CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.07.02
- 更新日2025.07.02
海運業界のM&A動向は?事例や成功のポイントを解説【2025年】
国内の海運業界は、船員の高齢化や人手不足が進み、燃料費や環境規制によるコスト負担も増えています。
業界全体が変革を迫られる中、「このままの経営体制で乗り越えられるのか」と頭を悩ませている経営者も少なくありません。
本記事では、海運業界が直面する構造的課題や、M&Aの最新動向を紹介します。
目次
海運業界の市場動向
2021年、日本の海運業界はかつてない業績の伸長を記録しました。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、世界的な物流の混乱が発生し、コンテナ輸送の需要と運賃が急騰しています。これにより、日本郵船、商船三井、川崎汽船といった大手海運企業は、いずれも過去最高益を計上しています。
2022年度の物流15業種の市場規模は24兆3,665億円と推計され、前年比で6.2%増加しました。海運業界もこの成長に貢献していると言えるでしょう。
特に、2022年9月頃までの海上運賃の好市況と円安の影響により、外航海運の収益が拡大し、市場規模が拡大したとされています。
海運業界が抱えている課題
日本の海運業界は、グローバル物流の要である一方で、構造的な課題を複数抱えています。特に深刻なのが、船員の高齢化と人手不足、環境規制への対応コスト、港湾インフラの老朽化と国際競争力の低下です。
本章では、ぞれぞれの課題について詳しく解説していきます。
船員不足と高齢化の進行
日本の内航海運業界では、船員の高齢化と人手不足が深刻な問題となっています。特に、現役船員の平均年齢が上昇し、50歳以上の船員が約44%を占める状況です。
このような高齢化により、若手船員の確保と育成が急務となっています。
環境規制と燃料コストの負担増
国際海事機関(IMO)の環境規制強化により、船舶には排出ガス削減やバラスト水管理への対応が求められています。
2020年にはSOx規制が導入され、各社はスクラバー搭載や低硫黄燃料への転換を進めました。さらに、燃料価格の上昇も運航コストを圧迫しており、今後はLNGやメタノール燃料への移行、ゼロエミッション船の開発が重要になります。
港湾インフラの老朽化と競争力低下
日本の港湾インフラは高度経済成長期に整備された施設が多く、老朽化が進行しています。2040年時点では、港湾施設の約66%が建設後50年以上を経過すると予測されています。
老朽化した岸壁やクレーンは荷役効率の低下を招き、物流全体の生産性にも影響を及ぼしているのです。今後は港湾再編やデジタル技術の導入を通じた効率化が求められます。
海運業界のM&A最新動向(2025年)
2025年現在、海運業界では経営の安定化や成長分野への進出、事業承継への対応を目的としたM&Aが見られるようになっています。特に「大手の海外展開」「中小事業者の再編」「異業種の参入」という三つの動きが目立っています。
以下でそれぞれ解説するので、ぜひ参考にしてください。
大手によるグローバル展開・多角化が加速
近年、海運大手は収益の安定化と成長分野への進出を目的に、海外物流企業や新技術関連企業へのM&Aを積極化させています。
たとえば、日本郵船グループのYusen Logisticsの英国子会社ILGは、2024年に英国の物流企業Noel Topco社を買収し、eコマース物流の強化を図りました。
商船三井の完全子会社であるMOL Chemical Tankersは、2024年にシンガポールのケミカル船会社Fairfield Chemical Carriersを取得し、ケミカルタンカー分野での影響力を強めています。
中小・地域事業者の再編・統合が進行
内航海運や地域フェリーなど、中小事業者を対象とした再編・統合も進展しています。これは高齢化や船員不足、設備老朽化への対応として、共同運航や企業統合が進められているためです。
例えば、商船三井グループは、フィリピンにおける2つの完全子会社を統合し、MOL Enterprise (Philippines) Inc.を設立しました。これにより、地域物流ネットワークの効率化を進めています。
異業種からの参入・買収が増加傾向に
2020年代後半からは、異業種による海運分野への参入も加速しています。代表例として、2022年に「みちのりホールディングス」が佐渡汽船へ出資し、離島航路の維持を図ったケースがあります。
また、2024年にはオリックスグループが中堅海運会社・三徳船舶の株式を取得し、ファンド・金融系の資本参加がM&Aを後押しする動きも見られています。
海運業界でM&Aを成功させるためのポイント
海運業界のM&Aを成功させるには、業界の構造や規制、資源の特性を踏まえた上で、実行から統合まで見据えた戦略が必要です。
本章では、海運業界におけるM&A成功のポイントを5つに分けて紹介します。
明確な戦略とシナジー創出の設計
買収の目的を明確にし、航路やサービスの補完、顧客基盤の拡大など具体的なシナジーを見据えることが重要です。
単なる規模拡大ではなく、「何のために統合するのか」「統合後に何が変わるのか」を経営戦略と結びつけて設計する必要があります。
成長投資として位置づけ、全社でビジョンを共有したうえで取り組むことで、M&A後の成果が最大化されるでしょう。
船舶・人材・規制対応を含めた精密なデューデリジェンス
海運業のM&Aでは、保有船舶の状態や環境規制への対応状況、安全管理体制など、業界特有の技術的項目を含めたデューデリジェンスが欠かせません。
たとえば老朽化した船舶の多さやIMO条約への適合状況は、買収後の運航コストに直結します。船員の構成や離職リスクも重要であり、財務だけでなく実態を見極めることが大切です。
船員の引継ぎと組織文化の統合支援
M&A後の混乱を防ぐには、船員の処遇や組織文化への配慮が重要です。特に船員は運航の要であり、彼らの離職は安全性や業務継続に直結します。
買収先の待遇や社風を尊重し、段階的な統合を進めることで不安や摩擦を和らげることが可能です。現場の声を反映したPMI(統合プロセス)を設計し、組織が円滑に一体化する体制を整えることが求められます。
船隊・航路・設備の最適化によるコスト競争力強化
船隊や航路の統廃合は、M&Aによって得られるメリットの一つです。重複する船型や拠点を再編し、無駄なコストを削減すれば、運航効率を飛躍的に高めることができます。
さらに、ITシステムや整備体制の統一も効果的です。全社的に資源を再配置し、最適化を図ることで、燃料費や人件費の抑制、サービス品質の向上につなげることが可能になります。
PMI(統合後マネジメント)とリスク管理の徹底
M&Aは契約締結がゴールではなく、その後の統合こそが重要です。組織体制やガバナンスの整備、現場への浸透を速やかに進めなければ、せっかくの買収が逆効果になることもあります。
また、隠れた債務や運航リスクへの備えも重要です。海運業界特有の変動リスクに対応するには、統合後のモニタリングと早期対応の体制を構築することが不可欠です。
海運業界のM&A事例
東海汽船による小笠原海運のM&A
東海汽船株式会社は、持分法適用関連会社であった小笠原海運株式会社の株式を追加取得し、同社を連結子会社化しました。
小笠原海運は、東京~小笠原諸島間の定期船を運航する目的で1969年に日本郵船との共同出資により設立された会社で、今回の株式取得により東海汽船の出資比率は50%から51%となり、経営支配権を獲得しました。
これにより、両社の連携体制を強化し、運航効率やサービス品質の向上、経営資源の一体的活用によるシナジー創出が期待されます。島嶼航路という特殊性の高い市場において、安定運航と持続可能な輸送網の確保を図る戦略的なM&Aと位置づけられます。
【出典】東海汽船株式会社「持分法適用関連会社の異動(連結子会社化)に関するお知らせ」
栗林商船による北日本海運のM&A
栗林商船株式会社は、2020年9月1日付で日本通運株式会社から北日本海運株式会社の全株式を取得し、同社を連結子会社化しました。
北日本海運は、函館と青森を結ぶ「青函フェリー」を運航しており、栗林商船のグループ会社である共栄運輸と既に共同運航関係にありました。
今回の買収により、フェリー事業の一体運営が可能となり、両社の強みを活かしたサービスの高度化や事業シナジーの創出が見込まれます。
また、効率的な運航体制の構築や経営基盤の強化により、今後のフェリー需要に柔軟に対応できる体制が整いました。地域輸送における安定的なサービス提供と、グループ全体の競争力向上を目的とした戦略的なM&Aと位置づけられます。
【出典】林商船株式会社「北日本海運株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
日本郵船によるENEOSホールディングスの事業譲渡
ENEOSホールディングス株式会社は、グループ会社であるENEOSオーシャン株式会社が手がけていたLPG船・ケミカルタンカー・貨物船などの海運事業を分割し、新設子会社NYK Energy Ocean株式会社(NEO社)に承継。その株式の80%を日本郵船株式会社に譲渡し、2025年4月1日に取引が完了しました。
ENEOSグループは原油輸送事業を中心に継続し、非中核事業を切り離すことで資本効率を重視したポートフォリオ経営を推進しています。
一方、日本郵船はグローバル展開や脱炭素対応に注力する中で、今回の事業取得により自社の海運事業を強化しました。ENEOSはNEO社株式の20%を保有し、今後も海上輸送体制への一定の関与を継続する方針です。
本件は、エネルギー大手と外航海運大手の戦略が合致した、大型の事業再編M&Aです。
【出典】ENEOSホールディングス株式会社「当社グループ海運事業の一部譲渡の完了に関するお知らせ」
まとめ|海運業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
日本の海運業界では、船員不足や環境規制などの課題に直面する一方で、物流需要の安定した推移を背景にM&Aが活発化しています。
大手の海外展開や中小の統合、異業種の参入も進み、成長と安定運航に向けた再編が加速中です。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。