CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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M&A / スキーム
- 公開日2025.04.22
- 更新日2025.04.23
アーンアウトとは?M&Aでのメリットやデメリット、条項の決め方、活用時の注意点を解説
M&Aの買収価格を決める際、売り手と買い手の間で企業価値の認識が異なり、交渉が難航することがあります。このような場合に活用されるのが「アーンアウト」という契約手法です。
本記事では、アーンアウトの仕組みや売り手・買い手双方のメリットとデメリット、適切な契約の決め方、注意点について詳しく解説します。
目次
アーンアウトとは?
M&Aにおいて、買収価格の決定は非常に重要です。しかし、売り手と買い手の間で企業価値の認識が異なることが多く、価格交渉が難航するケースがあります。そのような状況で活用されるのが、アーンアウト(Earn-Out)という仕組みです。
アーンアウトとは、買収代金の一部を将来の業績に応じて支払う契約形態を指します。具体的な評価指標として、純利益・売上高・営業利益・EBITDA・営業キャッシュ・フロー・フリーキャッシュフローなどが用いられることが多いです。
売り手にとっては、事業の成長次第でより高額な譲渡対価を得ることができ、買い手にとってはリスクを抑えながらM&Aを進められるメリットがあります。アーンアウトでは、事前に設定した評価指標に基づき、一定期間内に目標を達成すれば追加の報酬が支払われるのです。この仕組みにより、売却後も売り手の経営者が積極的に事業に関与し、企業価値の向上に努めるインセンティブが生まれます。
一方で、目標を達成できなければ追加の支払いが発生しないため、売り手にとっては収益の不確実性というリスクが伴います。
アーンアウトは、特に成長段階にある企業や、将来の収益が不確実な企業のM&Aにおいて活用されることが多いです。
【売り手側】M&Aにおけるアーンアウトのメリットとデメリット
アーンアウトは、売り手にとって有利な条件となることがある一方で、アーンアウトにはデメリットもあるので注意が必要です。ここでは、アーンアウトのメリットとデメリットを解説します。
売り手におけるアーンアウトのメリット
売り手にとってのアーンアウトのメリットは、大きく分けて二つあります。以下でそれぞれ解説します。
成果に応じて多くの報酬を得られ、モチベーションが維持されやすい
アーンアウトを活用することで、売り手は買収後も高額な報酬を得られる可能性があります。
M&Aの買収対価は通常一括で支払われますが、アーンアウトでは業績目標を達成することで追加の報酬を受け取ることが可能です。これにより、売り手の経営者や従業員は買収後も企業成長に積極的に関与し、モチベーションを維持しやすくなります。
また、売り手が設定された業績目標の達成を目指すことで、買収後の経営が円滑に進みやすくなります。特に、売却後も経営陣が事業に携わる場合、アーンアウトのインセンティブは強く働き、企業の成長を促進する要因となるでしょう。
取引成立の可能性が高まりやすい
買い手と売り手の企業価値の認識が異なる場合、アーンアウトを導入することで買収対価を柔軟に調整でき、M&Aが成立しやすくなります。
売り手にとっては業績に応じて追加の報酬を得られるため、交渉がまとまりやすくなります。特に、成長途上の企業や将来の収益が不透明な事業では、買い手が一括払いを敬遠するケースが多くあるのです。アーンアウトを用いることで、買い手は初期の資金負担を抑えることができ、売り手も自身の事業の成長を証明する機会を得られます。
その結果、双方の妥協点を見出しやすくなり、M&Aの成立確率が向上します。
売り手におけるアーンアウトのデメリット
アーンアウトのデメリットは、売り手が買収時に全額を受け取ることができない点です。
通常のM&Aでは、買収完了時に売り手へ対価が支払われますが、アーンアウトの場合は、業績目標の達成に応じて追加支払いが行われる仕組みです。そのため、売り手にとっては最終的な報酬が不確実となり、資金計画が立てにくくなります。
また、買収後の企業の経営方針が買い手に委ねられるため、売り手の意向が十分に反映されない可能性があります。業績評価の指標が不明確な場合や、買い手の経営判断によって目標達成が困難になるケースがあるため、契約締結時に慎重な交渉が必要です。
さらに、経済状況の変化や市場環境の影響によって、計画通りの成長が難しくなるリスクも考慮する必要があります。
【買い手側】M&Aにおけるアーンアウトのメリットとデメリット
アーンアウトは、売り手だけでなく買い手にとっても大きな利点があります。一方で、注意すべきデメリットも存在します。ここでは、買い手側のメリットとデメリットを解説します。
買い手におけるアーンアウトのメリット
アーンアウトを活用することで、買い手は買収後のリスクを軽減できます。
M&Aでは、売り手の成長予測が不確実な場合が多く、一括支払いでは損失リスクが高まります。しかし、アーンアウトを導入することで、業績に応じた段階的な支払いが可能となり、リスクの分散が実現できます。
また、売り手の経営陣が一定期間会社に残ることで、事業の引き継ぎがスムーズに進みやすくなり、企業価値の維持・向上にもつながるでしょう。
さらに、アーンアウトは買収時の資金負担を軽減する手段としても有効です。買収金額の一部を後払いとすることで、買い手は手元資金を確保しながらM&Aを進められ、他の投資や事業拡大に資金を活用することができます。特に、大規模な買収や資金繰りが厳しい状況では、アーンアウトを利用することで財務の安定性を確保し、戦略的なM&Aを進めることが可能となります。
買い手におけるアーンアウトのデメリット
アーンアウトのデメリットとして、買収総額が当初の想定よりも増加する可能性があります。
繰り返しになりますが、業績が順調に推移し、設定した目標を達成した場合、買い手は追加の支払いを行う必要があるためです。その結果、買収額が当初の予算を超え、資金繰りが悪化する可能性があります。
また、アーンアウトの支払い期間中に、景気の変動や市場環境の変化が起こる可能性もあります。例えば、買収時には問題がなかったものの、後になって企業の財務状況が悪化し、追加の支払いが難しくなるケースも考えられます。
さらに、売り手側がアーンアウトの条件達成を最優先することで、短期的な利益を重視しすぎる可能性もあります。長期的な成長よりも短期的な業績向上を優先する経営が行われると、M&Aの本来の目的である企業価値の最大化が達成されない場合があります。
アーンアウト条項の決め方
アーンアウトは、M&Aにおいて売り手と買い手の双方にメリットをもたらす手法ですが、適切な条件を設定しなければトラブルにつながる可能性があります。そのため、契約締結時には、評価指標・評価期間・再売却の条件を慎重に決定することが重要です。ここでは、アーンアウト条項の決め方について詳しく解説します。
評価指標
アーンアウトの評価指標は、売り手と買い手の双方が納得できる基準を設定することが重要です。
評価指標が曖昧だと、売り手が期待する報酬を受け取れなかったり、買い手が予期せぬ負担を強いられたりするリスクがあります。
評価指標としては、売上高・営業利益・EBITDA(税引前利益+減価償却費)などが一般的に用いられます。
一方、買い手は、企業の実際の収益力を反映する営業利益や純利益を重視することが多いです。
適切な評価指標を選定するためには、売り手と買い手が事前に十分な協議を行い、測定方法を明確に定めることが必要です。
また、売り手がコントロールできない外部要因(市場環境の変動など)を考慮し、一定の調整項目を設けることで、公平性を担保することが可能となります。
評価期間
アーンアウトの評価期間は、売り手が業績目標を達成するまでの期間を指し、慎重に設定する必要があります。
適切な評価期間が設定されないと、売り手にとって不利になったり、買い手にとってリスクが増したりする可能性があるためです。
一般的に、評価期間は1年から3年程度とされることが多いです。短期間では業績が安定せず、売り手が目標を達成しづらくなる一方で、長期間にわたると市場環境の変化が影響し、買い手にとってリスクが増大します。
したがって、企業の事業特性や業界の状況を考慮し、バランスの取れた期間設定が求められます。
また、評価期間の途中で企業の経営方針が大きく変わった場合や、不可抗力による業績変動が発生した場合に備えて、契約の中に特別条項を盛り込むことで、リスクを軽減することが可能です。例えば、外部要因による一時的な業績悪化を考慮し、業績目標を一定の範囲内で調整できる仕組みを取り入れることが有効です。
再売却
アーンアウト期間中に買い手が対象企業を第三者に売却する可能性があるため、その場合の対応を事前に決めておくことが重要です。
事前にルールを定めておかなければ、売り手が正当な報酬を受け取れない事態が発生する恐れがあるためです。例えば、アーンアウト契約の最中に買い手が企業を別の会社に売却した場合、売り手は本来得られるはずの報酬を受け取れない可能性があります。
買い手が企業を再売却する際に、売り手に対して事前通知を行う義務を課すことで、売り手が不利な状況に陥るリスクを低減できるでしょう。
アーンアウトを活用する際の注意点
アーンアウトは、M&Aにおいて売り手と買い手の双方にメリットをもたらす契約手法です。しかし、適切な条件設定がなされていなければ、期待する効果を得られないだけでなく、トラブルの原因となる可能性があります。ここではアーンアウトを活用する際に注意すべき3つのポイントについて詳しく解説します。
条件設定の明確化と合意形成を徹底する
アーンアウトを適用する際は、契約条件を曖昧にせず、売り手と買い手の間で明確な合意を形成することが不可欠です。条件が不明確なまま契約を締結すると、将来的なトラブルや紛争の原因となるためです。
例えば、アーンアウトの対象となる業績目標や達成基準が曖昧であれば、買い手が意図的に業績を調整し、売り手が適正な報酬を受け取れない状況が生じる可能性があります。
そのため、事前に両者の認識をすり合わせ、具体的な業績評価の基準・算定方法・支払いスケジュールを契約に明記することが重要です。
また、取引後に売り手が関与できる範囲や役割についても明確にしておく必要があります。
売却後の事業運営において売り手がどのような権限を持つのか、また、どのような意思決定プロセスが適用されるのかを取り決めることで、後の摩擦を防ぐことができます。
業績指標の適切な選定と評価基準を定める
アーンアウトの支払い額は、事前に設定した業績指標を基に決定されるため、適切な指標を選定することが不可欠です。評価基準が不明確であると、売り手にとっては追加報酬を受け取れないリスクが増し、買い手にとっては想定外の支払い負担が発生する可能性があるためです。
トラブルを防ぐための契約内容を精査する
アーンアウト契約にはリスクが伴うため、事前に想定されるトラブルを防ぐための対策を講じることが必要です。
例えば、買い手が意図的に経営方針を変更し、売り手の報酬に影響を及ぼすようなケースが考えられます。このような事態を防ぐためには、アーンアウトの評価指標だけでなく、買収後の経営方針についても一定の制約を設けることが有効です。
また、売り手の関与範囲や報酬支払いの条件を具体的に明記することで、誤解を防ぐことができます。
さらに、紛争が発生した場合の解決手段(第三者機関による評価、仲裁手続きなど)を契約に含めることも重要です。トラブルが生じた際に適切な手続きを取れるようにしておくことで、無用な訴訟リスクを避け、円滑に問題を解決することが可能となります。
まとめ|事前の交渉でアーンアウトを成功させましょう
アーンアウトは、M&Aにおいて買い手と売り手の双方にメリットをもたらす契約手法です。売り手は業績次第で追加報酬を得られ、買い手は初期の資金負担を軽減しながらリスクを抑えることができます。
しかし、契約条件が曖昧な場合、支払いの不確実性や買収後の経営方針の違いがトラブルの原因となるため、慎重な設計が求められます。
アーンアウトを適切に活用するためには、評価指標や評価期間を明確に設定し、売り手と買い手が合意のもとで契約を締結することが不可欠です。また、契約内容を精査し、将来的なリスクやトラブルを防ぐ対策を講じることで、M&Aを円滑に進めることができます。
アーンアウトを成功させるために、事前の交渉を十分に行い、適切な条項を定めましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。