CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.11
- 更新日2025.04.14
医療法人の事業承継の方法は?持分あり・なしでの違いや売却時の税金を解説
後継者問題を筆頭に、日本の医療法人はさまざまな経営課題を抱えています。その際に検討される選択肢の一つが「事業承継」です。医療機関は地域医療を支える社会インフラであることから、廃業ではなく経営権の移転などでの事業存続が望まれます。
そこで今回は、医療法人特有の事業承継の仕組みを解説します。出資持分の有無で異なる承継方法、税務上の取り扱い、そして円滑な承継を実現するためのポイントまで、複数の観点からお伝えします。
目次
医療法人の事業承継とは?
医療法人の事業承継では、現経営者が培った医療施設の運営ノウハウや組織体制を、次世代の担い手へと引き継ぎます。医療法人の場合、事業承継は単なる事業の引き継ぎにとどまらず、地域医療を支える社会的使命の引き継ぎともいえるでしょう。
なお、「株式会社帝国データバンク」が実施した後継者不在率の動向に関する調査によると、病院・診療所(クリニック)を含む「医療業」の後継者不在率は、2024年時点で61.8%に達しました。同年の全業種の後継者不在率は平均52.1%であり、比較すると医療業の数値が高い傾向が伺えます。
こうした背景として挙げられるのが、医師資格の有無や専門分野の不一致といった医療業界に特有の事情です。医師の人材不足は、地域医療インフラの空洞化や、最終的には医療崩壊を招くとも懸念されて、社会的に大きな課題となっています。
【出典】株式会社帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2024年)」
出資持分の有無による医療法人の事業承継の方法
医療法人の事業承継では、出資持分の有無によってM&Aのスキーム(承継手法)や法的手続きの内容が異なります。さらに、具体的なケースごとに適切な対応が求められるため、M&A仲介会社などの専門家とともに手続きを進めることが一般的です。
出資持分が存在する場合、出資持分の譲渡や払戻しなど、多様な方法で承継を進めます。一方、出資持分がなければ、主に理事などの役員交代を通じた組織再編を行います。以下では、それぞれについて詳しくご説明します。
出資持分ありの場合の承継方法
出資持分を有する医療法人の事業承継では、出資者が保有する経済的権利の移転が不可欠です。主に「出資持分の譲渡」「払戻し」「合併」「事業譲渡」といった4つのM&Aスキームが採用されます。
一般的には、後継者が社員として医療法人に加入した後、現経営者から持分を譲り受けることで経営権と財産権を同時に承継します。なお、M&Aにおいては、対価支払いをともなう有償譲渡が主流です。
払戻し方式では、現経営者が退社時に出資額に応じた金銭を受け取り、後継者が新規出資者として加入します。税務上は譲渡益課税を回避できる代わりに、退職金処理にともなう所得税の累進課税リスクが生じるため注意が必要です。
また、合併による承継では、吸収合併または新設合併の手法で複数の医療法人を統合し、包括的な権利義務を引き継ぎます。ただし、これには都道府県知事の認可手続きが必須で、消滅法人側の残余財産処理規約との整合性確認が求められます。
事業譲渡は特定診療所のみを承継対象とする場合に適しており、原則として新規開設者として保健所や厚生局への許認可申請を行う必要があります。既存の医療体制を維持しながら部分的に事業を移管できるスキームです。
出資持分なしの場合の承継方法
出資持分を有さない医療法人の承継は、財産権の概念が存在しない特性上、組織運営体制の再構築は、「役員ポストの移行」が主なスキームとなります。
出資持分なし医療法人には「社団医療法人」と「財団医療法人」があり、それぞれ承継方法が異なります。社団医療法人では、社員の入れ替えや役員の交代により実質的な経営承継が行われます。一方、財団型は理事や評議員の交代で運営主体が変わる仕組みであり、個人が持つ財産権の承継という概念は存在しません。実務では、柔軟な承継が可能な社団医療法人が圧倒的に多く採用されています。
第三者承継を検討する場合、後継者が医療法人の社員として加入し、社員総会での議決権を得たうえで、理事長・理事・監事などの役職を段階的に継承する「退社入社方式」などが採用されます。その過程で既存経営者は退職金を受け取りつつ経営権を移譲します。後継者が一定期間にわたり経営に参画し、医療機関としての継続性を確保することが重要です。
また、「事業譲渡」や「他医療法人との統合・合併」、「基金拠出型法人における基金地位の譲渡」なども承継手法としての選択肢となります。特に事業譲渡を行う場合は、医療機関の開設者が変わるため、保健所や厚生局への新規開設手続きが必要です。診療の継続性を確保するには、3カ月以上前から行政との協議や申請準備を進めることが重要です。
医療法人の事業承継にかかる税金
医療法人の事業承継税制は、2007年の法改正を境に構造が変化しています。改正前に設立された「持分あり医療法人」では、出資持分を親族へ移転する際に時価評価額に基づく相続税・贈与税が課されます。
たとえば1億円の出資持分を相続する場合、基礎控除後の課税価格に40%の税率が適用されれば4,000万円の納税義務が生じます。実際の相続税計算では、超過累進税率や各種特例措置が適用される可能性があるため、個別のケースについて詳しくは専門家へご相談ください。
なお、既存の持分あり医療法人は、改正後は「経過措置医療法人」となっており、引き続き存続可能です。ただし、2017年に導入された「移行計画認定制度(認定医療法人制度)」における税制優遇のように、持分なし医療法人への移行を促進する政策が進んでいます。
一方、改正後に設立された「持分なし医療法人」は出資持分そのものが存在せず、理事長の地位継承にともなう税負担は原則発生しません。ただ、退職金制度の設計や基金拠出者の地位譲渡における実質課税は発生するので注意しましょう。
医療法人の事業承継時の税務対策は、専門的かつ複雑となるため、税理士やM&Aの専門家へ相談することをおすすめします。
医療法人の事業承継を円滑に進めるためのポイント
ここからは、医療法人の事業承継を円滑にするためのポイントを解説します。後継者選定の早期決定、持分の取り扱いや財務状況の透明化、税務リスクの軽減など、専門家のサポートを受けながら対応していきましょう。
承継方法(親族内・第三者など)を早期に決定する
多くの医療法人が後継者不在に悩んでいる現状を踏まえて、事業承継は可能な限り早く検討すべきでしょう。親族内承継の場合、医師資格の有無や専門分野の整合性確認が不可欠であり、「出資持分の移転」または「払戻し」のいずれかを選ぶことになります。一方、第三者承継ではM&A活用が増加傾向にあります。
その際、医療法人の事業承継の特性として、地域医療への影響度の高さが挙げられます。承継方法を決めるときは、患者の治療継続性と地域社会への説明責任を両立できるスキームを選ぶのが一般的です。
持分の取り扱いと財務状況を整理する
「持分あり法人」の場合、出資持分が相続税評価の対象となり得るため、財務諸表の整備と時価評価の実施が必須です。専門家の意見を聞きつつ、財務状況を透明化させましょう。中でも承継前の債務整理と収益改善計画の策定は、社会的な信用に直結します。
行政手続きや許認可の承継を計画的に進める
個人診療所から医療法人への組織変更時には、保健所への廃止届と開設届を10日以内に提出する必要があります。医療機関コード変更にともなう診療報酬遡及請求の手続き漏れが発生しやすいため、厚生局との事前協議を漏れなく行いましょう。加えて従業員の雇用契約切替時には、社会保険手続きと労働条件説明を並行しなければなりません。
また、医療法人の代表者変更時には、都道府県知事への理事長変更届出が必須です。定款変更もともなう場合、社員総会の開催が法律上義務付けられます。診療情報システムの管理者権限移管や医療機器の名義変更手続き、医療廃棄物処理委託契約の更新など、膨大な関連手続きを網羅するために、チェックリストなどを活用してもれなく対応しましょう。
医療法人業界のM&Aの事例
ここでは、医療法人業界のM&Aの事例を紹介します。
医療法人木下会「うしぶか心愛病院」がCarus Medical Groupに経営権を譲渡
医療法人木下会 「うしぶか心愛病院」が、医療機関への経営支援を行うCarus Medical Groupに経営権を譲渡しました。(2024年8月)
医療法人木下会のうしぶか心愛病院は、熊本県天草市にある精神科病院です。認知症患者の治療を中心に、1963年から長年にわたり経営をされていましたが、理事長が90歳という高齢でも後継者不在で、事業承継を迫られている状態でした。
一方、Carus Medical Groupは全国の医療法人の経営・承継支援を行う企業です。広範な医療ネットワークを持つCarus Medical Groupは、天草市以上に過疎化が進んだ街での医療活動の経験があったということを聞いて安心をし、その後、M&Aに至りました。
【出典】株式会社Carus Holdings「医療法人木下会の事業承継」
医療法人社団「菅病院」がSAITO MEDICAL GROUPに出資持分を譲渡
医療法人社団「菅病院」が全国のクリニック、病院の運営を行う一般財団法人「SAITO MEDICAL GROUP」に出資持分を譲渡しました。(2024年8月)
医療法人社団菅病院は岡山県井原市にある病院で、1970年の創業以来、透析治療や救急医療の受け入れや診療を続けてきました。
一度前院長から承継をしており、承継したばかりという状況ではあるものの、人材確保の難しさが課題となり、M&Aを検討していました。
一方、SAITO MEDICAL GROUPは「医療を起点とした新たな社会モデルの構築」というビジョンを掲げ、これまで多くの地域貢献と事業承継を行ってきました。
菅病院の「地域医療の継続・発展を優先したい」という想い、そしてSAITO MEDICAL GROUPのビジョンがマッチし、M&Aに至りました。
【出典】PRTIMES「【M&Aご成約】岡山県井原市の医療法人がM&Aを選択、地域医療を守り続けるための決断を支援」
株式会社アロマヒーリングが医療法人「田本会」に株式を譲渡
株式会社アロマヒーリングが医療法人「田本会」に株式を譲渡しました。
アロマヒーリングは関東近郊エリアを中心にエステティックサロンの運営を行っている会社です。人気プラン「インディバ(高周波の温熱マシン)」を提供し、多くの顧客を抱えています。しかし、新型コロナウイルス流行により売上が激減したことをきっかけに、M&Aを始めることを決意しました。
一方で医療法人田本会は、鳥取県米子市で内科・小児科医院運営などを行っています。診療中に患者さんの悩みを聞く中で、少しずつ美容医療を導入していました。のちに医院とエステティックサロンの2社の強みを活かし合う事業の展開に興味を持ち、M&A仲介会社を通して、M&Aに至りました。
【出典】PRTIMES「【M&Aご成約】美容エステサロンと医療法人がダッグを組む!新たな事業展開を見据えた成長戦略M&A」
まとめ|医療法人の事業承継に関するご相談はCINC Capitalへ
医療法人の事業承継は、出資持分の有無による複雑な税務戦略、後継者選定の難しさ、煩雑な行政手続きなど、経営者のみで対応するのが難しいケースが少なくありません。一般的にはM&A仲介会社など専門家のサポートを受けながら対応することになります。
これから医療法人の事業承継を検討する際は「CINC Capital」にお問い合わせください。医療法人の事業承継をはじめとした、M&Aの専門的知見を持つパートナーとして、適切なスキームの選択や組織再編まで、M&Aプロセスを手厚く支援いたします。地域を守る医療インフラを継続するために、まずはお気軽にご相談ください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。