CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.04.24
- 更新日2025.04.24
サービス業界のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
サービス業界では、目に見えない価値を提供することで顧客満足度を高めるビジネスモデルが多く存在します。しかし、昨今の人材不足やデジタル化の遅れ、顧客ニーズの複雑化といった課題に直面し、事業の継続や成長に悩む経営者が増えています。
特に2025年に向けては、後継者不足の解消や新規サービスの開発を目的としたM&Aが一層活発化すると予想されます。事業継承のみならず、同業間だけでなく異業種との連携や海外への進出を見据えたダイナミックな動きも顕著になっています。
本記事では、サービス業界におけるM&A最新動向やメリット・デメリットを整理し、実際の事例や成功のポイントを分かりやすく解説します。これからの経営戦略を立てるうえで、M&Aがどのような可能性を秘めているのか、ぜひご参考ください。
目次
サービス業の定義と市場規模
まずはサービス業として分類される全体像を押さえ、業界規模や特徴を理解することが重要です。ここでは、日本標準産業分類におけるサービス業の範囲と、市場規模について見ていきます。
日本標準産業分類におけるサービス業の範囲
日本標準産業分類では、モノの生産よりも『サービスの提供』を主たる事業内容とする幅広い産業をサービス業として分類しています。具体的には飲食店、宿泊、医療、教育、情報通信といった多岐にわたる業種が含まれます。
たとえば対人接客のエステサロンやレストランだけでなく、ITソリューション提供や金融関連業務、コンサルティングなどもサービス業の一部と考えられます。このように、領域が広いため、M&Aを検討する際には業種別の特徴を十分に理解する必要があります。
一方で定義が多岐にわたる分、それぞれの業種で抱える課題や競合環境も異なります。収益構造や人材の育成方法などに差があり、M&A後の統合にも注意が必要です。
市場規模とサービス業界の最新動向
サービス業は国内総生産において大きな割合を占め、近年では製造業と肩を並べる、あるいはそれ以上の存在感を示すジャンルに成長しています。特にコロナ禍以降はオンライン化やデジタルサービスへの需要が高まり、市場全体におけるIT関連のウェイトが増している点が注目されます。
また、少子高齢化による人手不足はサービス提供の現場で顕在化しており、業務効率化や労働生産性の向上が急務とされています。こうした環境変化を背景に、資本力のある企業や新技術を取り入れている企業とのM&Aがますます増加しているのが現状です。
一方、中小規模の事業者にとっては地域に根ざした独自のノウハウやブランド力が強みになる場合もあり、買い手側にとって魅力的なM&A先として注目されやすいという傾向もみられます。
サービス業界が抱える課題
サービスという形のない商品を扱うため、人材確保や価格競争など、特有の難しさも生じています。ここでは、サービス業が抱える主な課題を3つ見ていきましょう。
人材不足
少子高齢化の影響により、サービス業の現場では慢性的な人材不足に悩まされています。特に、中小企業や地域密着型企業ほど、代わりの人材が見つからないことが深刻な問題となっています。
この課題は単に採用活動を強化するだけでは解決が難しく、賃金や働き方、教育体系など多角的な改善が求められます。M&Aによって他社と一体化することで、人材面のリソースを共有したり、教育環境を整備したりする機会が得られる場合もあるため、解決策のひとつとして注目されています。
価格競争の激化
サービスが一般に浸透するにつれて、同業他社との価格競争がエスカレートしやすい傾向があります。値下げによる集客増を狙いがちですが、利益率の低下からサービスの質を維持しにくくなるというリスクも否めません。
一方で、M&Aを通じてブランドイメージの強化やサービスラインナップの拡充が図れれば、価格以外の付加価値で差別化が可能となります。ただし、M&A後の統合段階でブランド戦略を整理しないと、かえって混乱を招くこともあるため注意が必要です。
顧客ニーズの多様化
顧客の価値観は多様化しており、一つのサービスが万人に受け入れられる時代ではなくなりました。たとえば、特定の地域や世代、ライフスタイルに特化したサービスが求められるケースも増えています。
こうした顧客ニーズを的確に捉えるには、新規技術やデータ分析の導入はもちろん、経営やサービス提供体制の柔軟な見直しがポイントです。M&Aでは専門性の高い企業を取り込み、顧客セグメントへより深いアプローチを可能にするケースも少なくありません。
サービス業のM&A最新動向(2025年)
業界構造が急速に変化する中、2025年に向けてさらに活況を呈するとされるサービス業のM&A動向を探ります。ここでは、主な動向を3つ見てみましょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を目的としたM&A
オンライン予約システムやチャットボットなど、IT技術を駆使したサービス提供は今や企業成長に欠かせません。こうしたデジタル化の波を捉え、専門ノウハウを持つ企業を買収する動きが活発化しています。
従来型のサービス業がIT企業を取り込んで業務効率を大幅に向上させたり、逆にIT企業が商習慣や顧客接点に強いサービス業を買収して新たな市場を狙ったりと、DXを推進する多様なM&Aが展開されています。
地域密着型のサービス業者とのM&A
地方で強固なブランド力を持つ企業は、都市部の大手にとって魅力的な提携先となりやすい傾向にあります。地域での販売照会網や既存の顧客基盤を取り込むことで、新たな成長エンジンを獲得できるからです。
一方、地域企業としてはM&Aを通じて資本やIT基盤を手に入れ、サービスの安定化や顧客満足度向上を図る利点があります。ただし、組織風土の違いから統合による負担が発生する点にも留意が必要です。
異業種間・海外展開を目的とするM&A
日本国内の市場だけでは成長が頭打ちになるという懸念から、異業種との協業や海外進出を狙ったM&Aが増えています。たとえばIT企業がホテルチェーンを買収して宿泊客の予約システムを刷新するなど、異業種間のシナジー創出が加速しつつあります。
また海外市場への展開で強みを発揮するため、現地企業とのM&Aを通じてノウハウやブランドを吸収するケースも一般化しています。グローバル市場を意識した事業戦略の一環として、サービス業の国際的な拡大が期待されています。
【売り手】サービス業がM&Aをするメリット
株式譲渡や事業譲渡などにより、自社の持つ課題を解決できる可能性があります。ここでは、サービス業がM&Aをする売り手目線のメリットをご紹介します。
経営の負担軽減
サービス業の経営では、日々のクレーム対応やスタッフのシフト管理など、細やかな運営が求められます。M&Aにより大企業のグループ傘下に入ることで、経営者がそうした業務負担から解放されるケースが少なくありません。
特に高齢のオーナー経営者など、後継者を探す時間もリソースも不足している場合には、有力な選択肢となります。じっくりと事業譲渡後の方向性を見ながら、支援やアドバイスを受けることも可能です。
事業継続性の確保
長年培ってきたサービスのノウハウやブランドを、後世に残したいと願う経営者は多いものです。M&Aによって企業体力や資本力を有する相手と組むことで、事業そのものを存続させられるメリットが生まれます。
地域の顧客との関係性を保ちながら運営を続けられる可能性が高まる点も、既存顧客への恩恵や地域社会への貢献につながります。会社全体に対する信頼を維持しやすいのも強みです。
ブランド価値の向上
買い手企業の広範なネットワークやマーケティング力を活用することで、売り手企業のサービスやブランドが一気に全国区・世界規模で認知される可能性があります。
また、取引先や金融機関からの評価も高まるため、さらなる事業展開や新規顧客獲得がしやすくなることが期待されます。特にIT技術を導入していなかった企業などは、M&A後に大きく成長するケースも珍しくありません。
【売り手】サービス業がM&Aをするデメリット
M&Aには、いくつかのデメリットが存在します。今後M&Aを検討する中で、売り手側が知っておくべき注意点は以下の通りです。
独自性の喪失
サービス業では、企業独自の接客方法やノウハウが長年の努力と顧客満足度向上によって形成されることが多いです。しかし、買い手企業の標準的なマニュアルに統合される過程で、独自色が薄まるリスクが存在します。
これを防ぐには、M&Aの契約交渉段階で独自性を守る条項を設定したり、新サービス開発の仕組みにおいて主体性を残しておく工夫が必要です。
顧客満足度への影響
サービス内容が変わったり、運営母体が変わることで、従来からの愛顧客が離れる可能性があります。特に地域密着で高いリピート率を誇る企業ほど、企業変更に対する心理的抵抗が大きいことが考えられます。
そのため、事前のコミュニケーションやサービス継続計画を十分に準備し、M&A後も顧客が納得できる品質を提供し続ける取り組みが重要です。
従業員の離職などの不安定化
雇用条件が変わることや業務体制が再編されることで、従業員の不安が高まり離職につながるケースもあります。特にサービス業は、現場スタッフのモチベーションやコミュニケーションがサービス品質に直結します。
従業員の定着率を保ちつつ、新体制への移行をスムーズに行うためには、人材ケアや研修制度をしっかり整備することが大切です。
【買い手】サービス業がM&Aをするメリットデメリット
新規参入や事業拡張を目指す買い手企業も、サービス業のM&Aを通じて多くのメリットと一定のリスクを抱えます。
買い手側としては、既存の顧客基盤やブランド価値を取り込むことで、短期間で事業の拡大が可能となる点が最大のメリットです。また、独自ノウハウを備えた人材の確保や、事業ポートフォリオの多角化も期待できます。
一方で、企業文化やオペレーション手法の違いに伴う統合リスクを十分にコントロールできなければ、M&A後の効率悪化や従業員・顧客の混乱を招く可能性があります。買い手は事前に財務チェックや事業計画のすり合わせを綿密に行い、円滑な統合を目指すことが重要です。
サービス業のM&A相場は?
サービス業のM&A評価においては、一般的に『EBITDA×マルチプル』方式が主流です。サービス業は業種によってマルチプルの相場が大きく異なり、安定収益型のストック型ビジネスでは3〜5倍程度、成長性の高いIT・デジタル系サービスでは5〜8倍程度が目安となります。
また、特にサービス業では『人』が資産となるケースが多いため、キーパーソン依存度の有無や従業員の定着率も評価に大きく影響します。一方、固定資産や在庫が少ないサービス業では、時価純資産+営業権法よりもキャッシュフローベースでの評価が適切なケースが多いといえます。
サービス業M&Aを成功させるポイント
サービス業界のM&Aを成功に導くためには、綿密な事前準備と適切な実行プロセスの管理が重要となります。以下に、特に重要なポイントを3つ解説します。
企業文化統合と従業員コミュニケーション
サービス業では、従業員が企業文化を体現し、顧客に『会社の顔』として接しています。M&Aで双方の文化が噛み合わないと、現場のモチベーションが損なわれ、最終的に顧客が離れてしまう要因になります。
そのため、M&A後の早い段階からビジョンや価値観の共有を徹底し、業務フローやルールをわかりやすく整備することが大切です。トップだけでなく現場レベルでのコミュニケーションも強化し、信頼関係を築き上げる努力が必要となります。
財務状況を明確化する
M&Aの成否を左右する要素の一つが財務分析です。買収コストに見合う投資効果が見込めるかどうか、キャッシュフローや負債状況を正確に把握し、統合後の事業計画を立案する必要があります。
特にサービス業は、固定資産が少ない分、売上や人件費の変動が直接業績に響きやすい傾向があるため、細かなシミュレーションを行うことが欠かせません。
丁寧なデューデリジェンスを行う
サービス業のM&Aプロセスでは、通常のデューデリジェンスに加えて、ビジネスデューデリジェンスにおいて以下の点を特に重点的に調査することが重要です。
- 顧客基盤の分析(リピート率、顧客集中度など)
- サービス提供体制の検証(マニュアルの整備状況、品質管理の仕組みなど)
- 人材の定着状況(離職率、教育体制など)
- 競合他社との差別化要素
サービス業は無形資産の比重が高いため、こうした点を丁寧に精査することで、買収後のリスクを大幅に軽減できます。
専門家に相談する重要性
M&Aには法律や税務、労務など多岐にわたる知識が要求されます。特にサービス業では、従業員一人ひとりの雇用契約や顧客との契約形態などが複雑に絡み合うことがあります。
そこで、M&A専門のコンサルタントや弁護士、会計士などに相談することで、リスクを最小化しスムーズに統合を進められる体制が整います。結果的に調整コストを削減し、円滑なM&Aを実現できます。
サービス業のM&A事例
最後に、サービス業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
INCLUSIVE株式会社による株式会社ナンバーナインのM&A
INCLUSIVE株式会社は、2023年11月に連結子会社である株式会社ナンバーナイン(№9)の株式を外部企業・個人投資家などに譲渡し、連結子会社から除外しました。
ナンバーナインは、漫画家向けのデジタル配信サービスやWEBTOON編集などを手がけており、成長に伴い資金投下の必要性が高まっていました。
譲渡により、INCLUSIVEは約5.8億円の特別利益を得て、宇宙・地方創生領域へ注力。事業ポートフォリオの見直しと資源再配分を行う戦略的な子会社売却となりました。
【出典】INCLUSIVE株式会社「連結子会社の異動(株式譲渡)及び特別利益の計上に関するお知らせ」
テクミラホールディングス株式会社による株式会社リンクアンドコミュニケーションのM&A
テクミラホールディングス株式会社は、2024年1月に100%子会社ネオス株式会社のヘルスケア事業を株式会社リンクアンドコミュニケーション(L&C社)へ吸収分割により承継し、同時にL&C社の株式を取得して連結子会社化しました。
ネオスの健康増進アプリ「RenoBody」と、L&C社のAI健康アプリ「カロママ プラス」などを統合することで、ウェルネスサービス領域でのNo.1企業を目指すとしています。両社の技術資産と顧客基盤を活かし、クロスセルや新規事業の創出が期待されます。
本件は、相互補完的なシナジーを前提にした戦略的な事業再編と位置づけられます。
【出典】テクミラホールディングス株式会社「連結子会社(ネオス株式会社)の会社分割(吸収分割)及び承継会社(株式会社リンクアンドコミュニケーション)の子会社化に関するお知らせ」
株式会社タスキによる株式会社大洋クラウドサービスのM&A
株式会社タスキは、2023年11月にDXパートナー事業およびIT開発事業を手がける株式会社大洋クラウドサービスを完全子会社化しました。
大洋クラウドサービスは建設業界向けの電子データ管理やローコード開発に強みを持ち、同社の技術力と顧客基盤は、タスキのSaaS事業および不動産開発事業において大きなシナジーをもたらすと見込まれています。
特に、不動産・建設業界のDX化推進や、BIMツール開発、IT人材不足への対応としてのニアショア・オフショア体制の活用など、多角的な成長戦略が描かれています。業界横断型のデジタルソリューション企業としての基盤強化に向けた戦略的M&Aといえます。
【出典】株式会社タスキ「株式会社大洋クラウドサービスの株式の取得による完全子会社化に関するお知らせ」
まとめ|サービス業M&Aの今後の展望
サービス業界におけるM&Aは、成長戦略のみならず事業存続の切り札として、さらに需要が増していくでしょう。
サービス業は顧客との接点が多いため、市場環境の変化に柔軟に対応することが求められます。それを実現する手段として、M&Aが経営者にとって一段と身近な選択肢になってきました。
2025年に向けては後継者不足の深刻化やデジタル化の加速、消費者ニーズの複雑化といった要因が相互に作用し、M&Aの役割はますます大きくなると予想されます。上手に活用し、自社の強みを伸ばしつつ弱点を補う戦略的なM&Aを検討することが、サービス業の新たな飛躍につながるでしょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。