CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。

法務 / デューデリジェンス
- 公開日2025.04.24
- 更新日2025.04.24
データルームとは?M&Aにおける役割と利用の際の注意点を解説
M&Aを進める際、機密情報の管理に不安を感じることはありませんか?
特に、財務情報や契約書類などの重要なデータをどのように安全に共有すべきか悩む企業は多いでしょう。
本記事では、M&Aにおけるデータルームの役割や導入のタイミング、バーチャルデータルーム(VDR)のメリットについて詳しく解説します。
目次
データルームとは?
データルームとは、M&Aや資金調達などの取引において、関係者が機密情報を安全に共有するための専用の環境です。従来は物理的な部屋に書類を保管し、許可された関係者のみが閲覧する形でした。しかし現在では、クラウド上で管理できるバーチャルデータルーム(VDR)が主流になっています。
近年、日本のM&A市場は拡大を続けており、中小企業庁のデータによれば、中小企業のM&A成約件数は2011年度の約500件から2021年度には約4,000件へと約8倍に増加しています。この傾向は2022年度も継続しており、M&A市場の拡大に伴い、安全かつ効率的に情報を共有するためのデータルームの需要も高まっています。
バーチャルデータルーム(VDR)は、インターネットを通じて機密情報を安全に管理しながら、遠隔地の関係者とも迅速に情報共有が可能です。M&Aのように多くの機密情報を扱う場面では、情報の管理や取引のスムーズな進行においてVDRが重要な役割を果たします。
M&Aにおけるデータルームの役割
M&Aにおいてデータルームは、買収監査(デューデリジェンス)の場面で活用されます。売り手企業は、財務諸表や契約書などの機密資料をデータルームに保存し、買い手企業がアクセスして企業の価値やリスクを評価します。この仕組みを導入することで、複数の買い手候補と同時に情報を共有できるため、M&Aプロセスを効率化できます。
また、アクセス権を細かく設定できるため、特定の関係者だけに情報を開示し、機密情報の漏えいリスクを最小限に抑えることが可能です。
データルームに格納する一般的な資料には、以下のようなものがあります。
- 財務情報:過去3〜5年分の財務諸表、税務申告書、予算・実績比較資料、将来の財務予測など
- 法務資料:定款、登記簿謄本、重要な契約書、訴訟関連資料、知的財産権の証明書類など
- 事業関連資料:事業計画書、組織図、主要顧客・取引先リスト、製品・サービス資料など
- 人事関連資料:役員・従業員の一覧、給与体系、就業規則、福利厚生制度の資料など
- その他:不動産・設備の資料、環境関連の許認可書類など
資料の準備は売り手側の大きな負担となるため、M&A仲介会社のサポートを受けながら、計画的に進めることが重要です。データルームの利用により、M&Aの透明性が向上し、取引の意思決定も迅速に進められます。
M&Aプロセスのどの段階でVDRを導入すべき?
VDRは、M&Aプロセスの中でもデューデリジェンスの段階で本格的に活用されますが、実務上は売却準備の段階から構築を始めることが望ましいです。基本合意書または意向表明書(LOI)が締結された後、買い手企業は売り手企業の詳細な情報を確認する必要があります。
この段階でVDRを活用すると、効率的かつ安全に情報共有が可能になります。特に複数の買い手候補がいる場合は、初期的な情報開示の段階から限定的なVDRを用意し、交渉が進展するにつれて開示情報を増やしていく手法も効果的です。
また、デューデリジェンスだけでなく、最終契約の締結や取引後の統合(PMI)においても、契約書や業務マニュアルの共有にVDRを利用できます。こうした活用により、M&Aの各プロセスでスムーズな情報管理が実現し、取引全体の進行が加速します。
バーチャルデータルームのメリット
バーチャルデータルーム(VDR)は、M&Aをはじめとする機密性の高い取引において、情報を安全に管理しながら効率的に共有できるシステムです。従来の物理的なデータルームと比較すると、利便性とセキュリティの両面で大きな利点があります。VDRを導入することで、関係者がリアルタイムで情報を共有し、スムーズな取引を進めることが可能になります。
また、強固なセキュリティ対策により、機密情報の漏えいや不正アクセスを防ぐことが可能です。
本章では、VDRの具体的なメリットについて詳しく解説します。
情報共有の効率を向上できる
VDRを活用することで、情報共有のスピードが向上し、M&Aプロセスを円滑に進めることができます。従来の物理的なデータルームでは、関係者が指定された場所に出向いて資料を確認する必要がありました。
しかし、VDRを利用すれば、インターネットを介してどこからでもアクセスできるため、遠隔地の関係者とも迅速に情報を共有できます。特にM&Aでは、買い手企業や法務・会計の専門家が関与するため、多数の関係者が同時に資料を閲覧できる環境が求められます。VDRを導入することで、関係者がリアルタイムで情報を確認し、意思決定をスムーズに進めることが可能になります。
また、検索機能やタグ付けを活用することで、必要な資料を迅速に見つけられる点もVDRのメリットです。これにより、情報収集にかかる時間を削減し、M&Aプロセス全体の効率を高めることができます。
セキュリティを強化して安全に管理できる
VDRは、高度なセキュリティ機能を備えており、機密情報を安全に管理することが可能です。M&Aでは、財務情報や契約書など、外部に漏洩してはならない情報を扱います。そのため、アクセス制限やデータの暗号化、操作履歴の記録など、強固なセキュリティ対策が求められます。
VDRでは、ユーザーごとにアクセス権限を細かく設定できるため、必要な情報を特定の関係者にのみ開示し、情報の流出を防ぐことができます。さらに、操作ログの自動記録機能により、誰がいつどの資料を閲覧・ダウンロードしたのかを追跡することが可能です。これにより、不正アクセスや情報漏えいのリスクを最小限に抑えられます。
また、多くのVDRサービスでは、二要素認証(2FA)やIPアドレス制限といった追加のセキュリティ機能も備えているため、より安全な環境で機密情報を管理できます。
コスト削減と業務の効率化を実現できる
VDRの導入は、コスト削減と業務の効率化にもつながります。物理的なデータルームを使用する場合、資料の印刷・保管にかかる費用や、関係者の移動・宿泊費が発生します。特に、海外企業とのM&Aでは、移動コストが大きな負担になります。
一方で、VDRを活用すれば、これらの費用を削減できるため、コスト面でのメリットが大きいです。また、VDRでは文書のアップロードや管理が簡単に行えるため、資料整理にかかる時間も短縮できます。検索機能を活用すれば、必要な書類を迅速に見つけられるため、作業効率が向上します。
さらに、VDRは一度導入すれば、M&A以外のプロジェクト管理や法務業務にも活用できるため、企業全体の業務効率を向上させることが可能です。
最適なプロバイダーの選定方法
データルームを導入する際は、以下のポイントを考慮して最適なプロバイダーを選定することが重要です。
- セキュリティ機能:暗号化技術、アクセス制御、操作ログの記録など、高度なセキュリティ機能を備えているかを確認しましょう。
- 使いやすさ:直感的に操作できるインターフェースであるか、ファイルのアップロード・管理が容易かを確認することが重要です。
- サポート体制:24時間サポートが受けられるか、日本語対応しているかなど、導入後のサポート体制も選定の重要な要素です。
- コスト:M&A案件の規模や期間に応じて、コストパフォーマンスの高いサービスを選ぶことが大切です。
- 追加機能:Q&A機能、レポート作成機能など、M&Aプロセスを効率化する追加機能の有無も確認しましょう。
日本国内でよく利用されているデータルームサービスとしては、海外発のサービスとしてIntralinks、Datasite(旧Merrill)、国内サービスとしてDATAPROHubなどが挙げられます。案件の特性や予算に応じて最適なサービスを選定することが重要です。
データルームを利用する際の注意点
データルームは、M&Aや機密情報を扱う取引において欠かせないツールです。しかし、安全に運用するためには、適切な管理が求められます。不正アクセスを防ぐためのセキュリティ対策を講じることはもちろん、関係者以外が情報を閲覧できないようアクセス権限を適切に設定する必要があります。
また、情報漏えいのリスクを最小限に抑えるために、管理体制を構築し、継続的に監視・運用していくことが重要です。データルームを安全に活用するには、売り手側と買い手側の両方が意識すべきポイントがあります。
売り手側のポイント
- 情報の段階的な開示:初期段階では一般的な情報のみにとどめ、交渉が進むにつれて機密性の高い情報を追加していくことが有効です。
- 競合他社への配慮:買い手候補に競合企業が含まれる場合、競争上の機密情報の開示には特に注意が必要です。
- データの整理と準備:デューデリジェンスを円滑に進めるため、事前に資料を整理し、分かりやすい形で提示することが求められます。
買い手側のポイント
- 効率的な情報収集:大量の資料の中から必要な情報を効率的に見極めるために、専門チームを組成し、役割分担を明確にすることが効果的です。
- 追加情報の要請:データルームに掲載された情報だけでは不十分な場合、適切に追加資料を請求できる体制を整えておくことが重要です。
- 情報の分析と評価:入手した資料を基に、リスクと機会を的確に見極め、M&Aの判断や交渉戦略に活用することが求められます。
このように、売り手と買い手それぞれが意識すべき実務上のポイントを把握し、適切な管理体制を整えることで、データルームの安全性と有効性が一層高まります。
本章では、そうした観点から安全にデータルームを利用するためのポイントについて解説します。
不正アクセスを防ぐセキュリティ対策を実施する
データルームのセキュリティを確保するためには、不正アクセスを防ぐ対策を徹底することが不可欠です。M&Aにおいては、財務情報や契約書などの機密情報を扱うため、外部からのサイバー攻撃の標的になりやすいです。そのため、ログイン時の二要素認証(2FA)やIPアドレス制限を設定することで、不正なアクセスを未然に防ぐことができます。
また、通信経路を暗号化し、データが第三者に傍受されるリスクを減らす工夫も欠かせません。さらに、データルームの管理者は、定期的にアクセス履歴を確認し、不審な操作がないかを監視する必要があります。アクセスログを自動で記録・分析できるシステムを導入することで、異常な動きを早期に検出し、迅速に対処できる体制を整えることが求められます。
関係者のみが閲覧できるようアクセス権限を管理する
データルームの情報を安全に管理するためには、関係者のみに閲覧権限を付与し、不必要なアクセスを制限することが重要です。M&Aのプロセスでは、多くの関係者が情報を閲覧しますが、すべての資料がすべての関係者に必要なわけではありません。
例えば、買い手企業の担当者には財務資料を開示する一方で、法務担当者には契約書類のみを閲覧可能にするなど、細かくアクセス権限を設定することで、情報の過剰な開示を防ぐことができます。VDRには、閲覧のみ許可、ダウンロード不可、印刷制限などの設定が可能なものが多いため、適切な権限管理を行うことで、情報の不正利用を防ぐことができます。
また、定期的にアクセス権限を見直し、不要なユーザーの権限を解除することも、セキュリティ維持のためには欠かせません。
情報漏えいを防ぐための管理体制を構築する
データルームの安全性を確保するには、技術的な対策だけでなく、情報管理のための社内体制を整備することが不可欠です。VDRを導入しても、適切な運用ルールがなければ情報漏えいのリスクは防げません。そのため、企業内でデータルームの運用ポリシーを策定し、関係者に対して情報管理のルールを徹底することが求められます。
例えば、データの持ち出し禁止、共有ファイルの管理ルール、アクセスログの定期チェックなどを明確にし、実践することで、情報の適切な取り扱いが可能になります。また、定期的に社内研修を実施し、関係者に対してデータルームの適切な利用方法を教育することも重要です。
加えて、万が一情報が漏えいした場合に備えて、インシデント対応のフローを策定し、迅速に対応できる体制を構築することで、被害を最小限に抑えられます。
まとめ|データルームを適切に活用しましょう
データルームは、M&Aにおける機密情報の管理と共有を円滑に進めるために不可欠なツールです。特にバーチャルデータルーム(VDR)を活用することで、情報共有の効率化、セキュリティの強化、コスト削減といったメリットが得られます。
一方で、安全に運用するためには、不正アクセスの防止、適切なアクセス権限の管理、情報漏えいを防ぐための体制構築が必要です。これらの対策を徹底することで、M&Aプロセスをスムーズかつ安全に進めることが可能になります。
データルームを適切に活用し、情報管理の精度を高めることで、企業の取引や意思決定をより確実なものにしていきましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。