CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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M&A / スキーム
- 公開日2025.01.29
- 更新日2025.01.31
簡易株式交換とは?手続きの流れとメリット、略式株式交換との違い
企業のM&A手法として注目される「簡易株式交換」は、通常の株式交換手続きを簡素化したスキームです。完全親会社が交付する対価が純資産額の1/5以下である場合に利用でき、株主総会の特別決議を省略できるため、手続きの効率化とコスト削減が可能となります。
今回は、簡易株式交換の基本的な仕組みから手続きの流れ、メリット・デメリット、さらには略式株式交換との違いまで、実務に役立つポイントを詳しく解説します。
目次
簡易株式交換の概要
そもそも、簡易株式交換とはどのような制度なのでしょうか。通常の株式交換との違いも踏まえてご説明します。
株式交換とは?
株式交換とは、会社法に基づき、ある会社(完全親会社)が他の会社(完全子会社)の発行済株式のすべてを取得して、完全親子会社関係を創設するM&A手法の一つです。株式交換により、完全子会社となる会社の株主は、保有する株式に代わって、完全親会社となる会社の株式その他の財産を対価として受け取ることになります。
簡易株式交換はM&Aの手法の一つ
株主総会の決議を省略できる場合があり、手続きが比較的簡単な株式交換のこと
簡易株式交換は、通常の株式交換手続きを簡素化した特例制度です。当該制度を利用できるのは、親会社となる会社が子会社の株式取得の対価として交付する自己の株式の総額が、親会社の純資産額の1/5以下の場合に限定されます。
簡易株式交換のメリットは、親会社側での株主総会における特別決議を省略できることです。
ただし、いくつかの例外があります。例えば、会社が非上場企業で譲渡制限株式を交付する場合は、簡易株式交換の要件を満たしていても、発行済株式総数の1/6を超える株主から反対の意思表示があれば株主総会での承認手続きが必要となります。
また、子会社が非上場企業で譲渡制限株式を交付する場合も同様です。
簡易株式交換の手続きの流れ
簡易株式交換を行う際には、一連の手続きを順序立てて進めていく必要があります。ここでは、各プロセスの具体的な手続きについて解説します。
取締役会での決議
当事会社が取締役会設置会社の場合、株式交換契約の締結に先立ち、取締役会での決議を経なければなりません。具体的には、株式交換に関する基本方針や諸条件について、経営陣の合意を取り付けます。
株式交換契約の締結
取締役会で承認を得た後、関係会社間で正式な株式交換契約を締結します。契約書には、株式交換比率をはじめ、各当事会社の商号・住所、効力発生日、単元未満株式の取り扱いなどの法定事項を詳細に記載します。特に株式交換比率については、各社の企業価値を正確に反映した、公平な比率を設定しなければなりません。
事前開示書類の備置
契約締結後、株主総会、債権者保護手続き、反対株主への通知などの期日から2週間前、もしくはそれ以前に、事前開示書類を備置開始しなければなりません。具体的な備置開始日は、株主総会決議の2週間前、債権者への催告日、株主や新株予約権者への通知日など、複数の基準日のうち最も早い日となります。
開示書類には株式交換に関する詳細な内容や諸条件を記載し、株主や債権者などの利害関係者が随時確認できる状態に保管しておく必要があります。取引の透明性確保、関係者への適切な情報提供を目的とした重要なプロセスです。
株式交換の効力発生
必要な手続きがすべて完了すると、株式交換契約で定められた効力発生日に株式交換が実行されます。この日に、完全親会社となる企業は完全子会社のすべての株式を取得し、その後2週間以内に登記申請の手続きを行う必要があります。
また、効力発生後には事後開示書類の備置も求められます。これにより簡易株式交換の手続きが完了します。
簡易株式交換のメリットとデメリット
煩雑な手続きを簡素化できる簡易株式交換ですが、知っておきたいデメリットもあります。以下をもとに、メリットとデメリットを正しく理解しておきましょう。
簡易株式交換のメリット
手続きが簡素化できる
簡易株式交換の大きなメリットは、株主総会における特別決議を省略できることです。一般的な株式交換では、親会社と子会社の両方で株主総会の承認を得る必要があります。
しかし、完全親会社が交付する対価の額が純資産額の1/5以下である場合には、親会社側での株主総会開催が不要です。とりわけ株主数の多い上場企業において、手続きにかかる労力や費用を大幅に抑えられるでしょう。
経営の意思決定が円滑になる
株式交換により、完全子会社となる会社の株主は、対価として親会社の株式または金銭等を受け取ることになります。子会社の株主全員が金銭等を受け取った場合、完全子会社には少数株主がいなくなるため、経営の意思決定をより円滑に行うことが可能となります。
ただし、株式交換の実施には、完全子会社となる会社の株主総会における特別決議(議決権の2/3以上の賛成)による承認が必要です。
簡易株式交換のデメリット
株主の権利が一部制限される
完全子会社となる会社の株主は、自身の意思にかかわらず株式が交換されてしまいます。株式交換によって完全子会社となる会社の株主は、親会社の株式を取得することになりますが、親会社が非上場企業の場合、その株式を現金化することは難しくなります。
また、親会社が上場企業であったとしても、株価の変動リスクにさらされることとなり、想定しえない損失が発生する可能性があります。
必ずしもスムーズに進められるわけではない
親会社の発行済株式総数の1/6を超える反対株式の意思表示があったり、非上場企業である親会社が譲渡制限株式を割り当てたりすると、株主総会を開き承認を得る必要があります。また、株式交換により差損が発生する場合にも株主総会での承認が求められます。
簡易株式交換を含む組織再編を行う際は、具体的なスケジュールを綿密に立てることが重要です。株式交換完全親会社と株式交換完全子会社の双方で、取締役会決議から効力発生日までの流れを事前に把握し、漏れなく手続きを進める必要があります。
簡易株式交換と略式株式交換の違い
株式交換には、「略式株式交換」と呼ばれる制度もあります。簡易株式交換と略式株式交換は、いずれも完全親会社の株式総会を省略できますが、それぞれ適用基準が異なります。違いを詳しく見ていきましょう。
略式株式交換とは
略式株式交換は、議決権の90%以上を保有する特別支配会社による完全子会社化の場合に利用されます。この場合、子会社となる側の株主総会は省略可能です。完全子会社となる会社の株主総会決議を省略することが可能です。一方で、親会社の株主総会は、簡易株式交換と併用しない限り必要です。
基準に違いがある
簡易株式交換は、「完全親会社が交付する対価が純資産額の1/5以下」の場合に適用できます。一方、略式株式交換は、親会社が子会社の「議決権の90%以上」を保有している支配関係の確立状態が基準となっています。
まとめ|簡易株式交換を理解して、M&Aに活かそう
簡易株式交換は、企業のM&Aを効率的に進めるための重要な手法です。親会社側の株主総会における特別決議を省略できる一方で、取締役会決議や契約締結、事前開示書類の備置など、基本的な手続きは必要となります。
また、発行済株式総数の1/6を超える株主からの反対や、非上場企業による譲渡制限株式の交付といった場合には、株主総会での承認が必要となるなど、いくつかの制約も存在します。制度の特徴と要件を正しく理解し、状況に応じて略式株式交換との併用も検討することで、より効果的なM&Aの実現が可能となるでしょう。
この記事の監修者
CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
CINC Capital取締役執行役員社長。リクルート関連会社や外資系製薬会社、大手・ベンチャー独立系M&A仲介会社で営業組織を牽引。 特にM&A実績の多い業界は調剤・IT・運送業。