CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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M&A / スキーム
- 公開日2024.10.01
- 更新日2024.10.31
株式譲渡のメリットとデメリットを詳しく解説!注意点や税務面も紹介
自社の事業を売却する手段として、株式譲渡は注目を集めています。ただ、はじめて株式譲渡をする企業にとっては、疑問や不安に思うことも多いはずです。
本記事では株式譲渡とは何か、そして、メリットとデメリットを解説します。併せて株式譲渡の注意点や税務面についても紹介します。
目次
株式譲渡とは?定義と基本概念
M&A※の手法の1つである株式譲渡を取り入れる企業は増えておりますが、事業をはじめて売却・取得する企業にとっては不明な点も多いはずです。
ここでは株式譲渡とは何か、定義と基本的な知識について説明します。
※M&Aとは、Merger and Acquisitionの略称で、企業の合併や買収のことを指します。
株式譲渡とは?
株式譲渡とは、会社の株式を現在の株主から新たな株主に移転することを指します。株式の移動を行うことで企業の所有権が変わり、様々な変化をもたらします。
株式とは、株式会社の資本(会社財産)を均等に細分化し、その持分権を表章した有価証券です。そのため、株式の譲渡により企業の所有者が変わることになります。
―― 売り手A社、買い手B社の例
A社の株主が自身の所有する株式をB社に譲渡した場合、その譲渡された株式分の企業所有権はA社からB社に移ります。これにより、B社がA社の一定の割合の所有権を持つことになります。
譲渡された株式に比例して、議決権や利益分配の権利も移行するため、新たな所有者が企業の意思決定に影響を与えることができるようになります。事業の将来的な運営や戦略にも大きな影響を及ぼす重要な行為と言えるでしょう。
株式譲渡と事業譲渡の違い
株式譲渡とよく比較されるM&Aの手法が「事業譲渡」です。
事業譲渡とは企業が保有する特定の事業や資産を他社に移転する行為を指します。企業全体の所有権の移転ではなく、一部の事業や資産のみを切り離して売却することができます。
―― 売り手A社、買い手B社の例
A社が持つ製造部門がB社によって売却されました。この場合、A社から事業の一部である製造部門を切り離した形になります。A社は製造部門を失いますが、他の事業は引き続き運営が可能です。
株式譲渡のメリット【売り手側】
株式譲渡は、売り手(譲渡)側に多くのメリットがあります。ここでは、売り手側の株式譲渡のメリットをいくつかご紹介します。
譲渡対価を受け取れる
株式譲渡では、売り手が所有している株式を買い手に売却してもらうことで、一定の対価を得られます。その対価を資金繰りの改善や他の投資への再配分に繋げることもできるでしょう。
許認可の引き継ぎができる
株式譲渡によって、事業の運営に必要な許認可※をスムーズに引き継ぐことができます。許認可が会社の名義に基づいているため、会社の株式を譲渡することでそのまま許認可を保持することが可能です。
許認可により、以下のことが期待できます。
- 特定の許認可が必要な事業において、新たに許認可を取得する手間を省くことができる
- 新事業者がスムーズに事業を引き継ぎ、直ちに運営を開始できる
新たな許認可の取得には多くの書類準備や申請が必要ですが、株式譲渡ならこれらの手間を一切省き、スムーズな運営が見込めます。
※許認可とは、特定の事業を行うために必要な手続きのことです。
株式譲渡のメリット【買い手側】
株式譲渡は、買い手(譲受)側に多くのメリットがあります。ここでは、買い手側の株式譲渡のメリットをいくつかご紹介します。
経営権を取得できる
株式譲渡により、買い手は経営権を取得することができます。
株式を取得することで、その会社の株主となり、経営に関する決定権や影響力を持つことができます。
従業員や経営の引き継ぎができる
株式譲渡によって、既存の従業員と経営をスムーズに引き継ぐことができます。
株式譲渡では、会社の経営権が変わるだけで、事業運営自体は継続されるため、従業員の雇用や経営体制もそのまま維持されます。
従業員や経営体制を保つことで、引き継ぎによる事業の混乱を最小限に抑えることができます。従業員基盤がしっかりしているため、譲渡後も安定した経営が臨めるでしょう。
比較的手続きが簡単である
株式譲渡は他の売却手段と比べて手続きが簡単です。株式譲渡では会社の資産や負債をそのまま引き継ぐため、複雑な資産移動の手続きが不要となります。
事業譲渡と比較して、手続きが簡素化されるため、名義変更などの煩雑な作業が軽減されます。これにより、書類作成や提出の手間が比較的少なくなります。他のM&A手法と比べて、効率的に会社の所有権を移転することが可能です。
株式譲渡のデメリット 【売り手側】
株式譲渡にはメリットもありますが、いくつかのデメリットが存在します。ここでは、売り手側の株式譲渡のデメリットをいくつかご紹介します。
全株式の譲渡が難しい場合がある
株式譲渡には全ての株主の同意が必要です。
すべての株主が同意しない限り、株式譲渡の手続きは進められません。中には譲渡を拒否する株主がいることがあり、すべての株式の譲渡が難しいケースもあります。
株主間の意見を一致させるための調整や交渉が必要であり、そのために多くの労力を費やす必要があることを理解しておきましょう。
不採算事業があると譲渡価格が下がる
会社を譲渡する際に不採算事業が存在すると、譲渡価格に影響を与えます。
買い手企業は、会社全体を評価する際にすべての事業の収益性や財務状況を確認します。赤字を出している事業が長期間続いている場合、譲渡後のリスクを考慮し、譲渡価格の引き下げを検討するでしょう。
希望価格で譲渡するためには、事前に不採算事業を整理または改善することが必要です。
株式譲渡のデメリット【買い手側】
売り手側同様、買い手側にもいくつかのデメリットが存在します。ここでは、買い手側の株式譲渡のデメリットを紹介します。
譲渡側の負債も引き継ぐ
株式譲渡を行う際、買い手は譲渡側の負債もすべて引き継ぐことになります。
株式譲渡は企業全体の権利や義務を一括して引き受けることになるため、負債も含まれてしまいます。その結果、予期しない財務リスクを抱える場合もあります。
このようなリスクを避けるためには、譲渡前に売り手側の財務状況を十分に調査することが大切です。調査することで、買い手は予期しない財務リスクを避け、より賢明な判断を下すことができるでしょう。
多額の資金が必要になる場合がある
株式譲渡では、多額の資金が必要になる場合があります。
特に有望な企業や市場シェアの高い企業を譲り受ける際、その評価額に見合った資本が求められます。高評価の企業ほどその買収費用は高額となり、億単位の費用が発生することも少なくありません。
買収に必要な資金の準備が不十分な場合、交渉が進行しないだけでなく、買収後の運営資金にも影響を及ぼす可能性があります。
これらのリスクを予想し、買収資金の準備を十分に行い、資金調達の計画をしっかり立てることが重要です。
株式譲渡時の注意点
ここでは、株式譲渡時に特に注意するべきポイントについて解説します。
- 株式に譲渡制限がついているかどうか確認する
- 簿外債務を引き継ぐリスクがあるかどうかを確認する
- 株券発行の有無を確認する
上記の注意点を理解し、スムーズな株式譲渡を実現しましょう。
株式に譲渡制限がついているかどうか確認する
株式に譲渡制限がついているかどうか確認しましょう。譲渡制限がある場合、自由に株式を売買することができないため、手続きが複雑になる可能性があります。
例えば、会社の定款に「株主総会の承認を得なければならない」という内容の譲渡制限がある場合、事前に株主総会の承認を取得しなければ譲渡は無効となります。このようなケースでは、会社の規定を遵守する必要があり、承認手続きを怠ると法的な問題が発生するおそれがあります。譲渡制限の内容を事前に確認することで、スムーズな譲渡手続きが実現できるでしょう。
簿外債務を引き継ぐリスクがあるかどうかを確認する
株式譲渡に際して、簿外債務のリスクを確認することは重要です。
簿外債務は、貸借対照表に計上されていない債務のことを指します。簿外債務が存在する場合、買い手が意図しない負債を引き継ぐことになり、経営に大きな影響を与える可能性があります。簿外債務には帳簿に記載されていない未払金や債務保証などが当てはまります。もし、これらが買収後に発覚することがあれば、買い手側の経営戦略のリスクになることは言うまでもありません。
株式譲渡を行う際には、簿外債務の有無をしっかりと確認し、そのリスクを最小限に抑えることが大切です。
株券発行の有無を確認する
2006年の会社法施行により、株式会社は原則として株券を発行しないことが定められました。もし、株券を発行する場合は、その旨を定款に明記する必要があります。
現在、株券発行している会社と発行していない会社の2つに分別することができ、株券発行の有無で、方法や譲渡の要件が変化することを理解しておきましょう。
── 株券を発行している場合
株券発行会社の株式の譲渡は、株券を交付しなければ効力を生じません。よって、売り手と買い手の合意だけでは株式の権利は移転できません。
売り手が買い手に株券を交付して初めて、株式の権利が移転されます。
そのため、売り手の株主が買い手に株式を譲渡するためには、株式譲渡契約と合わせて、株券の交付手続きを行いましょう。
── 株券不発行の場合
株券不発行の会社の株式譲渡は、売り手と買い手が合意の上で株式譲渡契約を締結することによって成立します。買い手はのちに、株主名簿の名義書換を行うことが求められます。
株券発行の確認時に「株主の所在」「名義株の有無」も確認しておこう
株券発行の有無を確認する際、株主の所在と名義株についても確認しておきましょう。ここをしっかり整理することで、正しい価額を導き出したり、トラブルを防止したりすることができます。
株式発行の有無も含め、この点については専門家に確認することを推奨します。
株式譲渡の手続き
ここでは、具体的な株式譲渡の手続きの、各ステップについて解説します。流れを理解し、スムーズな譲渡になるように計画をしていきましょう。
株式の譲渡制限を確認
先ほどの注意点でも申し上げましたが、まずは株式の譲渡制限があるかどうかを確認しましょう。
株式が譲渡制限の対象となっている場合、自由に株式を売買することができないため、手続きが複雑になります。
事前に必要な承認を確認することで、不要なトラブルや手続きの遅延を防ぎ、株式の譲渡を円滑に進められます。
株式譲渡承認請求
株式の譲渡に際して、株主総会または取締役会における承認請求は極めて重要です。
会社法では、「会社が発行する株式は、基本的に自由に譲渡できる」との記載がありますが、非公開会社※が発行する株式に関しては譲渡制限を設けることが認められています。
譲渡制限がある場合、株主総会や取締役会で譲渡の有無について承認を得る必要があります。この時に必要な書類が「株式譲渡承認請求書」です。この書類を会社に提出し、譲渡の承認を得て、はじめて第三者に譲渡することができます。
株式譲渡承認請求の流れは以下の通りです。
- 株主による譲渡承認請の実施
- 取締役会または株主総会で株式譲渡の承認の決議
- 株式譲渡の承認または不承認の通知
- 会社・指定買い取り人による株式の買い取り
上記の流れを理解し、株主総会や取締役会の日程調整や必要な書類の準備など、計画的に進めることが求められます。
※非公開会社…全ての株式について譲渡制限が設けられている株式会社
取締役会または株主総会の開催
株式譲渡を承認するために、取締役会または株主総会を開催しましょう。この場での議決により、会社全体の合意を得る必要があります。
取締役会(株主総会)で株式譲渡の議題を提案し、全員の同意を得ることによって、譲渡の手続きが正式に承認されます。
株主すべての同意も必要になります。スムーズな譲渡に向け、事前に同意を得ることも検討しましょう。
株式譲渡契約書の締結
株式譲渡を行う際に、株式譲渡契約書の締結することが必要です。売り手は承認通知を受けた後、買い手と株式譲渡契約を締結します。
売り手と買い手側の双方が必要事項を記載した「株式譲渡契約書」に記名・押印をすれば、契約手続きは完了です。
株主名義の書き換え
株式が譲渡された後に、株主名簿の名義を書き換える必要があります。
株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名(名称)および住所を株主名簿に記載または記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗できません
会社法130条1項 より
この手続きを怠ると、譲渡の効力が正式に認められず、会社法上の株主としても認定されません。株主名簿名義書換請求を提出し、正式に株主を変更しましょう。
株式譲渡に関する税務のポイント
株式譲渡を行う際には、税務面については事前に整理しておきましょう。税務対応は売り手と買い手でそれぞれ異なります。
ここでは、株式譲渡に関する税務のポイントと、売り手と買い手の税務対応について説明します。
譲渡所得と計算方法
売り手企業が買い手企業に株式を移転する場合、その譲渡価額に対して売り手企業には譲渡所得税がかかります。
株式の譲渡所得は、譲渡した価額から株式を取得する際に、費用などを差し引いた金額で導くことができます。
譲渡所得=総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)
譲渡と手法や譲渡元(法人なのか、個人なのか)でも内容が変わります。
自社の譲渡所得はいくらなのか、譲渡前に確認しておきましょう。
譲渡側(売り手)と譲受側(買い手)で税務が異なる
株式譲渡に係る税務処理は、売り手と買い手で大きく異なります。
── 売り手の税務
売り手(譲渡側)が株式を売却する際には、譲渡所得税が課税されます。これは、株式譲渡によって得られる利益は譲渡所得として計算されるためです。
譲渡の手法が株式譲渡の場合、以下の計算式で譲渡所得を導き出すことができます。
株式譲渡所得=譲渡収入-取得費※1-譲渡費用※2
株式譲渡の税負担=株式譲渡所得×20.315%
譲渡収入に取得費と譲渡費用を引いたものが株式譲渡所得です。この株式譲渡所得に「20.315%」をかけたものが、株式譲渡の税負担となります。売り手(譲渡側)は税負担があるので、この点は念頭に置いておきましょう。
※1 取得費:取得費か、譲渡収入5%いずれか大きい方を選択します。
※2 譲渡費用 : 仲介会社等へ支払う成功報酬など(譲渡に直接要した費用)が該当します
※令和7年の1月から課税強化にあたり、追加納税が発生します。株式譲渡所得が10億円を超えだすと、株式譲渡所得×20.315%の税額に加え、追加納税(所得税、復興税)が生じます
── 買い手の税務
買い手(譲受側)が株式を取得する際には、贈与税や譲渡所得税は基本的に課税されません。株式の取得そのものが資産の移転であり、即座に所得が発生するわけではありません。
取得した株式を売却するときに生じる利益は、譲渡所得として認識する必要があります。株式を購入した時は、将来の売却時に発生する税務に注意を払いましょう。
税務申告時の注意点
譲渡を行う際に、売り手(譲渡側)と買い手(譲受側)の立場の違いで、取引でかかる税金が異なります。
着目するべき点は以下の2つです。
- 取引先は個人なのか、法人なのか
- 適正な時価か
適正な時価の場合、売り手側は、株式の譲渡価額と帳簿価額との差額である譲渡益に対して、「個人の方は譲渡所得税」、「法人は法人税」が課されます。一方、買い手側は、株式取得時点の課税関係は生じません。
ただし、「個人から個人(の取引)」や「時価より高い価額である」など、取引先の違いや価額の違いで税金が異なることがあります。事前に税務面を確認し、専門家の相談を検討しましょう。
株式譲渡の成功事例
ここでは株式譲渡に成功した事例をご紹介します。実際の事例を参考にし、株式譲渡のイメージをしていきましょう。
2023年7月にオリックス株式会社が株式会社DHCを3800億円で買収
2023年7月28日、オリックス株式会社は化粧品と健康食品を扱う株式会社DHCを買収しました。このM&Aは株式譲渡の形で実施され、取引額は約3,800億円と報告されています。DHCは創業者の高齢化に伴う事業承継、オリックスは新たな事業分野への進出を目的にM&Aが成立。DHCのブランドと事業は継続され、オリックスのリソースを活用してさらなる事業拡大を目指す方針です。この事例は、非上場の大手企業が上場企業に完全に買収されるという珍しいケースで、長期存続企業の株式譲渡の一例として注目されました。
まとめ丨経営方針の見直し・税務の相談が重要
株式譲渡にはメリットだけでなく、デメリットもあるため、譲渡の手法を慎重に見極める必要があります。
経営方針を見直すことで、譲渡する目的がさらに明確になります。株式譲渡を行う際は、譲渡後の未来や経営を予測し、それに基づいて事前準備をしていきましょう。
また、税務面での影響も無視できない要素であるため、専門家への相談が必要になります。株式譲渡を検討している場合は、まず専門家に相談し、税務の最適化を図りましょう。早期の準備と適切なアドバイスが成功をもたらします。
弊社もM&A仲介会社として、M&Aや株式譲渡の相談を受け付けております。業界歴10年以上、実績多数のプロアドバイザーがお応えいたしますので、お気軽にご相談ください。
この記事の監修者
CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
CINC Capital取締役執行役員社長。リクルート関連会社や外資系製薬会社、大手・ベンチャー独立系M&A仲介会社で営業組織を牽引。 特にM&A実績の多い業界は調剤・IT・運送業。