CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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M&A / 基礎知識
- 公開日2024.10.30
- 更新日2024.11.14
M&Aのリスクとは?売り手側によくあるリスクと回避する方法
企業の成長戦略として注目されるM&Aには、いくつかのリスクが潜んでいます。リスクを十分に把握しないまま進めると不利な条件でM&Aが成立するばかりか、訴訟問題に発展するかもしれません。リスクの理解はM&Aを成功させるうえで大切な要素の1つと言えます。
この記事では、M&Aで起こり得るリスクの種類とリスクを回避する方法について、詳しく解説していきます。
目次
M&Aのリスクの種類
M&Aにはさまざまなリスクが存在します。まずはより理解しやすいようにリスクの種類を4つに分けました。それぞれのリスクが一体どのようなものなのか、説明していきます。
財務リスク
売却される企業が所有する資産の財務面から起こるリスクのこと全般を、財務リスクと言います。
買収した企業に予測していなかった債務があった場合、買収した企業はそれらの債務もそのまま引き継ぎます。つまり、多くの債務があった際は買収後の経営に大きな影響を与えることがあるのです。
具体的な財務リスクの例として、貸借対照表に計上されていない「簿外債務」があります。簿外債務は表面的には見えないため、事前の調査が不十分であった場合には、買収後に突然明らかになることがあります。また、将来的に債務となる可能性がある「偶発債務」の存在も、財務リスクの1つです。
法務リスク
買収される企業が抱えるリスクのうち、法に関係するもの全般を法務リスクと言います。法務リスクの具体例として、契約に関するリスクがあります。これは、売却される側の企業が、経営権が移動した際の対応について契約を結んでいるときに起こり得るリスクです。
もう1つの例として、許認可に関するリスクが挙げられます。許認可や免許などが必要な業務を行う企業を買収する際に起こり得る問題です。もし必要な許認可などが引き継げなかった場合、事業運営に支障が出ることになります。
法務リスクが高い場合、M&Aの実施自体が頓挫してしまう可能性もあります。
経営リスク
買収後の企業経営に関するリスクが、経営リスクです。経営リスクが原因で問題が発生すると、企業の収益だけでなく、社会的イメージを損なうおそれがあり、顧客や取引先の信頼を失う要因にもなりえます。
具体的なリスクの例は、売り手側の企業で残業代の未払いがあったり、ずさんな労働管理が行われていたりするケースなどです。
こうした実態のある企業を買収するのはコンプライアンスの観点からもリスクが高く、敬遠される傾向にあります。
人材リスク
人材リスクとは、従業員や役員が関係するさまざまなリスクのことを指します。異なる組織文化や風土を持つ企業同士が統合する場合、働く従業員に与える影響は大きいです。
例えばM&Aによって労働環境が大きく変わり、従業員によっては将来に対する不安を感じるかもしれません。こうした状態が続くと従業員のモチベーションは低下します。モチベーションの低下を放置していると、最終的には優秀な人材の流出を招くことになるかもしれません。
売り手側のM&Aのリスク
ここからは、より売り手側に着目してリスクを分析していきます。M&Aにおいては、売り手側にも複数のリスクが存在します。こうしたリスクを無視してM&Aを進めようとすると、企業が不利益を被る事態になりかねません。
情報漏洩のおそれ
特にM&Aが成立する前に情報が漏れてしまうと、計画に重大な支障をきたすことになります。
もし社内でM&Aを行うことが広まると、優秀な社員によっては将来の不安から退職を決意してしまう可能性があります。M&A成立後であればフォローが可能ですが、成立前に情報が漏れて退職しまった場合は適切なフォローが難しいです。
また、情報漏洩は単に社内だけの問題にとどまらず、信用問題にも関わってくるため、取引先や買い手企業からの信用を失う可能性があります。最悪の場合、M&Aそのものが中止となってしまうことも考えられます。
買い手がつかず売却できない可能性
どれだけ売却したくても、買い手が見つからないことにはM&Aは成立しません。特に市場のニーズや買い手が求める要件に合致しない場合、なかなか買い手が見つからない可能性があります。
そのため、売り手としては自社の強みを明確に示し、魅力的な提案を行うことが重要です。
また、買い手側が見つかったとしても、条件の面で折り合いがつかず、交渉が破綻するケースもあります。
想定や相場よりも安値での買収
売却のタイミングや業界全体の市場動向によっては、希望額よりも低い額での買収が行われることがあります。条件交渉の余地はあるものの、最終的には買い手側が合意しない限りM&Aは成立しません。
さらに、譲渡価格の相場や適切な売却時期を売り手側が正しく理解していない場合にも、希望額を下回る買収が起こる可能性があります。M&Aについて正しく理解していない状態はリスクが高いといえるでしょう。
買収前に発生した損害賠償責任の負担
売り手側の企業に労務や法務に関するリスクを抱えている場合、M&Aの際にリスクになります。そして、こうしたリスクを解決しないままM&Aが進んで、もしM&A成立後になってリスクが発覚した場合、買い手側から売り手側に対して損害賠償を求められることがあるのです。
損害賠償の額によっては売却額を上回ることも珍しくありません。もしそうなった場合は、売り手側にとって大きな経済的損失をもたらします。
敵対的買収のおそれ
買い手側が売り手側企業の株式の過半数を取得し、経営権を獲得しようとする行為が「敵対的買収」です。買い手側企業は企業を買収する際に、敵対的買収を選択することがあります。
敵対的買収が成立すると、売り手側の従業員や設備などの経営資源すべてが買収側に移ってしまいます。
敵対的買収では売り手側企業の意向は反映されづらく、企業文化や経営方針の変化が生じがちです。その結果、従業員や顧客だけでなく、取引先が離れてしまう事態が起こる可能性もあります。
よくあるトラブル事例
近年、M&A実施件数の増加に伴い、M&Aを巡るトラブルも増加しています。例えば、以下のような事例があります。
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最終契約書に基づき経営権が移転を完了させたにもかかわらず、売り手側社長の個人保証が移行されなかった
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低価格での売却と引き換えに、ある程度の退職金が支払われる条件でM&Aに合意したにもかかわらず、その退職金の支払いが行われなかった
上記のようなトラブルを回避するために、リスクを減らす方法を知ることが大切です。
M&Aのリスクを回避する方法
M&Aのリスクを回避するための方法がいくつかあります。以下、表明保証条項の設定、財務状況の明確化、信頼関係の構築、法令の遵守、買収防衛策の活用、M&Aの専門家への相談について解説します。
財務状況の明確化
財務状況が不透明なままM&Aが進んでしまうと、後々になって思わぬ損害賠償に発展するおそれがあります。こうした事態を防ぐために行うべきなのが財務状況の明確化です。
売り手側の企業が自社の財務状況を調査し、M&Aの際は買い手側企業に対して情報を開示します。特に、簿外債務や偶発債務が存在しないかどうかを調査することが重要です。財務状況が明確されれば、買い手側企業から見た不安点も少なくなり、M&Aもスムーズに進みやすくなります。
信頼関係の構築
M&Aは、売り手側と買い手側の双方にとって大きな取引であるため、信頼関係の構築が不可欠です。互いの信頼がなければ、M&Aはスムーズに進みません。売り手側は、信頼を損なうリスクを避けるために、企業のマイナス面を隠したり、交渉中に不利益となる情報を後出ししたりしないよう努めましょう。
誠実に情報を開示すれば、買い手側との信頼関係を築くことができます。
法令の遵守
M&Aを進行するにあたって、さまざまな法律を遵守することが重要です。具体的には、会社法や金融商品取引法、独占禁止法、労働契約法など、多岐にわたる法律が関与します。これらの法律は、取引の適法性や透明性を確保するために存在しており、法令を無視することは大きなリスクを伴います。
万が一、法律違反となる行為が明るみに出た場合、訴訟問題へと発展し、最悪の場合、M&Aそのものが取りやめになる可能性があります。
買収防衛策の活用
売り手側の企業が敵対的買収を防ぐためには、さまざまな買収防衛策を活用することが重要です。買収防衛策とは、敵対する第三者に経営権を取得されないように各種対策を講じることを指します。
買収が行われる前にできる対策として、ポイズンピルや黄金株、ゴールデンパラシュート、MBO(マネジメント・バイアウト)といった手法があります。
しかし、買収防衛策を講じる際には、既存株主が極端な不利益を被らないように注意しなければなりません。手法によっては、逆に既存株主に不利益を与える可能性があるため、慎重に計画を進める必要があります。
M&Aの専門家への相談
M&Aにおけるリスクを適切に回避するためには、経験や実績、知識が豊富なM&Aの専門家の力を借りることが有効です。専門家のサポートがあれば、企業売却のプロセスをスムーズに進められます。
専門家の知見は、M&Aに関する複雑な法務や財務の問題を解決する手助けをしてくれます。法的な書類の準備や、財務状況の分析といった専門知識を必要とする分野でも、専門家がいれば心強い味方となるでしょう。さらに、適切な戦略の策定から、買い手との交渉、取引の完了に至るまで、各ステージで的確なアドバイスを提供してくれるので、リスクを最小限に抑えることができます。
まとめ丨リスクを正しく理解してM&Aを成功させよう
この記事ではM&Aに関するさまざまなリスクとその回避方法について詳しく解説しました。
M&Aを成功させるためには、まずはリスクの種類を把握し、個別のリスクに応じた回避策を講じることが重要です。今回の記事で紹介したようなリスクがあることを覚えておきましょう。
売り手の企業には情報漏洩が起きないよう注意を払い、買い手となる企業に対して信頼できる情報を提供する責任があります。
そして、M&Aは、専門家への相談が非常に有効です。複雑な手続きや専門的な知識が必要になる場面では、専門家のアドバイスにより、リスクを軽減しスムーズな進行を図ることができるでしょう。
まず自社の状況や目的に適した相談先を見つけることが重要です。相談先にはさまざまな選択肢がありますが、適切なパートナーを選び出すことで、スムーズに、利益を最適化した売却を実現できます。この記事を参考にしながら、自分に合った相談先を探してみてください。
この記事の監修者
CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
CINC Capital取締役執行役員社長。リクルート関連会社や外資系製薬会社、大手・ベンチャー独立系M&A仲介会社で営業組織を牽引。 特にM&A実績の多い業界は調剤・IT・運送業。