CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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M&A / 基礎知識
- 公開日2024.12.18
- 更新日2025.01.06
M&Aで売り手が知っておくべきリスクやメリットを解説
急速に変化するビジネス環境で、企業の成長や存続を目的としてM&Aを行うことが一般的になっています。
しかし、M&Aは大きな機会をもたらす一方で、リスクも伴う複雑なものです。M&Aを円滑に進めるために、実施前にしっかり理解しておくことが大切です。
本記事では、M&Aにおける売り手が直面しうるリスクや得られるメリットについて解説します。
目次
M&Aの現状と動向
M&A市場は近年活発化しており、特に中小企業の間での取引が増えています。
【引用】中小企業庁「2024年版 中小企業白書 M&A件数の推移」
中小企業庁の調べによると、新型コロナウィルスが大流行した2020年を除いて、M&A件数は年々増加傾向にあります。2023年のM&Aの件数は2011年と比較すると、2倍以上という結果です。
M&Aに至る理由はいくつかありますが、中でも経営者の高齢化や後継者不足の問題は大きいです。この引き継ぎを解決する手段としてM&Aが選ばれるようになっています。
【引用】中小企業庁「2024年版 中小企業白書 事業承継・引継ぎ支援センターの相談社数・成約件数の推移」
実際、事業承継・引継ぎ支援センターの相談件数と成約件数について記した上記の2つグラフは年々、右肩上がりに上昇していることがわかります。2022年の相談社数は2011年と比較して、50倍以上に増加しています。
今後はこの後継者不足の問題解決だけでなく、M&Aそのものが企業間でさらに浸透していき、事業の成長や事業戦略のためにM&Aを実施するニーズがさらに増えることが考えられます。
「会社を大きくするために事業を売る」ということも1つ検討してみても良いでしょう。
売り手企業のM&Aの目的
売り手企業がM&Aを実施する目的はいくつかあります。ここでは、売り手企業がM&Aを行う主要な目的について解説します。
譲渡益を得る
M&Aを通じて企業が譲渡益を得ることができます。
事業や企業を売却することで、株主や経営陣が多額の資本利得を受け取ることができます。ただし、M&Aの手法によって譲渡益を貰う立場や内容が異なるので、この点は注意が必要です。
今回は「株式譲渡」「事業譲渡」を例に見ていきます。
【株式譲渡の場合】
- 経営者(株主)が直接売却利益を得られる
- 現金や株式など、様々な形態での対価受領が可能
【事業譲渡の場合 ※法人】
- 売却益は会社に帰属
- 経営者個人には直接的な売却利益は発生しない
- 会社の意思決定を経て、配当や賞与として間接的に還元される可能性あり
※売却手法の選択に際しては、この利益の帰属の違いも重要な検討要素です。なお、個人事業主の事業譲渡の場合は、「売却益は個人事業主本人に直接帰属」「譲渡所得として個人に課税される」「会社を経由せず、直接的に対価を受け取る」となるので注意が必要です。
事業成長・事業拡大のために行う
M&Aを通じて事業の成長や事業の拡大を図ることができます。
例えば、買い手が売り手にはない技術や経営資源を持っている場合は、その買い手とM&Aを行うことで、売り手の成長につながったり、売上を拡大させたりすることが可能です。
買い手によっては流通経路を広げたり、これまで進出できなかった地域に事業を進出したりすることも期待できます。
事業の存続を図る
後継者不足の問題はもちろん、市場環境や経営状況の変化により、企業の存続が難しくなる場合があります。このような状況の中でも他社に譲渡することで会社が存続できます。
また、経営困難な中小企業が資金力のある大企業に買収されることで、事業が継続可能になるだけでなく、その事業が成長するケースもあります。
「従業員の雇用を維持したい」と思っている経営者にとっては、雇用の維持にも繋がるので、メリットにもなり得るでしょう。
M&Aにおいて売り手のリスクとなる3つの注意点
M&Aは企業の発展や成長に大きく寄与する一方で、売り手にとっても注意すべきリスクがいくつか存在します。
ここでは、売り手がM&Aにおいて注意すべき3つのリスクについて解説します。
従業員や取引先に変化が起こる可能性がある
業や企業を売却した後、新しいオーナーや経営体制により、従業員の待遇や企業文化が変わったり、取引先との関係が見直されることがあります。
また、売却されること自体に不安を感じ、その不安から売却の後に会社を辞める従業員が出てくる恐れがあります。
従業員や取引先が自社から離れないためにも、これまで良好な関係を築いてきた社員が従業員や取引先と関わったり、事業を譲渡する前に説明の場を設けたりするなどの、対策が必要です。
多額の税金がかかる可能性がある
法人の売却により、利益を得た場合はその利益に対して法人税や譲渡所得税が課されることがあります。特に売却手法として「事業譲渡」を選んだ場合は、税金が課されるので注意が必要です。
場合によっては事業譲渡は株式譲渡による会社売却よりも税金の負担が大きい可能性があります。
予想を超えた税金を避けるためにも、事前に税金の計算と対策を講じることが大切です。
情報漏洩に注意が必要である
M&Aや事業の売却を進めるうえで、買い手企業に向け、社内情報の開示は避けられません。
しかし、その情報が買い手企業候補だけでなく、競合他社や取引先に伝わってしまうケースがあります。例えば、取引先企業が譲渡の情報を聞きつけ、今後の取引を見直すことがあります。
この事態を避けるためにも、秘密保持契約の締結を行うことが一般的です。
また、会社の売却の話が従業員に伝わり、従業員の不安につながることもあるので、社内にも情報が漏れないような対策が必要です。
【売り手向け】M&Aの手続き・流れ
M&Aの手続き・流れは大きく4つのフェーズに分けることができます。
- 準備フェーズ
- マッチングフェーズ
- 交渉フェーズ
- 実行フェーズ
ここでは、M&Aに必要な各フェーズについて解説します。
なお、M&Aの手続き・流れの詳細は以下の記事で詳しく解説しています。こちらも併せてください。
【関連記事】M&Aの基本的な流れとは?検討からクロージングまでの手続きについて解説
準備フェーズ
適切な事前準備は、今後必要なプロセスを行う際にトラブル防止・リスク軽減につながります。
準備フェーズは、下記の4つのプロセスで成り立ちます。
- 初回面談
- 秘密保持契約(NDA)の締結
- 財務資料の共有
- アドバイザリー契約の締結
M&A仲介会社の支援を貰う場合は、このタイミングで秘密保持契約やアドバイザリー契約を行います。安心してM&Aを進めるためにも必要な契約です。
マッチングフェーズ
売り手と買い手の間で具体的な協議が行われるプロセスです。このフェーズでは、適切な買い手企業を見つけ、初期交渉を進めていきます。
マッチングフェーズは下記の8つのプロセスで成り立ちます。
- ロングリスト※の作成
- ノンネームシート※の作成
- IM※の作成
- 買い手候補の確認および選択
- 買い手にアプローチ(ノンネームシート送付)
- IM開示を売り手に確認
- 買い手と秘密保持契約(NDA)の締結
- 買い手にIM開示し、面談
このフェーズで、いよいよ買い手候補に売り手の情報を共有します。複数の買い手候補と接触し、自社に最適な相手を選んでいきます。
売り手と買い手双方にメリットがあるまたはシナジー効果が期待できる場合は、協議が推奨されます。
※ロングリスト:買い手企業候補の情報をリストアップしたものです。
※ノンネームシート:企業を匿名で紹介する文書です。売上(ただし利益や純資産は記載しない)や事業内容、強みなどを記載します。
※IM (インフォメーションメモランダム):売却予定の企業の情報を記した書類を指します。M&A仲介会社が作成します。
交渉フェーズ
売り手と買い手が具体的な条件や取引の詳細について話し合い、合意を目指します。
交渉フェーズは、下記の3つのプロセスで成り立ちます。
- トップ面談
- 買い手から意向表明の受領
- 基本合意書の締結
買い手企業と面談を行います。面談の上、M&Aを進めていくことになれば、売り手と買い手の間で基本合意書を締結します。
基本合意書はM&A実施の意思の確認に加え、独占交渉権の規定を設けます。独占交渉権設定以降は他社との交渉を行わないことを合意します。
基本合意書を交わすことで、次の実行フェーズにあるデューデリジェンスや最終契約書の締結に向けた準備が整います。
実行フェーズ
売買や譲渡などが実際に行われるフェーズです。実行フェーズは、下記の5つのプロセスで成り立ちます。
- デューデリジェンスの実施
- クロージングパッケージの作成
- 最終契約書の締結
- クロージングパッケージへの調印
- クロージング
M&A実施の前に行われるデューデリジェンス(DD)は、M&Aプロセスで買収対象企業(売り手)の実態を詳しく把握するための調査です。
買い手は売り手の財務状態、法的リスク、業績、事業計画などを詳細に分析し、M&Aの実施や交渉に役立てます。
デューデリジェンスによってM&Aが問題なく遂行できるとなった場合は買い手企業と最終契約書を締結し、M&Aを行います。
デューデリジェンスについては以下の記事で解説しています。併せてご覧ください。
【関連記事】デューデリジェンスとは?M&Aにおける意味や種類、進め方をわかりやすく解説
まとめ|売り手はM&Aの目的の明確化・リスク対策で円滑な譲渡が実現できる
M&Aを成功させるためには、売り手が自身の目的を明確にし、リスク対策を講じることが大切です。
M&Aの目的が不明確でリスク管理が不十分だと、譲渡が円滑に進まない可能性があります。まずは自社の目的を明確にすることが必要です。そのうえで以下の注意点を意識したリスク対策を講じましょう。
- 従業員や取引先に変化が起こる可能性がある
- 多額の税金がかかる可能性がある
- 情報漏洩に注意が必要である
これらの注意点を回避するために行う対策は専門知識も必要となるため、M&Aに詳しい専門家の協力を得ることを推奨します。
弊社はM&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者
CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
CINC Capital取締役執行役員社長。リクルート関連会社や外資系製薬会社、大手・ベンチャー独立系M&A仲介会社で営業組織を牽引。 特にM&A実績の多い業界は調剤・IT・運送業。