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- 公開日2025.09.29
電機業界のM&A動向は?事例や成功のポイントを解説【2025年】
電機業界でM&Aを検討しているものの、業界特有の事情がわからず不安を感じていませんか?
「どの企業が対象になるのか」「大手と中小で何が違うのか」と迷う方も多いでしょう。
本記事では、電機業界のM&A市場の動きや注目トレンド、成功のポイントをわかりやすく解説します。
目次
電機業界の市場動向
日本の電気機器業界は、2018年から2020年にかけて市場規模が縮小しましたが、2021年以降はやや回復し、2022年には約85兆円の規模を維持しています。
中でも、半導体や電子部品、空調機器、重電機器などの分野は、デジタル化の進展や円安の影響を受けて、前年比で2桁以上の成長を記録しています。
一方で、家電やAV機器といった従来の製品分野では、需要の伸びが鈍く、市場は成熟状態です。
電機業界は成熟が進んでいますが、分野によっては成長が続く「選別的成長」が見られます。
【出典】業界動向サーチ「電気機器業界の動向や現状、ランキングなど」
電機業界が抱えている課題
電機業界は一部分野で成長を続けているものの、業界全体ではさまざまな構造的課題を抱えています。
本章では、主に3つの課題について詳しく解説します。
国内需要の頭打ちと市場成熟化
日本の電機業界では、少子高齢化や人口減少により国内需要が縮小しています。
家電は買い替えサイクルが長く、新たな需要が生まれにくい構造です。
大手企業も国内市場の成長鈍化を認識しており、国内依存型のビジネスでは持続的な成長が難しくなっています。
デジタル化・IoT・AI導入の遅れと生産性向上の必要性
電機業界ではDXへの対応が企業規模で大きく異なります。
大手はIoTやAIの導入が進む一方、中小企業ではPoC段階で止まる例も多く見られ、現場導入が課題となっています
この遅れは生産性や品質管理、納期対応に影響し、競争力低下の要因です。
多品種・少量生産を特徴とする電機業界では、工程最適化と人手不足解消のためにも、業界全体でのDX推進が急務です。
グローバル競争の激化と海外市場への展開課題
電機業界では国内市場が縮小する中、東南アジアやインドなどの新興国で販売機会が広がっています。
しかし、これらの市場では中国や韓国の企業との競争が激化しています。
特にASEAN諸国では、中国企業を最大の競合と捉える現地メーカーが30〜50%にのぼります。
中国企業は低価格と素早い技術革新を武器に、急速にシェアを拡大しています。
一方、日本企業は品質や技術力に強みを持っていますが、現地対応のスピードや価格戦略では後れを取っているのが現状です。
電機業界のM&A最新動向(2025年)
電機業界では、事業再編や新規分野への進出を目的としたM&Aが活発化しています。
本章では、電機業界におけるM&A最新動向を3つに分けて解説します。
大手によるAI・デジタル・HVAC領域への大型M&A投資枠設定
三菱電機は、2025年度から2027年度にかけて1兆円規模のM&A投資枠を設け、AIやデジタル、空調(HVAC)などの成長分野に集中的に投資する方針を発表しました。
この取り組みは単なる買収ではなく、非効率な既存事業を見直し、最大8,000億円規模の事業を再編することで、事業全体の強化と効率化を図る戦略です。
中小企業の事業承継型M&Aが増加傾向
中小企業では後継者不足が深刻化しており、事業承継を目的としたM&Aが増加傾向です。
2022年度には、民間の支援機関を通じたM&Aが4,036件に達し、政府の後押しも進んでいます。
このようなM&Aは、買い手には技術や事業の拡大、売り手には雇用や地域経済の維持につながる双方にとって有益な選択肢として注目されています。
クロスボーダーM&Aで海外市場へ積極展開
国内市場の限界を背景に、電機メーカーはアジアをはじめ新興国市場への進出を戦略化しています。
たとえばノーリツは、2020年にベトナムの浄水器・家電大手Kangaroo社の株式44%取得により持分法適用会社化し、東南アジアでの販路と生産基盤を確保しました。
これにより、日本企業は現地パートナーとの連携を通じて品質と速度を両立しながら拡大戦略を推進しています。
【出典】株式会社ノーリツ「Kangaroo International Joint Venture Companyの株式取得(持分法適用関連会社化)完了のお知らせ」
電機業界でM&Aを成功させるためのポイント
電機業界でM&Aを成功させるには、業界特有の事情を踏まえた対応が不可欠です。
本章では、電機業界でのM&Aを円滑に進めるための5つの重要なポイントをご紹介します。
工場・設備を含む技術的DD(デューデリジェンス)の徹底
電機業界のM&Aでは、製造拠点や設備の状態が買収後の経営に大きな影響を与えます。
設備の老朽化や保守状況を見誤ると、予想外の追加投資や稼働停止リスクが発生しかねません。
そのため、M&A前には工場の稼働状況や生産能力、保守履歴などを詳細に調査し、技術的リスクを洗い出すことが不可欠です。
技術資産・設備・取引先関係を含むバリュエーション精査
企業価値の評価では、設備や特許、取引先との契約が重要な要素となります。
DCF法や類似企業比較、特許評価などを組み合わせることで、買収価格の妥当性を判断できます。
無形資産を正しく評価することで、交渉を有利に進めることができるでしょう。
従業員雇用・技術承継に配慮したクロージング設計
M&A後は企業文化や人材の流出リスクが高く、特に技術者の離職は事業力の低下につながります。
そのため、クロージング前に雇用条件の維持や技術承継の計画を整えることが重要です。
電機業界でも、こうした対応により人材の定着に成功した事例があります。
買収後シナジーを明示した統合(PMI)計画の早期策定
M&Aの最大の成果はシナジーの実現ですが、そのためには収益改善や業務連携の具体的な計画が欠かせません。
KPIの設定や販路統合などを含むPMI計画がなければ、期待する効果は得られません。
多くの現場で、PMIの有無が統合の成否を左右しています。
PMIの専任体制構築と経営層による主導
PMIを成功させるには、現場任せにせず、経営トップが関与し、専任チームを設けることが重要です。
組織の統合や文化の違いを乗り越えるには、トップダウンでの意思決定と継続的な支援が欠かせません。
実際に、日本電産の永守会長は自ら現地工場に足を運び、改善を主導したことで短期間で業績回復を実現しました。
電機業界のM&A事例
最後に電機業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
日本特殊陶業株式会社による東芝マテリアル株式会社のM&A
日本特殊陶業株式会社は2024年11月、東芝から東芝マテリアル株式会社の全株式を取得し、完全子会社化することを決定しました。
取得額は約1,500億円で、2025年5月の譲渡実行を予定しています。東芝マテリアルはファインセラミックスや蛍光材料、磁性材料、タングステン・モリブデン製品などを手掛け、とりわけEV向け窒化ケイ素ボールやパワー半導体用放熱基板で高い競争力を有しています。
日本特殊陶業は、内燃機関事業を強化しつつ「環境・エネルギー」「モビリティ」「医療」「情報通信」を成長分野と位置付けており、本件買収により技術融合と顧客基盤の拡大を狙います。
セラミックス素材技術のシナジー創出により、EVや半導体市場での成長加速が期待される事例といえます。
【出典】日本特殊陶業株式会社「東芝マテリアル株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
アルコニックス株式会社によるジュピター工業株式会社のM&A
アルコニックス株式会社は2021年12月、精密コネクタ金属端子部品を手掛けるジュピター工業株式会社の全株式を取得し、連結子会社化することを決定しました。
ジュピター工業は岩手県宮古市に拠点を置き、スマートフォンやタブレット向けの精密コネクタ部品や射出成形コネクタを製造、中国にも海外拠点を持つ企業です。
コネクタ業界はEV、自動車電装化、5GやIoTの普及により需要が急拡大しており、同社の技術力と供給体制は大手電子部品メーカーから高く評価されています。
アルコニックスはこの買収により、自社の金属加工セグメントとの親和性を活かし、グループ内での技術交流やグローバル展開を加速させる考えです。
本件は商社機能と製造業を融合させる戦略の一環であり、電子部品・半導体・自動車分野における成長基盤を強化する動きとして注目されます。
【出典】アルコニックス株式会社「株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
加賀電子株式会社による富士通エレクトロニクス株式会社のM&A
加賀電子株式会社は2018年9月、富士通セミコンダクターから富士通エレクトロニクス株式会社の株式を取得し、段階的に子会社化することを決定しました。
取得総額は約205億円で、2019年から2021年にかけて三段階で株式を譲り受け、最終的に完全子会社化する計画です。
富士通エレクトロニクスは電子デバイス製品の設計・開発・販売を行い、豊富な顧客基盤と幅広い商材を強みとしています。
加賀電子は独立系エレクトロニクス商社として、電子部品販売からEMS(製造受託)、設計支援、システムサポートまで幅広く事業を展開しており、本件により半導体・電子部品事業のシェア拡大やEMS事業の成長を狙います。
また、販売網や顧客基盤の補完による効率化も期待され、売上5,000億円規模の体制を構築し、グローバル競合との競争力強化を図る戦略的M&Aと位置付けられます。
【出典】加賀電子株式会社「富士通エレクトロニクス株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
電機業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
電機業界では、国内市場の成熟や技術革新、海外との競争激化を背景に、M&Aが重要な戦略となっています。
2025年以降は、大手による新規事業投資や中小企業の事業承継、クロスボーダーM&Aが一層活発化しています。
M&Aを成功させるには、最適なタイミングと相手を見極めることが不可欠です。
CINC Capitalは、業界の構造と動向を踏まえ、成長段階や目的に応じたM&A戦略をご提案します。
電機業界のM&Aをご検討の際は、ぜひご相談ください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。