CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.09.30
石油業界のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
国内需要の減少や脱炭素の潮流、そして経営者の高齢化と後継者不足など、石油業界は大きな転換期を迎えています。
こうした変化に対応し、事業を存続・成長させるための有力な手段の一つがM&Aです。
本記事では、2025年時点における石油業界の市場動向と課題、最新のM&A事例、業界特有のメリットやデメリットなどを詳しく解説します。
目次
石油業界の市場動向
日本国内の石油需要は長期的に縮小傾向です。
経済産業省の「2024~2028年度石油製品需要見通し」よると、2024年度のガソリン需要は4,312万kL、2019年度比で年平均2.6%のペースで減少、2023〜2028年度には累計12.2%減少の見通しとなります。
また、2023年度の主要油種販売量は、ガソリンがピーク比-27.6%、軽油が-32.2%、灯油が-61.5%と大幅減という状態です。
「SS業界の動向と今後の方向性」によると。ガソリンスタンド数も1995年の約6万から2023年には約2万7千カ所へと半減し、「スタンド過疎地」も全国で増加しています。
【出典】経済産業省「2024~2028年度石油製品需要見通し」
【出典】ひろぎんホールディングス「SS業界の動向と今後の方向性」
石油業界が抱える課題
石油業界は現在、大きな構造変化に直面しています。国内需要は燃費向上やEV普及によって長期的に減少し、収益性の低下が避けられません。
本章では、石油業界が抱える課題について、3つの観点から解説していきます。
構造的な需要減少による収益悪化
日本の石油製品需要は、自動車の燃費向上や少子高齢化の影響で長期的に減り続けています。
2024~2028年度には燃料油全体で7.6%の減少が予測されており、事業環境は厳しさを増している現状です。
ガソリン販売量もピーク時より3割以上減少し、収益悪化が避けられない状況と言えます。
【出典】経済産業省「2024~2028年度石油製品需要見通し」
法規制・環境対応費用の増大(脱炭素対応)
脱炭素社会への対応が急務となり、石油業界ではCO₂削減や設備の改修に多額の投資が必要です。
水素関連の計画見直しも進み、従来の収益モデルに影響を与えています。
規制強化を前に新たな費用負担が増し、経営戦略の再構築が求められているのです。
後継者不在による中小スタンドの事業承継問題
地方のガソリンスタンドでは経営者の高齢化が進み、後継者が見つからないケースがあります。
生活インフラを維持するためには、事業承継やM&Aの活用を積極的に進めていく必要があるでしょう。
石油業界のM&A最新動向(2025年)
石油業界では、再編や成長戦略の一環としてM&Aによる動きが注目されています。
本章では、石油業界のM&A最新動向を3つ解説していきます。
出光興産株式会社による富士石油株式会社のM&A
出光興産は2025年9月、持分法適用関連会社であった富士石油に対し公開買付けを開始すると発表しました。
出光はすでに富士石油株式の22%超を保有する筆頭株主でしたが、今回のTOBを通じて同社株をすべて取得し、完全子会社化することを目指しています。
背景には、国内燃料油需要の漸減やエネルギー安定供給の重要性があり、両社の経営資源を一体化することで意思決定の迅速化や供給体制の強化を図る狙いがあります。
また、サウジアラビア政府など産油国株主との関係を維持し、原油供給の安定性を確保するため、一部株主とは応募しない契約を締結しています。
買付価格は最終的に1株480円とされ、市場株価に大幅なプレミアムを上乗せした水準となりました。
これにより、石油精製事業の基盤強化に加え、将来的な低炭素エネルギー供給体制の構築が期待されます。
【出典】出光興産株式会社「富士石油株式会社株式(証券コード 5017)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」
大和自動車交通株式会社による宮園砿油株式会社のM&A
大和自動車交通は2022年5月、宮園自動車の子会社である宮園砿油を株式交換により完全子会社化することを決定しました。
宮園砿油はガソリンスタンドの運営や法人向けFCカード事業、不動産賃貸を手がけており、宮園グループを主要顧客としています。
大和自動車交通も同様の事業を持つことから、取扱量の拡大や顧客基盤の獲得、さらに不動産分野でのノウハウ共有によるシナジーが期待されます。
加えて、株式交換により優良顧客との関係を継続できる点も評価されています。
本件はタクシー・ハイヤー事業を主力とする大和自動車交通が、燃料や付帯サービスを含むモビリティ関連事業を強化し、グループの事業基盤を拡大する狙いがあるといえます。
【出典】大和自動車交通株式会社「簡易株式交換による宮園砿油株式会社の完全子会社化に関するお知らせ」
ENEOSホールディングス株式会社によるジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社のM&A
ENEOSホールディングスは2021年10月、子会社ENEOS株式会社を通じて、ゴールドマン・サックスとシンガポール政府投資公社(GIC)が保有するジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)の全株式を約2,000億円で取得し、連結子会社(孫会社)化することを発表しました。
JREは2012年に設立された再生可能エネルギー事業者で、太陽光・風力・バイオマス発電を中心に約70.8万kWの発電容量を有し、洋上風力の事業化検討にも積極的に取り組んでいます。
本件によりENEOSグループの再エネ事業の運転・建設中容量は約122万kWとなり、同社が掲げる「2040年カーボンニュートラル実現」に向けた基盤が大幅に強化されます。
石油依存からの脱却と成長分野への投資はエネルギー大手の共通課題であり、ENEOSは再エネと蓄電池やEVを組み合わせたエネルギーマネジメント、さらにはCO₂フリー水素供給網の構築にもつなげる方針です。
本件は日本の再エネ分野における大型買収であり、同社の事業構造転換を象徴する事例といえます。
【出典】ENEOSホールディングス株式会社「当社子会社によるジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社の株式取得(連結子会社の異動を伴う孫会社化)に関するお知らせ」
M&Aによる事業多角化とリスク分散意識の高まり
石油業界では国内需要が縮小する中、再エネや新エネルギー分野へと進出する動きが広がっています。
M&Aを通じて事業領域を拡大すれば、収益源の多様化とリスク分散が可能です。
こうした取り組みは、変化する市場に対応するための経営姿勢の表れです。
石油業界でM&Aをするメリット
石油業界では、国内需要の縮小や脱炭素の加速に対応するために、M&Aを活用する動きが広がっています。
本章では、石油業界でM&Aをするメリットについて5つの観点から解説していきます。
規模拡大によるコスト効率化・シナジー創出
石油業界では企業統合によって大規模な効率化が進んでいます。
ENEOSが旧モービルや旧エッソを統合した事例では、仕入れや販売の効率化が進み、コスト削減と収益改善につながりました。
統合により物流や製油所ネットワークも最適化でき、グループ全体の競争力強化を実現できます。
販路拡大・販売網強化によるシェア拡大
M&Aを通じて地方のガソリンスタンドを傘下に入れることで、販売網が広がりブランド力の向上が可能です。
特に地域密着型の店舗を取り込むことで、従来届かなかったエリアでの顧客獲得が可能になります。
販路拡大は単なる売上増にとどまらず、地域での信頼を確保する効果があるのです。
結果として市場シェアを安定的に高める手段となるのです。
新エネルギー技術・サービスの獲得(脱炭素対応)
再生可能エネルギーや水素分野の企業をM&Aで取り込むことで、石油業界は脱炭素社会への対応強化が可能です。
新エネルギー技術を自社に組み込むことで、既存の化石燃料依存型モデルから多角化を進められます。
技術やサービスをいち早く取り込むことは、市場の変化に即応できる経営力を高めるのです。
地理分散によるリスク軽減
M&Aで地域や海外に拠点を広げることで、災害や需要変動のリスク分散が可能です。
特定地域に依存した経営体制では突発的なトラブルで大きな損失を抱える可能性がありますが、複数拠点を持てばリスクを吸収しやすくなります。
海外資産を取得することで外貨収益も見込め、経営の安定性をさらに高めることが可能です。
事業承継・雇用維持の社会的意義
中小スタンド経営者の高齢化と後継者不足は深刻な課題です。
M&Aを通じた事業承継は、従業員の雇用を守り、地域社会のインフラ維持にも貢献します。
廃業による地域の利便性低下を防ぐことは、社会的にも大きな意義を持ちます。
雇用の継続と地域経済の安定化を両立できる点で、M&Aは企業だけでなく地域全体を支える役割を果たすのです。
石油業界でM&Aをするデメリット
石油業界のM&Aには多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。
石油業界でM&Aをするデメリットについて3つの観点から解説していきます。
ブランド統合時の顧客離れリスク
M&A後にブランドやサービスが変わると、既存顧客の信頼が揺らぎ、離反につながる可能性があります。
特に地域に根ざしたガソリンスタンドでは、利用者が「馴染みの安心感」を重視する傾向が強いのです。
顧客維持のためには、統合時に丁寧なコミュニケーションを徹底しましょう。
老朽化設備による追加コスト発生リスク
古い貯蔵タンクや配管が残っている場合、M&A後に予想外の修繕や更新費用が発生する可能性があります。
これにより投資回収の計画が狂い、経営に負担を与えることがあるのです。
事前のデューデリジェンスで設備状況を細かく確認してください。
想定シナジーの実現不確実性
M&Aではコスト削減や収益増といったシナジー効果を期待しますが、統合作業が難航すると計画どおりに進まないことがあります。
さらに市場環境の変化によって収益シナリオが崩れるリスクもあるのです。
成功には、PMIを緻密に設計し実行していくことが欠かせません。
石油業界でM&Aを成功させるためのポイント
石油業界でのM&Aを成功させるためには、一般的な注意点に加えて業界特有の視点が求められます。
本章では、石油業界でM&Aを成功させるための5つのポイントを解説していきます。
法規制・環境面の徹底デューデリジェンス
石油業界のM&Aでは、環境関連や法規制の確認を怠ると後から大きなリスクを背負う可能性があります。
土壌汚染や安全基準違反は、多額の改修費や罰則につながります。
事前に専門家を交えて徹底したデューデリジェンスを行い、潜在的な負担を見逃さないようにしてください。
設備・立地の適正評価と将来性見極め
ガソリンスタンドや製油所の立地や設備は、M&A後の収益性を大きく左右します。
老朽化の程度や修繕コスト、周辺地域の人口動態などを正しく評価しなければ、将来的に大きな赤字を抱える危険があります。
市場の需要動向を踏まえて、長期的に競争力を維持できるかどうかを見極めましょう。
統合(PMI)・ブランド戦略の綿密な計画
M&Aは契約の成立がゴールではなく、統合プロセス(PMI)の成功が成果を決めます。
ブランド変更や組織再編を拙速に進めれば顧客離れや従業員の不安を招く可能性があるのです。
統合マネジメントオフィスの設置や100日プラン策定など、具体的な計画を立てましょう。
従業員・地域顧客への配慮ある引き継ぎ対応
M&A後に従業員や地域顧客の信頼を失わないためには、引き継ぎ対応に細心の注意を払う必要があります。
雇用の継続や待遇条件の維持を約束すれば、従業員の安心感が生まれるのです。
地域に対しても、これまでと変わらないサービスを提供する姿勢を伝え、誠実な対応を重ねることで、事業基盤を安定させることが可能です。
脱炭素・再エネシフトを見据えた戦略的買収判断
エネルギー転換が加速する中で、再生可能エネルギーや水素関連の事業を取り込む戦略は欠かせません。
石油依存のままでは長期的な成長が難しく、リスクが高まるのです。
将来の市場を見据え、再エネ技術や新サービスを持つ企業を積極的に買収しましょう。
こうした判断は脱炭素時代でも競争力を維持できる経営基盤を築くことにつながります。
まとめ|石油業界におけるM&A成功への道筋
石油業界は、国内需要の縮小や脱炭素の潮流、経営者の高齢化といった構造的な変化に直面しています。
こうした環境下で事業を存続・成長させるためには、戦略的なM&A活用が不可欠です。
石油業界でのM&Aを検討する際は、業界に精通した専門家の助言を得ることで、複雑な法規制や環境対応、事業承継などの課題を乗り越えられます。
CINC CapitalはM&A仲介協会会員かつ中小企業庁の登録支援機関として、石油業界をはじめとした多様な分野でのM&Aをサポートしてきました。
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この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。