CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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M&A / スキーム
- 公開日2025.04.21
- 更新日2025.04.21
株式移転の基礎知識|メリットやデメリット、手続きの流れ
株式移転(単独株式移転・共同株式移転)は、企業の組織再編におけるM&A手法で、持株会社の設立や経営統合を効率的に実現する仕組みです。
資金負担を抑えながらグループ経営の効率化を図れる点が大きな魅力ですが、手続きと計画には慎重さが求められます。
本記事では、株式移転の概要や目的、メリット・デメリット、具体的な手続きの流れを分かりやすく解説します。株式移転を検討する際の基本知識を深め、自社における意思表明にお役立てください。
目次
株式移転の概要
まずは、株式移転の基礎知識をおさらいします。概要と目的、混同されやすい「株式交換」との違いをお伝えします。
株式移転とは
株式移転は、企業の組織再編における手法の一つで、既存の株式会社の全ての発行済み株式を、新設する会社へと移し替える法的な手続きです。移転手続きを経て、新たに設立された会社は完全親会社となり、株式を移転した既存の会社は完全子会社となります。
株式移転の目的
株式移転の主な目的として、経営統合やホールディングカンパニー体制の構築が挙げられます。
たとえば、経営統合によりいくつかの企業が新設会社の傘下に入ることで、各社の独自性を保ちながら一体的な経営が可能です。その際、合併とは異なり、各企業の社風やシステムを一度に統合する必要がありません。
株式交換との違い
株式移転と株式交換は、一見似通った組織再編手法ですが、重要な違いがあります。主な違いは、「親会社を新設するか(株式移転)」「既存の会社を親会社とするか(株式交換)」という点にあります。
株式移転は、1社または複数の会社が共同で新たな持株会社を設立し、各社の株式を新設会社に移転する手法です。この場合、新たに設立された会社が完全親会社となり、既存の会社は完全子会社となります。
一方、株式交換は、既存の株式会社が他の株式会社の全株式を取得し、当該会社を完全子会社とする手法です。この場合、既存の会社のいずれかが親会社となり、株式を取得した会社が完全子会社となります。
株式移転のメリットやデメリット
経営統合やホールディングス体制移行時に検討される株式移転ですが、どんなメリットやデメリットがあるのでしょうか。ポイントをチェックしていきましょう。
株式移転のメリット
買収のための資金が不要
企業買収では対象企業の株式取得に多額の資金が必要で、現金の調達が大きな課題となります。しかし、株式移転では新設立される会社が発行する株式を対価とするので、実質的に資金の準備を要しません。
この仕組みにより、企業は財務状況への影響を最小限に抑えつつ、組織再編を実行できます。新株発行が対価なので、現金の流出を避け、財務の健全性を維持しながら経営統合などを進められるのがメリットです。
さらに株式移転では、完全子会社となる企業の株式が親会社に移転するのみで、機械設備や不動産などの資産移転は発生しません。資産評価や移転にともなう手続き・費用を最小限にでき、効率的な組織再編を実現します。
迅速な組織の統合が可能
株式移転においては、買収対象企業の株主総会で「議決権の2/3以上の賛成」を得られれば完全子会社化を進められます。経営陣は少数株主の意向で経営が停滞するリスクを避け、迅速に組織の統合を進めることが可能です。
実態として、少数株主の存在が経営方針の実行を妨げる要因となるケースは決して少なくありません。株式移転はこの問題を解消する有効な手段だといえるでしょう。
また、完全子会社化によって、親会社は子会社に対する全面的な支配権を持てます。グループ全体の戦略に基づいて迅速な意思決定を行えるようになり、経営効率が大幅に向上するでしょう。
税制優遇が受けられる可能性
一定の適格要件を満たす株式移転は、税制上の特例措置を受けることができます。具体的には、株主が保有していた株式の簿価を、新たに取得する持株会社の株式の取得価額として引き継ぐことが可能です。
また、適格要件を満たすことで、株主に発生する株式移転に伴う譲渡損益の課税を繰り延べることが可能です。課税関係の繰延べにより、株式移転時点での税負担を回避できるのがメリットです。
その際は、「移転前後の株主構成」「事業の継続性」「持株比率」などの要件を満たす必要があるため、詳しくは税務の専門家へご相談ください。
株式移転のデメリット
慎重な計画立案が必須
株式移転を実行する際には、移転計画の立案、株主総会における承認取得、反対株主への適切な対応など、段階的に法的手続きを行います。相応の時間と労力が必要であり、専門家のサポートが欠かせません。
また、手続きの完了までには通常1ヶ月以上を要するので、慎重な計画立案が不可欠です。
株価下落のリスク
株式移転を行うと、新設親会社の株主構成が変動し、既存株主の議決権や経営への影響力が変化する可能性があります。具体的には、既存株主の1株当たりの価値や権利が低下して「株式の希薄化」が発生し、企業評価が低下するリスクが生じます。
そのため、株主とのコミュニケーションを十分に図り、経営の安定性を確保する必要があるでしょう。
株式移転の流れ
株式移転は綿密な移転計画を策定した上で、下記の流れに沿って進めるのが一般的です。各プロセスの詳細をご説明します。
株式移転計画の作成
まずは株式移転計画の立案から始めます。立案計画書には、新たに設立される親会社の会社の事業内容、目的、商号、本店所在地、発行可能株式総数などの基本事項に加え、定款で定める事項を記載します。
さらに新会社の取締役や会計監査人の氏名、株主への株式割当方法、資本金・準備金の額なども明記します。
事前開示書類の備え置き
株式移転計画を策定した後、続いて事前開示書類の準備に移ります。開示書類は「株主総会の2週間前」「反対する株主への公告日・通知日」「債権者保護手続きの公告日・通知日」「新株予約権の公告日・通知日」のうち、もっとも早い日から自社の本店に備え置かれなければなりません。
事前開示書類には、株式移転計画の内容や株式移転の対価に関する事項など、株主が意思決定を行うために必要な情報が記載されています。株主は書類を閲覧することで、株式移転の詳細を把握できます。
株主総会の特別決議
株式移転を実行するためには、株主総会での承認が不可欠です。その際は、特別決議が必要となり、議決権を持つ株主の過半数が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成を集めなければなりません。
株主総会の招集通知は、非公開会社の場合は原則として開催日の1週間前までに、公開会社の場合は2週間前までに株主に送付します。ただし、電子提供システムを利用している場合は、非公開会社でも2週間前となります。
招集通知には株式買取請求権に関する情報も含まれており、株主総会で株式移転計画が承認されると、次の段階へと進むことができます。
設立登記の申請
株主総会で承認を得た後、新会社の設立登記を行います。登記申請は「株主総会の決議日」「種類株主総会の決議日」「反対株主の買取請求期間終了日」「新株予約権買取請求期間終了日」「債権者異議申述期間終了日」のうち、もっとも遅い日から2週間以内に申請する決まりです。
設立登記が完了すると、株式移転の効力が発生します。この時点で、新設された親会社が子会社の全株式を取得し、同時に子会社の株主は親会社の株主となります。
事後開示書類の備え置き
親会社と子会社は事後開示書類を作成し、本店に据え置きます。事後開示書類は、効力発生日後6カ月を経過する日までに据え置き、株主や債権者が閲覧できるようにしなければなりません。
事後開示書類には、株式移転の効力発生日、移転した株式の総数、債権者異議手続きや反対株主からの買取請求の経過などが記載されます。株式移転の結果や過程の透明性を確保するために欠かせないプロセスです。
株式移転によるM&Aの事例
SOMPOホールディングス(現)の事例
2009年7月、「株式会社損害保険ジャパン」と「日本興亜損害保険株式会社」は、株式移転方式で共同持株会社の「NKSJホールディングス株式会社」を設立し、経営統合を行いました。両社対等の精神のもとで、株式移転によるスピード感のある統合を実現しています。
【出典】株式会社損害保険ジャパン、日本興亜損害保険株式会社「共同持株会社設立(株式移転方式)による経営統合について」
みずほフィナンシャルグループの事例
2000年9月、「株式会社第一勧業銀行」「株式会社富士銀行」「株式会社日本興業銀行」の3行は、株式移転により共同で持株会社の「みずほフィナンシャルグループ」を創設しました。国内の金融市場で優位性を有する金融グループとして、一体運営を行っています。
【出典】みずほフィナンシャルグループ「3行統合による 「みずほフィナンシャルグループ」の創設」
まとめ|低コストだが、手続きが複雑である
株式移転は、資金面の負担を軽減しながら経営統合を迅速に進められる点で、企業の成長戦略に有効な手法といえます。一方、株価の希薄化や法的手続きの煩雑さといった課題もともなうことから、実行には専門家のサポートが欠かせません。
本記事の情報を参考に、リスクを最小限に抑えた組織再編を目指しましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、株式移転のご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。