CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.21
- 更新日2025.04.21
スポーツ用品市場のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
日本のスポーツ用品市場は近年、オンライン化の波と実店舗の役割転換が進むと同時に、さまざまな経営課題の解決に向けたM&Aが注目を集めています。M&Aには後継者問題の解決や販売網拡大といったメリットがある一方、経営判断の自由度低下や人材流出といったデメリットも存在します。
今回は、スポーツ用品市場のM&A最新動向から成功のためのポイントまで、事例を交えて徹底解説します。
目次
スポーツ用品業界の市場動向
株式会社矢野経済研究所の調査によると、2023年のスポーツ用品市場は緩やかに回復し、全体規模が1兆6,493億円に達しました。前年比でわずかながらプラス成長を記録していますが、この回復傾向は市場全体で均一ではなく、分野によって明確な差が生じています。
特筆すべきなのは、各分野における消費パターンの変化です。例えば、コロナ禍で急成長したアウトドアレジャー関連市場は、ここにきて拡大ペースが落ち着いてきました。人々のアウトドア志向は定着したものの、爆発的な需要増加の時期を過ぎ、安定期に入ったといえるでしょう。
一方で、日常的に使用する汎用性の高いスポーツシューズや各種競技用具の分野では、着実な需要回復が見られます。これらの分野は小幅ながらも、着実にコロナ禍以前の水準へと戻りつつあります。
【出典】株式会社矢野経済研究所「スポーツ用品市場に関する調査を実施(2024年)」
スポーツ用品市場が抱える課題
スポーツ用品市場は成長を続けていますが、同時に業界特有の課題にも向き合っています。具体的に見ていきましょう。
オンライン化の波による実店舗の役割転換
近年、スポーツ用品のEC市場は着実に拡大しています。コロナ禍を契機として消費者のオンラインショッピングへの移行が加速し、企業は実店舗の利便性向上とEC販売の強化を同時に求められるようになりました。
しかし、スポーツ用品市場のオンライン化は他業種と比較して遅れています。主な要因として、ブランドや競技によって事業部・販売サイトが分散しており、統合型ECサイトの構築に時間を要することが挙げられます。
また、ゴルフクラブの試し打ちなど、実店舗ならではの体験サービスへのニーズも根強く存在し、ECサイト利用の壁となっています。このような背景から、実店舗は単なる販売拠点から、商品体験や専門アドバイスを提供する場へと役割が変わりつつあります。
店舗の大型化による運営コスト増加
大手グループを中心に、顧客体験向上のために店舗の大型化が進んでいます。品揃えを充実させられる一方、広大な売場面積に対応するための在庫管理や適切な人員配置が求められ、結果として経営コストが肥大化しています。なお、郊外型の大型店舗では好立地の確保が年々難しくなり、運営だけでなく、出店にかかる費用も高騰しているのが実情です。
専門知識を有する販売スタッフの確保
スポーツ用品店では、最新の流行や消費者動向を敏感に察知する能力、使用者の体型や技術レベルに適した商品選定力を持つスタッフの配置が不可欠です。しかし、そうした高スキル人材の確保が年々難しくなっており、業界全体の深刻な課題となっています。
スポーツ用品市場のM&A最新動向(2025年)
昨今は業界内の再編や、異業種との積極的な提携・経営統合が見られるようになりました。ここでは、スポーツ用品市場の最新のM&A動向をご紹介します。
海外ブランドの日本市場における攻勢
グローバルスポーツブランドは、日本のスポーツ用品市場において圧倒的な存在感を示しています。具体的には、「ナイキ」「プーマ」「アンダーアーマー」などの有名ブランドは、トップアスリートとの戦略的パートナーシップ、革新的な研究開発による高機能製品、そして洗練されたデザイン性を武器に、日本市場での影響力を拡大しています。
オムニチャネル戦略の強化を目的とした参入
アパレル業界ではEC、オムニチャネル、D2C(Direct to Consumer)戦略が主流となっています。スポーツ用品業界でも同様で、実店舗とECの連携強化によるシームレスな顧客体験の提供を目指し、積極的なM&Aが展開されています。
例えば、「ヨドバシカメラホールディングス」による「石井スポーツ」の買収では、高度な物流ネットワークの共有を通じて、顧客サービスの質的向上と収益基盤の強化を図りました。
【出典】株式会社ヨドバシホールディングス「株式会社ICI石井スポーツの株式譲受けに関するお知らせ」
スポーツ用品店がM&Aをするメリット
ここからは、スポーツ用品店が事業売却などのM&Aを検討するメリットをご紹介します。売り手企業目線で解説しますので、M&Aを検討中の経営者はぜひ参考にしてください。
後継者問題を解決できる
中小スポーツ用品会社や地域密着型の専門店では、後継者不足が深刻な経営課題となっています。M&Aで第三者に事業承継・売却すれば、廃業を回避すると同時に、長年築き上げてきた事業価値と従業員の雇用を同時に守れます。とりわけ地域に根ざしたスポーツ用品店の場合、事業継続は社会的意義の大きい選択といえるでしょう。
販売網や顧客接点が拡大する
大手企業とのM&Aによるシナジー効果で、売上向上につなげられると期待できます。例えば、既存販売ネットワークや高度に最適化されたECプラットフォームを活用することで、これまで到達できなかった顧客層への効果的なアプローチが可能になります。中でもデジタルマーケティングに強みを持つ企業との経営統合は、EC事業の大幅な強化につながり、D2C(メーカー直販)モデルの本格的な展開も視野に入れられるでしょう。
従業員の雇用維持と待遇改善が期待できる
専門スキルを持つスタッフは、買い手側にとっても貴重な人的資源となります。既存従業員は大手企業グループの一員となることで、安定した環境での勤務が保証されるだけでなく、充実した福利厚生や給与水準の向上などの付加的なメリットも期待できるでしょう。
スポーツ用品店がM&Aをするデメリット
M&Aは多くのメリットをもたらしますが、知っておくべきデメリットも存在します。具体的な注意点を確認しましょう。
経営判断の自由度が低下する
中小規模のスポーツ用品店は、市場トレンドの変化に対して機動的な判断と柔軟な対応が可能な体制を強みとしています。しかし、M&A後は予算配分から商品開発、マーケティング戦略まで多岐にわたる事項で親会社の承認が必要となり、意思決定スピードが低下します。特に季節性の強いスポーツ用品業界では、この変化が競争力低下につながるリスクは無視できません。
優秀な人材の流出リスク
買収後の組織再編にともない、M&Aでは既存従業員の処遇が変わることがあります。特に売り手企業の待遇が買い手企業よりもよかった場合、従業員のモチベーション低下や優秀な人材の流出を招く恐れがある点に留意しましょう。
スポーツ用品店がM&Aを成功させるためのポイント
ここでは、スポーツ用品店がM&Aを成功させるためのコツをご紹介します。ポイントを押さえてM&Aの準備を進めましょう。
在庫管理体制と仕入れルートの整備
トレンド変化の激しいスポーツ用品業界では、適切な在庫管理体制と独自の仕入れルートが重要な評価ポイントになります。需要予測に基づいた在庫最適化システムを構築することで、経営効率の高さを証明できます。
例えば、サプライチェーン全体を最適化するSCM(サプライチェーンマネジメント)の導入は、買い手企業にとって魅力となるでしょう。個別最適化を超えた効率的な運営体制が実現していれば、M&A後の統合もスムーズに進む可能性が高まります。
オムニチャネル戦略の確立と実績提示
EC戦略とリアル店舗の効果的な連携は、スポーツ用品業界で企業価値を高める要素です。オンラインとオフラインの顧客接点を統合したオムニチャネル戦略の実績を示すことで、買い手企業の関心を引きつけられます。
スポーツブランドとの契約関係の透明化
スポーツ用品業界のM&Aでは、各種ブランドとの契約関係の透明化が不可欠です。ブランドライセンス契約や販売代理店契約などの詳細を整理し、M&A後も継続可能な形で提示しましょう。
適正な企業価値評価を確認
日本の中小企業におけるM&Aの企業価値評価では、時価純資産に営業権(のれん)を加算する方法や、EBITDA等の収益指標に一定の倍率(マルチプル)を乗じる方法が一般的です。評価の際には、スポーツ用品業界特有の要素も影響します。
ブランド力や独自の販売網、スポーツ用品に深い知見を持つ人材なども重要な評価対象となりますが、専門知識がなければ公正な視点で企業価値を見極めるのは難しいでしょう。そのため、M&Aの専門家に依頼して自社の企業価値評価を確認することが推奨されます。
スポーツ用品市場のM&A事例
最後に、スポーツ用品業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社ルネサンスによる株式会社東急スポーツオアシスのM&A
株式会社ルネサンスは、株式会社東急スポーツオアシスの株式を追加取得し、同社を連結子会社化しました。ルネサンスは2022年に40%の株式を取得済みでしたが、今回の追加取得により、グループ全体で国内直営約140店舗を有する規模となりました。
これにより顧客接点の拡大やサービス効率化、ホームフィットネスやデジタルヘルス領域での成長が期待されています。フィットネス業界では、リアルとデジタルを融合させたサービスの強化が競争力向上に直結しており、本件もその流れを捉えた動きといえます。
【出典】アドバンテッジアドバイザーズ株式会社「株式会社ルネサンスによる株式会社東急スポーツオアシスの株式追加取得(連結子会社化)に関するお知らせ」
株式会社エービーシー・マートによる株式会社オッシュマンズ・ジャパンのM&A
株式会社エービーシー・マートは、株式会社セブン&アイ・ホールディングス傘下のスポーツ専門店、株式会社オッシュマンズ・ジャパンの全株式を取得し、子会社化しました。
オッシュマンズは都市型スポーツセレクトショップとして、アウトドアやランニング、フィットネス用品を展開し、ファッション層からも支持を得ています。
エービーシー・マートは本件により、シューズ中心の事業領域からアウトドア・パーソナルスポーツ市場へ進出し、新たな成長戦略を描きます。店舗運営ノウハウの共有による効率化や、健康志向の高まりを背景にした需要取り込みが期待されています。
【出典】株式会社エービーシー・マート「株式会社オッシュマンズ・ジャパンの株式取得及びそれに伴う子会社の異動に関するお知らせ」
モリト株式会社による株式会社マニューバーラインのM&A
モリト株式会社は、マリンレジャー用品やスノーボード用品を輸入販売する株式会社マニューバーラインの全株式を取得し、子会社化しました。
モリトは中期経営計画の一環としてM&Aを推進しており、本件は同社の服飾・生活関連資材事業とのシナジー効果を見込んだものです。マニューバーラインは安定した業績を誇るトップ企業であり、後継者不在問題の解決も背景にあります。
今後は、取扱製品の相互販売や付属品切り替えによる収益拡大が期待されています。
【出典】モリト株式会社「株式会社マニューバーラインの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
スポーツ用品市場のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
2025年現在、投資家心理の回復と企業戦略見直しにより、M&A市場全体が上向き傾向にあります。適切な準備を整えて、この機会を最大限に活用しましょう。ご紹介したポイントも参考にしながらM&Aの成功に向けて準備を進めることが大切です。スポーツ用品店の事業売却・事業承継を検討中なら、M&A仲介会社などの専門家に相談しましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。