CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.09.29
IT業界の譲渡動向は?事例や成功のポイントを解説【2025年】
IT業界の企業譲渡について情報を探している方も多いのではないでしょうか。
「そろそろ会社を譲りたいけれど、売却のタイミングが分からない」と感じている方もいるかもしれません。
本記事では、2025年時点におけるIT業界の譲渡動向を解説するとともに、譲渡を成功させるための具体的なポイントをわかりやすくご紹介します。
目次
IT業界の市場動向
日本のIT市場は、ここ数年で大きく成長しています。2025年には9.7%増の27兆8,953億円に達しており、右肩上がりの傾向が続いています。
調査によると、このままのペースでいけば、2029年には市場全体が30兆円を超えると予測されています。
中でも、システム開発やクラウドサービス、運用業務などを含む「ITサービス分野」は特に成長傾向で、2024年時点では約7兆円の規模ですが、2029年には約9.7兆円にまで増える見込みです。
また、官公庁や金融、製造などの分野では、古いシステムからクラウドへの切り替えが進んでいます。
AIの導入を目指す企業も増えており、これが新たなIT投資の原動力になっています。
【出典】IDC「国内IT市場産業分野別/従業員規模別 2024年最新予測を発表」
IT業界が抱えている課題
日本のIT業界は成長を続ける一方で、さまざまな構造的な課題を抱えています。
本章では、業界全体に影響を与えている3つの主要な課題について詳しく解説します。
IT人材の不足とスキルギャップ
経済産業省が発表したデータでは、IT業界は2030年までに最大約79万人の人材が不足すると予測されています。
特にAIやセキュリティなどの高度な分野では人材育成が追いついておらず、多くの企業が専門人材の確保に苦戦しています。
その結果、多くの企業でDXの推進が人材不足により遅れており、人材のミスマッチが企業成長の妨げとなっているのです。
長時間労働・生産性課題
IT業界では、平均残業時間が月23.2時間と他業種よりも長く、長時間労働が常態化しています。
人手不足により、一人あたりの業務量が過剰になっていることが主な原因です。
従業員の疲労や離職が増え、スキルの引き継ぎが進まず、組織の安定性や生産性が下がるという悪循環が続いています。
【出典】Geekly Media「IT業界の残業の実態は?職種別の平均残業時間と働き方を変える方法」
急速な技術革新とDX対応の遅れ
AI・IoT・クラウドといった新しい技術が広がる一方で、多くの日本企業はいまだに古い基幹システム、いわゆるレガシーシステムに頼っています。
そのため、DX(デジタル化)への対応が遅れているのが実情です。
経済産業省は、こうした状況が続くと「2025年の崖」と呼ばれる問題(老朽化した基幹システムを放置することで起こる経済的リスク)が起き、年間最大12兆円の経済損失が出るおそれがあると警告しています。
刷新には多くの費用がかかり、経営層の理解も得にくいため、DXが進まず、競争力が停滞する深刻な課題となっています。
IT業界の譲渡最新動向(2025年)
2025年のIT業界では、企業譲渡(M&A)の動きがさらに活発になっています。
特に目立つのは、大手による中小IT企業の買収、後継者不在による中小・個人の譲渡増加、そしてM&Aの戦略的な活用が一般化している点です。
本章では、3つの最新動向をわかりやすく解説していきます。
大手IT企業による中小買収の増加
日本の大手IT企業は、DXや先端技術の強化を目的に中小IT企業の買収を加速させています。
2024年上半期にはIT分野で676件のM&Aがあり、前年より約10%増加しました。
多くは即戦力となる人材を確保するアクイハイア型(人材獲得を目的としたM&A)で、M&Aは大手の成長戦略として定着しつつあります。
【出典】日本経済新聞「国内ITのM&A、10年で3倍「25年の崖」にらみ人材確保」
中小・個人による事業承継型M&Aの増加
中小企業や個人事業者で後継者がいないケースが増えており、第三者への承継型M&Aが注目されています。
中小企業庁によると、70歳以上の経営者は約245万人、そのうち127万社が後継者不在です。
こうした背景から、地域や小規模事業でもM&Aの活用が広がり、個人間マッチングや支援サービスも活発になっています。
【出典】中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
M&Aの戦略的・一般化傾向
M&Aは、承継だけでなく成長や再編を目的とした戦略手段として活用されるようになっています。
M&A調査会社「レコフデータ」(東京)のまとめによると、2024年のM&A件数は約4,700件と前年比17.1%増となり、そのうち事業承継型は920件に上りました。
企業は技術や人材、マーケット拡大を見据えて、M&Aを経営の一部として積極的に取り入れています。
IT業界で譲渡を成功させるためのポイント
IT業界での企業譲渡を成功させるには、業界特有の事情を踏まえた準備と対応が欠かせません。
本章では、5つの視点から、譲渡成功に向けた具体的なポイントを解説します。
売却タイミングの最適化と事前準備
成長期のIT企業は、企業価値が高いうちに売却準備を始めることで有利に交渉を進めやすくなります。
財務状況や収益モデル、契約内容を早めに整理しておけば、買い手にとって魅力的に映ります。
売却目的や出口戦略を明確にし、事前準備を徹底することが大切です。
業界に精通した専門家の起用
IT業界の譲渡では、専門的な契約や技術評価が必要になるため、FA(ファイナンシャルアドバイザー)やITに詳しいM&Aコンサルタントの支援が欠かせません。
専門家が入ることで、適正価格の提示やリスク回避がしやすくなり、交渉もスムーズに進みます。
複数候補との調整や条件交渉でも専門家のサポートが重要であり、譲渡成功の土台となります。
属人化排除と事業の見える化
IT企業は特定の人に業務が集中しやすいため、マニュアル整備や収益構造の見える化が重要です。
属人化を解消することで、誰が抜けても事業が続けられると買い手に伝えやすくなります。
こうした準備が、譲渡交渉で企業価値を具体的に示す助けになります。
キーパーソンの離職防止・信頼構築
重要なエンジニアや幹部が離職すると、譲渡後の事業継続に支障が出ます。
そのため、説明会などで待遇や将来像を丁寧に伝え、従業員の不安を解消することが重要です。
こうした配慮により、キーパーソンの離脱を防ぎ、譲渡後も安定した組織運営が可能になります。
綿密なデューデリジェンス実施
M&Aでは財務や法務だけでなく、ITインフラや契約、ライセンス、セキュリティまで詳しく調べる必要があります。
専門家による調査を通じて、買い手に安心感を与え、取引後のトラブルも防げます。
特にIT業界ではデューデリジェンス(買収前の詳細な調査)の精度が譲渡の安定性と信頼性を左右する重要な要素です。
IT業界の譲渡事例
最後にIT業界の譲渡事例を紹介いたします。
ソフトバンクグループによるAmpere Computing Holdings LLCのM&A
ソフトバンクグループは2025年3月、米国の半導体設計企業Ampere Computing Holdings LLCの全持分を約65億ドル(約9,730億円)で取得し、完全子会社化することに合意しました。
Ampereは、次世代クラウドやAIワークロード向けにARMベースの高性能・省エネルギーなプロセッサを設計しており、今後の成長が期待される分野です。
本取引はソフトバンクのAI・半導体分野への戦略的な投資の一環であり、傘下のArmとの技術連携によって、チップ開発力の強化が見込まれます。
なお、Ampereは近年赤字が続いていますが、その技術力とエンジニアチームに価値を見出したM&Aといえます。今後は、AI領域を中心にグループシナジーの創出が注目されます。
【出典】ソフトバンクグループ株式会社『当社によるAmpere Computing Holdings LLCの持分の取得(子会社化)に関するお知らせ』
ギークス株式会社による株式会社アライヴのM&A
IT業界のM&A事例として、ギークス株式会社は2025年1月、ITソリューション事業を展開する株式会社アライヴの全株式を取得し、連結子会社化することを決定しました。
アライヴは大手通信事業者を中心にITソリューションを提供し、コンサルティング力や技術力を備えた人材を多数抱えています。
ギークスはフリーランスIT人材の活用やエンジニア育成を強みとしており、今回の買収により双方の顧客基盤や人的リソースを共有し、幅広いニーズへの対応力を高める狙いがあります。
また、ギークスの人材供給機能がアライヴの事業を支え、安定した成長につながることも期待されています。
買収額は約6.44億円で、IT人材不足が続く国内市場において事業ポートフォリオを拡充し、総合的なITソリューション提供体制を強化する戦略的な動きといえます。
【出典】ギークス株式会社『株式会社アライヴの株式取得(連結子会社化)に関するお知らせ』
エレコム株式会社によるgroxi株式会社のM&A
エレコム株式会社は2023年5月、岩崎通信機の完全子会社であったgroxi株式会社の全株式を取得し、子会社化しました。
groxi社はネットワークの設計・構築・保守・運用を手掛けるシステムインテグレーターであり、エレコムのネットワーク機器開発・販売事業と補完関係にあります。
今回の買収により、エレコムはネットワーク機器の提供に加えて、全国規模でのネットワーク工事から運用・保守までをワンストップで提供できる体制を整えました。
特に中小企業向けのDX推進を加速させることを狙い、岩崎通信機が持つ無線技術やIP音声技術とのシナジーも期待されています。
これにより、同社はハードとソフトを融合させたトータルソリューションを展開し、多様化する企業のニーズに対応可能な体制を構築しました。
今回の事例は、ネットワーク機器メーカーがサービス領域を強化し、DX市場における競争力を高める動きを示すものといえます。
【出典】エレコム株式会社『groxi株式会社(岩崎通信機グループ)の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ』
IT業界の譲渡動向を押さえて譲渡を成功させましょう
本記事では、IT業界の市場動向や課題、2025年のM&A傾向、譲渡成功のポイントを解説しました。
企業譲渡は後継者対策にとどまらず、成長戦略としても一般化しています。
特にIT業界では、技術や人材の評価が譲渡価値に直結するため、準備と戦略が重要です。
CINC Capitalでは、様々な分野に精通しているアドバイザーが丁寧に支援しています。
譲渡をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。