴

FAとはファイナンシャル・アドバイザーの略で、M&Aを検討している企業に対し、M&Aにおける計画の立案からクロージングに至るまで、一連のサポート・助言業務を行う者のことを指します。FAは、売り手企業もしくは買い手企業のどちらか一方と個別に契約を結び、一方のみのM&Aをサポートすることが特徴です。


M&Aアドバイザーの特徴

M&Aアドバイザーとは、M&Aに関連する業務に対して、アドバイスやサポートを行う専門家で、「FA」や「M&Aコンサルタント」とも呼ばれることもあります。


M&Aのプロセスでは、マッチングや交渉といった業務のみならず、バリュエーションやデューデリジェンス 、契約書の作成、会計や税務、法律やビジネスなどの専門知識を要する業務もあり、多岐にわたる知識と経験を必要とします。


専門性の高い業務であるM&Aは、M&A当事者のみで実行するのは非常に困難です。専門家であるM&Aアドバイザーの存在は大きく、非常に重宝されています。


M&A仲介会社とFAの違い

M&A仲介会社とFAは、どちらもM&Aを行う際に業務を依頼できる専門業者という部分では一緒です。一方、契約する相手を見ると、M&A仲介会社とFAでは違いがあります。


仲介会社は、買い手(譲受)企業と売り手(譲渡)企業の両方と仲介契約を交わします。一方、FAは基本的に売り手(譲渡)企業か買い手(譲受)企業のどちらか一方の専属アドバイザーになって、FA契約を交わします。


M&A仲介型のアドバイザーの役割 


M&A戦略の立案・交渉に関するアドバイス

M&A仲介型のアドバイザーは、M&Aにおける目的を明確化し、最適な戦略を立案し、交渉を行います。ターゲット企業の選定においては、目的に合致したターゲット企業を自社のネットワークを利用しリストアップを行い、評価してくれるでしょう。


また、売却・買収交渉における戦略を立案し、交渉を有利に進めるためのサポートを行って、M&Aの成功に向けアドバイスを行います。


売り手・買い手との交渉支援

M&A仲介型のアドバイザーは、条件の交渉として、売却価格、支払い条件、従業員の処遇などさまざまな条件について、買い手企業と交渉し、支援してくれます。


M&Aの契約書に関するアドバイス

M&Aにおいては、さまざまなプロセスにおいて契約書を作成することが多くなっていますので、譲渡契約書などの作成や契約書の内容をレビューしてくれます。


M&Aの取引価格に関するアドバイス

M&Aの取引価格について、各種評価手法を用いて、企業の適正な価値を算定します。


M&A手法に関するアドバイス

M&Aには、さまざまなスキーム(手法)があり、売り手や買い手にとって最適で有利なスキームを選択するためのアドバイスを行います。


デューデリジェンス(買収監査)の調整・支援

M&Aにおいて、デューデリジェンス(買収監査)を実施するために、公認会計士や弁護士などの専門家の調整を行い、合わせて適切なサポートも行います。


資金調達に関するアドバイス

M&Aにおいて、クロージングの際には、買い手から売り手に対し、譲渡代金の決済が行われ、そのための資金調達に関するアドバイスを行います。また、必要に応じ、金融機関と連携し、適切な資金調達ができるよう支援します。


M&Aの相談まとめ

M&Aを行う際は、信頼できる相談相手を選び、計画段階から自社の想いや目的を明確に定め進めていく必要があります。アドバイザーからの助言によって、自社におけるM&Aのメリット・デメリットや、自社に合ったスキーム及びM&A後の統合作業の計画について、しっかりとイメージできたという会社も少なくありません。M&Aにおいて、信頼できる相手への相談は、非常に重要なものであり、よいファイナンシャル・アドバイザーを選定できれば、M&Aは成功に大きく近づくと言えるでしょう。

この記事の監修者

末永 寛

税理士

末永 寛

一般企業における経理事務を約25年経験した後、大手税理士法人勤務を経て税理士事務所開業。フリーランス・中小企業専門の税理士として、税務業務のみならず、将来の企業運営も含めた経営サポート業務を提供。また、近年の電子帳簿保存法やインボイス制度への対応も含めたITツールの導入にも積極的に導入サポートを行っている。

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