CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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M&A / スキーム
- 公開日2025.04.30
- 更新日2025.04.30
株券発行会社の株式譲渡とは?対抗要件や手続きの流れ、実施時の注意点を解説
株式譲渡を行う際、株券発行会社における手続きには特有のルールがあることをご存じでしょうか。特に、譲渡の「対抗要件」や「株券の交付」など、通常の譲渡とは異なるポイントが存在し、事前に正確な知識を持っておくことが重要です。
本記事では、株券発行会社における株式譲渡の基本から、実施の流れ、注意すべきポイントまでをわかりやすく解説します。トラブルを防ぎ、スムーズな株式譲渡を行いたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
株券発行会社における株式譲渡の手続きの流れ
株券発行会社において株式を譲渡する場合、株式譲渡制限がある以上、会社の承認手続きを経る必要があります。通常、M&Aは初期検討の段階を経てデューデリジェンスの実施に進み、最終契約締結・クロージングに移行します。
株式譲渡の手続きは、M&Aプロセスの最終契約締結からクロージングの段階で行われるのが基本です。ここでは、実際に株式を譲渡する際に必要となる主な手続きを5つのステップに分けて、順を追って解説します。
Step1.株式譲渡承認請求書を作成して提出する
譲渡人は会社に対して「株式譲渡承認請求書」を提出します。この書類には、譲渡する株式の種類や数、譲渡予定先の情報などを記載します。提出先は会社です。取締役会設置の有無を問わず、株式譲渡の承認を得るための最初のステップとなります。
Step2.株式譲渡の承認決議を行う
承認請求を受けた会社は、定款や会社の機関設計に基づき、株式譲渡を承認するかどうかを決議します。取締役会設置会社であれば取締役会が、非設置会社であれば、定款や会社の機関設計に応じて、代表取締役や株主総会などが承認権限を持ちます。なお、定款により異なる決議方法が定められている場合は、その規定に従いましょう。
Step3.株式譲渡契約の締結が実施される
株式譲渡が承認されたら、譲渡人と譲受人との間で「株式譲渡契約書(SPA)」を締結し、譲渡対価の支払いを行いましょう。契約書には譲渡する株式の種類や数、譲渡価額、支払方法などが明記され、譲渡の証明として重要な役割を果たします。不承認となった場合は、会社が指定買取人を定めるか、譲渡自体が終了するかの判断がなされます。
Step4.会社が株主名簿を書き換える手続きを行う
契約が成立して代金の授受が完了したら、会社に対して「株式名義書換請求書」を提出し、株主名簿上の名義変更手続きを依頼します。これをもって、譲渡人から譲受人へ株式の所有権が正式に移転されることになります。名義変更が完了しなければ、譲受人は株主としての権利を行使できない点に注意が必要です。
Step5.株主変更・決済の手続きを行う
譲受人は、株主名簿の名義書換が正しく反映されたかを確認するため、「株主名簿記載事項証明書」の交付請求を行います。また、必要に応じて関連書類の保管や、会計処理などの手続きも進めておくと安心です。これで一連の株式譲渡手続きが完了となります。
株券が発行されていない場合の対応方法
株券発行会社の場合、会社法第128条第1項に基づき、株式の譲渡は「株券の交付」をもって初めて効力を持ちます。株券が存在しないまま株式譲渡契約のみが締結された場合、譲渡の効力自体は当事者間で有効ですが、第三者に対抗するためには株券の交付が必要です。このため、譲渡人は会社へ株券発行を請求した後、株券を譲受人に交付して、適法な株式譲渡とすることが必要です。
問題となるのは、株券の交付がないまま株式譲渡がなされ、その後の株主名簿上の記載と実際の株主に違いが生まれるケースです。このような齟齬があると、株主総会の招集通知や議決権行使など、会社運営上の重要な手続きに影響が出るおそれがあります。
対処方法としては、過去の譲渡に遡って株券交付の手続きを行うことが考えられます。実務上採用されているのは、現在株主として扱われている者に対して物理的に株券を交付する方法です。その後、過去の株主と現在の株主の間で簡易の引渡しが行われた旨の確認書を取り交わします。
ただし、このような手続きを踏んでも、株式譲渡の効力が過去に遡って完全に認められるわけではありません。あくまでも、問題の混乱を抑えるための次善策である点には留意が必要です。また、過去の株主の協力が不可欠であるため、交渉や同意を得る課程も慎重に進める必要があるでしょう。
株券発行会社が株式譲渡を行うときの注意点
株券発行会社における株式譲渡には、確認・対応すべき実務的なポイントが数多く存在します。手続きを怠ると譲渡が無効とされるリスクが生じるため、慎重な対応が必要です。ここでは、株券発行会社において株式譲渡を行う際に注意すべきポイントをご紹介します。
株券の有効性と現物の管理状況を確認する
株券発行会社の場合、原則として株券の現物を交付しなければ譲渡の効力は認められません。そのため、譲渡を実行する前に、会社が実際に株券を発行しているかどうかを定款や登記簿で確認する必要があります。
また、株主が株券を所持していない場合にも注意が必要です。例えば、単元未満株主や株券不所持制度を利用しているケースでは、会社に対して株券の発行請求を行い、交付を受けてから譲渡手続きを進めることが大切です。
さらに、譲受人が交付された株券について、喪失登録がなされていないかを事前に確認することも重要です。喪失登録がなされている場合、名義書換ができず、新たな株主としての効力が否定されるおそれがあります。登録から1年が経過していると、該当の株券自体が無効となるため、譲渡前に会社の株券喪失登録名簿を確認するなど、実務的な確認作業を怠らないようにしましょう。
株式譲渡に伴う名義書換手続きを適切に行う
株券の交付が完了しただけでは、会社や第三者に対して株主としての権利を主張することはできません。株券発行会社では、名義書換を行って初めて株主としての法的地位が確定します。そのため、譲渡後は速やかに会社に対して名義書換の請求を行い、適正に株主名簿を更新してもらうことが大切です。
なお、株券が喪失登録されている場合や、株主の身分に争いがある場合は、会社が名義書換を拒否することもあります。そうした事態を避けるためにも、事前に株券の状態や譲渡経緯について十分な確認を行い、名義書換がスムーズに進められるよう備えておきましょう。
譲渡制限がある場合は取締役会等の承認を得る
株券発行会社であっても、株式に譲渡制限が設けられている場合には、株式の譲渡には会社の承認が必要です。株券には譲渡制限がある旨が明記されているため、譲渡前に記載内容を確認し、承認手続きの有無を見極める必要があります。
承認が得られなかった場合、株主は会社に対して当該株式の買取りを請求することが可能です。会社が買取りを決定した際には、譲渡人が株券を供託することで手続きが進行します。このように、譲渡制限株式には特有の手続きが求められるため、譲渡契約締結前に十分な調査と確認を行い、取引に支障が出ないよう慎重に対応することが重要です。
専門家のサポートを活用する
M&Aでは法務・財務・税務など、さまざまな専門家の知見が必要とされます。株式譲渡を行う場合も、M&A仲介会社や弁護士などに依頼し、サポートを受けることが大切です。
例えば、M&A仲介会社には買い手・売り手のマッチングや交渉支援、手続き全体のコーディネートなどを任せられます。弁護士には法的リスクの確認や契約書のレビューなどを依頼可能です。必要な支援を受けられるよう、専門機関へ相談しましょう。
まとめ|株券発行会社の株式譲渡は注意点の確認を
株式譲渡を行う場合、会社の株式の性質や制度上の要件を正確に把握しなければ、譲渡の効力が否定されたり、後のトラブルにつながったりする可能性があります。特に株券発行会社の場合は、株券の交付、名義書換の実施、譲渡制限の有無といった実務上の注意点を丁寧に確認・対応することが不可欠です。
また、M&Aの一環として株式譲渡を行う際には、これらのポイントを踏まえて法的・実務的リスクを最小限に抑えることが重要です。安全かつ円滑な株式譲渡を実現するためにも、専門家の助言を受けながら慎重に手続きを進めることをおすすめします。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。