CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.04.30
- 更新日2025.04.30
動物病院業界のM&A・事業承継の動向と最新事例、メリットについて解説
動物病院業界では少子高齢化や経営者の高齢化、競争の激化などの課題が浮上しており、これに対応するためにM&Aや事業承継が大変注目されています。
本記事では、動物病院業界におけるM&Aや事業承継の事例、最新の動向やメリットについて解説します。
目次
動物病院の現状と課題
動物病院では獣医師が中心となって診療を行い、動物看護師などの専門スタッフもサポートします。犬や猫が主な診療対象ですが、ウサギやハムスターなどの小動物、中には牛や馬などの大動物も診療する病院があります。
動物病院の開設数とペットの飼育数
動物病院や動物診療施設は年々増加しています。【引用】農林水産省「飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)」より作成
農林水産省の調べによると、飼育動物診療施設の開設数は毎年増加しており、2023年は2015年の統計開始以来、過去最高の16,825件となりました。施設数の増加は競争の激化をもたらすため、経営を安定させるための対策は必須となります。
一方で、少子高齢化により年々人口が減少しています。動物やペットの飼育状況はいかがでしょうか。ペットに代表される「犬」の登録者数は減少しています。
【引用】農林水産省「都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等(平成26年度~令和5年度)」より作成
厚生労働省の調べによると、全国の犬の登録頭数は年々減少しています。特に2015年から2020年にかけては急激な減少です。減少の原因として、まず少子高齢化による人口減少により、ペットを飼う人口が比例して減少していることが挙げられます。
なお、この減少は大都市を除いた都道府県で顕著です。東京都や大阪府は登録頭数が増加しているため、全国の登録頭数の減少は、地方の影響が大きいでしょう。さらに、国内の世帯の変化が大きな要因となっています。
【引用】総務省「第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長 単独世帯率の推移と65歳以上の単独世帯数の推移(2020年以降は予測)」
総務省によると、単独世帯(割合)は毎年増加しています。犬の登録頭数が急激に減少した2015年~2020年は、65歳以上の単独世帯数も急激に増えています。
経済や世帯の変化は飼育状況に影響を与えることもあります。今後の経済状況によってはさらに飼育数が減少する可能性があるでしょう。
マイクロチップ装着について
2022年から狂犬病予防法により、マイクロチップの装着が義務付けされました。
令和元年6月19日に公布された、動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(以下「動物愛護管理法」という。)により、犬猫等販売業者に対するマイクロチップ装着等の義務化に関する規定が令和4年6月1日から施行され、動物愛護管理法第39条の7に基づく「狂犬病予防法の特例制度」が開始されました。
【出典】厚生労働省「マイクロチップの装着等の義務化に係る狂犬病予防法の特例に関する対応について」
マイクロチップ装着の主な目的は迷子や災害時の飼い主特定です。マイクロチップ装着の影響が飼育数に与える影響が全くないわけではありませんが、要因としては比較的小さいです。
動物病院のM&Aの動向
少子高齢化や国内の経済・世帯の変化により、ペットの飼育数は減少しています。一方で動物病院や飼育動物診療施設は増加しているため、ライバルの事業が多い中、減り続ける需要の中で経営をしていく過酷な状況となっています。
さらにこの状況は都道府県によって大きく異なります。
厚生労働省の「都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等(平成26年度~令和5年度)」の2023年のデータによると、以下の特徴があります。
- 東京や大阪などの人口が多い大都市は犬の登録頭数が多い
- 地方にあたる都道府県だけで見ても登録者数の差が激しい
(例:三重県と滋賀県では、隣の都道府県なのにもかかわらず、33,575件の差があった)
このように動物病院の経営の難易度は地方によっても異なります。実際に自身の事業がある地域だけでなく、他の地域にも目を向けることも大切です。近年、動物病院業界では安定した経営を実現するためにM&Aを実施する事業が増えています。
M&Aは、M&AはMergers and Acquisitionsの略称で、合併と買収を指します。企業または事業の全部や一部の移転を伴う取引で、会社もしくは経営権の取得をします。
M&A実施により、M&Aを行う相手企業の資金力や経営力を活用したり、既存の医療機器や雇用を活用することが可能です。さらにM&Aは後継者問題の解決につながります。
【引用】中小企業庁「2024年版 事業承継・引継ぎ支援センターの相談社数・成約件数の推移」
M&A・事業承継の公的な支援機関である事業承継・引継ぎ支援センターにおいても、相談件数が急増している状況です。M&Aを経営戦略の一つとして考えてみることをおすすめします。
動物病院のM&Aの相場・費用
ここでは動物病院の買収・売却に伴う相場や費用について解説します。費用についても理解し、万全な状態でM&Aに臨みましょう。
買い手と売り手の費用
M&Aにかかる費用は、買い手と売り手で異なります。買い手は買収対価(株式や事業の購入金額)に加え、以下のものが必要になります。
- デューデリジェンス費用(財務・法務・税務等の調査費用)
- アドバイザリー費用
- 弁護士費用
- 登録免許税などの各種税金
- PMI※に関連する費用
一方で、売り手は事業や株式を購入しないものの、M&A仲介会社などの専門家に支援を貰った際に、専門家に支払う手数料が発生します。
M&A仲介会社から支援を貰う場合は、以下のような費用が挙げられます。
- 相談料
- 着手金
- 月額報酬(リテイナーフィー)
- 中間報酬
- 成功報酬
各仲介会社によって料金体系は異なるため、確認が必要です。その他にアドバイザリー費用や弁護士費用、税金(売却益に対する税金など)もかかることがあります。M&Aを検討している方は複数の会社の料金体系を比較しましょう。
売り手向けの費用や完全成功報酬について以下の記事でも解説しています。気になる方は併せてご覧ください。
【参考】M&Aの完全成功報酬とは?メリットやデメリット、会社選びのポイント
※PMI…企業の合併や買収後の統合プロセスを指します。
動物病院業界の相場・費用
動物病院のM&Aを行う際に、価格に影響を与える要因の例は以下の通りです。
- 立地条件
- 病床数と稼働率
- 診療科目の構成
- 医療スタッフの充実度
- 設備の新旧
- 地域における競争環境
- 将来の収益性予測
- 評判
- 顧客層、取引先との関係 など
これらを加味して、売却益や費用が決定されます。規模や複雑さにより変動することが多いので、この点は事前にM&A仲介会社に相談することがおすすめです。
動物病院がM&Aを成功させるための3つのポイント
ここでは、動物病院がM&Aを成功させるためのポイントを3つ紹介します。
M&Aの目的の明確化
M&Aの目的を明確にすることで、適切な買い手を選定し、交渉を有利に進めることができます。また、M&Aがもたらす目標が明確なため、その目標に向けて円滑な譲渡が期待できます。
特にPMIを意識したM&Aは大切です。PMI(Post Merger Integration)は、M&A成立後に、異なる企業文化や業務プロセスを統合し、シナジー効果※を最大化するためのプロセスを指します。
PMIについては別記事で詳細に解説しています。こちらも併せてご覧ください。
【参考】M&AにおけるPMIとは?意味や目的、タイミング、成功させるためのポイント
※シナジー効果…2つの企業が統合することで、単独では得られない価値や利益が生まれることを指します。
異業種も含めて選定
M&Aの相手選びでは、異業種にも目を向けることが大切です。異業種の事業とのM&Aにより、新たなスキルや知識を取り入れることができれば、競争力を強化する可能性があります。
例えば、IT企業とM&Aを行うことで、最新の技術を導入し、診療の効率化やサービスの向上を図ることができるかもしれません。動物病院の成長や競争力強化を考えるなら、異業種とのM&Aも選択肢に入れるべきです。
サービスの充実を意識
サービスの充実は顧客満足度の向上につながり、リピーター顧客の増加にも寄与します。例えば、新しい専門診療科を導入する企業とのM&Aを行えば、幅広いニーズに対応できるようになります。
顧客にとってより魅力的なサービスを提供するために、M&Aを通じてサービスの充実を図りましょう。
動物病院のM&A・事業承継の事例
ここでは過去に実施されたM&Aの事例について紹介します。事例を参考に、今後のM&Aに役立てましょう。
Withmalが札幌総合動物病院を譲受
株式会社Withmalは札幌総合動物病院を譲受しました。
札幌総合病院は、札幌市の厚別と北郷にある動物病院です。犬・猫をはじめ、小動物や牛、馬などの大動物など、総合的に年中無休で診療を行っています。一方でWithmalは、全国に複数の動物病院を運営しています。地域社会を重視し、利益だけでなく動物とその飼い主に寄り添った医療を提供することをモットーに地域貢献しています。
札幌総合病院は後継者問題を抱え、経営の引き継ぎ先を探していました。Withmalは理念が一致し、質が向上することが見込まれ、その後M&Aが行われました。地域の信頼を維持しつつ、withmalの持つ経営資源やノウハウを活用していくことが見込まれます。
【出典】Rakuten Infoseek News「【M&Aご成約】北の大地で動物を救い続けて41年。地域密着の動物病院がM&Aで新しいリーダーに事業承継へ。」
A’alda Japanが松原動物病院を譲受
A’alda Japan株式会社が松原動物病院を譲受しました。
松原動物病院は、大阪府松原市(本院)と大阪市北区(医療センター)に位置し、地域に根ざした動物医療を提供しています。一方でA’alda Japanは、「Pet to Partner~人とペットが幸せに暮らせる社会をつくる」という理念のもと、国内外で動物病院事業を展開しています。
A’alda Japanは動物医療の質向上とサービスの拡充を目的とし、松原動物病院とM&Aが実施されました。なお、このM&Aは100%子会社である株式会社A’alda Animal Hospital SPC2号を通じて行われました。獣医師数の不足や医療技術の専門化・高度化といった業界の課題に取り組むことが期待されています。
【出典】A’ALDA Ltd.「松原動物病院の承継に関するお知らせ」
バイタルケーエスケーHDがアローメディカルを譲受
バイタルケーエスケーホールディングスがアローメディカル株式会社を譲受しました。
アローメディカルは、ウェルチ・アレン社※製獣医用診断機器の日本総代理店です。1978年から蓄積された知識と経験から動物病院の新規開業もサポートしています。
一方でバイタルケーエスケーホールディングスは、医療品総合商社です。医療機関だけでなく、自治体・介護事業者など多くの地域のヘルスケアの提供者とネットワークを構築しており、地域のヘルスケアの課題の解決に取り組んでいます。
関東エリアにおける動物用医薬品の販売網を拡大する目的で、アローメディカルの買収が行われました。これまで東北、新潟県を中心に事業を展開してきたバイタルケーエスケーホールディングスにとって、大きく事業を拡大するきっかけとなりました。
【出典】M&A Online「バイタルケーエスケー・ホールディングス<3151>、動物用医薬品・医療機器販売のアローメディカルを子会社化」
※ウェルチ・アレン…アメリカの医療機器の中心とする、オプトエレクトロニクス製品のメーカーを指します。
イオンペットが東京イースト獣医協会動物医療センターを譲受
イオンペット株式会社は株式会社東京イースト獣医協会動物医療センターを譲受しました。
東京イースト獣医協会動物医療センターは「飼い主さまのかかりつけ動物病院に代わって夜間救急診療を施し、翌日にはホームドクターに必ずお返しする」という理念のもと、夜間救急診療を行ってきました。一方でイオンペットは、「動物と人間の幸せな共生社会の実現」を目指し、ペテモブランドの下で、動物病院やグルーミングサロン、物販店舗などを全国的に展開しています。
動物病院間の連携を強化し、エリア全体の動物医療の水準を向上させることを目的とし、東京イースト獣医協会動物医療センターとM&Aが行われました。東京イースト獣医協会動物医療センターは夜間救急診療が強い側面もあり、今後夜間の連携でさらに動物医療水準を引き上げることが期待されています。
【出典】イオンペット株式会社「株式会社東京イースト獣医協会動物医療センターの全株式の取得および子会社化のお知らせ」
動物病院を売却・譲渡するメリット
ここでは動物病院を売却・譲渡を行うメリットについて解説します。
後継者問題の解決
M&Aは後継者問題を迅速に解決する手段としておすすめです。
【引用】中小企業庁「2017年 後継者の有無別に見た、売り手としてのM&Aの目的や想定する効果」
中小企業庁の調べによると、後継者不在の売り手がM&Aに求める目的として「事業の承継」と回答した企業が70.0と、高い数値を示しました。承継でM&Aを活用する企業が多いということが読み取れます。
「親族にも病院内にも承継できる人がいない」という方はM&Aを活用して、第三者に病院や事業を引き継ぐことを検討しましょう。
買い手の資本力による安定経営
買い手企業は豊富な資本を持っていることが多く、施設の改善やサービスの拡充、最新の医療機器の導入などが期待できます。その結果、経営がより安定し、競争力が向上します。
シナジー効果が生まれれば、事業の安定はもちろん、事業拡大や事業成長も可能です。買い手の選定についてはM&A仲介会社から支援を貰うことを推奨します。
M&A仲介会社については以下の記事で解説しています。併せてご覧ください。
【参考】M&A仲介とは?FAとの違いやメリット、会社選びのポイントを解説
売却益の獲得
動物病院を売却することで、オーナーは売却益を獲得できます。売却により得た資金を利用して、リタイア後の生活資金や新たなビジネスへの投資などが可能です。
この売却益はM&Aの手法により、対価と売却益を貰う立場が異なります。代表的なM&A手法の「株式譲渡」と「事業譲渡」の違いを見てみましょう。
株式譲渡 |
事業譲渡 |
|
対価 |
株主が保有する株式の売却による利益 【税務上の取り扱い】 ▼法人株主の場合 ▼個人株主の場合 |
個々の資産・負債ごとに計算 【税務上の取り扱い】 ・法人税課税対象 |
売却益を得る立場 |
・株主に直接帰属 |
・会社に帰属 |
なお、この売却益の価格は「自社の企業価値」を知ることから始まります。
弊社CINC Capitalでは企業価値を判断できる「企業価値算定シミュレーション」というサービスを提供しています。企業価値について知りたいという方は以下のリンクより、ぜひお問い合わせください。算定は無料です。
動物病院を買収・譲受するメリット
ここでは、動物病院を買収・譲受するメリットについて詳しく解説します。買い手はこちらの内容も併せて理解しましょう。
医療機器の獲得
動物病院や動物医療の事業を買収することで、高価で高度な医療機器の獲得が安易になるケースがあります。通常、医療機器は新規で購入すると大きなコストがかかります。一方でM&Aを通して売り手と医療機器を共有できるようになれば、すぐ利用できるのはもちろん、コストを大幅に抑えることが可能です。
買い手は医療機器だけでなく、売り手の専門機器や施設、特許などにも注目すると、より充実したM&Aを実現できるでしょう。
獣医師の確保
動物病院を買収することで、既存の優秀な獣医師を確保できます。獣医師の確保は難しく、熟練したスタッフの雇用は新たな病院にとって大きな課題です。既存の病院を買収することで、そのスタッフもそのまま継続雇用できます。
例えば、評判の高い動物病院を買収すれば、その評判と共に優秀な獣医師も確保できるため、診療レベルの向上と顧客の信頼を得ることができます。
事業やエリアの拡大
動物病院を買収することで、事業やエリアを大幅に拡大することができます。新たなエリアでの事業展開や既存のサービス拡大は、新規開業よりも効率的に進めることができるため、迅速な市場拡大が可能です。
例えば、地方都市に拠点を持つ動物病院が都市圏の動物病院を買収することで、都市部での市場シェアを瞬間的に拡大することができます。事業拡大に向け、M&Aを検討している方は事業のある地域だけでなく、ほかの地域や全国に目を向けて、売り手を探すことが大切です。
まとめ|動物病院の競争は激化。少子高齢化に対応したM&Aが必要
動物病院業界は競争が激化しています。少子高齢化や経済の変化に伴い、今後はさらに効率を重視した経営が求められます。これらの課題の解決策としてM&Aを実施することは大変おすすめです。M&Aは後継者問題の解決につながるだけでなく、安定した経営の一歩となります。
現状の課題を認識しつつ、現在の市場動向を把握し、M&Aのメリットを最大限に活用するための準備を進めましょう。
弊社はM&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。