CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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法務 / デューデリジェンス
- 公開日2025.04.22
- 更新日2025.04.23
労務DDとは?費用相場やチェックリスト、労務リスクを防ぐための注意点を解説
M&AやIPOを進めるうえで、労務リスクが気になっていませんか?企業の買収後に未払い賃金や労働契約の不備が発覚すると、経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。上場審査でも労務管理の適正さが問われるため、事前の確認が不可欠です。
本記事では、労務デューデリジェンス(労務DD)の基本から、チェックすべきポイント、調査の流れ、費用相場、リスクを未然に防ぐ方法まで詳しく解説します。
目次
労務DDとは?
労務デューデリジェンス(労務DD)とは、M&AやIPOなどの場面で行われるデューデリジェンス(企業調査)の一種であり、主に企業の労務管理に関する実態や法令遵守状況を調査・分析するプロセスです。
デューデリジェンスには、財務DD・法務DD・事業DDなど複数の種類があり、それぞれの専門領域におけるリスクや課題を把握することを目的としています。
その中でも労務DDは、未払い賃金、労働契約の不備、社会保険未加入、ハラスメント問題など、労働環境に関するリスクを明らかにする役割を担います。
特にM&AやIPOの局面では、これらのリスクが後に財務負担や上場審査の障害となるケースがあるため、事前に確認することが重要です。
労務DDを適切に実施することで、買収後や上場後の労務トラブルを未然に防ぎ、適正な労務管理が行われていることを対外的に証明することが可能になります。
M&AやIPOにおける労務DDの重要性
M&AやIPOを成功させるためには、労務DDが欠かせません。企業の買収や統合が円滑に進むかどうかは、従業員の雇用環境や労務リスクに大きく左右されるからです。
例えば、買収後に未払い残業代や違法な労働契約が発覚すると、買収企業が多額の補償責任を負うことになり、経営に悪影響を及ぼします。
IPOを目指す企業も、労務管理の適正さが審査の対象となります。過去に労務トラブルがあったり、労働法に違反する契約が存在したりすると、上場審査を通過できない可能性があります。
そのため、事前に労務DDを実施し、問題点を洗い出したうえで適切な是正措置を講じることが求められます。労務管理の透明性を確保し、法令遵守を徹底することで、M&AやIPOの成功率を高めることができます。
労務DDの主なチェック項目
労務デューデリジェンス(労務DD)では、企業の労務管理体制に関する実態を詳細に調査し、法令遵守の状況や潜在的なリスクの有無を確認します。
特にM&AやIPOの場面では、労務面の不備が買収後のトラブルや上場審査の障害となるため、事前のチェックが不可欠です。
労務DDで確認すべき主なチェック項目は以下のとおりです。
- 雇用契約の適法性:雇用契約書の有無、内容が労働基準法などに適合しているか
- 就業規則・労使協定の整備状況:最新の法改正に対応しているか、労働者に周知されているか
- 労働時間・休日・休暇の管理:適正な勤怠管理が行われているか、サービス残業が発生していないか
- 賃金の支払い状況:最低賃金の遵守、残業代・割増賃金の未払いがないか
- 社会保険・労働保険の加入状況:対象となる従業員が適正に加入しているか、不加入者がいないか
- 安全衛生体制の整備:産業医や衛生管理者の選任状況、定期健康診断の実施状況
- ハラスメント対策:防止規程の整備、相談窓口の設置、研修の実施状況
- 過去の労務トラブルの有無:訴訟や労基署の是正勧告歴、社内トラブルの履歴とその対応
- 退職金や未払い賃金などの潜在負債:制度設計の有無、支給実績、債務の未処理状況
これらの項目を詳細に確認することで、労務上の隠れたリスクを洗い出し、M&AやIPO後のトラブルを未然に防ぐことができます。
調査結果をもとに早期に是正対応を行うことで、スムーズな経営統合や上場準備を進めることが可能になります。
労務DDの流れ
労務DDはいくつかのステップで行われます。ここでは、労務DDがどのような流れで進むのかを解説します。
労務DDの目的を明確にし調査計画を策定
M&Aでは、買収対象企業の労務リスクを把握し、統合後のトラブルを防ぐことが目的となります。一方、IPOでは、上場審査の基準を満たしているかを確認し、労務コンプライアンスの強化を図ることが求められます。
必要な労務関連資料を収集し現状を把握
具体的には、雇用契約書、就業規則、賃金台帳、社会保険の加入状況などを確認します。これらの資料を精査することで、法令違反の有無や、過去の是正勧告・行政指導の履歴を把握できます。
就業規則・労使契約・雇用条件の適法性を確認
適法性が確保されていない場合、買収後や上場後に法的責任を問われる可能性があります。例えば、違法な契約形態や未承認の労使協定がある場合、労働基準監督署から是正指導を受けるリスクが高まります。そのため、契約内容を詳細に確認し、必要があれば修正・更新を行うことが必要です。
残業代未払いや社会保険の未加入リスクを精査
未払い残業代や社会保険未加入の問題は、企業にとって重大なリスクとなります。特に、時間外労働に対する未払い賃金が発覚した場合、多額の支払いが発生する可能性があります。社会保険未加入の場合も、過去に遡って支払う必要が生じ、財務面での影響が大きくなります。
過去の労務トラブルや訴訟リスクを洗い出す
労働組合との紛争や労働基準監督署からの指導歴、未払い賃金に関する訴訟などがあれば、M&AやIPOの際に大きな問題となる可能性があります。これらの履歴を調査し、発生原因や対応策を検討することで、同様のリスクを未然に防ぐことができます。
労務コストや退職金・未払い賃金の負債を評価
退職金制度の見直しが不十分な企業では、買収後に予想以上のコストが発生することがあります。また、未払い賃金が蓄積している場合、支払い義務が生じるため、財務面での影響が大きくなります。
調査結果をもとにリスク対応策と統合計画を検討する
発見された問題点に対しては、早急に是正措置を講じ、M&A後の統合作業やIPOに向けた準備を進める必要があります。例えば、就業規則の見直しや労働条件の適正化を行い、コンプライアンスの強化を図ることが求められます。
労務DDの費用相場
労務デューデリジェンス(労務DD)の費用は、調査の範囲や企業規模、依頼する専門家の種類によって異なります。一般的に、労務DDは法務DDとあわせて実施されることが多く、セットで依頼するケースが主流です。
費用の目安としては、簡易的な労務DD(対象範囲を絞ったもの)であっても80万円〜120万円程度が相場とされています。一方、中堅規模以上の企業に対して、法務DDと労務DDを包括的に実施する場合は、200万円〜400万円前後となることが一般的です。対象となる従業員数や拠点数、調査対象の年度数が増えると、追加費用が発生するケースもあります。
また、ハラスメント対応の有無や、未払い残業代・労働訴訟の可能性など、調査の深度が高い案件では、さらに費用が増加する傾向があります。費用を適正に管理するには、事前に調査範囲と優先順位を明確にし、必要な情報に絞って依頼することが重要です。
企業の実態や目的に応じた調査設計を行うことで、無駄なコストを抑えつつ、労務リスクを効果的に把握することができます。
労務DDの期間の目安
労務DDにかかる期間は、企業の規模や調査範囲によって異なります。小規模な企業の調査であれば、数週間で完了することが一般的ですが、大企業や労務リスクが多い企業では、数ヶ月を要することもあります。また、M&AやIPOのスケジュールに応じて、短期間で集中的に行う場合と、時間をかけて詳細に調査する場合があります。
労務リスクを未然に防ぐための注意点
労務DDを実施する目的の一つは、将来的な労務リスクを未然に防ぐことです。ここでは、労務リスクを回避するための重要なポイントとして、労務DDの範囲の明確化、過去の労務トラブルの分析、調査結果に基づいた早期対応の3つの観点から解説します。
労務DDの範囲を明確にし隠れたリスクを見落とさないようにする
労務DDでは、調査の範囲を明確にし、隠れたリスクを見落とさないことが重要です。対象範囲を曖昧にしたまま進めると、企業の本質的な労務リスクが浮き彫りにならず、M&AやIPO後に問題が顕在化する恐れがあります。そのため、雇用契約、賃金管理、社会保険の適用状況、ハラスメント対応、労働時間管理など、リスクの高い項目を明確に定めたうえで調査を進める必要があります。
事前に調査の優先順位を決め、必要な情報を徹底的に精査することで、労務トラブルの発生を防ぎ、企業の健全な労務管理体制を確立できます。
労務DDの結果をもとに問題があれば早期に対策を講じる
労務DDの調査結果をもとに、問題が見つかった場合は迅速に対策を講じることが求められます。労務管理に関する不備を放置すると、買収後やIPO後に重大なトラブルが発生し、企業の信用が損なわれる可能性があります。
例えば、未払い賃金が判明した場合は速やかに精算し、労働時間管理が適正でない場合はシステムの見直しや就業規則の改訂を行うことが重要です。
早期対応によってリスクを最小限に抑えることができ、M&AやIPOの成功確率を高めることにつながります。労務DDの目的はリスクの洗い出しだけでなく、発見された問題に適切に対応し、企業の労務環境を改善することにあるため、調査後の迅速な対応が不可欠です。
まとめ|労務DDを適切に進め、リスクを未然に防ぎましょう
労務DDは、M&AやIPOを成功させるために欠かせないプロセスです。適切に実施することで、未払い賃金や労務トラブルなどのリスクを事前に把握し、買収後や上場後の問題を未然に防ぐことができます。
本記事では、労務DDの基本概念、チェック項目、調査の流れ、費用相場、期間の目安、リスク回避の方法について解説しました。
労務DDを適切に進めることで、企業の労務管理体制を強化し、健全な経営基盤を築くことが可能になります。今後のM&AやIPOに向けて、十分な準備を行い、労務リスクを最小限に抑えましょう。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。