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- 公開日2025.09.29
不動産テック業界の売却動向は?事例や成功のポイントを解説【2025年】
不動産テック業界の売却を検討しているけど、「いつ・どう進めるべきか」「他社はどうしているのか」と悩んでいませんか。
業界は成長中ですが変化も早く、タイミングや準備を誤ると大きな損失につながります。
本記事では、市場動向・売却事例・成功のためのポイントをわかりやすく解説します。
目次
不動産テック業界の市場動向
不動産テック業界は、AI査定やオンライン内見、クラウド管理など、不動産とテクノロジーを融合した分野です。
日本では2022年度の市場規模が約9,402億円に達し、2030年度には約2兆3,780億円に拡大すると予測されています。
特にBtoC分野が成長を牽引しており、今後も非対面ニーズや法整備を背景に、拡大が続く見通しです。
【出典】株式会社矢野経済研究所「不動産テック市場に関する調査を実施(2024)」
不動産テック業界が抱えている課題
不動産テック業界が成長を遂げている一方で、市場全体がIT導入に遅れを取っている現状があります。
本章では、不動産テック業界が抱えている3つの課題について解説していきます。
アナログ商慣習の根強さ
不動産業界では、紙の契約書や対面での説明が依然主流で、DX化が遅れています。
2021年の総務省調査では、DX実施率はわずか23.3%にとどまり、多くの企業が導入に消極的でした。
制度は整備されつつあるものの、現場ではアナログな商習慣が根強く残っています。
人手不足と業務効率化の遅れ
不動産業界では、少子高齢化や地方市場の縮小を背景に人手不足が深刻化し、業務効率化の必要性が高まっています。
2023年の入職率は15.0%、離職率は16.3%と人材流出が進んでおり、RPAやクラウドシステムによる業務自動化が求められています。
情報の透明性・データ基盤の不備
不動産取引では、情報の透明性やデータ基盤の不備が大きな課題です。
REINSの登録率や更新体制には問題があり、囲い込みなどの不透明な取引も残っています。
2025年の法改正で説明責任は強化されましたが、即時更新や客観的確認は依然として困難な状況です。
業界全体のDX化率も約2割にとどまり、不動産ID制度などの整備も不十分な状況です。
【出典】総務省「令和3年版 情報通信白書」
【出典】厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」
不動産テック業界の売却最新動向(2025年)
不動産テック業界では、成長市場としての注目度が高まる中、売却を取り巻く動きにも大きな変化が見られます。
本章では、最新の売却動向を3つの視点から詳しく解説します。
大手によるテック企業の買収が加速
近年、大手不動産会社や異業種企業がAI査定やVR内見などの技術を持つ不動産テック企業の買収を加速しています。
これはDX推進とビジネスモデル革新を目的とした動きで、2025年には三菱地所による海外企業の子会社化も話題となりました。
今後もこの流れは続き、業界再編が進むと見られます。
中小テック企業の売却ニーズ増加
中小の不動産テック企業では、事業承継や資金調達の課題から売却を希望する動きが増えています。
経営の安定を求めて大手傘下に入る例も多く、少額のスモールM&Aも活発化しています。
その結果、コア技術を持つスタートアップがEXIT手段として売却を選ぶケースが増加しています。
M&Aが成長戦略として定着
M&Aは、不動産テック企業にとって単なるEXITではなく、成長や事業拡大の手段として広く活用されるようになっています。
2022年には、中小企業によるM&Aが民間支援機関を通じて4,000件を超え、経営戦略として定着しつつあります。
不動産テック業界でも、スキルや事業を取り込む「成長型M&A」が増えており、今後もこの流れは続くと考えられるでしょう。
【出典】中小企業庁「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」
不動産テック業界で売却を成功させるためのポイント
不動産テック企業が売却を成功させるには、業界特有の視点での準備が欠かせません。
本章では、売却を有利に進めるために押さえておきたい5つのポイントを解説します。
コア技術・独自性の明確化
近年のM&Aでは、標準的なシステムよりも、AIマッチングや査定アルゴリズムなど独自性の高い技術に対する評価が一層高まっています。
特に不動産テック業界では、技術的優位性が競争力の源泉です。
そのため、保有技術を整理し、資料で明確かつ定量的に示すことで、買い手に即時の収益貢献が期待できる価値として伝わります。
M&A準備では技術コンテンツを整理し、オリジナル技術の特許や成果に基づいた説明資料の整備が重要になります。
買い手とのシナジーの可視化
買収側は、自社の事業領域や強みとの統合効果を具体的な成果イメージとして把握したいと考えます。
そのため、データ連携やサービス統合によって成約率の向上やコスト削減が見込めるシナジーを定量モデルとして提示できれば、交渉で有利に立てます。
こうしたシミュレーションに基づくビジョンを用意しておけば、M&Aの進行もスムーズになりやすいです。
法規制・信頼性の整備
不動産取引は高額であるため、買い手は法令遵守状況や過去トラブルの有無に敏感になります。
宅地建物取引業免許や個人情報保護対応が整っており、電子契約などの運用実績が証明できれば、安心感を高められます。
そのため、許認可状況や過去事案などを文書として整理することは、買収後のトラブルリスク軽減にも直結します。
顧客・業績データの充実
過去の成果実績を数字で示すことがバリュエーションに直結するため、MAUや成約件数、成長率などのKPIや業績データを整備することが非常に重要です。
M&A専門家によると、こうした数値を保有し、時系列で提示できれば、買い手から「将来の収益源」として高評価を得やすくなります。
したがって、売り手企業としてはデータ集計・可視化を早期に準備しておく必要があります。
ストック型収益やビジネスモデルの訴求
売却価値を高めるには、月額課金やSaaS型などのストック収益モデルを持つことが重要です。
不動産管理や家賃保証の分野では、契約戸数が増えるほど安定した収益につながるため、M&A市場でも高く評価されています。
そのため、自社でも継続的に収益を得られる仕組みを整え、安定性を示すことで、売却時の交渉を有利に進められます。
不動産テック業界の売却事例
最後に不動産テック業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時に参考にしてみましょう。
イタンジ株式会社による株式会社Housmartの買収
イタンジ株式会社は、2023年12月に不動産売買仲介支援に特化する株式会社Housmart(ハウスマート)の株式を取得し、2024年1月を目処に経営統合を進めると発表しました。
イタンジは不動産賃貸管理・仲介業務のDXを推進するサービスを展開し、約2,700社の顧客基盤と賃貸入居申込で全国シェア3割を持つ企業です。
一方のハウスマートは、営業支援SaaS「プロポクラウド」により売買仲介の業務効率化を実現し、大手企業への導入実績を積んできました。
今回の統合により、両社のテクノロジー・顧客基盤・組織力を融合させ、賃貸・売買・管理をワンストップでカバーする統合プラットフォームの構築を目指しています。
これにより、11万社に及ぶ国内不動産会社の多様なニーズに応える体制を整え、業界のDX加速と付加価値提供を強化する狙いです。
不動産テック市場での統合は、賃貸と売買の垣根を超えた新たな競争優位性につながると考えられます。
【出典】イタンジ株式会社「不動産賃貸領域DXのイタンジ、不動産売買領域DXのハウスマートと経営統合」
株式会社ランディックスによるリンネ株式会社の買収
株式会社ランディックスは、2024年4月に不動産テックベンチャーのリンネ株式会社を完全子会社化しました。
ランディックスは城南エリアを中心に富裕層向け戸建て住宅の売買仲介を主力とし、高いリピート率と紹介率を誇る一方、人材育成や営業ノウハウの標準化が課題でした。
リンネは中古マンション売買仲介に強みを持ち、独自開発の顧客管理システムを活用して営業組織全体で顧客対応を標準化し、スピードと精度の高い物件紹介を実現しています。
両社はターゲット物件種別が異なるため競合せず、補完関係にあります。今回の統合により、ランディックスは富裕層顧客データとリンネのIT技術を融合させ、効率的な仕入れや営業ノウハウの共有を進め、長期的な成長を目指す方針です。
不動産業界ではデジタル技術の導入による差別化が進む中、本件はアナログ的強みとテックの融合による競争力強化の好例といえます。
【出典】株式会社ランディックス「ランディックスが不動産テックベンチャーのリンネを完全子会社化」
プロパティデータバンク株式会社によるプロパティデータサイエンス株式会社のM&A
2023年5月、プロパティデータバンクは子会社プロパティデータサイエンス(PDS)の少数株主持ち分を買い取り、100%子会社化しました。
同社は不動産資産のライフサイクル全般を支援する「不動産DXプラットフォーム」を掲げており、その実現にはグループ各社の成長が不可欠と位置付けています。
しかしPDSは計画未達により立て直しが急務となっており、完全子会社化によって迅速な経営判断と再成長を図る狙いです。
PDSは店舗出店判断を支援する「Speed ANSWER」を展開してきましたが、新たに物件検討から出店後管理まで一元化する「Speed ANSWER for Web(仮称)」へ発展させ、今秋のリリースを予定しています。
本件は、不動産管理クラウド「@プロパティ」との連携を強化し、顧客企業のDX推進を加速させる布石となる事例であり、不動産テック市場での競争優位性確立に向けた戦略的な動きといえます。
【出典】プロパティデータバンク株式会社「プロパティデータサイエンス社の100%子会社化に関するお知らせ」
不動産テック業界の売却動向を押さえて売却を成功させましょう
不動産テック業界は、市場拡大と法制度の整備を背景に、企業売却が一般化しつつあります。
特に、大手による買収ニーズの高まりや、事業承継を目的とした中小企業の売却増加など、M&Aが戦略的な選択肢として機能する時代に突入しています。
売却を成功させるためには、業界特有の価値ポイントを正確に把握し、コア技術やシナジーの提示、業績データの整理など、事前準備を丁寧に進めることが重要です。
CINC Capitalでは、M&Aに精通した専門チームが、戦略設計から実行支援までサポートします。
売却をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。