CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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M&A / スキーム
- 公開日2025.06.17
- 更新日2025.06.17
新設分割の手続きとは?主な流れや方法、スケジュールについて解説
企業が持続的な成長を図る中で、事業の再編や分離は避けて通れない選択肢の一つです。その中でも「新設分割」は、特定の事業を切り出し新会社として独立させる有効な手段として注目されています。
しかし、法的な手続きやスケジュール管理、関係者への対応など、実際の運用には多くの専門知識が求められます。
本記事では、新設分割の基本的な仕組みから手続きの流れ、実務上の注意点までを丁寧に解説します。
目次
新設分割とは?
新設分割とは、既存の会社が一部の事業や資産を分割し、新たな会社を設立する方法です。新設分割を活用すると、企業は必要に応じて特定の事業部門を切り離し、独立した運営体制を構築できます。
企業は特定の事業だけの売却が容易になり、経営戦略の柔軟性が高まります。新設分割を行うことで、企業は組織再編成が柔軟に行えるため、主に組織再編や事業承継の場面で用いられます。
既存の会社から切り離された事業が、分割元となる会社の事業に関連する資産以外にも、負債や従業員との雇用契約、取引先との関係性、事業ノウハウなども包括的に新会社へと引き継げるのです。
【関連記事】新設分割とは?仕組みや吸収分割との違い、手続き、メリットデメリットをわかりやすく解説
会社法に関する新設分割の手続きの流れ
会社法に基づく新設分割の手続きは複数ステップで構成され、詳細を理解することで円滑かつ効果的な実施が可能です。各ステップを詳しく見ていきましょう。
1.新設分割計画書を作成する
まず始めに、新設分割計画書の作成を行います。新設分割計画書には、主に以下の内容を記載します。
- 新設会社の基本情報:目的、商号、本店所在地、発行可能株式総数など
- 新設会社の定款に関する事項:新設会社の取締役の氏名や、会計参与など
- 承継される権利義務の内容:新設会社に承継される権利義務の詳細
- 分割対価に関する情報:新設会社の株式の数や資本金、準備金の額など
- 新株予約券や社債に関する情報:新設会社に交付される新株予約権や社債の種類など
新設分割計画書は、株主総会での承認を得るための重要な文書であり、計画書の内容に基づいて新設分割が進められます。
この計画書を作成する際には、内容の正確性や法令遵守が求められ、変更が求められる際は慎重に行わなければなりません。計画書の内容が大幅に変更されると、再度の承認が必要になる場合があるため注意しましょう。
2.必要書類を準備し分割元の会社に据え置く
分割会社には、新設分割に関連する重要書類を本店に据え置く決まりがあるため、必要書類を準備して、分割会社に据え置きます。
用意する書類は主に、新設分割計画書、最新の財務諸表、そして事業内容を詳しく記した資料などです。これらの重要書類は、関係者が新設分割の詳細を理解し、効率的な手続きを進めるための基礎資料となります。
必要書類を正確に管理し、分割会社に保管することで、関係者間での情報伝達がスムーズになり、手続きを効率化できます。手続きが混乱や誤解なく進むよう、書類の正確性を確認し、整理整頓しておくことが求められます。
3.株主総会における新設分割実施の承諾を得る
新設分割の次のステップは、株主総会における特別決議での承認を得ることです。
株主総会では、株主たちが新設分割計画を承認するかどうかを決議します。株主総会での承認がないと、新設分割を実施できません。
会社の基本的な組織変更がともなうため、慎重な判断が求められます。そして、決議が可決されたケースのみ、新設分割に向けたさらなる手続きが進められるのです。
4.株主への通知、または公告をする
株主総会での承認を得た後に、株主への通知、または公告を行います。
株主に対しての通知は具体的には以下の通りです。
- 新設分割に総会が開かれる日時や議題
- 新設分割の具体的な内容や分割比率、基準日、効力発生日などの決議内容
- 新設分割によって特定の種類株主に損害が生じる可能性がある場合の旨
この通知は、効力発生日の20日前までに行う必要があります。
また、公告とは株主や債権者に対して重要な情報を広く知らせるための手段です。新設分割手続においては、以下の内容が公告されます。
- 株式分割の基準日
- 分割比率
- 効力発行日
など、株主が知っておくべき重要事項を公告します。この公告は、基準日の2週間前までに行わなければなりません。
また、官報、日刊新聞、または電子公告など、公告を行う媒体を選定し、その方法を定款に定める必要があります。
会社法によって、株主や債権者に対して重要な事実を公告することが義務付けられており、公告を怠った場合、罰金が科せられるケースもあります。したがって、分割手続きにおいては、適切な通知と公告が法的に求められているのです。
5.債権者保護手続きを行う
会社法第810条に基づき、債権者保護手続きは法的に義務付けられています。この手続きが適切に行われない際は、分割の効力が無効とされる可能性があります。
債権者保護手続きは、新設分割によって債権者が不利益を被る可能性があるため、異議を申し立てる機会を提供することを目的としています。この手続きを確実に行うことで、法的問題を回避しつつ債権者の権利を尊重できるため、適切な手続きが不可欠です。
新設分割会社が承継する債務を新設分割会社が全て併存的に債務引受けする場合などの特定の条件を満たすケースには、債権者保護手続きを省略することも可能ですが、限られたケースです。
債権者保護手続きを確実に行うことによって、後になって法的な問題に直面せず、新設分割の手続きをスムーズに進められます。
6.分割会社と新設会社に事後開示書類を据え置く
新設分割の手続きが進む中で、関係者に対する透明性を保つための事後開示も必須です。事後開示書類は、新設分割の効力が発生した後に行います。
分割会社と新設会社には、事後開示書類を据え置く義務があります。これには、分割後の財務状況を示す書類や、分割の内容を詳しく説明する書類が含まれます。
7.新設分割の登記をする
新設分割の手続きを完了するためには、最終的に法務局で新設分割の登記を行う必要があります。
新設分割の登記の手続きを行い、法的な裏付けを取ることで、新設分割の手続きが完了します。そして、手続きが完了して新設会社が正式に活動開始できるのです。
労働契約承継法に関する新設分割の手続きの流れ
労働契約承継法とは、会社分割において労働者の権利を保護するための法律です。この法律は、会社分割によって他社に転籍する労働者や、元の会社に残る労働者が、労働契約の条件を維持できるようにすることを目的としています。
ここでは、労働契約承継法に基づく新設分割の労働代表者との協議、労働者及び労働組合への通知などの具体的な手続きの流れについて解説します。
【参考】厚生労働省「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)の概要」
1.労働代表者と協議する
新設分割を進める際、労働契約の承継に関する最初のステップは、労働代表者との協議です。労働代表者と協議を行うことは、労働者の権利を守り、円滑な移行を実現するために不可欠です。
具体的には、労働者に対して分割の目的や影響を説明し、協力を求めます。労働者に対して新設分割に関する詳細な説明を行い、各労働者の意向を確認します。協議の内容は書面に残すことが推奨されており、労働者のモチベーションを維持するためにも丁寧な対応が重要です。
協議の内容や結果は、手続きに大きな影響を与えます。この協議を通じて、労働者が新設分割に対する理解を深め、会社側との信頼関係を築くことが求められます。
【参考】厚生労働省「労働契約承継法全文」
2.労働者及び労働組合へ通知する
労働者及び労働組合への通知は、労働契約承継法に基づく手続きです。通知は書面で行うことが求められり、労働者に対して確実に到達する方法で提供されるべきです。
これは、労働契約承継というプロセスにおいて、全ての関係者に対して透明性を保ち、労働者の地位を安定させるために行います。
具体的には、通知文を通じて事業の譲渡先、譲渡の理由、今後の労働条件の変更点を詳細に記載し、全ての労働者と労働組合に送付することが求められます。
関係者が安心して次のステップに進むためにも、適切なコミュニケーションを心がけることが大切です。
3.異議申し立てがあった場合は対応する
労働者からの異議申し立てがあった際には、その内容を十分に理解し、迅速に対応しましょう。
特に新設分割という組織再編成の過程では、労働者は自身の労働条件が悪化することを懸念し、不安を抱いているケースもあるため、誠実な対応が不可欠です。
異議申し立てを通じて、労働者は自らの労働条件が不利益に変更されることを防げます。特に、分割後の労働条件の悪化を懸念する労働者にとって、この手続きは重要です。
もし異議申し立てに適切に対処しない場合、労働者の不満が高まり、業務が停滞したりトラブルが起こったりする可能性があります。
異議申し立てに対しては必ず誠実に対応しながら、労使関係を良好に維持することを重視しましょう。人員の再編や労働条件の変更はデリケートな問題であるため、労働者との信頼関係を損なわないよう努めることが、組織全体の安定と成長につながるのです。
新設分割の手続きのスケジュール例
新設分割には一般的に約2カ月の期間がかかる場合が多いです。この期間には、分割計画の作成や債権者保護手続き、労働者との協議、株主総会の開催など、複数の手続きが含まれます。
具体的なスケジュール例を見てみましょう。
<6月1日に新設分割の手続きを開始する場合のスケジュール例>
6月1日 |
分割計画書を作成する |
事前開示書類を準備する |
|
6月8日 |
労働者・労働組合へ通知する |
7月1日 |
反対株主への株式買取請求通知を行う |
7月5日 |
債権者保護手続きを実施する |
7月18日 |
株主総会で承認を得る |
7月25日 |
登記申請を行う |
7月26日 |
新設分割の情報を開示する |
このスケジュールは、特に問題が発生せず、関係者との調整がスムーズに進んだ場合の例です。実際には、手続きの進行状況や関係者の意見により、スケジュールが前後することがあります。
具体的なスケジュールを組む際には、まず新設分割計画書の作成時期を決定し、それに続いて株主総会での承認を受ける時期を考慮しましょう。前述しましたが、この計画書は新設分割の基礎となる重要な文書であり、大幅な変更などがあった場合、再び承認が求められるなど、時間がかかる場合があるため、準備と見直しには充分な時間を設ける必要があります。
次に、分割に関する登記の時期や債権者保護手続きの期限についても具体的な目標を設定し、それぞれのステップの完了日をしっかりと明記します。
新設分割の手続きを行う際の注意点
新設分割を実施する際には、いくつかの注意点があります。これらをしっかり把握し、丁寧に対応することが求められます。
公正取引委員会への届出が必要な場合がある
新設分割には、公正取引委員会への届出が必要になるケースがあります。特に大規模な新設分割の際に届出が不可欠です。大規模な新設分割によって企業の力が集中しすぎることで市場競争が阻害され、消費者の利益が損なわれる可能性を防ぐために行われます。
公正取引委員会への届出が必要となる条件は、主に以下の通りです。
1.国内売上高が基準を超える場合
新設分割において、公正取引委員会への届出が必要となるのは、分割する会社および承継される事業の規模によって判断されます。具体的には、分割する会社のうち、いずれか一社が国内売上高合計額200億円を超え、かつ他の事業が50億円を超える場合に届出が必要となります。
【参考】公正取引委員会「分割の届出制度」
2.事業の全部を分割する場合
分割の対象が「事業の全部」である場合、上記の売上高基準を満たす企業が関与していると、届出が求められます。ここでの「事業の全部」とは、会社全体の事業を指し、特定の事業部門の全部を意味するものではありません。
3.特定の条件を満たした簡易分割の場合
簡易分割でも、特定の条件を満たす際には届出が求められるケースがあります。簡易分割とは新設分割の一形態であり、特定の条件を満たすことで手続きが簡素化されるため、迅速な組織再編が可能になります。つまり、簡易分割は新設分割を行う際の手続きを軽減する方法の一つです。
簡易分割の際に公正取引委員会への届出が必要となるケースは、分割対象の資産の簿価合計が分割会社の総資産額の5分の1を超えない場合には、株主総会の承認を省略できるケースがありますが、届出基準は依然として適用されます。
上記の届出を行った際、受理から30日間は分割手続きを実施できません。この期間中に公正取引委員会が問題を指摘しない場合、分割手続きが進められます。
したがって、公正取引委員会への届出が必要となるかどうかの事前確認が重要です。事前の確認を怠ると、後々の手続きや調査において時間と労力を要する場合があります。新設分割を計画する際には、法律や規則をしっかりと把握し、手続きをスムーズに進める準備が求められます。
新設分割の効力発生日に注意する
効力発生日は新設会社の商業登記の日に設定されます。この日が不明確であったり、誤って設定されると、従業員の労働契約の継承や取引先との契約に混乱をもたらす可能性があるため、効力発生日の設定には細心の注意が必要です。
具体的には、効力発生日が不明確であったり、誤って設定されていた場合、従業員の労働契約の継承や取引先との契約が、円滑に行われなくなる可能性があります。契約履行が遅れるなどの事態になった場合、会社の信頼を損ねる要因となったり、契約自体が無効となったりするリスクが生じる可能性があります。
効力発生日を正確に設定し、その日を基準に全ての関係者が最適な準備を整えられるようにすることが成功の鍵となります。従業員への労働条件の説明や取引先とのコミュニケーションなどを行い、徹底的な確認と準備が不可欠です。
まとめ|新設分割の手続きは専門家へ相談することがおすすめ
新設分割は企業の戦略的な事業再編や売却をスムーズに進める有効な手法ですが、手続きや関係者対応は複雑で、多くの専門知識が必要です。
会社法や労働契約承継法に基づく様々な申請書類の準備や株主総会での承認、債権者への対応など、細かいステップが多いため、一つずつ慎重に進めることが欠かせません。
特に株主や労働者の理解を得ながら進めることが、トラブル防止と円滑な実施に欠かせません。初めての手続きで不安を感じる場合は、専門知識を持つM&A仲介会社に相談することで、適切なサポートと最適な進め方が期待できます。まずはお気軽にお問い合わせください。
CINC CapitalはM&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、M&Aのお悩みをサポートいたします。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。