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M&Aにおけるストラクチャーとは?それぞれの特徴や選定時の注意点

M&A / 基礎知識

  • 公開日2024.10.30
  • 更新日2024.10.30

M&Aにおけるストラクチャーとは?それぞれの特徴や選定時の注意点

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M&Aプロセスは複雑でさまざまな方法が存在し、それぞれのストラクチャーを適用することで、どのように取引の形を作るかが大きく変わります。これらのストラクチャーを理解し、選定するには、それぞれの特徴やメリット、デメリットを把握することが重要です。

本記事では、株式譲渡、事業譲渡、株式交換、会社分割、合併、第三者割当増資の各方法について詳しく解説し、選定時の注意点についても触れることで、M&Aの理解を深めるお手伝いをいたします。

h2: M&Aにおける「ストラクチャー」とは
ストラクチャーには複数の意味がありますが、M&Aで使われる場合は、M&Aを行うにあたって目的を達成するための手順および方法全般を指します。
会社を買収する際の方法には株式譲渡や事業譲渡といった方法があります。これらの方法をストラクチャーといいます。

h2: 主なストラクチャーの特徴
M&Aの際に用いられるストラクチャーは複数あります。この見出しでは代表的なストラクチャーと、それぞれの特徴を解説します。

h3:株式譲渡
株式譲渡は、M&Aにおいてよく利用されるストラクチャーの1つであり、多くの企業で活用されています。
株式譲渡は、売り手企業が自社の株式を買い手企業に譲渡することによって事業継承を行う手法です。この方法では、買い手側は事業を継承する代わりに、譲渡された株式に対して対価を支払います。

h4:株式譲渡のメリット
株式譲渡のメリットとして、まず手続きが比較的簡易である点が挙げられます。株式の売買のみを行うため、複雑な手続きをほとんど必要としません。売り手側にとっては、譲渡によって得られる売却益にかかる税金を抑えることができる点もメリットです。また、買い手側は、取得する株式の数によっては企業の支配権を全て取得することができ、経営に対する影響力を直接的に持つことが可能です。さらに、売り手側の企業が存続するため、元々のビジネスやそこで活躍していた人材の強みをそのまま引き継ぐことができ、事業の継続性を維持することができます。

h4:株式譲渡のデメリットや注意点
株式譲渡は、企業のプラスの財産だけでなく、マイナスの財産も全て引き継ぐストラクチャーです。このため、買い手は対象会社の全ての債務や潜在的な責任を引き受けることとなります。事前に負債の内容や規模を詳細に確認し、リスクヘッジを行うことが求められます。

h3:事業譲渡
事業譲渡とは、企業が特定の事業の全部または一部を他の企業に売却することで、事業資産や従業員、顧客契約、技術などの事業運営に必要な資産および負債を移転する手法です。

事業譲渡では譲渡する事業に関連する資産や負債、権利義務などが選択的に移転されます。事業全体を包括的に譲渡するのではなく、譲渡する範囲や内容を自由に決定できることが特徴です。企業が特定の事業セグメントを売却してリスクを整理したり、経営資源を他の事業に集中させたりしたい場合などに用いられます。

h4:事業譲渡のメリット
事業譲渡は、買い手側から見た場合、新規事業の迅速な立ち上げが可能となります。事業譲渡では、既存の事業資産やノウハウ、顧客基盤をそのまま引き継ぐことができるため、新たにゼロから構築する手間や時間を短縮できるのです。

売り手側にとっては、不要になった事業の切り離しが可能である点がメリットになります。これによって、経営資源を本業や成長が見込める分野に集中できるため、経営効率の向上が期待されます。また、事業を譲渡することにより、不要な固定費や経営リスクを軽減できるため、企業の財務状態が安定する効果があります。

事業譲渡は株式譲渡と比較して、譲渡対象の選択が柔軟である点もメリットです。事業全体を譲渡するのではなく、必要な資産やライセンスのみを選択して移転することができるため、買い手側は自社の戦略に応じた選択ができます。

h4: 事業譲渡のデメリットや注意点
事業譲渡を行う際には、譲渡される事業の資産全てに対して個別の手続きを必要とします。したがって手続きが煩雑化し、時間とコストがかかる点がデメリットです。

加えて、事業譲渡は従業員を巻き込んだ対応が必要です。事業譲渡で従業員を引き渡す際は従業員ごとに承認を得て契約を結び直す必要があるからです。従業員の交渉が難航すると人材の流出やモチベーションの低下を招く恐れがあります。
契約上の問題についても注意が必要です。従業員の場合と同じく取引先の場合も、個別に説明をして承認を得る必要があります。契約内容によっては事業譲渡が原因で契約が終了または変更される可能性もあります。

また、事業譲渡は資産の売買に含まれるため、譲渡利益に対する課税が生じる可能性があります。

h3:株式交換
株式交換は、企業が他の企業の株式を取得し、一定の条件でその企業の完全子会社や親会社になることを目的とするM&Aの手法です。

株式交換により、買収を行う企業は被買収企業を容易に自社グループ内に取り込むことができます。
合併と異なり、被買収企業の法人格はそのまま存続します。株式交換は会社法に準拠した手続きが必要となり、適切な株式交換比率の算出が重要となります。こうした手続きは、監査法人やコンサルタントなどの専門家の助言を受けながら慎重に進めることが一般的です。

h4:株式交換のメリット
株式交換のメリットは、現金の流出を伴わずに企業統合が可能である点です。現金資金を使わず株式を交換することで、買収対象企業への資金移動が不要になり、資金繰りを維持したまま合併を進めることができます。これは特に、大規模な買収において、財務的な負担を軽減する非常に大きな利点です。

加えて、株式交換は株主の持株比率を調整する手段としても優れています。株式交換を通じて、統合後の企業における株主の影響力を調整することが可能です。

h4: 株式交換のデメリットや注意点
株式交換は1株の価値が低下し、株価が下落するリスクがあります。株式交換の過程で新株を発行するため、既に株券を所有している人にとっては、持分比率が下がることになるわけです。こうした1株の持つ価値の低下は株式の希薄化と呼ばれています。株式交換は、株式の希薄化を嫌う大株主や重要なステークホルダーに反対されることもあります。

さらに、株式交換は法的な手続きが複雑であり、時間とコストが多くかかることもデメリットの1つです。

h3:会社分割
会社分割は、ある会社がその事業の一部または全部を切り離して別の会社に引き渡す手法です。既存の事業の構造を再編成し、特定の事業を新しい法人に分けることが可能となります。

会社分割には2つの主要なタイプが存在します。1つは「吸収分割」で、親会社が特定の事業を他の既存企業に譲渡するものです。もう1つは「新設分割」で、親会社が新たに別の法人を設立し、そこに特定の事業を移管するものです。

h4:会社分割のメリット
経営資源の最適化が可能になる点が会社分割のメリットです。例えば、事業ごとに分割を行うことで、それぞれの事業が独立して運営され、経営資源をそれぞれのニーズに応じて効率的に配分できます。
したがって、リスクの分散ができるのもメリットです。会社を分割することにより、それぞれの事業が独立した存在となるため、1つの事業のリスクが他の事業に影響する事態を避けることができます。

h4:会社分割のデメリットや注意点
会社分割を実施するには多くの手続きとコストがかかりがちです。分割に伴う詳細な契約書の作成や法的手続き、役所への届出などが必要となります。

そして、会社分割を実施するには株主総会の特別決議が必要です。特別決議で株主の3分の2以上の賛成が得られないと、会社分割は認可されません。

h3:合併
合併は、2つ以上の会社が1つの会社になる手続きです。合併には主に吸収合併と新設合併の2つの手法があります。
吸収合併では、一方の会社が他方を吸収し、存続会社として引き続き営業を行います。一方、新設合併では双方の会社が解散し、新たに設立された会社に資産と負債を承継させます。

h4:合併のメリット
経営資源の統合によってスケールメリットが得られる点は、合併のメリットと言えるでしょう。合併によって企業が褐葉できる経営資源が増え、より大きな市場シェアを獲得するきっかけにできます。また、ノウハウや技術の共有によるイノベーションの推進も期待できるかもしれません。異なる企業が持つ知識や技術が融合し、新しい商品やサービスの開発が促進される期待も持てます。
加えて、人事や経理部門の統合によって間接部門の業務効率化が図れるのもメリットです。

h4:合併のデメリットや注意点
合併はこれまで別々だった企業同士が1つになるので、異なる企業文化や組織風土も1つに統合されます。これによって軋轢が生じる可能性がある点がデメリットとして挙げられます。合併により異なる企業文化が1つになり、従業員間の摩擦やコミュニケーションの問題が生じる可能性があります。

h3:第三者割当増資
第三者割当増資は、会社が新たに株式を発行し、その株式を特定の第三者に割り当てることで、資本金を増加させる手法です。

第三者割当増資は増資の方法として知られていますが、これもM&Aストラクチャーの1つとされています。買い手側が3分の2以上の株式を保有する形になれば、実質的に経営権が買い手側に移るからです。
h4:第三者割当増資のメリット
第三者割当増資は株式の売却でありながら売却先を自由に選べる点がメリットと言えます。経営資源やノウハウを持つパートナー企業を巻き込めれば、シナジー効果も大きくなります。株式買収の形で進めるため、全体の手続きが比較的簡単で早く行える点もメリットです。

h4:第三者割当増資のデメリットや注意点
第三者割当増資の場合、もし売り手側の企業に簿外債務があった場合、それを負担するのは買い手側の企業になります。
また、第三者割当増資を選んだ場合、売り手側企業を完全買収することはできません。

h2:【買い手側】ストラクチャー選定時のポイント
M&Aストラクチャー選定時のポイントですが、買い手側と売り手側ではポイントが少しだけ異なります。まず買い手側の選定ポイントを解説します。

買い手側から見たストラクチャー選定は事業の取得範囲、統合形態、買収後の支配レベルについて検討することが重要になってきます。
売り手側の特定の事業を取得するのか、全体を取得するのかにより、適切な方法や進め方が異なるからです。M&Aの目的や実現したい内容によっては、売り手側企業を100%支配することが最適とは限らないこともあります。
また、ストラクチャーによっては不確実なリスクがある方法もあります。こうしたリスクを極力少なくできるストラクチャーを選定することが望ましいです。

h2: 【売り手側】ストラクチャー選定時のポイント
売り手側から見たM&Aのストラクチャー選定は、売却する事業の範囲やM&A後の事業統合の形態、株式売却の割合などが検討事項に関わってきます。

企業全体を売却するのか一部の事業を売却するのかによってもストラクチャーは変わりますし、全体の売却も合併するのか子会社するのかによって異なってきます。
加えて、売却の際にかかる税務コストもストラクチャーによって変わってきます。また事業範囲の大きさや形態によっても適切なストラクチャーが異なるため、いくつかの要素を複合的に検討した選定が求められます。

また、ストラクチャーによっては行う手続きの内容や複雑さが異なり、それに伴う手続きにかかる期間の違いにも注意が必要です。

h2: M&Aでストラクチャーを決める際の注意点

h3:目的と条件を明確にする
買い手側も売り手側も、どのような目的でM&Aを実施したいのかを明確にすることが重要です。M&Aのストラクチャーは、その種類によって得られる効果が異なります。
株式譲渡では、会社のオーナーシップを迅速かつスムーズに移行できるため、管理体制の円滑な引き継ぎが可能です。一方で、不採算事業を切り離し、経営のスリム化を図りたいという場合には、事業譲渡や会社分割が選択肢としておすすめです。

目的と条件をしっかりと明確にし、それに応じたストラクチャーを選定することで、M&Aの効果を最大限に発揮することができるでしょう。

h3:手続きや税負担が異なることを理解する
M&Aにおけるストラクチャーの選定では、手続きや税負担がどのように異なるかを理解することが重要になってきます。それぞれのストラクチャーには独自の法的手続きがあり、それに伴う税務的な影響も異なります。
例えば、株式譲渡では通常、株主の権利をそのまま引き継ぐ形になりますが、事業譲渡の場合、譲渡する事業の資産や負債だけが対象となり、手続きや税務の複雑さが増すことがあります。手続きの効率性だけでなく、譲渡税や譲渡による所得税の負担がどれだけ発生するかも考慮する必要があります

手続きや税務面での適切な対応は、M&Aの効率と成果を大きく左右する要因の1つです。それぞれの選択肢をしっかりと見極めることが重要です。

h3: 法務・会計・税務の観点から慎重に検討する
ストラクチャーを選択する際、法務や会計、税務の観点からの検討も求められます。
M&Aの実施にはいくつかの法律が関係してきます。こうした法律を順守するのは大前提ですが、ストラクチャーごとに関連する法律は異なってきます。したがって、それぞれどのような法律が関係しているかを把握しておかなければなりません。

会計の観点ですが、買い手側の企業は特に考える必要があります。買収後の経営陣の評価指標は財務諸表であり、ストラクチャーを実行した後、いつどの段階で、どのような損益が生ずるかを前もって把握しておくことが求められるからです。

税務の観点では、税務上の優遇措置や税金の負担がどう変わってくるかを考慮する必要があります。ストラクチャーごとに税金の考え方が異なるからです。
税務面の影響を最小限に抑え、なおかつ不測の課税を防ぐためにも、ストラクチャーの課税内容を整理しておきましょう。

h3: 利害関係者との調整を行う
ストラクチャーを選定する際は、利害関係者との調整も重要です。ストラクチャー選定では、買い手側と売り手側の双方に関係する多くの利害関係者が存在します。主な利害関係者として、株主、従業員、顧客、取引先、金融機関などです。
選んだストラクチャーによってこうした関係者の利益に影響するかしないかが変わってきます。従業員は、雇用条件や職場環境に影響を及ぼすかどうかが気になるでしょうし、株主は投資対象が持つ価値に影響するかどうかを懸念することが多いでしょう。

調整を行うためには、しっかりとしたコミュニケーション計画を立て、透明性のある情報開示が大切です。利害関係者の懸念を事前に把握し、適切な情報を提供しながら、理解と合意を促すようにしましょう。

h3: 専門家の意見を参考にする
M&Aには、法律、会計、税務など複雑な要素が絡み合っています。これらの要素については、専門的な知識と経験が必要となるため、専門家の意見を聞くことでより適切な決定が可能になります。
専門家は、取引の複雑さやリスクを理解し、それに対する効果的な対策を提案してくれます。また、法律の最新動向や判例についての知識も持っているため、トラブルを未然に防ぐことができます。経験豊かな専門家の視点を取り入れることによって、M&Aの成功率は高まるでしょう。

h2:M&Aの意図や目的に応じて適切なストラクチャーを選定しよう
今回はM&Aストラクチャーを解説しました。M&Aの成功には、その目的と意図に合ったストラクチャーを選定することが大切です。それぞれのストラクチャーは異なるメリットやデメリットを持ち、目的に応じて選ぶべき手段は変わります。さらに法務、会計、税務などの専門的な観点から慎重な検討が求められます。
各ストラクチャーが持つ特徴を理解したうえで、買い手側と売り手側両方にメリットが多いストラクチャーを選ぶようにしましょう。

この記事の監修者

阿部 泰士

CINC Capital取締役執行役員社長

阿部 泰士

CINC Capital取締役執行役員社長。リクルート関連会社や外資系製薬会社、大手・ベンチャー独立系M&A仲介会社で営業組織を牽引。 特にM&A実績の多い業界は調剤・IT・運送業。

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