CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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法務 / デューデリジェンス
- 公開日2025.05.01
- 更新日2025.05.01
ビジネスDD(デューデリジェンス)とは?目的や種類、チェック項目、実施の流れを解説
ビジネスDD(デューデリジェンス)は、企業のM&Aプロセスにおいて、対象となる企業や事業の将来性、潜在的リスクを正確に評価するための重要な調査です。
買い手が買収の意思決定を行う際には、財務面や法務面だけでなく、対象企業のビジネスモデルや収益構造、経営基盤を多角的にチェックする必要があります。こうした調査から得られる情報は、M&A後の統合戦略やリスクコントロールなど、経営を円滑に行うための基礎として機能します。
ビジネスDDは、自社で実施する場合もありますが、一般的には専門的知見を持つM&A仲介会社やコンサルティング会社に依頼します。特に上場企業のグループ会社など信頼性の高いM&A仲介会社を選定することで、専門的かつ客観的な視点でのビジネス分析が可能になります。
本記事では、ビジネスDDの目的や種類、チェック項目、さらに具体的な実施の流れ、代表的な分析手法まで幅広く解説します。
目次
ビジネスDD(デューデリジェンス)とは?
ビジネスDDとは、対象企業の競争力や市場ポジション、将来的な成長可能性を多角的に評価する手続きです。ビジネスDDは、財務DD、法務DD、税務DDといった他のDDと併せて実施されることが一般的です。特に中小企業のM&Aでは、財務DDや法務DDが中心となる場合が多いものの、ビジネスDDを適切に実施することで、将来の事業計画の実現可能性やシナジー効果をより正確に評価できます。
ビジネスDDにおいては、市場環境や競合状況、潜在顧客層などの外部要因から、組織力や経営資源、ビジネスモデルといった内部要因まで幅広く分析を行います。財務データや法務リスクだけでは把握しきれない事業の吸収力やシナジーが見えてくるため、M&Aを成功に導くためには欠かせないプロセスと言えます。
調査の結果を踏まえて、買収金額や事業計画を適切に修正・策定することで、将来的なリスクを低減し、買収後の経営をスムーズに進めることが可能になります。
ビジネスDDを実施する目的
ビジネスDDを行うことで、M&A後の経営リスクやシナジー効果を具体的に想定し、買収の成否を左右する判断材料を得られます。ここでは、M&Aの際にビジネスDDを実施する目的について解説します。
事業状況を把握する
対象企業が展開するビジネスモデルや製品・サービスの特性を理解することで、現在の収益構造や顧客のニーズを把握しやすくなります。事業全体の動きが見えると、売上高の推移や収益源の分布、顧客とのリレーションシップなど、具体的な数値がより正確に評価できます。さらに、市場シェアや主要顧客の動向を把握することで、将来的な成長ポテンシャルや競合他社との優位性を明確化できます。
企業リスクの顕在化させる
企業が抱える潜在リスクを早期に見極めることは、M&Aの成功可能性を高めるために欠かせない視点です。買収後に表面化するおそれのあるリスクを事前に洗い出すことで、リスク対応に必要なコストや人材を見積もることができ、トラブルを未然に防ぐための戦略を立てやすくなります。
将来収益の見込みを調査する
企業を買収する際には、中長期的な収益性や投資対効果を見極める必要があります。市場規模の拡大や技術革新、規制緩和といった好材料があるかをチェックし、将来的な収益シナリオを描くことが重要です。
さらに、組織能力や経営リソースを活かせば、製品ラインナップの拡充や海外展開など新たなポテンシャルを見込める場合もあります。こうした要素を多角的に検証することで、投資の判断精度を高めていきます。
ビジネスDD実施の流れ・進め方
スムーズにビジネスDDを行うためには、計画的な進め方が求められます。ここでは主なプロセスをステップごとに紹介します。
事前準備
はじめに、調査の目的や範囲を定義し、プロジェクトチームの体制を整える必要があります。財務、人事、ITなど多部門が関わるため、役割分担を明確にし、円滑なコミュニケーション体制を構築することが肝心です。事前準備の段階から専門家を活用すると、後の調査の精度が向上し、後のステップで必要な手戻りを減らすことができます。
資料の収集とヒアリング
対象企業から提出される財務諸表や契約書、ビジネスプランなどを収集し、経営トップや各部門責任者へのインタビューを実施します。紙やデジタルでの情報を整理し、重要なポイントを洗い出すことで、調査効率を高めることが可能です。また、部門横断的なヒアリングを行うと、経営陣が把握しきれていない現場視点の課題や強みなどを発見できる場合があります。
調査資料の分析と評価
収集した資料をもとに、ビジネスモデルの持続可能性や競争力、収益構造などを定量・定性の両面から評価します。例えば、主力製品や事業領域における競合優位性、コスト構造、潜在的な課題などを洗い出し、将来的な経営シナリオに組み込みます。業界特性や技術動向といった外部環境も併せて分析すると、より現実的なリスクとチャンスが見えてきます。
最終判断と契約
M&Aの契約では、表明保証条項や補償条項が重要な要素となりますが、ビジネスDDで発見されたリスク要因をこれらの条項に反映させることで、買い手側のリスクを軽減することができます。特に、重要顧客の動向や競合環境の変化など、財務的な数値に現れない要素については、契約条件に反映させることが重要です。
ビジネスDDの種類と項目
ビジネスDDにはさまざまな角度からの分析が含まれます。ここでは主な種類と確認すべき項目を解説します。
コマーシャルデューデリジェンス
主に市場規模、シェア、成長性などの外部環境を分析し、企業の売上拡大の余地や差別化要因を評価する手法です。顧客ニーズや競合他社の動向を捉えることで、対象企業が持つビジネスチャンスの潜在性や収益性を定量的に把握できます。特に新市場への参入や海外展開を検討している場合には、不可欠な視点となります。
オペレーショナルデューデリジェンス
現場レベルの業務フローや人員配置、コスト構造を詳しく調べ、組織体制や生産性に関わるボトルネックがないかを確認します。製造部門やサプライチェーン、販売チャネルなどを包括的に見渡すことで、効率化の余地や隠れたコストパフォーマンスの改善点を洗い出すことができます。これにより、買収後の現場改善や統合施策に関する具体的な指針が得られます。
ITデューデリジェンス
企業の基幹システムやセキュリティ対策、データガバナンスなど、IT面に関する強みや課題を分析します。デジタル化が進む現代において、システム統合が円滑に進まなければ事業全体のパフォーマンスに影響を及ぼすため、事前の確認が不可欠です。クラウド活用やAIなどの先端技術をどの程度導入しているかによって、将来的な事業戦略の幅も変わってきます。
サステナビリティデューデリジェンス
環境負荷や社会的責任、ガバナンスなどのESG要素をチェックし、持続可能性の観点から企業価値を評価します。近年は投資家や取引先、消費者の目が厳しくなっているため、サステナビリティに配慮した経営体制の有無が評判や収益性に影響するケースが増えています。長期的な成長を目指すうえで、この切り口は欠かせないものとなっています。
ガバナンスデューデリジェンス
内部統制やコンプライアンス体制、リーダーシップ構造などを見極める手法です。買収先のガバナンスが脆弱であれば、M&A後に公益通報(内部通報)や不正会計といった大きなリスクが顕在化する可能性があります。適切な経営判断が下せる仕組みがあるかを確認し、健全な組織運営を行えるかどうかをチェックすることが重要です。
これらの各種DDは、案件の規模や業種、目的によって重点が異なります。例えば、製造業では生産設備や技術に関するオペレーショナルDDが重視される一方、サービス業では顧客基盤や人材に関するデューデリジェンスが中心となります。M&A仲介会社や専門家のアドバイスを受けながら、自社の状況に合った調査項目を設定することが成功への鍵となります。
ビジネスDDで用いられる主な分析手法
ビジネスDDの実施にあたっては、さまざまなフレームワークや手法を用いて分析を行います。主な手法を確認しておきましょう。
5フォース分析
業界の競合状況を5つの力(新規参入の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、既存競合)で分析する手法です。対象企業が置かれている競争環境を定量化することで、参入リスクや収益性を把握できます。
買い手または売り手がどの程度の交渉力を持つか見極めることによって、M&A後に想定される価格競争や市場変化への耐性を評価しやすくなります。
PEST分析
政治(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)の4要素で外部環境を整理し、企業を取り巻くマクロ環境のリスクや機会を探ります。市場参入に影響を与える法規制や、経済成長率、社会生活の変化などを多数のデータをもとに分析します。
テクノロジーの普及やインフラ整備状況によって将来的な事業展開が左右されるため、M&A戦略を立てるうえでも重要な観点です。
VRIO分析
価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Imitability)、組織(Organization)の観点から、企業が持つ経営資源に競争優位性があるかを評価する手法です。
独自技術やブランド力、熟練した人材などが他社と比較してどれほど模倣困難かを検証することで、事業の持続的成長や収益力を予測しやすくなります。企業文化やリーダーシップなど、目に見えにくい要素も重要な評価対象となります。
バリューチェーン分析
企業の主活動と支援活動に分解し、どのプロセスで付加価値が生み出されているかを把握します。購買戦略や製造工程、マーケティング活動などを詳細に検証することで、コスト削減や差別化の余地を見つけるのが狙いです。
M&A後の統合においては、双方のバリューチェーンをどう連携させるか、シナジーを生み出す可能性があるかを見極めるために有効なフレームワークとなります。
これらの分析手法は理論的なフレームワークとして有用ですが、実際のM&A実務では、データの入手可能性や時間的制約から、簡易的な分析に留まることも少なくありません。特に中小企業のM&Aでは、基本的なSWOT分析と主要顧客・取引先への依存度の分析を中心に行い、買収後のリスク要因を特定することが重要です。
SWOT分析
企業内部の強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)と、外部環境の機会(Opportunities)・脅威(Threats)を整理し、戦略を構築するためのベースを作ります。各要素を組み合わせることで、具体的な戦略を考え出すことができ、意思決定の幅が広がります。
M&Aの場合、対象企業の要素だけでなく、自社との相乗効果を見込める組み合わせも視野に入れると、より実務的な戦略策定が可能となるでしょう。
まとめ|ビジネスDDを成功に導くために、事前準備をしっかり行いましょう
ビジネスDDを成功に導くためには、事前の目的設定と情報収集のプランニングが重要です。士業などの専門家やM&Aのコンサルタントを活用する場合でも、自社で調査範囲や重点項目を把握しておくと、より確度の高い分析結果が得られます。
情報の入手先やデータ精度の確保、関係者とのコミュニケーションなど、地道な準備を怠らないことがM&AにおけるビジネスDDを円滑に進めるコツです。買収後の統合作業やリスクマネジメントまで考慮に入れたうえで調査を行い、結果を戦略に反映できれば、ビジネスDDは大きな成果につながることでしょう。
ただし、ビジネスDDは、対象企業から提供される情報や市場調査に基づく分析が中心となるため、将来の不確実性や業界の激変などのリスクを完全に予測することは困難です。そのため、ビジネスDDの結果をやみくもに過信せず、買収後の統合計画(PMI)やリスク管理体制の構築を丁寧に進めることが重要となります。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。