CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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M&A / スキーム
- 公開日2025.04.11
- 更新日2025.04.14
TOB(株式公開買い付け)の事例14選!友好型・敵対型・失敗事例も紹介
TOB(株式公開買い付け)は、企業の経営権獲得や完全子会社化を目指す買収スキームです。
今回はTOBの概要や種類に加え、日本企業を中心とした14の代表的な事例をご紹介します。M&A戦略立案や株式市場の理解を深めたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
TOBとは
M&Aの手法の一つであるTOB(株式公開買付け)とは、企業の経営権を獲得するために市場外で株式を直接買い集めるスキームです。
日本では金融商品取引法によって規制されており、一定割合以上の株式を取得する場合には、TOBによる公開買付が法的に義務付けられています。具体的には、買収側が価格・期間・取得株数を公告し、株主から株式を取得します。
TOBを実施する際には、買付価格の設定が重要です。通常、市場価格に対して一定のプレミアム(上乗せ価格)が付けられますが、このプレミアム率は案件によって大きく異なります。また、TOBでは最低取得数(下限)と最大取得数(上限)を設定することができ、この設定によって戦略が変わってきます。
TOBにはさまざまな種類があります。もっとも一般的な区分は「友好型TOB」と「敵対型TOB」です。友好型TOBは、対象企業の経営陣が賛成している買収のことです。例えば、2024年に行われた「株式会社KDDI」による「株式会社ローソン」の完全子会社化がこれにあたります。
一方、敵対型TOBは経営陣の同意なく実施されるものです。2019年に「伊藤忠商事株式会社」がスポーツウェア大手の「株式会社デサント」を買収し、国内初となる大手企業間の敵対型TOBが成立したことで話題になりました。
友好型TOBの事例
ここからは、近年国内で行われた友好型TOBの事例をご紹介します。大手企業の買収事例を中心にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
XTECH×エキサイトの事例
2018年に「株式会社XTECH」が実施した「エキサイト株式会社」へのTOBでは、1株あたり875円(市場価格比約20%プレミアム)で95.15%の株式を取得しました。非上場化により経営判断の迅速化を図り、代表交代後1年で4期連続赤字からのV字回復を実現しています。また、クラウド基盤の統合と広告事業の再編が功を奏したのも大きいでしょう。
【出典】エキサイト株式会社「エキサイト、TOB成立から1年 4期連続赤字から一転 半期過去最高益を達成」
mipox×日本研紙の事例
2016年5月、「Mipox株式会社」は、和紙製造技術の継承と生産効率化を目的に「日本研紙株式会社」を買収しました。買収価格は1株97円で、東証JASDAQ上場廃止を実施しています。
【出典】Mipox株式会社「日本研紙株式会社の子会社化に関するお知らせ」
伊藤忠商事×ファミリーマートの事例
「伊藤忠商事株式会社」は2020年7月、「株式会社ファミリーマート」の完全子会社化を行いました。ただし、当該事例には特殊な背景があります。1株2,300円のTOB価格が後年「過小評価」と判断される事態が発生したのです。
東京地裁は2023年に適正価格を2,600円と認定し、特別委員会の機能不全が価格設定に影響したと指摘しました。この判決は上場廃止手続きにおける少数株主保護の重要性を改めて認識させる契機となりました。
【出典】伊藤忠商事株式会社「株式会社ファミリーマート株式(証券コード:8028)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
【出典】東洋経済「「安すぎた」ファミマTOB、伊藤忠との攻防の全内幕」
ヤフー×ZOZOの事例
2019年9月に実施された「Zホールディングス株式会社(旧ヤフー)」による「株式会社ZOZO」買収では、1株2,620円というプレミアム価格設定が特徴的でした。創業者である「前澤友作」氏が保有株式の30.37%を売却し、ECプラットフォーム強化を目的とした戦略的統合とされています。
TOB成立により「Zホールディングス株式会社」は「株式会社ZOZO」の発行済み株式50.1%を取得し、ファッションEC市場における競争力強化に成功しました。
【出典】日本経済新聞「ヤフー、TOBでZOZOを子会社化へ」
第一生命ホールディングス×アイペットホールディングスの事例
「第一生命ホールディングス株式会社」が2023年1月に公表した「アイペットホールディングス株式会社」買収では、1株3,550円の高プレミアム価格設定で実施されました。親会社「ドリームインキュベータ株式会社」が保有株式の約55%を売却することで円滑な子会社化が実現しました。
この事例は、ペット保険事業を通じた非生命保険領域への進出という戦略的目的が明確に示された事例として、金融業界における異業種統合のモデルケースとなっています。
【出典】第一生命ホールディングス株式会社「アイペットホールディングス株式会社株券等(証券コード:7339)に対する公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ」
敵対型TOBの事例
ここでは、敵対型TOBの有名な事例をいくつかご紹介します。
サンヨーホームズ×日本アジアグループの事例
2018年4月、住宅メーカーの「サンヨーホームズ株式会社(現・三井ホーム)」が総合商社の「日本アジアグループ株式会社」に対し、敵対型TOBを実施しました。価格交渉戦略が買収成立の鍵となり、市場で注目を集めた事例です。
【出典】四季報「サンヨーホームズがストップ高気配、日本アジアGがTOB」
ソレキア×佐々木ベジ氏の事例
2017年、「富士通株式会社」と実業家「佐々木ベジ」氏が電子部品商社の「ソレキア株式会社」を巡り、敵対型TOBを実施しました。結果、株式の約40%を取得した「佐々木ベジ」氏がTOBに成功します。
【出典】ベネディ・コンサルティング株式会社「佐々木ベジ氏によるソレキアに対する TOB が成立」
エスエス製薬×ベーリンガーインゲルハイムの事例
2010年にドイツ製薬大手が日本の「エスエス製薬株式会社」に対し、25.44%のプレミアム価格(発表当日の終値比)でTOBを実施しました。3カ月間の買付期間で93.83%の株式を取得し、外資系企業による日本企業買収の成功例となりました。この事例は後に、製薬業界のグローバル再編を加速させる契機となります。
【出典】薬事日報「【独ベーリンガー】エスエスのTOBが成立‐完全子会社へ」
コロワイド×大戸屋ホールディングスの事例
2020年、外食チェーン大手の「株式会社コロワイド」は定食チェーン「大戸屋」運営の「株式会社大戸屋ホールディングス」に対し敵対的TOBを実行しました。市場価格比で45%のプレミアムとなる1株3,081円で買い付け、実質的支配権を獲得した事例です。
【出典】日本経済新聞「コロワイド、大戸屋HD株式の公開買付けによる取得について決議」
伊藤忠商事×デサントの事例
2019年1月、「伊藤忠商事株式会社」は、完全子会社であるBSインベストメント株式会社を介してスポーツウェアメーカーの「株式会社デサント」に対し敵対的TOBを実施しました。1株2,800円(市場価格比約50%のプレミアム)という高値での買付が成功の要因となっています。この事例は、国内大手企業間での敵対的TOBとして注目を集め、日本企業の買収防衛戦略にも影響を与えました。
【出典】伊藤忠商事株式会社「株式会社デサント株式(証券コード:8114)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」
TOBが失敗に終わった事例
TOBの成功率は必ずしも高くなく、株価動向や株主の反応次第で計画が頓挫するケースが少なくありません。ここでは、TOBが失敗に終わった事例をご紹介します。
米国ヘッジファンドのスティール・パートナーズ×ブルドックソースの事例
2007年、米国系ファンドの「スティール・パートナーズ」が「ブルドックソース株式会社」に対して TOBを発動したものの、経営陣の激しい抵抗に遭いました。「ブルドックソース株式会社」が導入した「新株予約権の無償割当て」(買収防衛策)の正当性が最高裁で認められた結果、「スティール・パートナーズ」のTOBは失敗に終わります。
【出典】ITmediaビジネス「最高裁の決定で、結局トクをしたのは誰?」
コクヨ株式会社×ぺんてるの事例
2019年、文具業界の大手企業「コクヨ株式会社」は、筆記具メーカー「株式会社ぺんてる」の過半数の株式を取得して完全子会社化すると公表し、TOBを開始しました。
しかし、「株式会社ぺんてる」側は「一方的かつ強圧的な当社の子会社化方針に対し強く抗議します」と表明し、強く反発します。最終的に、「コクヨ株式会社」は保有する「株式会社ぺんてる」株を「プラス株式会社」へ全株売却する形で撤退を余儀なくされました。
【出典】ぺんてる株式会社「コクヨ株式会社による、「ぺんてる株式会社の株式の買付け方針に関するお知らせ」等に関する当社見解」
焼津水産化学工業×J-STARの事例
2023年8月に「J-STAR」関連の「YJホールディングス株式会社」が実施したTOBは、買付価格に対し、市場株価が常時上回る状況が発生し不成立となりました。旧村上ファンド系の「南青山不動産」やシンガポールの「3Dインベスト・パートナーズ」が一定の株式を取得したことが要因で、これにより買付予定数下限に到達できませんでした。
【出典】J-STAR 株式会社「焼津水産化学工業株式会社に対する公開買付けについて」
ペインキャピタル×廣済堂の事例
2019年に米系ファンド「ベインキャピタル」が試みた「廣済堂株式会社」のMBO(経営陣買収)は、TOB期間中に村上ファンド系企業が株式を大量取得したことで頓挫しました。「ベインキャピタル」は買付価格を途中で引き上げましたが、市場株価が高騰しTOBは不成立となったのです。
TOBを成功させるための実務的ポイント
TOBを検討する際には、以下の実務的なポイントに注意すると良いでしょう。
- 綿密な株主構成の分析と主要株主へのアプローチ戦略の立案
- 市場動向を踏まえた適切なプレミアム設定と買付価格の決定
- 買付期間中の市場株価の変動への対応策(価格引上げのタイミングなど)
- 買付下限・上限の戦略的設定
- TOB公告資料の作成と法的要件の遵守
- メディア対応を含めた対外的なコミュニケーション戦略
特に友好的TOBを目指す場合は、事前の交渉と合意形成が不可欠です。一方、敵対的TOBを検討する場合は、対象企業の買収防衛策の把握と対応策の検討が重要となります。いずれの場合も、M&A専門家のサポートを得ることで、成功確率を高められます。
【出典】株式会社廣済堂「株式会社 BCJ-34 による株式会社廣済堂株式(証券コード:7868)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
【出典】東洋経済「TOB不成立の廣済堂、株主総会の「同床異夢」」
まとめ|TOBの戦略を立てるために、過去の事例や専門家からアドバイスを得よう
TOBの成功と失敗を分ける要因は多岐にわたります。友好的TOBでは事前合意と適切なプレミアム設定が重要です。一方、敵対的TOBは株主の支持獲得が鍵となります。過去事例の徹底分析と専門家の知見を活用し、TOBのメリット・デメリットを踏まえた上で検討しましょう。
M&Aはさまざまな買収手法がありますが、上場企業の買収においてはTOBが重要な選択肢となります。TOBを成功させるためには、法的要件の把握、株主構成の分析、適切なプレミアム設定など専門的な知識と経験が不可欠です。
弊社CINC Capitalでは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、業界最低水準の手数料体系で高品質なM&Aアドバイザリーサービスを提供しています。
業界経験10年以上または特定業界に精通した専門アドバイザーのみがお客様のM&Aをサポートし、マーケティングテクノロジーを活用した効率的なプロセスにより、最適なM&A戦略の立案をお手伝いいたします。TOBを含む様々なM&A手法についてのご相談は、お気軽にCINC Capitalまでお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。