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事業売却とは?基本知識や進め方を具体的に解説

売却 / 事業売却

  • 公開日2024.11.11
  • 更新日2025.01.06

事業売却とは?基本知識や進め方を具体的に解説

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事業売却は、事業の全部または一部を買い手に売却するM&Aの一手法です。目的を達成するために優れた方法であるため、譲渡側は後継者がいない場合やほかの事業に集中したいときに、買収側は効率的な新規参入などで活用できます。ただ、どのような流れになるのかわからない方や、買収金額の算定方法、ほかの方法との違いを知りたい方も多いでしょう。そこでこの記事では、税理士である筆者が、事業売却に関する情報を、一般の方にもわかりやすくまとめました。この記事を読めば、事業売却にまつわる疑問の解決につながります。

事業売却とは?

まず、事業売却の概要から見ていきましょう。

事業売却の意味

事業売却とは、売り手が自社の事業の全部または一部を買い手に売却する、M&Aの一手法です。

事業売却は、企業売却に伴い法人格が消滅しないことが特徴です。

国内における事業売却の動向

近年、特に上場企業を中心に事業売却は加速していると言えるでしょう。大企業では、事業の選択と集中によって、不採算事業や不採算部門から撤退が増えているからです。日本企業は企業価値が低い企業が多く、そのことが株価低迷にもつながっています。そこで、主力事業に注力しようと、組織再編や子会社・関連会社の売却に結び付いています。

一方、中小企業においては、長引く不況から廃業が増え、たとえ赤字になっていなくても後継者問題で事業継続が困難なケースや、経営者自体が事業環境に悲観して後継者に継がせたくないケースなど、事業売却へ移行するケースが増えています。

このような状況から、仲介会社からのアプローチも多くなってきており、顧問の公認会計士や税理士から、事業売却の提案があるケースも少なくありません。

事業売却の目的

事業売却の目的としては、以下のことが考えられます。

経営の効率化

経営の効率化を目的とした事業売却では、高収益の会社を目指して行われるのが常でしょう。また、近年はワーク・ライフ・バランスに目を向ける企業も増えています。従業員の雇用契約も多様化してきており、有能な人材の把握と確保においても、部署別の必要人員に変化が生じています。戦略に根差した最適な組織作りにおいて、事業売却が用いられることも少なくありません。

事業再生

事業再生が必要なシチュエーションには、1.赤字事業を抱え収益改善が見込めない場合と、2.資金繰りに問題を抱えている場合、が想定されます。

1.の場合、事業価値が低いことが想定され、債務が過多になりがちです。また、事業の収益性が低く新規事業への展開も遅くなりやすいでしょう。このほか、投資回収にも時間がかかり、新規投資へもままならない状態が続きます。すると、結果として、財務諸表が悪化し、企業価値の低下を引き起こします。

このとき、事業売却を行い、収益性の低い事業を売却すれば、企業全体の収益性が高くなります。売却で得た資金により、不足部分を補填できるほか、新たな投資も検討できるでしょう。     

2.の場合、事業のキャッシュフローが低下し、資金繰りに影響を及ぼします。このとき、事業売却を行えば、過剰な支払いを減らすことができ、結果として、事業価値を高めることができます。

事業継承

対象事業にはポテンシャルは認められているものの、後継者不足等により事業を取りやめるケースでも、事業売却がよく用いられます。たとえば、病医院の門前にある調剤薬局が代表例です。運営には薬剤師の資格が必要であるため、資格はあっても薬局を持たない人を包括承継で結びつけることで引き継ぎ、存続させるといった具合です。

「事業売却」と「会社売却」や「会社分割」の違い

事業売却は、事業の全部もしくは、事業の一部を売却する方法です。

事業売却と会社売却の違い

事業売却と会社売却の違いでは、売却範囲に違いがあります。事業売却の場合、売却の範囲は契約によって決まります。売り手・買い手、それぞれの判断によって選択が可能です。たとえば、事業Aは売却対象だが、B事業は売却対象にしない、であるとか、C事業のうち販売部門は売却対象とするが、生産部門は売却対象にしないなど、自由度が高い売却方法で、事業全体の売却も可能です。

会社売却の場合、会社で事業を行っておりますので、実施によって会社のすべてが売却されます。会社の持ち主は株主ですので、株式が売却され、会社自体の所有者が変わります。基本的に事業は中断しません。

経営権の移転は株式売却によって包括的に行われます。株式の時価評価を譲渡対象とし、売却価格は企業価値評価を行うことによって計算され、経営権の異動を行います。算定方法は営業利益をベースに算定され、のれん(企業のブランドやノウハウといった、目に見えない資産で将来収益に影響を及ぼす可能性のあるもの)や、純資産額および類似企業の株価算定なども考慮に入れられます。  

事業売却では、事業を一時的に中断せざるを得ないことも多いですが、会社売却では売却の最中も事業を継続することができます。

また、法人が所有する不動産を売却すると、譲渡益に税金がかかりますが、株式譲渡であれば不動産売買とは異なり、課税対象となりません。税務においてもメリットを発揮できるでしょう。  

このほか、会社売却であれば、従前の会社の持っていた、許認可をそのまま使えます。許認可の再取得が必要ないほか、取引先に影響が及ぶこともないので、取引先の承諾も不要となっています。

事業売却と会社分割の違い

事業売却と会社分割の違いは、会社の法人格がそのまま残るか、複数に分割するかにあります。会社分割のメリットは、対象会社の法人格は分割され、新たな法人が設立され会社の一部分がその会社によって継続できる点です。つまり、売却対象を選択して、不要な事業を売買することが可能です。

譲渡後にコア事業に経営資源を集中させ成長することが可能になります。逆に考えれば、主要でない事業を売却することによって、コア事業に集中させることができるでしょう。

一方、買収側も自社の希望に従い、事業ポートフォリオを組むことができます。シナジー効果や事業の集中における貢献度は、DDでその効果を確認してください。また、買収側は、簿外資産や負債など、不要な有形固定資産や無形資産を対象から除くことも可能です。

事業売却と合併の違い

事業売却と合併の違いは、売り手の法人格が消滅するかしないかにあります。事業売却の場合、売り手の法人格が消滅しないのに対し、合併はふたつの法人格がひとつに合わさるため売り手の法人格は消滅します。

事業売却では、各々対象資産が売却されることで、売却益が発生し税負担が発生します。一方、合併の場合、ふたつの財務諸表がくっつくイメージです。

合併では、個別の資産の多くは簿価での引き継ぎとなり、多くの場合、税務上譲渡損益は発生しません。また、営業権も無税で引き継ぎが可能なので、事業もシームレスで継続できるでしょう。また、合併に伴う資金の支払いも発生しません。

デメリットとしては、合併してできる会社の株主は、会社法上、合併(存続)会社の株式に、被合併(消滅)会社の株主に比率を乗じて合体させます。これは、二社間の株価に差異がある場合、公平になるように調整するための倍率(合併比率)になります。

よって、1社で大部分の株式を保有していたとしても、2社がくっつくことにより持株比率が下がります。すると、発言力が下がり、思い通りに経営ができない場合が生じるかもしれません。さらに、合併した相手の会社において、1株あたりの価値が高い場合、必然的に相手の株主の株数が増える結果となり、不合理が生じます。ご注意ください。

 

事業売却

会社売却

会社分割

合併

売手側の会社が残るか

×

事業の移動
(一部or全部)

全部・一部

全部

全部・一部

全部

コスト

大・中

大・中

税額

大・中

事務の手間

個別の契約が必要なので手間大

様式の譲渡のみなので手間小

会社分割手続なので手間大

合併手続なので手間大

 

事業売却の主な方法 

事業売却の主な方法は、事業譲渡と株式譲渡に分けられ、それぞれの特徴が結果に影響を及ぼしますので、注意が必要です。

事業譲渡

事業譲渡とは、企業が保有している事業の全部または一部を売買するM&Aの手法で、会社法に定められています。事業売却の手順は、取締役会承認→事業譲渡契約締結→株主への通知(事業譲渡の20日前まで)→株主総会決議 になります。

売手側の法人格は残り、事業を継続していくことを前提でとしています。ただし、二社間で資産が移動しますので、課税取引となり、節税にはなりません。

また、権利義務は売買によって引き継がれますので、個別での理解が必要です。このほか、雇用も自動的には引き継がれません。従業員などへ個別の説明が必要になるでしょう。事業譲渡の内容に、不動産等が含まれている場合、名義変更等が必要です。法書士等の専門家への依頼が求められるでしょう。

ちなみに、事業譲渡には、すべてを譲渡する全部譲渡と、一部を譲渡する一部譲渡があります。細かく定めることができるため、本業への選択と集中を考えて、譲渡範囲をご検討ください。

株式譲渡

株式譲渡は、譲渡対象企業の株主が保有する株式を売却することによって、経営権を移動させる方法です。比較的容易な方法で手続きすることができ、手続きにおいても難易度の低い方法と言えます。

中小企業の場合、オーナーが100%株式を保有している場合が多いため、比較的よく利用されるスキームであると言えます。また、譲渡は相対取引で行われることが多く、対価は固定されることも多いです。

また、事業も一体で譲渡されるため、移動の範囲が明確であるのも特徴です。のれんも一緒に譲渡するため、売買価格に含まれることが多く、個別の評価を算出する必要がありません。
株式譲渡により、他社の子会社になることで、企業価値を上げるケースも見受けられます。

【譲渡側】事業売却のメリット・デメリット

事業売却で事業を譲渡する際には、  メリット・デメリットを加味して進めてください。

事業を売却するメリット

一番のメリットは、契約によって売却範囲を限定することができる点です。売手側も買手側も、社名、株主、住所などが変わることはありません。また、売却した事業部門で働いていた従業員も、売却部門から配置替えなどで引き続き雇用することができます。

たとえば、業種や地域を考慮した事業売却は、一般的な契約でもよく見られ、FA(ファイナンシャル・アドバイザーの略で、M&Aにおける助言業務を行っている方)からの提案も多くなっています。対象部門の売却によって発生した経営資源を、主力事業に振り向けることで、黒字分野の拡大や収益向上に貢献できます。

また、株式譲渡で会社売却を行う場合、株式の譲渡には原則株主全員の同意が必要となりますので、これが譲渡の障害となる場合もあるでしょう。

一方、事業売却の場合は、株主総会の特別決議(総議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成が必要)により実行することができ、ハードルも比較的下がるが考えられます。

事業を売却するデメリット

デメリットは、事業売却により、買収価格に対する利益相当額が課税対象となり譲渡所得税が課税される点です。個人株主に対しては、譲渡所得として税率は所得税が約20%、法人株主に対しては、法人税が約34%になります。

一方、組織再編税制が適用される「合併」「分割型分割」「分社型分割」「株式交換」「株式移転」「現物分配」「現物出資」などのケースは、税額が繰り延べされ、実際の納税は発生しません。  

また、株式売却では、従前の旧オーナーとの契約関係が新オーナーに引き継がれますので、株式売却手続のみでほぼ手続きは終了します。一方、事業売却の場合、従前の旧オーナーとの契約は、売約時点で終了しますので、買収後の新オーナーは、多くの契約を新たに締結する必要があります。

取引先との基本契約や賃貸借契約、従業員の雇用契約など、重要契約の再締結は、煩雑で手間がかかりますが、重要な事項ですので確実に行ってください。さらに、事業譲渡後の事業遂行には制限がかかる場合もあります。

代表例としては、競業避止の問題がある場合です。会社法上、事業売却をした後は、同じ事業を一定の期間内、同一地域内で行えなくなります。契約書などに特約を設けた場合は30年間、当事者間になにも合意がなかったとしても20年間は競業避止義務が発生するため、注意が必要です。

メリット

デメリット

・法人格が残り、残存事業の経営が可

・継続したい事業に経営資源を集中できる

・会社法上の特別決議で実行可能

・租税負担が増加する

・手続きが複雑化し時間が必要

・譲渡後の事業が制限される可能性あり

【譲受側】事業買収のメリット・デメリット

一方、事業売却で事業を譲り受けする際も、メリット・デメリットを加味して進める必要があります。

事業を買収するメリット

譲受側にとって一番のメリットは、譲り受ける事業範囲を特定できる点です。つまり、会社全部を欲しい訳ではなく、A事業は欲しいけどB事業は要らないということもあるでしょう。これは、A事業は従来事業で進出している市場と親和性が高いからという理由だったり、あるいは、A事業は進出したいサービスを提供しているからという理由だったりするかもしれません。同時に、投資額を抑えて新規事業を開始することができます。

また、対象会社に紐づくリスク回避にもつながるでしょう。たとえば、過去の税務申告に対する税務調査が実施された場合、別法人になることによって追徴リスクを回避することができます。

また、過去の業務遂行上、発生した違法行為についても、新会社まで責任追及されることはないと思われます。ただし、引き受けた事業に完全に紐づいた違法行為であれば、新会社といえども責任追及される恐れがありますので、注意が必要です。

さらに、事業譲渡によって、投資額と譲渡対価との差額をのれんとして損金に計上することが可能となり、節税効果が認められます。のれんとしての経理は、株式譲渡では認められていません。

事業を買収するデメリット

会社一体としての譲渡ではなく、個別での譲渡となるために、基本的に時間がかかります。項目別に注意点を確認していきましょう。

・受取手形
譲渡会社から譲受会社へ裏書譲渡するだけで問題ありません。

・動産
第三者に主張するためには、引き渡しが必要になります。

・不動産やその他無形資産
登記や登録手続を行うことで移転されます。

・買掛金
債権者の同意が必要になります。

・その他契約関係
すべて再契約が必要となります。特に従業員との契約は個別契約になりますので、注意が必要です。

・許認可関係
すべて、再取得が必要です。自動的に旧契約者から移転することはありません。

なお、個別の資産売却に対しては、消費税が課税される場合があります。たとえば、建物等の動産の販売に関しては、消費税等10%が課税されます。土地には、消費税の課税はありません。一方、株式譲渡の場合は、消費税の課税はありません。また、許認可等については、自動で引き継ぎされませんので、再申請や再取得が必要となります。

メリット

デメリット

・取得する事業範囲を指定できる

・取得できる資産・負債・契約関係を制限

・節税効果がある

・手間、ヒマ、時間がかかる

・消費税の課税で税負担が増加

・許認可等再申請再取得が必要

事業売却の算定価格が高い事業の特徴

事業売却を行おうとする場合、バリュエーション(企業価値評価)を計算します。これは、将来の収益やキャッシュフロー予測を指標に計算されます。この算出は主に3つあります。

インカムアプローチ

インカム(収入)を基準に、評価対象企業の価値を計算する方法です。将来のフリーキャッシュフロー(FCF)に基づいて計算される方になります。評価対象企業が持つ強みと弱み、そこから予測される成長性を加味した価値を計算することができます。

コストアプローチ

コストを基準に、評価対象企業の価値を計算する方法で、貸借対照表に記載されている数値を、時価に修正して求める方法になります。簡易に計算できる点がメリットです。

マーケットアプローチ

マーケット(株式市場やM&Aの取引事例など)を基準に、評価対象企業の価値を計算する方法で、株式市場で、実際に取引されている株価の平均値から計算することができます。

以下でもう少し詳しく、事業売却の算定価格が高い事業の特徴を見ていきましょう。

利益率が高い

利益率の高い会社は、収益性が株価に紐づく、インカムアプローチによる価格が高くなると思われます。

独自性が高い

独自性の高い会社は、株式市場等でその経営スタイルを評価されやすい傾向です。マーケットアプローチによる価格が高くなると思われます。

財務状況が整理されている

財務状況が整理されていれば、3つの計算方法に適正に当てはめることができますので、
適正に評価されることから、高額の評価になる可能性があります。

事業売却における価値を算定する方法

事業売却においては、以下のような算定方法で事業価値を算出していきます。いくつか方法があるので、それぞれに合った方法をご検討ください。

マルチプル法

マルチプル法とは、企業価値や株式価値を算定する方法のひとつであり、M&Aの初期段階で活用される場合が多い、マーケットアプローチの一方法です。類似企業比較法ともよばれ、類似した上場企業の評価倍率をもとに利益などのKPI(重要業績評価指標)に倍率をかけることによって、対象となる企業を評価していきます。  

非上場企業の場合、具体的に明示される価値がないため、指標となる数値が出せません。そこで、類似する上場企業の利益や売上、純資産などの経営指標をもとにし導き出された倍率を乗ずることで、企業価値や株式価値を算出していきます。

具体的には、まず、評価対象となる上場企業を複数選択します。上場企業と非上場企業の場合、どうしても上場企業のほうが大規模であるケースが多いでしょう。しかし、中には上場企業でも小さい企業もありますので、なるべく近い会社を選び出していきましょう。

次の株式価値についても、EBIT(利払前・税引前利益とよばれ、税負担を考慮しない利益になります。EBIT=税引前当期純利益+支払利息―受取利息)、EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益とよばれ、減価償却費の影響を排除した利益になります。

EBITDA=営業利益+減価償却費)などを用いて算出します。ただし、見つからない場合も少なくないほか、事業内容により判断が難しい部分があります。算定者の裁量によって、大きく異なる場合もありますので、注意が必要です。

【計算例】
類似会社の株価が500円、発行済株式総数が百万株である場合で、EBITDAで評価する。
類似会社の時価総額=500円×100万株=5億円
当社のEBITDA=5,000万円、時価総額=4,000万円であった場合
マルチプルは、5億円/5,000万円=10 ∴ 当社の時価=4,000万円×10=4億円

※実際には、他の指標も加味して調整するが、ここでは省略。

時価純資産法

時価純資産法とは、非上場企業の価値を算定する場合によく利用される方法のひとつです。企業の保有資産の時価総額から、負債の時価総額を差し引いて企業価値を算出する手法で、M&Aで企業価値を評価する主要な方法となっています。

重要な点は、資産負債ともに簿価から時価に変換する必要がある点です。似た言葉で、簿価純資産額という言葉がありますが、財務会計上の帳簿価格がスタートとなっているため、数字の客観性明確となっており、信頼できるものになっています。

すべて、投資額を基本とした計算方法です。こちらの数値は、設立間のない会社であったり、不動産などの含み損益の可能性のある資産がほぼない会社であったりする場合は、評価はほぼ相違ないように思われます。計算も容易ですので、一応の確からしさはあると考えられるでしょう。

逆に、帳簿価格と時価に大きな隔たりがあるケースでは、実際の企業価値とは異なる可能性があります。勘違いされる方が多いのが、「時価評価すべきなのは預金や有形固定資産のみ」思っているケースです。のれんなどの無形資産や、借入金などの負債も時価評価が必要となるため、ご注意ください。

【計算例】
資産  (簿価)1,000  (時価)3,000
負債  (簿価)500   (時価)500
簿価純資産額=1,000-500=500
時価純資産額=3,000-500=2,500

年買法

年買法とは、営業権の価値に着目した評価方法です。時価純資産額に営業利益(あるいは経常利益)の数年分を加算した金額であり、実務上よく使われています。

相場として一般的にM&A価格は、「純資産+営業利益3~5年分」と言われています。これは、一般論で多いだけであり、決められた計算式がある訳ではありません。実際に業務を行っていくうえで、純資産に営業利益3~5年分を加算することで、売主買主ともに納得できるケースが多かったのでしょう。実務慣行によって定着しており、計算も容易であるため、非常に多くのケースで用いられています。場合によっては、後述するDCF法より利用されている業種も多いでしょう。

これは、のれん代を将来3年分であると期待してクロージングされていることにほかなりません。M&Aアドバイザーが有料の算定資料として、これを利用して譲渡対価を計算しているケースも多いようです。

年買法が市民権を得た大きな理由は、計算がシンプルでわかりやすく、それほど情報収集することがないからです。個人で簡単に、誰もが同じ数字をスムーズに算定することができ、売主買主双方が納得できる計算式と言えるでしょう。

また、財務諸表の貸借対照表と損益計算書の双方を使って、算定していることも合理性につながっています。貸借対照表からは純資産額が算出され、損益計算書からは営業利益が算出されます。

そして、当該営業利益が今後継続すると想定し、3年分の営業利益でのれんが算定されます。この将来性から、3~5年分というアローアンスにも反映されています。つまり、貸借対照表の純資産額は今現在の会社の価値を反映していると言えましょう。

ただ、今のまま経営を続けていても得られる価値があると言えます。その部分は売主の貢献によって買主に引き継がれていると言えますので、売買価格に加算するのが適当であるという理屈になります。

【計算例】
X0年期末      X1年      X2年      X3年
純資産額 10,000  営業利益 500  営業利益 500  営業利益 500
年買法 = 10,000 + (500+500+500) =11,500

DCF法

DCF法とは、正式名をディスカウントキャッシュフロー法と言い、将来キャッシュフローを現在価値に換算して、企業価値を評価する方法です。上場会社では一番ポピュラーの方法で、非上場会社の評価においても、この手法を利用するケースがあります。

自社の生み出す将来のキャッシュフローを割引率で調整することで算出。割引率は単なる資金の調達金利という訳ではなく、投資することに対するリスクを織り込んでの数字になります。

まずは計算するにあたり、フリーキャッシュフローの計算することが必要です。フリーキャッシュフローとは、税金の支払いを済ませたうえで、事業に必要な投資を行った後に債権者と株主に分配可能なキャッシュフローのことを指します。計算式は以下の通りです。

フリーキャッシュフロー = 営業利益 × (1-法人税率) + 減価償却費 ± 運転資本増減額 - 設備投資額

ここで計算されるフリーキャッシュフローは、債権者と株主に分配可能なものになりますので、支払利息は足し戻す必要があります。また、減価償却費は現金支出を伴わない費用になりますので、足し戻さなければなりません。売上債権および棚卸資産と買入債務の差額は、調整する必要があるほか、固定資産への投資を差し引きする必要があります。

このフリーキャッシュフローをベースに計算してみましょう。

DCF法の計算手順は以下です。 

1. フリーキャッシュフロー(FCF)を計算する

前述した方法で、フリーキャッシュフロー(FCF)を算出します。この部分が事業価値を算定するうえでの前提条件となります。


2. 割引率  (WACC)を計算する

DCF法の場合、将来発生するキャッシュフローを全部、今現在の価値に引き直して、その合計額を算出します。

割引率は、【1】と【2】の加重平均で計算されます。
【1】借入金等の他社資本による調達コスト(今回は2億円を2%で調達と仮定する)
【2】資本金等の自己資本による調達コスト(今回は8億円を12%で調達と仮定する)


この場合、
(2億円×2%+8億円×12%)/10億円=10% となります。


3. ターミナルバリュー(TV)を設定する

本来であれば、未来永劫に渡るまで事業計画を策定し、割引現在価値を算定し加算すべきですが、そうすると、事業計画策定の前提条件となる「確からしさ」が低下してしまいます。

事業計画の実現可能性における妥当性が不透明になることを避けるため、実務上、事業計画策定後の事業年度については、事業計画の最終事業年度以降、どの程度の成長率で伸長していくか仮定し、最終事業年度から未来永劫のFCF合計額を算出します。

4. 最後に現在価値に割り引いて  事業価値を算出する

今回は、評価事業年度をX年とし、将来事業計画からX+1年からX+5年までの5年間のFCFを10,000と仮定。毎年のFCFをX年の割引現在価値に計算し直します。

X+1年(1年後)  10,000÷(1+10%)1=9,090 ・・・A
X+2年(2年後)  10,000÷(1+10%)2=8,264 ・・・B
X+3年(3年後)  10,000÷(1+10%)3=7,513 ・・・C
X+4年(4年後)  10,000÷(1+10%)4=6,830 ・・・D
X+5年(5年後)  10,000÷(1+10%)5=6,209 ・・・E

次に、TVを算出します。(成長率を2   %と仮定)
TV=10,000÷(割引率10%―成長率2%)=125,000

さらに、X年の割引現在価値に計算し直します。
TVの割引現在価値=125,000÷(1+10%)5=77,615 ・・・F

AからFを合計すると、事業価値=115,521 となります。

事業売却の流れ 

事業売却については、以下のステップで進めることになります。

Step1.事業売却の検討と決定

まず、事業売却の目的を明確にします。事業売却の検討に至った理由を整理しましょう。目的を明らかにしたうえで、当該事業の会社内での役割と、他社に与える影響力を検討する必要があります。

売却によって当社に与える影響(メリット・デメリット等)を考え、この選択枝が最適なのかを検討し、本当に事業売却が最善の経営判断か、ほかの選択肢はないかを考えます。後戻りはできませんので、決定する前に、再度検討が必要です。

さらに、売却すると決めたのであれば、どのような企業に事業売却をするかを具体的にイメージし、売却するイメージを具体化していきましょう。また、いつまでに事業売却をするか決めることも重要です。そのうえで、会社の決定機関(取締役会等)での決議を受けて、会社としての方針を明らかにしましょう。

Step2.売却事業の整理

事業売却の会社としての方針が確定した段階で、アドバイザーを決め、契約しましょう。アドバイザーには自社の極秘情報を提供しますので、必ず、事前に秘密保持契約書の締結を行ってください。

この先、意思決定を行ううえでも、よき相談先になってくれるほか、案件情報や法務面での詳細情報を供給してもらえます。同時に、相手先の条件(業種・事業エリアなど)や希望売却価額の設定、決算資料(3期分)の用意をしておくとよいでしょう。

さらに、業者の費用を確認することも大切です。アドバイザーに要望を伝え、候補先を決める際は、価額だけでなくM&A後の事業にどのような効果・成長が見込めるかなどの点も考慮し、アドバイザーにリストの作成をご依頼ください。

Step3.売却先の選定

アドバイザーの作成したリストをもとに、社内で検討していきます。場合によっては、利益相反が発生する候補先もあるかもしれません。他社との契約内容を精査したうえで検討してみてください。

交渉相手については、アドバイザーの意見を参考にしたうえで、企業調査を行い、業界のうわさなども確認してみてください。ただし、あくまでも内密に進めることが重要です。

ここで言う内密とは、たとえ従業員であっても口外厳禁ということです。事業売却となれば、社員は自分の将来に不安を抱くかもしれません。うわさは瞬く間に広がりますので、注意が必要です。

会社として、交渉を行いたい相手先企業が決まったら、M&A仲介会社を通じて仲介交渉を打診します。M&A仲介会社が、会社を売り込む提案資料を用いてアピールしてくれます。あくまでも内密で、個別に1件ずつ行ってください。交渉を相手先へ打診し、双方がM&A交渉に前向きであれば、秘密保持契約を締結してから企業概要書を提出し詳細情報を開示します。

Step4.基本合意

事業売却の相手先が見つかったら、相手側と条件をすり合わせていきます。お互いに事業売却の話を進めたい場合は、経営者同士でトップ面談を行い、売却・買収に至った経緯や経営者としての理念・経営方針を話し合います。

条件が合い、ある程度の段階まで交渉が進んだら、買主から意向表明書を差し入れます。その後、基本合意書の締結を行うという形です。最終契約は未済ですが、基本合意書には手法の概要や譲渡価格、スケジュールなど、お互いが合意している内容をまとめます。

取引の片方が上場企業の場合、アーリーディスクロージャー(投資家に対して迅速かつ公平な情報開示を行うため、金融商品取引法や証券取引所で定める適時開示規則等を遵守した情報開示のこと)の観点から開示制度によって、情報が公に公表される場合があり、双方で開示内容についてすり合わせが必要となります。

また、事業売却の当事者の従業員にも、基本契約までには個別に話し合いをし、事業売却後の雇用契約についても話を進めておく必要があります。この部分での認識不一致は、契約整理の可否に大きな影響を及ぼすので、認識を統一するようにしてください。

Step5.監査(デューデリジェンス)

基本合意書締結後、買収側が実施する譲渡側企業の精密監査です。士業などの専門家が起用され、さまざまな観点から、譲渡側企業の調査を行います。これは、デューデリジェンス(以下、DD)とよばれ、DDの目的は、リスクの把握(隠れたリスクを顕在化させ、対象のディールの方向性を確認する)、リターンの把握(買収によるリターンを精査するとともに、既存事業とのシナジーを再確認する)、スキームや経営方針の決定(他のDDでの結果と合わせて、スキームを確定するための確認やビジネススキームや経営方針を確定する)、ことです。

主なDDは、以下の通りになります。 

1. 財務DD

企業の経営基盤は財務ですので、M&Aでは財務状況について、徹底的なデューデリジェンスが行われます。企業価値は、財務諸表から一義的に算出されますので、その内容が確かであるかを確認します。監査法人により監査が実施されている場合は、信用できますが、未監査財務諸表である場合、価値算定に影響が発生する可能性もあります。公認会計士や税理士に依頼することも検討してみてください。

2. 法務DD

弁護士等が実施し「契約や取引行為に違反はないか」、「訴訟はないか」、「事業の許認可は適正か」などについて、法律の観点から調査を行います。重大な問題が発覚した場合は、このような会社と関係を継続することは、コンプライアンス上問題があると見られる可能性があります。もし、コンプライアンス上の問題がないとしても道義的に問題があると見られるため、入念な調査を行うべきです。

3. ビジネスDD

売却側企業内部の調査を行うのではなく、売却側企業が行っている事業において、現状の市場動向など、売却側企業の外部環境を調査するものです。最新の傾向から、譲渡価格を検討できるため、より精度の高い判断につながるでしょう。

4. その他

これら以外にも、税務DD、人事DD、ITDD、環境DD、知的財産DD、顧客DD、不動産DD、技術DD等が必要になってきます。ただし、実務上において、これらのDDがすべて実施される場合は少ないと考えられます。

しかし、必要のない情報という訳ではありません。これらを調査しない訳ではなく、前述のDDの実施範囲決定する段階で、これらのDDの守備範囲を含めて計画されるのが通例です。

たとえば、法務DDについては、実施計画を決める際、従業員の雇用関係をリスクと考え調査範囲に含める場合がよくあります。これはすなわち、人事DDでもあるといった具合です。

Step6.取締役会での承認決議

取締役会が設置されている企業の場合は、取締役会での決議を行ったうえで事業譲渡を行う必要があります。ただし、社内でどのように進めるかはコンプライアンスの問題もあり、社内規定に定められていることが多いです。

そもそも、事業譲渡を進めることに、取締役会での承認が必要な場合もあるでしょう。ちなみに、筆者が元在籍した会社ではそのような取り扱いでした。

そこまでは必要なく経営会議や常務会等で内諾を得て手続きを進め、後述の事業契約書の締結直前での取締役会の承認決議でよいとされている会社もあるかと思います。もっとも、いきなり取締役会に上程しても普通承認は得られませんので、根回しは必要になるでしょう。

Step7.事業譲渡契約書の締結

事業譲渡の内容に合意したら、事業譲渡契約を締結します。ただし、この契約を行っても即座に効力は発生しません。後述する手続きを行った後、実際に契約の効力が生じます。よって、契約締結後の手続きが重要であることがわかります。

譲渡に伴って発生が想定されるリスクにおける責任の所在や対応についても事細かに指定する必要があり、その詳細も記載する必要があります。また、事業譲渡契約では事業譲渡の目的や譲渡財産などの事項を記載しています。売り手の会社は事業内容のうちなにを譲渡するか、買い手の会社はなにを譲り受けするか、記載する必要があります。

Step8.移転手続き

事業譲渡を行う企業は、会社法によって、公正取引委員会へ届け出が必要になったり、臨時報告書の提出が必要になったりする場合があります。各所への届け出をしなければ、正常に経営を続けていくのが難しくなるケースもあり得ますので、事前に確認しておきましょう。

Step9.株主への通知・公告

事業譲渡は株主総会の特別決議で承認されることにより、効力は発生します。その前段階として、臨時株主総会を招集しなければなりません。効力発生日の20日前までに、事業譲渡を実施する内容や株主総会を開催する内容を、株主に対して周知してください。この方法は会社の定款によって定められており、官報公告や電子公告で周知することになります。

Step10.株主総会の特別決議

事業譲渡を行う当事会社は、効力発生日前日までに株主総会の特別決議で承認を得るのが会社法で定められています。事業譲渡の特別決議は、特例を除き、議決権の過半数以上を持つ株主が出席をし、その3分の2以上からの賛成が必要です。

Step11.関係各所への届け出

事業譲渡契約書の締結を終了後、報告書の提出と届け出を行います。社内で事業売却の情報を保管しておくためにも重要な書類です。この段階で臨時報告書の提出と公正取引委員会への届け出を行います。

事業譲渡契約書の項目

事業譲渡契約書に必要な項目

事業譲渡契約書に必要な項目は、

  1. 事業譲渡の目的 
  2. 事業譲渡の対象 
  3. 支払条件・支払方法 
  4. 譲渡金額 
  5. 譲渡資産の範囲 
  6. 善管注意義務 
  7. 従業員の引き継ぎ 
  8. クロージング条件 
  9. 表明保証 
  10. 競業避止義務 
  11. 租税公課の精算 
  12. 損害賠償 
  13. 契約解除 
  14. その他一般条項(秘密保持、譲渡期日、合意管轄など)

になります。

事業譲渡契約書の雛形

事業場地契約書に雛形につきましては、経済産業省が公開している資料があります。こちらに準拠いただいて、作成してみてください。

【譲渡側】事業売却にかかる主な税金

事業売却では、譲渡側、譲受側それぞれに税金が発生します。
まずは、譲渡側にかかる税金から見ていきましょう。

法人税

法人税は、譲渡した資産の簿価を対価として得られる金額から控除した差額に対して、税率を乗じて算出した金額になります。税率は当該会社の種類や資本金等の額等の状況により異なりますが、実効税率は約34%です。各資産一点一点で作業が必要になりますが、一概に言うと、譲渡側の事業資産と負債の差額を超えた売却金額が譲渡益として課税対象です。

消費税

消費税は、事業譲渡の場合、「課税資産」の譲渡と「非課税資産」の譲渡で消費税が課税されるか否かの違いが発生します。

「課税資産」
・土地を除く有形固定資産・・・具体的には、建物・建物付属設備・機械装置・車両運搬具・器具備品などが対象
・無形固定資産・・・具体的には特許権・商標権などが対象
・棚卸資産・・・具体的には商品・製品・仕掛品・原材料・消耗品などが対象
・のれん(営業権)

 

「非課税資産」
・土地
・有価証券・・・具体的には株式・債券などのいわゆる有価証券
・債権・・・具体的には、売掛金・受取手形・未収入金などが対象

消費税は1989年に税率3%から導入されましたが、段階的に引き上げられ2019年10月には一部食品などを除いて10%に引き上げられ、今後も引き上げられることが、うわさされています。事業譲渡における消費税は、「課税資産額×10%」で計算でき、非課税資産額は税額に影響を及ぼしません。

【譲受側】事業買収にかかる主な税金

続いて、譲受側にかかる税金を見ていきましょう。

消費税

消費税は事業譲渡側に課せられる税金ですが、相対取引により事業譲渡契約の対価の額に含まれる結果、実際の負担者は事業譲受側です。つまり、譲渡側に課税された消費税は、そのまま譲受側が譲渡代金に転嫁され、負担することになります。

ただし、譲受側が負担した消費税は、消費税法上、他の取引で消費税を受取側になった場合、控除できる場合があります。その場合は、消費税課税事業者になっておく必要があることと、消費税課税方法が本則課税制度を選択する必要がありますので、注意が必要です。

不動産取得税

事業譲渡により不動産を取得した場合、不動産取得税がかかります。不動産取得税とは、土地や家屋を取得した場合に納める税金のことです。こちらは賦課課税ですので、不動産登記の異動を確認のうえ、納付書が送られてきます。

不動産取得税の納税通知書は、不動産の所有権移転の登記をしてから約4〜6ヵ月後に届き、支払いのタイミングは一度のみとなります。そのため不動産取得税は、不動産の取得日の半年から1年後に支払うのが一般的です。不動産取得税の課税額は、取得価格の3%であり、不動産価格が高額であり、取得者が意図しないタイミングで支払いを催促されますので、注意が必要です。

登録免許税

事業譲渡について、譲り受け(取得)した財産の中に不動産がある場合、登録免許税が課されることがあります。こちらは、所有権移転登記を行う際に、登記申請と同時に支払ってください。土地の売買取引に伴う登録免許税の課税額は、「土地の価格×20/1000」と、高額になりますので、事前の準備が必要です。

【譲渡側】事業売却に関する会計処理

事業売却では、内容に応じた会計処理が求められます。
まずは、譲渡側の会計処理から見ていきましょう。


*会計処理の解説
事業譲渡の際は、譲渡される資産を簿価で、自社の貸借対照表から消去します。その資産を譲受側に移転する仕訳は、時価で売却価格を決めなければなりません。これは税務上も要請されており、この差額は「事業譲渡益(損)」と認識されます。


*仕訳例
譲渡資産・負債は以下の通りです。(譲渡価格:500,000)

 

簿価

時価

差額

棚卸資産

10,000

10,000

0

土地

200,000

300,000

100,000

建物

50,000

30,000

20,000

機械装置

100,000

90,000

10,000

特許権

2,000

2,000

0

商標権

1,000

500

500

(合計)

363,000

432,500

69,500

現金預金 500,000   /     棚卸資産       10,000
                 土地         200,000
                 建物         50,000
                 機械装置       100,000
                 特許権        2,000
                 商標権        1,000
                   事業譲渡益    137,000

【譲受側】事業買収に関する会計処理

続いて、譲受側の会計処理を見ていきましょう。

*会計処理の解説
事業譲受の際、譲り受けされる資産は時価で受け入れることになります。ただし、事業売却価格は売主買主との契約で定められますので、時価譲渡価格の合計と事業売却価格の合計は一致しないことが、しばしば見受けられます。この差額は、その会社の持つ営業権であると考えられますので、「のれん」として計上します。のれん代により売却価格が時価総額を下回る「負ののれん」が発生する場合もありますが、そのまま処理をすることになります。


*仕訳例
譲渡資産・負債は以下の通りです。(譲渡価格:500,000)

 

簿価

時価

差額

棚卸資産

10,000

10,000

0

土地

200,000

300,000

100,000

建物

50,000

30,000

20,000

機械装置

100,000

90,000

10,000

特許権

2,000

2,000

0

商標権

1,000

500

500

(合計)

363,000

432,500

69,500

棚卸資産    10,000   /   現金預金  500,000
土地      300,000
建物      30,000
機械装置    90,000
特許権       2,000
商標権          500
のれん     67,500

事業売却の成功事例

事業売却の成功事例を確認し、自社で事業売却を行う際の参考にしてみてください。

事例1:買収企業を子会社化し、グループ経営で収益を拡大

*売却企業の概要
印刷会社 従業員50人未満 印刷事業を営む。 特に衛生管理を徹底しており、食品パッケージ・医薬品関連の印刷に強み

*買収企業の概要
印刷会社 従業員300人未満  印刷事業、メディア事業、デジタルソリューション事業

*事業買収の背景・目的
譲渡側の救済を目的ではあるが、将来的にはグループ経営を指向

*事業買収が成立に至った経緯
M& Aによる売上・コストシナジーの創出や、 両者製品/サービスのクロスセルによる新たな価値提供を期待

事例2:中型レストラン経営へ、新たな業務展開

*売却企業の概要
飲食店経営

*買収企業の概要
アパレル企画・小売業 従業員数10人未満 靴 / アパレル等の輸出入および企画 ・ 小売

*事業買収の背景・目的
双方のM&A目的が一致したことにより既存事業のシナジーを狙う

*事業買収が成立に至った経緯
飲食店運営にかかる人員の確保とコストシナジーの実効性検証に向けた経営管理方法の見直し

事例3:生産力と開発力を統合し、両者が一致団結できるWin-Winの協力体制の構築

*売却企業の概要
電気電子に関わる設計・製造業 従業員数50人未満 プリント配線基板の設計、 製造を中心に、 実装までサポート

*買収企業の概要
製造業 従業員数50人未満 プリント配線基板の設計、製造、実装・組立および銘板の製造

*事業買収の背景・目的
譲受側は、数社の取引先に依存する請負体質であり、経営構造を変革できない点に課題を感じていました。そこで、自社の強みである生産力と、譲渡側の強みである開発力を掛け合わせることで、設計・製造・販売の総合力を高め、顧客に提供する製品品質および付加価値の向上が実現できると見込み、譲渡側を譲り受けることとなりました。

*事業買収が成立に至った経緯
統合シナジーの発揮に向けて、社長が議論のベースで準備し、その後、現場担当者同士でありたい事業ビジョンを協議した結果、意見が一致。事業買収へとつながりました。

事業売却を検討する際の注意点   

事業売却を検討する際には、事前に注意点を抑えておくと、効率よく進めることができます。

負債の継承は話し合いで決まる

事業売却を行う場合、負債の承継をどうするかという論点があります。負債を譲受側に承継した場合、企業価値としては減価され、将来キャッシュフロー低下につながります。

ただし、譲渡側の借入金は消滅(減額)されることで、仮に譲渡側の社長が金融機関借入の保証人になっている場合、保証人から抜く、あるいは譲受側に社長に保証人を変更する手続きが必要です。

負債を譲受側に承継しない場合は、譲渡側は自身で借入金返済を実行し、保証人を抜くことになります。その分、事業価値が高くなり、より高値の取引となるでしょう。つまり、当事者間の話し合いで、その後の手続きが変わってきます。

交渉内容は客観的に判断する

自社だけでなく、他社や売却する事業の業界自体も調査しなければなりません。譲渡予定の事業自体に買い手需要があるのか、業界の成長性や顧客ニーズなどから分析し、妥当性のある契約を目指します。

あらかじめ妥協点を決めておく

売り手はより高額で、買い手はよりお値打ちでの取引を望みます。しかし、相手あっての取引あっての取引ですので、自分の利益だけを主張すれば、契約自体が破談になる可能性があります。無理のない交渉に心がけましょう。

事業売却についてよくある質問

事業売却に向け、よくある質問とその答えについても確認しておきましょう。

事業売却にはどのような種類がありますか?

事業売却には、大きく分けて、以下4つに分けられます。

1.自社が今後も存続する「事業売却」
業全部ないしは個別に他社に譲渡するものの、重要な範囲に特定し取引を行うというものです。よって、事業別に譲渡を判断することができます。営業権そのものは譲渡しない方法で、営業権を譲渡する場合には、営業権そのものを無形資産として譲渡する形になります。

2.会社の株式を買手に譲渡する「株式譲渡」
経営権は譲渡されますが、譲渡株式数の多寡によっては経営権が残る方法です(一部譲渡の場合)。会社を共同経営に移行させる場合等で、利用される方法で、比較的、容易な方法になります。

3.事業の一部または全部を他社に移転する「会社分割」
会社法上の会社分割手続を介して行う方法です。納税負担を減らして事業移管することが可能となります。ただし、手続きは比較的複雑になります。

4.複数の会社を統合してくっつける「合併」
会社法上の合併手続を介して行う方法です。経営統合を行う場合に用いられます。許認可が必要な事業の場合、再取得する必要はありません。


事業売却をする主な理由は何ですか?

事業売却の理由には、以下などがあげられます。

1.不採算事業の売却
不採算事業を持っていることによって、自身全体の利益が下がったり、キャッシュフローが減ったりする、問題が生じます。不採算事業を売却することにより、自社事業の価値を上げることができる手段となる可能性があります。その結果、発生したキャッシュフローを主力事業に注力することが可能です。

2.後継者問題
技術やノウハウ、顧客を保有しているにもかかわらず、後継者がいないため、安定的に事業継続ができないケースもあります。特に、今いる社員の今後の雇用のため、さまざまなプロセスを展開できる事業売却に踏み切るケースがあります。

3.個人保証解除
後継者問題とパラレルで起こってくる問題が、個人補償の問題です。中小企業の場合、事業拡大する段階において、個人の財産では資金が不足するケースが多いです。すると、金融機関の借入金での資金調達に頼らざるを得ず、代表者による保障が実質的に義務となっています。そして今後、借入金が返済されない限り、保証人はついて回ります。

ご子息等が事業承継された場合は、保証人を引き継いで続けることも可能ですが、継承が難しい場合は、事業売却により対価を受け取り、保証人を解除することができます。

事業売却とM&Aの違いが知りたいです

M&Aと聞くと事業売却をイメージされる方が多いですが、M&Aはもう少し広範囲な内容を示しています。事業売却とは、会社の事業の一部または全部を売却することです。売却は、金銭による有償取引を指すため、事業売却の場合、事業を有償取引することにあたります。

一方、M&Aは、会社の合併や買収を広く指し示しています。もう少し細かく言えば、M&Aは、1.事業譲渡、2.株式譲渡、3.会社分割、4.株式交換・移転、5.合併、6.第三者割当増資の6つに分類できます。よって、M&Aにあたる項目のうち、事業を金銭によって有償取引するのであれば事業売却となります。   


事業売却時に気をつけるべきリスクは何ですか?

まず、最初に行うべきなのは、双方で秘密保持契約を締結し、会社情報の流失に備えことです。事業売却時には秘密情報を売主(候補者)から買主(候補者)に渡すことによって、条件を決めなければなりません。最終契約を締結する前に秘密情報を提示してマッチングを行います。このことによって売主にとっては大きなリスクになりますので、確実に締結するようにしてください。

次に、実務上で気をつける点です。事業売却は事業自体を金銭で評価し、対価として金銭をお支払いする契約になっている関係上、当該評価が正当なのか正当でないかは、一目ではわかりません。日頃、我々がお目にかかることのない、用語や概念が出てきますので、事業売却をサポートしてくれる、信頼のおける人、ないしは法人が必要です。

加えて、特に事業撤退時には、法律上や通念上、さまざまな問題点があります。具体的には、1.労働争議リスク、2.取引先との紛争リスク、3.レピュテーションリスク(ブランドの棄損、企業価値・信用の低下)などがこれに該当します。非常に影響が大きいリスクですので、専門家の活用をおすすめします。

事業売却後の従業員の扱いはどうなりますか?

事業売却の際、従業員の処遇については、売却側と社員・従業員との雇用契約は、売却と同時に終了します。しかし、「従業員は家族と同様」と考える日本の美学から、その後、働き続けるケースが多いでしょう。

継続的に働き続けていても、法律上、労働契約は引き継がれませんので、売却側と買収側が合意したうえで、買収側に移籍・転籍させる社員における個別の同意書が必要になります。実務上は、従前どおりの雇用契約(賃金・就業規則・就業場所等)は同一にするケースが多い印象です。

また、場合によっては、売却側を退職した段階で、解雇予告手当や会社都合退職金の支払いが必要になりますが、事業売却等の場合は、従業員に対する債権債務も引き継がれるように契約がなされるのが一般的です。上記のような金額の精算は、売却価格に上乗せされるケースが多いでしょう。

事業売却にはどのくらいの期間がかかりますか?

事業売却の期間は、ケースによってまちまちです。一般的には3ヵ月程度、長ければ6ヵ月から12ヵ月程度、事例によってはそれ以上かかるケースも珍しくありません。特に、売り手が赤字企業の場合、難航するケースが多いです。

事業売却の候補先が決まっている場合はほとんどありませんので、それを決定することが必要です。まずは、機密保持契約書を作成したうえで相談先を決定しましょう。

我々個人が見込み先を探すのは困難であるため、アドバイザーを利用するケースがほとんどです。できるだけ、見込み先を多く用意できるアドバイザーを探してみてください。金融機関など、ネットワークが広いM&A会社が望ましいでしょう。

M&A会社は御社のノンネームシート(御社の概略情報を載せた買収打診シート)を作成のうえ、買い手探しを始め、条件交渉、基本合意契約締結、クロージングへと進んでいきます。これらにどれくらい時間がかかるかは個々の案件によって異なるため、期間は決められないのが実情です。

事業売却後、元オーナーがその事業に関わることはできますか?

事業売却の際、元オーナーは将来的に引退することが一般的です。ただし、一定期間、たとえば、顧問等の肩書で残っていただくケースは少なくありません。ある程度の報酬を支払って(受け取って)、それなりの日数ご出勤いただくこともひとつの方法です。

残っていただく理由は、従業員さんの不安を解消するためです。いきなり知らない人がトップになると、従業員は戸惑い、自分の将来に不安を覚えるかもしれません。新オーナーにとっても、従業員との間合いを元オーナーが埋め合わせてくれるでしょう。

また、取引先さまも、いきなり知らない新オーナーとの取引には、不安があるかもしれません。個人的なつながりもあった場合ですとなおさらのことでしょう。ご退職の際には、スキーム上元オーナーには退職金が支給されるケースが多いです。気持ちよくご退任いただく、いいきっかけとなるでしょう。

まとめ

かつては、事業売却や株式売却といった、比較的シンプルなスキームによるM&Aが行われてきました。近年、事業再編の活発化に伴い、より使い勝手のよい方法や、コストが少ない方法が要望され、会社法やそのほかの法律が整備されてきています。

合併、会社分割・移転が新設され、便利になった部分もあるものの、逆に不都合が見受けられる部分もあるでしょう。これを逆手に取れば、アイデア次第でスキームは無限に構築できます。事業売却の際には、それぞれのメリット・デメリットを十分理解したうえで、最適なスキームを検討してみてください。

この記事の監修者

竹中 啓倫

税理士/米国税理士

竹中 啓倫

竹中啓倫税理士事務所代表。M&Aなどの事業再編を得意とし、財務分析だけでなく、資金調達やリスクマネジメントのコンサルなども担当している。また、セミナーや研修会講師としても活動。税務系の資格のほか、認定心理士・宅地建物取引士・1級FP技能士・CFPなどの資格も保有している。

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