CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.09.30
【2025年】鉄道業界のM&A動向とは?メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
鉄道業界の将来に不安を感じていませんか?
人口減少や人手不足の中で、「このまま事業を続けていけるのだろうか」と悩む経営者も少なくありません。
本記事では、鉄道業界におけるM&Aの最新動向などをわかりやすく解説します。
目次
鉄道業界の市場動向
鉄道業界は、コロナ禍で一時的に需要が落ち込みましたが、2023年以降は利用者の回復とともに市場が持ち直しつつあります。
特に都市部を中心とする大手鉄道会社では、インバウンド需要や通勤・通学の復調により、業績が回復しています。
一方で、地方鉄道は回復のスピードが鈍く、全体としては長期的な縮小傾向にあるのです。
また、地方私鉄の8〜9割が赤字路線を抱えており、鉄道収入のみでは経営を維持するのが困難な状況が続いています。
鉄道業界が抱える課題
鉄道業界はコロナ禍から回復傾向にあるものの、長期的には構造的な課題を抱えています。
本章では、鉄道各社の経営を圧迫している3つの課題について解説します。
少子高齢化による利用者減少
鉄道業界では、少子高齢化により利用者が年々減少しています。
特に地方のローカル線では、高校生の通学利用が乗客数の多くを占めており、若年層人口の減少が直結して経営悪化を招いています。
さらに地方部では自家用車への依存が強まったことで鉄道の利用頻度は一層低下しているのです。
設備の老朽化と維持管理費の増加
鉄道会社にとって、老朽化したインフラの維持は大きな経営負担です。
全国の地域鉄道が保有する車両の半数以上は、製造から30年以上経過しており、メンテナンスや更新にかかる費用が年々増加しています。
老朽化対策が先送りにされ、結果としてトラブル発生時の緊急対応コストが増大するという悪循環が生まれています。
人材不足と働き方改革への対応
鉄道業界では、運転士や車掌など専門職の人手不足が深刻化しています。
新卒採用が難航しており、定年退職者の増加とともに現場の人員が不足しているのです。
その理由は、鉄道業務の多くが特殊な技能を要するため即戦力の確保が難しく、人材育成にも時間とコストがかかるためです。
鉄道業界のM&A最新動向(2025年)
鉄道業界では、2025年現在、従来の経営維持型から成長戦略型へのM&Aシフトが進んでいます。
本章では、鉄道業界のM&A最新動向を解説します。
地方鉄道の統合や観光路線の買収が進んでいる
地方鉄道を対象としたM&Aの事例が見られるようになっています。
赤字経営に苦しむ地方路線の統合や、観光資源を持つ鉄道路線の再編が、地域交通維持の観点から活発になっています。
その背景には、少子高齢化とマイカー依存の進行によって地方の輸送人員が減少し、多くの鉄道会社が単独では路線維持が困難になっている現実があるのです。
鉄道会社による異業種への参入と事業の多角化が加速
近年では、鉄道会社が異業種企業をM&Aによって取り込む事例が見られるようになっています。
鉄道収入に依存しない経営モデルを構築するため、事業の多角化が戦略として採用されているのです。
人口減少や在宅勤務の浸透により鉄道利用の伸びが限定的となり、持続可能な収益モデルを構築する必要性が高まっています。
【買い手】鉄道会社をM&Aするメリットとデメリット
鉄道会社のM&Aを検討する際は、売り手側だけでなく、買い手側がどのような目的や懸念を抱えているかを理解しておくことが重要です。
買い手側の最大のメリットは、安定したインフラ事業の取得による基盤構築の強化です。
鉄道は公共性の高い業種であり、地域との結びつきが強いことから、ブランド価値や長期的な収益基盤を確保できる点が魅力とされています。
一方で、デメリットとしては、不採算路線の維持や老朽化したインフラの更新など、莫大なコストを抱えるリスクが挙げられます。
特に地方鉄道では、赤字路線を含んだまま引き受けることが多く、買収後に収益改善が見込めないケースも少なくありません。
鉄道業界がM&Aをするメリット
鉄道業界におけるM&Aは、単なる経営統合や再建の手段にとどまりません。
本章では、鉄道業界ならではの特性を踏まえた、M&Aによる3つの具体的なメリットを解説します。
路線ネットワークの拡充によって利用者の利便性を高められる
鉄道会社がM&Aを行うことで、異なる事業者が持つ路線ネットワークを一体的に運営できるようになります。
これにより、乗り換えの簡略化や直通運転の実現が可能となり、利用者の移動の利便性が大きく向上します。
ダイヤや料金体系を一体的に見直せるため、利用者にとって使いやすいサービスが実現しやすくなるのです。
設備投資や車両調達のスケールメリットを生かせる
M&Aによって事業規模が拡大すると、設備投資や資材調達においてスケールメリットが働きます。
コスト削減や効率化が実現し、より質の高いサービス提供が可能になります。
複数の路線を持つ企業体が一括で車両や部品を発注することで、価格交渉力が増し、調達コストが抑えられるためです。
経営基盤を強化し地域の公共交通維持に貢献できる
経営力のある企業が地方鉄道をM&Aにより支援することで、地域の公共交通を維持しやすくなります。
鉄道は地域住民の生活インフラであり、その存続は社会的にも重要な意味を持っています。
M&Aを通じて大手企業の資本や運営ノウハウが導入されれば、経営の安定とサービス水準の確保が可能になるでしょう。
鉄道業界がM&Aをするデメリット
鉄道業界におけるM&Aは多くのメリットがある一方で、他業種にはない特有の課題も抱えています。
本章では、M&Aによって発生しやすい主なデメリットを3つに分けて解説します。
地域ごとの運行ニーズや文化の違いによる統合後の調整負担が大きくなる
鉄道会社がM&Aによって統合した場合、地域ごとに異なる運行ニーズや慣習の違いに対応する必要があります。
なぜなら、各地域にはそれぞれの生活様式や通勤・通学の時間帯など、地元密着の運行が根付いているからです。
親会社の効率優先の方針と現地ニーズの間で乖離が生じると、住民との信頼関係に悪影響を及ぼす可能性があります。
老朽化設備や赤字路線を引き継ぐことで財務リスクが増す
M&Aでは、魅力的な路線や資産と同時に、老朽化設備や赤字路線も引き継ぐことになります。
これにより、買収企業の財務負担が大きくなるリスクがあるのです。
特に地方鉄道では収支改善の見通しが立たないまま、運行維持義務だけが残るケースもあります。
労働組合や従業員との雇用条件調整に時間とコストがかかる
鉄道業界は労働組合の影響力が強く、M&Aに伴う統合では従業員の雇用条件調整に多大な時間とコストを要します。
統合前後で待遇や勤務制度が異なる場合、その調整に慎重な対応が求められます。
買収側が一方的に条件を出すと、従業員からの反発を招き、経営リスクにつながるおそれがあるので注意が必要です。
鉄道業界でM&Aを成功させるためのポイント
鉄道業界におけるM&Aは、単に企業の統合を意味するものではありません。
本章では、M&Aを成功させるためのポイントを3点紹介します。
地域の自治体や住民との調整を丁寧に行い信頼関係を築く
鉄道会社がM&Aを通じて地域路線を引き継ぐ場合、自治体や住民との信頼関係を築くことが重要です。
交通インフラは地域住民の生活に直結しており、M&Aに対して強い関心と不安を持たれる傾向があります。
ダイヤの急な見直しや駅の廃止といった施策は、地域との協議なしに進めてしまうと反発を招く恐れがあります。
運行ダイヤや料金体系の統一を早期に計画して混乱を防ぐ
M&A後に異なる鉄道会社の路線が同一グループに入った場合、ダイヤや料金体系の統一が必須となります。
その理由は、統一されていないダイヤや運賃設定が利用者に混乱を招き、M&Aによる期待感を損なう要因になってしまうからです。
特に通学定期やICカードの利用範囲など、日常的に使われるサービスの変更は慎重な計画と丁寧な広報が必要です。
従業員の雇用継続や職場環境の改善を重視して士気を維持する
M&Aでは、従業員の雇用条件や職場環境が変化することへの懸念が強くなります。
現場の社員が安心して働けるようにすることが、統合後のスムーズな運営につながります。
労働条件の変化や将来不安が大きいと、従業員の離職やサービス品質の低下といった問題が起こりやすくなるので、注意が必要です。
鉄道業界のM&A事例
ここでは、近年行われた鉄道業界における代表的なM&A事例を紹介します。
事例ごとにM&Aの背景や目的、実際の内容を解説していきます。
株式会社ジェイ・ケイ・エフによる新潟トランシス株式会社のM&A
2025年8月、IHIは連結子会社である新潟トランシス株式会社の全株式を、ジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)が運営するファンド傘下の株式会社ジェイ・ケイ・エフへ譲渡することを決定しました。
新潟トランシスは鉄道車両や保守車両、除雪機械の設計・製造を手がけ、特に国内市場で高いシェアを持っています。
一方で近年は業績が振るわず、成長のためには海外市場展開や多様な製品開発が不可欠とされていました。
今回の譲渡により、JWPが持つ中堅企業支援のノウハウを活かし、国内外での競争力強化と市場拡大が期待されています。
鉄道インフラ需要は海外で拡大傾向にあり、加えて北米や中国での除雪機械需要も伸びていることから、成長機会は大きいと考えられます。
IHIにとっては事業ポートフォリオの最適化を進める一環であり、新潟トランシスにとっては新体制のもとで持続的成長を目指す転機となる事例です。
【出典】株式会社IHI「新潟トランシス株式会社の株式の譲渡に関するお知らせ」
長崎自動車による島原鉄道のM&A
島原鉄道(長崎県島原市)は、長年にわたり鉄道・バス・フェリー事業を展開してきましたが、噴火災害後の復旧費用や観光客減少による経営悪化から自主再建を断念し、2017年11月に長崎自動車(長崎市)の傘下に入りました。
地域経済活性化支援機構とともに第三者割当増資を引き受け、長崎自動車が株式の90%超を取得しました。
本M&Aは、雲仙・島原地域の観光需要を取り込み、観光バス事業の共同受注や車両更新の効率化で収益改善を目指す目的で実施されました。
地域交通の維持と観光資源の活用を両立させる今回の再編は、地方交通事業の再生モデルとして注目されています。
【出典】日本経済新聞「島原鉄道、自主再建を断念 長崎自動車傘下で再生へ」
九州旅客鉄道株式会社による株式会社フジバンビのM&A
九州旅客鉄道株式会社は2023年6月、菓子メーカーの株式会社フジバンビを子会社化しました。
フジバンビは1976年に設立され、「黒糖ドーナツ棒」シリーズで広く知られる熊本発の老舗企業です。直営店に加えてスーパーやコンビニへの販路拡大を進め、地域土産として高い認知度を獲得してきました。
今回の株式取得により、買収企業は流通・外食事業とのシナジーを強化し、ブランド力を活かした新商品開発や販路拡大を見込んでいます。
特に九州エリアにおける顧客接点の拡充や地域活性化への寄与が期待されます。
食品業界においては、地域ブランドを持つ企業を取り込むことで差別化を図る動きが目立っており、本件もその一環といえます。
【出典】九州旅客鉄道株式会社「株式会社フジバンビの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
まとめ│鉄道業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
鉄道業界では、市場の二極化や構造的な課題を背景に、M&Aが経営改善や成長戦略の手段として注目されています。
特に、地方鉄道の統合や観光資源の活用、異業種との連携など、動きは多様化しています。
M&Aの成功のために、地域住民や従業員との信頼構築、制度やサービスの早期統一といった業界特有のポイントを押さえましょう。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。