CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.09.29
福祉用具レンタル業界のM&A動向は?事例や成功のポイントを解説【2025年】
福祉用具レンタル業界のM&Aを進めるべきか悩んでいませんか。
後継者問題や市場再編の流れが加速するなか、判断を迷う事業者も多く見られます。
本記事では、福祉用具レンタル業界の市場動向、M&Aの現状、よくある課題、成功のポイントまでを体系的に解説します。
目次
福祉用具レンタル業界の市場動向
2000年に介護保険制度が始まってから、福祉用具レンタルの市場は毎年およそ5%ずつ成長しています。
2002年には約1,000億円だった市場規模は、2022年には約4,133億円と4倍以上に拡大しました。
利用者の数もこの20年でおよそ5倍に増えており、これからさらに高齢化が進むことで、福祉用具のニーズは今後も高まると考えられます。
福祉用具レンタル業界が抱えている課題
福祉用具レンタル業界は、市場が拡大している一方で、現場レベルでは深刻な課題を複数抱えています。
本章では、福祉用具レンタル業界が抱えている課題を3つに分けて解説していきます。
慢性的な人材不足
福祉用具レンタル業界では、専門知識と現場対応力を持つ人材の確保が難しくなっています。
単に用具を貸すだけでなく、利用者の身体や住環境に合った選定・設置・メンテナンスが必要であり、専門スタッフの存在は欠かせません。
特に地方では高齢者が多い一方で、対応できる人手が足りず、サービスの遅れや質の低下が問題になっています。
人材不足はサービスの安定提供に直結するため、採用や育成に力を入れなければ、今後の事業継続は難しくなります。
大手企業参入による競争激化
福祉用具レンタル業界では、大手企業の参入により競争が激しくなっています。
大手は資本力を活かし、広いエリアで効率的に事業を展開することで、シェアを拡大しています。
一方、地域密着の中小事業者はその影響を受け、収益が下がっています。
2018年の制度改正で貸与価格に上限が設けられ、価格情報の開示も義務化されたことで、利用者は安さを重視するようになりました。
大手は大量仕入れでコストを抑えられるのに対し、中小は価格競争で不利になり、経営に苦しむケースが増えています。
経営者の高齢化と後継者難
福祉用具レンタル業界では、中小企業が多く、経営者の高齢化と後継者不足が深刻になっています。
家族経営が多い中、承継が進まず、引退による廃業リスクが高まっています。
顧客や地域とのつながりが断たれれば、利用者や介護体制にも大きな影響が出る可能性があるのです。
そのため、M&Aによる第三者承継が注目されており、導入する事業者も増えています。
福祉用具レンタル業界のM&A新動向(2025年)
福祉用具レンタル業界では、後継者不在や人手不足などの課題に対応する手段として、M&Aの動きが広がっています。
本章では、特に注目すべき3つのトレンドについて詳しく解説していきます。
大手による中小事業者買収の加速
大手企業は中小の福祉用具レンタル事業者を積極的に買収し、事業拡大を進めています。
資本力と物流・営業の強みを活かし、地域ごとの市場再編も進行中です。
たとえばヤマシタは2025年4月、関西の事業を譲受し約1,000人の利用者を引き継ぎました。
【出典】株式会社ヤマシタ「関西地区の介護事業会社より福祉用具貸与事業を譲受」
中小・個人オーナーによる承継型M&Aの増加
中小の福祉用具レンタル事業者では、経営者の高齢化や後継者がいないことが大きな問題になっています。
その解決策として、事業や会社を第三者に引き継ぐM&Aが増えています。
この動きは、事業の引継ぎをスムーズに行い、地域のサービスを守るために重要な流れとなっています。
製造メーカーや介護企業による事業統合・多角化
福祉用具メーカーや介護企業は、レンタル事業を取り込み、製販一体の体制を強化しています。
たとえばフランスベッドHDはカシダスやホームケアサービス山口を傘下に収めました。
これらの動きは、製造とサービスを自社内で連携させ、収益と品質の向上を図る戦略です。
【出典】フランスベッドホールディングス株式会社「当社連結子会社による株式取得(孫会社化)に関するお知らせ」
福祉用具レンタル業界でM&Aを成功させるためのポイント
福祉用具レンタル業界でM&Aを成功させるには、業界特有の事情を踏まえた準備と判断が欠かせません。
この章では、実務面で重視すべき5つのポイントについて具体的に解説します。
業界特有のデューデリジェンス準備
福祉用具レンタルのM&Aでは、財務や法務だけでなく、用具の在庫や請求体制、契約先との関係も丁寧に確認することが重要です。
用具の種類や年式、メンテナンス状況によって価値が大きく変わるため、買い手にとっては予期せぬ費用リスクを避ける必要があります。
そのため、用具の管理台帳や契約内容をしっかり整理し、正確な情報を開示することが、円滑な交渉につながります。
譲渡条件における従業員・契約者配慮
M&A後の現場を安定させるには、従業員の雇用継続と契約者との信頼関係を守ることが重要です。
福祉用具レンタルは人に支えられたサービスであり、不安が生じると利用者離れやスタッフの退職につながります。
そのため、譲受側は人員配置や待遇を明示し、利用者にも丁寧な引き継ぎを行うことで、安心して継続利用できる体制を整える必要があります。
地域ネットワークの強みを明示
事業の魅力を伝えるには、ケアマネジャーとの連携実績や提携施設数、利用者数などを具体的な数値で示すことが大切です。
こうした地域密着の強みは中小事業者ならではの価値であり、買い手にとっては短期間で地域シェアを広げる手がかりになります。
そのため、地図や利用者推移などをまとめた資料を用意することで、交渉を有利に進めることができます。
スキーム選択(株式 vs 事業譲渡)の理解
福祉用具レンタル業界では、事業譲渡が主流であり、従業員や在庫、取引先との関係だけを引き継ぐ形が一般的です。
これは、レンタル契約や在庫が中心の事業にとって、リスクを抑えて引き継げる方法とされています。
実際、M&Aの8割以上が事業譲渡で行われており、特に小規模な事業では効率的です。
スキーム選択は、資産内容や人員体制、契約の状況を踏まえて慎重に判断することが重要です。
M&A専門家の関与
福祉用具レンタル業界でM&Aを進めるには、業界に詳しい仲介会社やアドバイザーと連携することが効果的です。
交渉や調査、契約など専門的な対応が多く、業界の事情に詳しい専門家の助言が欠かせません。
実際、成功事例の多くで「専門家に相談すること」が重要なポイントとなっています。
そのため、できるだけ早い段階で専門家に相談し、計画的に進めることがM&A成功において重要となります。
福祉用具レンタル業界のM&A事例
ここでは、福祉用具レンタル業界のM&A事例について紹介します。
株式会社ヤマシタによる株式会社モスのM&A
介護用品レンタル・販売大手のヤマシタは、2024年11月に岡山市の福祉用具事業者モスの全株式を取得し、子会社化しました。
モスは「いいなケア」の名称で福祉用具レンタル・販売や住宅改修を手掛けており、今回の買収によりヤマシタにとって岡山県での初拠点が誕生します。
ヤマシタは長期ビジョン2030で売上850億円を目標に掲げ、営業所を70から120以上へ拡大する方針を示しており、M&Aを積極活用しています。
今回の子会社化により、中国地方におけるサービス提供網の拡充と地域密着型の事業展開が進む見込みです。
介護業界は市場拡大と同時に人材・サービス品質の確保が課題となっており、大手による地域事業者の取り込みが進む再編局面にあります。
本件は、ヤマシタが「正しく生きる、豊かに生きる」という理念を基盤に、全国的なネットワーク強化と成長を加速させる戦略的M&Aの一例です。
【出典】株式会社ヤマシタ「株式会社モスの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
パラマウントベッドホールディングス株式会社によるSMFL レンタル株式会社のM&A
2024年7月、パラマウントベッドホールディングスの連結子会社であるパラマウントケアサービス(PCS)は、SMFLレンタル(SMFLグループ)が新設する会社に福祉用具レンタル事業を承継させ、その全株式を取得しました。
PCSは全国の福祉用具貸与事業所へ製品提案や流通を担うとともに、オリジナル商品の開発や安全性を重視した整備体制を整えてきました。
今回のM&Aにより、従来フランチャイズ方式で展開していた地域事業を系列化し、グループ全体での事業拡大を図る狙いがあります。
高齢社会の進展に伴い、福祉用具の需要は着実に拡大しており、今回の統合は品質・サービスの均一化と供給体制の強化につながると考えられます。
業績への影響は軽微とされていますが、今後の事業基盤の安定化に向けた戦略的な一手といえる事例です。
【出典】パラマウントベッドホールディングス株式会社「連結子会社によるレンタル事業会社の株式取得に関するお知らせ」
株式会社揚工舎による有限会社ケア・フレンドのM&A
介護サービス事業を展開する揚工舎は、2021年3月に福祉用具の貸与・販売を手掛ける有限会社ケア・フレンドの全株式を取得し、子会社化しました。
揚工舎は有料老人ホームやデイサービス、介護資格取得支援、人材派遣など幅広い事業を展開しており、多角的な介護サービス体制の強化を進めています。
ケア・フレンドは長年にわたり地域で福祉用具事業を展開してきましたが、直近では赤字経営が続いており、揚工舎グループの一員となることで再建と事業基盤の安定化が図られるとみられます。
揚工舎にとっては、既存事業とのシナジーを通じて介護サービス全体の付加価値を高める狙いがあり、介護ニーズの拡大に応える体制強化につながる動きです。
介護業界では、大手による地域事業者の取り込みや機能補完型のM&Aが進んでおり、本件もその一環と位置付けられる事例といえます。
【出典】株式会社揚工舎「有限会社ケア・フレンドの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
福祉用具レンタル業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
福祉用具レンタル業界では、高齢化や人材不足、価格競争などの課題がある一方で、地域ニーズの拡大によりM&Aが活発になっています。
大手による買収や、個人オーナー同士の承継、製販一体化など多様なM&Aが進んでおり、今後も増加が見込まれます。
M&Aを成功させるには、業界特有のポイントを理解し、早めに準備することが重要です。
CINC Capitalでは、様々な実績を持つプロが、事業承継や成長戦略をサポートします。
M&Aをお考えの方は、ぜひご相談ください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。