CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.09.17
音楽業界のM&A動向は?事例や成功のポイントを解説【2025年】
M&Aを検討しているが、音楽業界ならではの動向や成功のポイントが分からず、なかなか一歩を踏み出せないと感じていませんか?
音楽業界は、配信ビジネスの台頭やライブ市場の回復、そしてAIやVTuberといった新潮流の登場によって、いま大きな転換期を迎えています。
そうしたなかでM&Aは、成長加速のための有効な手段でありながら、業界特有の権利や文化、ファンとの関係性を十分に理解していなければ、大きなリスクにもなるでしょう。
本記事では、日本の音楽業界における市場動向とM&Aの最新トレンド、そしてM&Aを成功に導くための実践的なポイントを、具体的な事例とともに解説します。
目次
音楽業界の市場動向
日本の音楽市場は世界第2位の規模を誇り、2022年には流通総額が3,070億円に達し、前年から9%成長しました。
その成長を牽引したのが、デジタル音楽販売と言えます。
前年から17%増の1,050億円を記録し、統計が始まった2005年以降最大のデジタル収入となったのです。
ストリーミングの普及が進む一方で、66%という高い割合を維持するCDなどの物理メディア市場も日本独自の強みとして存在感を示しています。
こうした二極化した市場構造が、収益多様化の必要性を浮き彫りにしており、ライブや配信といった新たなビジネス領域への戦略的なM&Aが加速している状況です。
【出典】一般社団法人日本レコード協会「日本のレコード産業2023年版」
【出典】ifpi「GLOBAL MUSIC REPORT 2023」
音楽業界が抱えている課題
日本の音楽業界は、市場が回復する一方で、CD売上の落ち込みやストリーミング依存による収益構造の揺らぎ、さらにAIやネット発信アーティストの台頭という構造的変化に直面しています。
CD売上の減少と収益モデルの転換
1998年に5,878億円をピークとしたCD市場は、2024年には約1,400億円まで減少し、その後も縮小傾向が続いています。
この変化により、ライブやグッズ販売、ファンクラブといった収益軸の強化が急務となりました。
音楽企業は収益源を多様化するために、ライブ運営会社や配信プラットフォーム事業者の買収・連携を活発化させています。
【参考】一般社団法人日本レコード協会「音楽ソフト種類別生産実績推移」
ストリーミング依存と権利処理の煩雑さ
ストリーミング収入が急拡大しており、2022年には約928億円に達して前年比25%の増加傾向です。
ただ、収益配分はJASRACなどによって複雑に構造化されており、アーティストやレーベルへの還元が不透明であるとの指摘も少なくありません。
その結果、業界は権利処理の効率化や透明化を狙った提携・買収に注力し始めています。
AIや個人発信時代への対応と構造変化
AIによる楽曲自動生成、VTuberやSNS発出身アーティストの人気上昇によって、従来のレーベル中心構造が急速に転換を迫られています。
ネット発のアーティストが影響力を持つことで、業界全体がトップダウン型からボトムアップ型へとシフトしつつあり、音楽企業はAI関連企業やクリエイター支援プラットフォームの買収によってこの変化に対応しているのです。
音楽業界のM&A最新動向(2025年)
日本の音楽業界でM&Aが活発化している背景には、レーベル再編からデジタル領域の強化、そしてIP資産の獲得に向けた動きが含まれます。
以下の3つのテーマについて詳しく見ていきましょう。
大手レコード会社の中堅レーベル買収加速
現在、日本の大手音楽会社が国内中堅レーベルの買収を強化しています。
その代表例は2025年2月にユニバーサルミュージック・ジャパンがAmuse傘下のA‑Sketchに対して66%の株式を取得した案件です。
この動きが進む理由は、A‑Sketchが管理するSaucy DogやFlumpool、ONE OK ROCKなどのアーティスト群が持つコンテンツ力とグローバル展開の潜在力に注目が集まったからです。
このような取り組みは、日本市場における国内中堅レーベルの強みを維持しながら、グローバル連携を図る理想的なM&A戦略であると言えます。
【出典】ユニバーサル ミュージック合同会社「株式会社A-Sketch株式取得のお知らせ」
ライブ配信・VTuber事務所などデジタル領域へのM&A
日本では音楽業界に加え、デジタルエンターテインメント分野でのM&Aも進行しています。
17LIVE(イチナナライブ)は2024年11月、日本のVTuber制作会社である株式会社mikaiを買収して仮想インフルエンサー事業に進出しました。
この買収が進む背景として、VTuberがグッズ販売やライブストリーミングなどで高収益モデルを確立している点が挙げられます。
17LIVEは既存配信サービスと仮想タレントの融合によって、エンゲージメント強化とIP収益の多様化を狙っています。
【出典】Re:AcT「VTuber事業「Re:AcT」を運営する株式会社mikai、17LIVEグループと共に新たな成長へ」
音楽IP・カタログ獲得に向けた買収競争
世界的な潮流として、楽曲カタログや音楽著作権そのものを資産として取得する市場が活況です。
特に楽曲のストリーミング収入が安定化する中、その価値に注目が集まっています。
現在、音楽ファンドや大手音楽会社が過去ヒット曲の権利を取得する動きが活発化しており、例えば米国ではHipgnosisやUMGが積極的にカタログ買収を進めていることが知られています。
日本企業でも、ソニーやユニバーサルがA‑Sketchの楽曲カタログを取得するなど、権利取得に向けた注力が明確です。
音楽業界でM&Aを成功させるためのポイント
音楽業界におけるM&Aを成功に導くには、5つの特有の視点をもって進行管理する必要があります。
以下、それぞれのポイントを見ていきましょう。
権利関係(著作権・原盤権など)の精査徹底
ユニバーサルミュージック・ジャパンがA‑Sketchを買収した際、契約範囲や原盤権、アーティスト管理権の綿密な確認が行われており、権利デューデリジェンスの徹底が明確な成功要因です。
この手法によって、既存の権利関係に潜む制約やリスクを早期に洗い出せるため、契約後のトラブル回避とスムーズな統合が促進されます。
その結果、M&A後もすみやかに配信・ライセンス提供に展開でき、安定した収益確保につながっているのです。
明確なシナジー戦略とKPI設計
A‑Sketchの買収では、ユニバーサルが国内マーケットを支えるアーティスト群に対し、グローバル配信やプロモーションの展開を見据えた統合戦略を策定しました。
このように、M&Aでは買収企業が保有しない機能やネットワークを明確に見定めたうえでKPIを設定することが重要です。
たとえば、配信拡販率やライブ観客数、海外展開によるストリーミング再生回数などを指標に据えることで、統合後の成果を計測しやすくなります。
アーティスト・スタッフの維持と安心設計
買収後にアーティストやスタッフが離脱すると、買収目的の実現が困難になります。
A‑Sketchの場合、代表者の継続経営と待遇維持が明確に宣言され、信頼感の醸成と安心感の提供が図られました。
メンタル的な安定と活動環境の継続は創造活動に直結しますので、待遇・契約内容の維持やスタッフとの丁寧なコミュニケーションがM&A後も欠かせません。
ブランドとファンへの配慮
A‑Sketchは買収後もブランド名とアーティストの独自性を尊重する方針を明示しました。
これは、熱心なファンコミュニティへの信頼維持につながります。
買収先のレーベル名やアーティストのイメージを急に変更せず、段階的にシナジーを組み込む形で移行する配慮が重要です。
文化融合・PMIの実施
M&A成功において最も見落としがちなのが企業文化の融合です。
買収後は、文化差を把握し育む体制を構築することが大切です。
両社の強みを掛け合わせて、新たな企業文化を創出するアプローチが日本企業にとって特に有効とされています。
音楽業界のM&A事例
最後に音楽業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社NexToneによる株式会社レコチョクのM&A
著作権管理や音楽配信を手がける株式会社NexToneは、2023年9月に音楽配信大手の株式会社レコチョクを子会社化しました。
NexToneはレコチョク株式の51.7%を取得し、経営参画を強化しています。
両社は以前から音楽コンテンツの価値最大化やデジタル技術の活用を重視しており、理念や事業戦略の親和性を背景に資本業務提携に至りました。
提携後は、著作権管理と音楽配信を軸に、インディーズアーティストの支援やブロックチェーン技術を活用した新サービス創出を進める方針です。
近年レコチョクは収益面で課題を抱えていましたが、NexToneとの連携によりシステム開発効率化や事業領域の拡大が期待されます。
業界全体としても、権利管理と配信の融合が進むことで音楽市場のさらなる活性化につながる可能性が高い事例といえます。
【出典】株式会社NexTone「株式会社レコチョクとの戦略的な資本業務提携及び連結子会社化に関するお知らせ」
株式会社Ridge-iによる株式会社スターミュージック・エンタテインメントのM&A
AIソリューションを展開する株式会社Ridge-iは、2024年6月、音楽とソーシャルメディアマーケティング事業を手掛ける株式会社スターミュージック・エンタテインメントを子会社化しました。
株式の53.77%を取得し、グループに迎え入れています。
スターミュージックは、ショート動画領域で強みを持つ広告事業や、200名超の音楽クリエイターと提携した楽曲制作・配信事業を展開しており、近年成長を続けていました。
Ridge-iは自社のマルチモーダルAI技術を同社のマーケティングや音楽制作に導入することで、制作効率化や高付加価値化を進める狙いです。
特に、クリエイターネットワークへの生成AI活用や配信支援AIの提供を通じ、新たなクリエイティブ支援サービスの展開が期待されています。
本件は、AI技術とエンタメ産業を掛け合わせたシナジーを創出し、急成長するデジタル広告・音楽市場における競争力強化を目指す動きとして注目されます。
【出典】株式会社Ridge-i「株式会社スターミュージック・エンタテインメントの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
エイベックス株式会社による株式会社LIVESTARのM&A
エイベックスは2019年11月、ライバープロダクションの株式会社LIVESTARを子会社化しました。
LIVESTARは「プロライバーが活躍できる環境と未来を作る」を掲げ、ライバーを中心とした個人クリエイターの発掘・育成を行う企業で、創業から1年半で約500名のライバーを抱える規模に成長していました。
エイベックスは既にライヴ配信者支援のTWHや美容系YouTuber事業のMAKEYを傘下に収め、インフルエンサー育成事業の合弁会社も設立しており、今回の買収は個人クリエイター領域を強化する戦略の一環です。
LIVESTARの参画により、アーティストやタレントがYouTuberやライバーとして活動領域を広げることも期待され、エイベックスのマネジメント機能の拡張につながります。
個人発信力がマスメディアを凌駕する時代に対応した本件は、同社の次世代型エンタメ戦略を象徴するM&Aといえます。
【出典】エイベックス株式会社「エイベックスがライバープロダクションの株式会社LIVESTARを子会社化 個人クリエイター領域を強化し、新しい人気者の創出を目指す」
まとめ|音楽業界に適したM&A戦略で事業成長を実現しよう
本記事では、日本の音楽市場の現状と課題、そして2025年現在のM&A動向や成功のための具体的なポイントを解説しました。
特に、著作権やファン対応といった音楽業界特有の視点を持つことが、M&Aを単なる取引に終わらせず、継続的な事業成長につなげる鍵となります。
CINC Capitalは、M&A仲介協会に所属し、中小企業庁からも認定を受けている支援機関です。
音楽・エンタメ分野を含む多様な業種での支援実績があり、業界の特性やご希望に応じて、最適なM&A手法をご提案いたします。
秘密保持を徹底し、初めての方でも安心してご相談いただける体制を整えていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。