CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.04.21
- 更新日2025.04.23
倉庫業界のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
倉庫業界では、EC市場の拡大や物流の効率化が進む一方、人手不足や設備投資の負担が課題となっています。こうした状況の中、M&A(企業の合併・買収)を活用し、事業規模の拡大や経営資源の強化を図る企業が見られます。
2025年以降は、物流の最適化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を目的としたM&Aの動きが進むと期待されています。本記事では、倉庫業界のM&A動向や成功のポイントを解説します。
目次
倉庫業界の市場動向
倉庫業界の市場規模は成長を続けています。特にEC市場の拡大に伴い、倉庫需要が高まっています。国土交通省の「令和4年度 倉庫事業経営指標(概況)」によると、調査対象となった主要倉庫事業者の1社平均の営業収益は102億5,239万6千円に達しました。
事業別の内訳を見ると、普通倉庫業が21.5%、貨物利用運送事業が29.8%、港湾運送事業が15.1%を占めています。これに加え、倉庫業以外の事業も兼業されるケースが多く、収益構成に占める割合が高くなっています。
市場の動向としては、倉庫の大型化・高機能化が進んでいます。特にECの拡大によって、最新の物流施設への需要が急増中です。経済産業省の調査によると、2020年の物販系分野のBtoC EC市場規模は約12兆円(前年比17.79%増)です。
これに対応するため、多くの企業が最新鋭の物流施設を導入し、効率的な倉庫運営を目指しています。その一環として、不動産業者が開発した賃貸型の物流施設を倉庫業者が利用する形態も一般化しつつあります。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、倉庫業務の自動化が加速傾向です。ロボット、AI、IoTの導入により作業の効率化が図られ、さらに倉庫シェアリングの動きも進んでいます。加えて、政府の物流施策として、自動配送ロボットやドローン物流の導入支援が進められており、将来的には倉庫業界全体の業務効率化が一層加速する見込みです。
【出典】経済産業省「令和2年度 産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」
【出典】国土交通省「令和3年 総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」
倉庫業界が抱える課題
EC市場の拡大とともに、倉庫業界の需要は高まり続けています。ここでは、倉庫業界が直面している主な課題について解説します。
2024年問題による人手不足
物流業界全体の課題である2024年問題は、倉庫業界にも大きな影響を及ぼします。運送業界のトラックドライバーの時間外労働の上限規制が強化されることで輸送能力が低下し、倉庫の稼働にも支障が出る可能性があります。倉庫内の人手不足が深刻化すると、作業効率の低下や配送遅延が発生するリスクも高まるでしょう。
EC事業者との競争激化
Amazonや楽天などのEC事業者が独自の物流拠点を拡充し、倉庫業務を内製化する動きが進んでいます。そのため、従来の倉庫業者はEC事業者との競争に直面し、価格競争の激化やサービスの差別化が求められています。特に、迅速な入出庫やラストワンマイル配送への対応が課題です。
倉庫内作業の効率化と自動化の遅れ
人手不足を補うための倉庫内作業の自動化が求められていますが、多くの企業では導入が進んでいません。自動倉庫やロボットを活用することで作業効率の向上が期待されるものの、初期投資の負担や既存の業務フローとの統合が課題となっています。
適正な運賃・保管料の確保
物流業界全体で適正な運賃の収受が難しい状況が続いており、倉庫業界も例外ではありません。特に荷主との交渉が難航し、保管料や物流サービスの適正価格が確保できないケースが多く見られます。この問題は倉庫業の収益性低下につながるため、価格交渉の強化が必要です。
倉庫業界のM&A最新動向(2025年)
倉庫業界では、市場の拡大や競争の激化に伴い、M&Aの動きが加速しています。ここでは、2025年における倉庫業界のM&Aの最新動向について解説します。
大手倉庫会社による中小企業の買収が進行する
大手物流会社や倉庫会社が、中小規模の倉庫会社を買収する動きがあります。物流業界では、EC市場の拡大や物流拠点の集約化が進んでおり、大手企業はコスト削減やサービス強化のために、小規模倉庫会社の事業譲渡やM&Aを選択するケースが見られます。
特に、地域に根ざした倉庫会社の買収を通じて、物流ネットワークの強化を図るケースもあるようです。大手企業にとっては、新たな拠点を確保することで配送スピードの向上やコスト削減が可能となるため、今後もこの傾向は続くと予想されます。
中小企業間のM&Aが進み、業界再編の動きが広がる
倉庫業界では中小企業同士のM&Aの動きが広がっています。特に、個人経営の倉庫会社や規模の小さい物流企業は、競争の激化や設備投資の負担増加により、単独での経営が難しくなっている状況です。同業他社と統合することで経営基盤を強化し、競争力を高める動きが見られます。
また、2024年問題による人手不足の影響もあり、倉庫業界では適切な人材の確保が経営課題となっています。そのため、M&Aを通じて事業の継続性を高める企業も出てきています。
海外市場への進出を目的としたM&Aの関心が高まる
国内市場の競争が激化する中、倉庫業界では海外市場への進出を視野に入れたM&Aの動きも見られます。特に、東南アジアやインドなどの成長市場において、倉庫拠点の確保を目的とした買収が行われています。
海外市場に進出することで、コスト削減や新たな顧客層の開拓が可能となり、事業の多角化を進める企業もあります。海外での物流需要が高まる中、日本の倉庫業者が持つノウハウを活かし、現地の物流インフラの整備に貢献する動きが加速しています。
倉庫会社がM&Aをするメリット
倉庫業界のM&Aには、売り手側にとってさまざまなメリットがあります。ここでは、倉庫業界特有のメリットに焦点を当て、売り手の視点からM&Aの利点を詳細に解説します。
事業資産の有効活用と適正な企業価値評価での売却
倉庫会社の主な資産である倉庫施設や土地は、一般的な不動産市場では流動性が低く、単独での売却が難しいケースがあります。しかし、M&Aを活用すれば、倉庫事業の収益性や顧客基盤とともに売却できるため、時価純資産に営業権を加えた適正な評価額で譲渡できる可能性が高まります。安定した荷主がついている倉庫会社であれば、継続的な収益を見込めるため、買い手からの関心も高くなるでしょう。
後継者不在による廃業リスクの回避
倉庫業界でも後継者不足は深刻な課題です。特に、地域密着型の中小倉庫会社では、経営者の高齢化により事業承継の問題を抱えているケースが増えています。M&Aを活用すれば、会社を存続させると同時に、従業員の雇用も守れます。さらに、M&Aを通じて大手企業や成長企業のグループに入ることで、より安定した経営基盤のもとで事業が継続できる点も大きなメリットです。
経営者の負担軽減とセカンドライフの準備
倉庫業は、施設の維持管理や顧客対応など、経営者にとって負担の大きい業種です。長年経営を続けてきたオーナーにとって、将来的な設備投資や物流市場の変化に対応することは大きな負担となるでしょう。
M&Aによって会社を売却することで、経営のプレッシャーから解放され、引退後の生活資金を確保できます。また、M&A後に一定期間アドバイザーとして関与することで、新たな形で事業に携わる道も選べます。
財務状況の改善と負債からの解放
倉庫業界では、施設の建設や設備投資に多額の資金が必要なため、借入負担が大きくなることが少なくありません。特に倉庫の稼働率が低下した場合、経営に与える影響は大きくなります。M&Aを活用すれば、会社の売却によって負債を整理することが可能となり、経営者の個人保証からも解放されるケースが多くなります。事業の将来性に不安を感じている経営者にとっては、大きなメリットとなるでしょう。
取引先や従業員の安定した未来の確保
倉庫業では、長年にわたって取引を続けている荷主や、経験豊富な従業員の存在が事業の安定性に直結します。M&Aによって経営基盤の強い企業に事業を引き継ぐことで、取引先との関係を維持しつつ、従業員にとっても安定した雇用環境を提供できます。大手企業のグループに加わることで、新規顧客の獲得や事業拡大のチャンスが生まれることもあり、売り手側にとってプラスの要素となるでしょう。
倉庫会社がM&Aをするデメリット
倉庫業界でのM&Aは多くのメリットをもたらしますが、売り手側にとっていくつかのデメリットも考慮する必要があります。ここでは、倉庫会社を売却する際に想定されるデメリットについて解説します。
希望どおりの価格や条件で売却できない可能性
倉庫会社の売却価格は、倉庫の立地や設備状況、取引先との契約状況などによって大きく左右されます。日本の中小企業におけるM&Aでは、一般的に「時価純資産+営業権法」や「マルチプル法」による企業価値算定が行われますが、売り手の主観的な希望価格と客観的な評価額には乖離が生じることがあります。
特に中小規模の倉庫会社の場合、買い手側の評価が売り手の想定を下回り、予想よりも条件が厳しくなるケースが少なくありません。事前に専門家による適正な価値評価を受けることが重要です。
売却までに時間がかかる可能性
倉庫業界のM&Aでは、売却先を見つけるまでに時間がかかることが少なくありません。特に大規模な倉庫を所有している企業や、特殊な物流機能を持つ倉庫会社の場合、買い手が限られるため、交渉に長期間を要する可能性があります。また、M&A仲介会社を利用する場合、成約までの期間が長引くと仲介手数料や運営コストがかさみ、想定以上の費用が発生するリスクもあります。
倉庫会社がM&Aを成功させるためのポイント
倉庫業界におけるM&Aを成功させるためには、単なる企業の統合ではなく、業界特有の課題や成長戦略を踏まえた取引を進めることが重要です。こうした変化を考慮しながら、適切なM&A戦略を立てましょう。
物流の効率化・自動化を見据えた相手を選ぶ
倉庫業界では、人手不足への対応としてロボットやAI、自動倉庫システムの導入が進んでいます。M&Aにおいても買収・統合後に業務の自動化を進めやすい企業を選ぶことで、効率的な運営が可能になります。例えば、自社に最新の物流管理システムがない場合、ITやソフトウェア開発を強みとする企業と提携することで、競争力を高められるでしょう。
既存の取引先や顧客基盤との相性を考慮する
倉庫業は長期契約の取引が多い業界のため、M&A後に取引先との関係が維持できるかどうかが重要なポイントとなります。売却後に主要取引先が離れてしまうと、想定していた収益が得られなくなるリスクもあるため、統合先の企業と取引先の相性を十分に検討することが必要です。倉庫の立地や対応できる貨物の種類が異なると、既存顧客との契約継続が難しくなる可能性があるため注意しましょう。
シナジーを生み出せる業種・業界を視野に入れる
倉庫業界のM&Aでは、運輸業やEC事業者、サービス業界、メーカーなど、隣接する業界の企業との提携が有効なケースが多く見られます。物流業者とのM&Aによって輸送手段を確保し、一貫した物流ネットワークを構築することで、コスト削減やサービス向上が期待できます。また、EC事業者との提携により、フルフィルメントサービスの拡充を図ることも可能です。
倉庫の立地や規模に応じた戦略を立てる
倉庫の立地は、M&Aにおいて非常に重要です。都市部にある倉庫であればEC物流や小口配送に適している一方、地方の大型倉庫であれば広域配送やメーカー向けのストック拠点としての活用が考えられます。M&Aの際には、統合後の倉庫ネットワークをどのように活かせるかを明確にし、売却側・買収側の双方にとってメリットが大きい形で取引を進めましょう。
従業員の雇用維持と組織文化の統合を重視する
M&A後の成功には、従業員のモチベーション維持や組織文化の統合が欠かせません。倉庫業は現場作業員の力が大きく、M&Aによって待遇や業務環境が大きく変わると、従業員の離職につながるリスクがあります。家族経営の倉庫会社や地方の企業では、企業文化の違いが大きいため、統合後の組織運営についても十分に検討しておく必要があります。
適切なスキーム選択を検討する
倉庫業界のM&Aを成功させるためには、どのスキームで取引を行うかも重要です。M&Aにおける主な手法には「株式譲渡」や「事業譲渡」などがあるため、違いを把握して比較検討しましょう。
例えば、株式譲渡の場合は会社自体(株式)を売却するため、売却益は株主個人に帰属します。一方、事業譲渡の場合は倉庫事業や資産のみを売却するため、売却益は企業(法人)に帰属します。株式譲渡では簿外債務や偶発債務も買い手に引き継がれるのに対し、事業譲渡では対象資産・負債を選択できるという点にも留意が必要です。
こういった差は、税務面や今後の資金計画に影響を及ぼすでしょう。自社の状況に合わせた最適なスキームを選ぶには、専門家と相談することがおすすめです。
倉庫業界のM&A事例
最後に、倉庫業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
安田倉庫株式会社による株式会社HIROMIカンパニーのM&A
安田倉庫株式会社は、2023年12月、愛知県を拠点とする一般貨物自動車運送事業者・株式会社オリエント・サービスをグループ化するため、その親会社である株式会社HIROMIカンパニーの全株式を取得し、子会社化することを決定しました。
オリエント・サービスは春日井市を中心に運送業と倉庫業を展開しており、中京エリアで強固な物流ネットワークを築いています。
本件により、安田倉庫は関東・関西間の輸配送網の中継地点を確保し、全国規模でのネットワーク拡充を加速させる見込みです。物流業界ではエリア補完型のM&Aが活発化しており、本件も成長戦略の一環として注目されます。
【出典】安田倉庫株式会社「株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
南日本運輸倉庫株式会社による株式会社不二運輸のM&A
南日本運輸倉庫株式会社は、株式会社不二運輸の全株式を取得し、子会社化しました。
不二運輸は、埼玉県を拠点に、自動車用カーシートやヘッドレスト、自動車部品、お菓子の外箱など多様な商材を取り扱う運送事業を主力とし、倉庫保管業務や食品輸送にも対応しています。
本件M&Aにより、南日本運輸倉庫は輸送エリアの拡充と業務効率化を進め、サービス品質のさらなる向上を目指しています。物流業界におけるネットワーク強化を背景にした戦略的なグループ化といえます。
【出典】南日本運輸倉庫株式会社「株式会社不二運輸をグループ化」
トナミホールディングス株式会社による山一運輸倉庫株式会社のM&A
トナミホールディングス株式会社は、2023年10月、静岡県富士市を拠点とする山一運輸倉庫株式会社の全株式を取得し、子会社化しました。山一運輸倉庫は、トラック輸送と倉庫業を手掛け、富士市の主要産業である製紙関連物流にも対応しています。
本件M&Aにより、トナミグループは静岡県に新たな拠点を確保し、東名阪エリアでの物流ネットワーク強化と総合的なロジスティクス提案力の向上を目指しています。グループインフラや情報システムの連携による生産性向上も期待され、事業基盤の一層の拡充に繋がる事例となりました。
【出典】トナミホールディングス株式会社「『山一運輸倉庫株式会社』の株式取得に関するお知らせ」
倉庫業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
倉庫業界では、物流の効率化や人手不足への対応、EC市場の拡大に伴い、M&Aの重要性が高まっています。成功するM&Aを実現するためには、単なる企業の統合にとどまらず、多角的な視点で検討することが重要です。
また、倉庫業界のM&Aでは、同業種だけでなく運輸業・EC事業者・IT企業など異業種との連携も視野に入れることで、新たな成長機会を創出できます。業界動向をしっかりと把握し、最適な戦略を立て、M&Aの成功につなげましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。