CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.04.22
- 更新日2025.04.23
家電量販店業界のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
EC市場の急速な拡大や消費者行動の変化にともない、家電量販店業界では店舗型ビジネスモデルの見直しを迫られています。熾烈な競争環境の中で、各社は事業拡大や事業継続のためにM&Aを推進しているのです。
本記事では、家電量販店業界におけるM&Aの最新動向や背景、メリット・デメリット、売却を成功させるためのポイントを徹底解説します。
目次
家電量販店の市場動向
家電量販店の収益構造は基本的に「低マージン・大量販売型」という特性を持ちます。この事業モデルの下、各企業は仕入れ交渉力の向上が利益確保の鍵となるため、企業規模の拡大を目指したM&Aを戦略的に進めてきました。
「株式会社三井住友銀行」のレポートによれば、2013年時点で一定の業界再編が進んでおり、大手各社の経営は比較的安定した推移を見せています。売上構成の推移を見ると、大手家電量販店グループの合算売上高は、2013年度の4.8兆円から一時4.4兆円まで減少したものの、2019年度には再び4.8兆円水準まで回復しています。
【出典】株式会社三井住友銀行「家電量販店を取り巻く環境と戦略の方向性」
家電量販店業界が抱える課題
市場環境の変化により、家電量販店の運営企業は経営戦略の見直しを迫られています。ここでは、日本の家電量販店業界が抱える課題についてご紹介します。
EC市場の拡大による実店舗の集客減少
消費者の購入行動がデジタル空間へと急速に移行し、従来の店舗型ビジネスへの来店客数は年々落ち込んでいます。「令和5年度 電子商取引に関する市場調査報告書」の分析によれば、2023年における生活家電、AV機器、PC・周辺機器などの電子商取引市場は2兆6,838億円に到達しました。
この潮流に対抗するため、各社はオムニチャネル戦略を加速させています。たとえば「ビックカメラ」では、店頭での実演販売をインターネットでライブ配信し、WEB上での売上拡大を図る取り組みを行っています。
「脱・家電」を目指したビジネスモデル転換
市場の成熟化と価格競争激化のため、家電製品だけの販売では売上拡大が難しくなりました。この厳しい状況で、多くの家電量販店が「脱・家電」戦略に活路を見出しています。
たとえば、「ヤマダホールディングス(ヤマダ電機)」は2021年に「大塚家具」を完全子会社化し、家具・インテリア分野に進出しました。同じく「エディオン」も家具・インテリア小売業大手の「ニトリ」と提携し、店舗内に専用コーナーを設置するなどして、住空間全体の提案に力を入れています。
経営者の高齢化と後継者不足
中小の家電販売店では、経営者の高齢化と後継者不足が深刻な問題となっています。多くの店舗で創業者が長年経営を続けており、次世代への引継ぎ準備が不十分な状態です。
後継者がいないと、長年かけて築いた顧客基盤や取引先との関係、独自のノウハウなどの無形資産が失われます。特に地域密着型店舗では、地元との関係が競争力の源泉なだけに、廃業は地域経済にも影響するでしょう。
家電量販店業界のM&A最新動向(2025年)
ここからは、近年の家電量販店業界におけるM&A最新動向をご紹介します。業界再編の動きが見られる中、企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか。
競争激化と業界再編
家電量販業界では現在、市場の飽和状態や消費者行動の変化などを背景に、M&Aによる事業の見直しや再編が行われています。例えば、新市場の開拓や専門技術の獲得を目指した買収が実施されることがあります。
中小店舗による事業承継型M&A
中小規模の店舗において、従業員の雇用を守りながら事業継続を図れる「事業承継型M&A」の動きが見られます。特に地元で長年営業してきた店舗は、スタッフの雇用維持や取引先との関係継続、地域顧客へのサービス提供などを考慮しなければならず、簡単には廃業を選べません。このことから、M&Aで第三者に事業を譲るケースがあります。
異業種買収による事業多角化
大手グループでは顧客誘致力強化と差別化を図るため、異業種企業の買収を行うことがあります。例えば、プログラミング教育事業者を買収して若年層・ファミリー層の来店を促進するなど、さまざまな試みがなされています。業界の枠を超えた事業拡大が、家電量販店業界における新たなトレンドとなる可能性もあるでしょう。
家電量販店がM&Aで売却するメリット
M&Aは企業価値を最大化し、持続的成長や事業継続を実現するための手段です。以下、M&Aのメリットを売り手企業目線でご紹介します。
後継者問題の解決
さまざまな業種・職種で深刻化している後継者不足ですが、それは家電量販店業界も例に漏れません。跡継ぎが見つからず、創業者自身が高齢になっても第一線で奮闘し続ける状況があります。こうした背景から、第三者への事業譲渡・事業売却を検討する経営者が増えています。
承継先さえ見つかれば、会社の将来に確かな道筋をつけた上で引退できる安心感を得られます。同時に、長年ともに歩んできた従業員の雇用確保や取引先との信頼関係維持という社会的責任も果たせるでしょう。地域密着型の家電量販店の場合、数十年かけて構築した地元コミュニティとの絆を継続させながら、地域への貢献を途切れさせないことが重要な意義を持ちます。
スケールメリットの獲得による競争力強化
家電小売業では仕入数量が交渉力を決定づけるため、「規模の経済(大量調達による単価低減効果)」が利益構造に直結します。大手チェーンの傘下に入ることで、これまで単独では不可能だった仕入条件の大幅改善や物流コストの最適化が実現し、収益体質が一気に強化されるでしょう。
さらに注目すべきは、大規模チェーンが保有するマーケティング資源と販促ノウハウの活用です。全国規模の広告展開や精緻なデータ分析にもとづく顧客戦略を導入することで、地域での認知度と集客力が飛躍的に向上します。その結果、競争激化と市場縮小という厳しい環境下でも、利益率の改善を図れる好循環が生まれます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)推進
現代の家電小売業では、本格的なECサイト構築やデータ分析基盤の整備が必須となっています。しかしながら、これらのデジタルインフラ整備には巨額の資金が必要となり、独立系の中小店舗にとって大きな経営課題となっています。
大手グループとの経営統合により、すでに確立された高機能なデジタル基盤と専門人材の知見を活用できるようになります。先進的な顧客管理システム、在庫最適化技術、実店舗とオンラインの連携戦略などを展開でき、デジタル時代における競争優位性を短期間で確立できるのです。
家電量販店がM&Aで売却するデメリット
競争力強化や事業継続のために実施されるM&Aですが、売却側にとって無視できないリスク要因があります。詳しく見ていきましょう。
システム統合にともなう混乱
異なるIT環境や業務プロセスの統合作業には、予想を大幅に上回る時間的・金銭的コストが発生します。特に家電小売業では、複雑な在庫管理システムや顧客ポイントプログラム、修理・保証管理システムなど、多岐にわたるシステムの連携が不可欠です。これらの統合が滞ると、日常業務の著しい効率低下を招きます。
従業員のモチベーション低下と人材流出
家電販売業では、製品知識や接客スキルを持つ人材こそが競争力の源泉となります。しかし、M&A発表直後から従業員の間に不安と動揺が広がり、士気低下・離職の連鎖につながるケースが多発しています。
負の連鎖を防止するには、統合プロセスの完全な透明性確保と双方向コミュニケーションの徹底が必須です。従業員が買収後の明確なビジョンを理解し、自身のキャリアパスをイメージできるようにケアしましょう。
家電量販店がM&Aで売却を成功させるためのポイント
M&Aを成功に導くには、戦略的な組織統合と相乗効果(シナジー)の最大化が重要です。ここでは、M&Aを成功させるためのポイントを解説します。
デジタル店舗とリアル店舗の融合
デジタル技術の急速な進化により、家電量販店業界ではオムニチャネル戦略が重要視されています。実店舗での体験価値とネット通販の利便性を組み合わせ、顧客に一貫したショッピング体験を提供しましょう。オンラインとオフラインの壁を取り払った統合的な顧客体験の創出が、M&A成功の鍵を握るのです。
地域特性を活かした店舗運営の継続
地域ごとの独自性を尊重し、画一的な統合を避けることが顧客離れを防ぐポイントです。M&A実施後も、各地域の消費者ニーズや購買行動の特性を十分に理解し、それに適応した店舗運営を維持することが長期的な成功につながります。
従業員の不安解消と早期のコミュニケーション
組織の一体感を醸成するには、統合初期段階からの徹底した情報共有が欠かせません。M&A発表直後から従業員の間に広がる不安や懸念を速やかに解消するため、全体説明会や部門別ミーティング、社内報などを活用した積極的なコミュニケーションが求められます。
適正な企業価値評価手法の把握
家電量販店のM&Aを進めるにあたっては、自社の企業価値がどのように評価されるのかを把握しておくことが重要です。評価手法別の特徴を理解し、それに応じた準備を行うことで、M&Aの交渉を有利に進めることもできます。
中小規模の家電販売店の場合、主に「時価純資産+営業権法(基礎価額法)」や「マルチプル法(類似業種比準法)」などの手法が採用されます。
「時価純資産+営業権法」では、店舗が保有する不動産や内装、在庫などの資産価値に「営業権(のれん)」を加味して企業価値を算出します。特に立地条件の良い店舗や固定客の多い店舗などでは、営業権の評価が重視されます。
「マルチプル法」では、「EBITDA(利払前・税引前・償却前利益)」の倍率を基に企業価値を算定します。多くの場合、家電量販業界では4〜6倍程度の倍率が適用されます。ただし、ECサイトの整備状況や店舗の立地条件、PB商品の有無など、さまざまな条件によって評価が変わる点に留意しましょう。
家電量販店のM&A事例
最後に、家電量販店のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社ビックカメラによる株式会社じゃんぱらのM&A
株式会社ビックカメラの連結子会社である株式会社ソフマップは、2021年12月に株式会社じゃんぱらの全株式を取得し、孫会社化しました。じゃんぱらは全国に50店舗を展開し、スマートフォンやデジタル家電の買取・販売を手がけています。
本件M&Aにより、ソフマップの既存リユース事業とじゃんぱらの店舗網との地域補完性が期待され、さらに個人からの買取ルートの拡充による仕入強化も見込まれています。
循環型社会を目指すビックカメラグループにとって、リユース市場でのシェア拡大と企業価値向上に資する重要な施策といえます。
【出典】株式会社ビックカメラ「当社連結子会社による『株式会社じゃんぱら』の株式取得(孫会社化)に関するお知らせ」
株式会社ヤマダ電機による株式会社大塚家具のM&A
株式会社ヤマダ電機は、2019年12月に株式会社大塚家具と資本提携を締結し、大塚家具の第三者割当増資を引き受ける形で同社を子会社化しました。
ヤマダ電機は「家電住まいる館」の展開を進める中で、家具販売に強みを持つ大塚家具との協業を深めており、本件は連携をさらに強固にする目的で実施されました。
取得後は、商品の共同開発や法人向け販売の強化などを推進し、グループ全体の競争力向上を目指しています。家具・家電を融合した住空間提案によるシナジーが期待されています。
【出典】株式会社ヤマダ電機「株式会社大塚家具との資本提携及びそれに伴う第三者割当増資の引き受けによる子会社の異動に関するお知らせ」
株式会社ヤマダ電機による株式会社ナカヤマのM&A
株式会社ヤマダ電機は、2017年11月に株式会社ナカヤマの全株式を取得し、完全子会社化しました。ナカヤマは、リフォーム業界において全国100店舗を展開する独立系大手で、商品の開発から施工、アフターサービスまで一貫体制を強みとしています。
ヤマダ電機は、スマートハウス・リフォーム事業の拡大を図る中で、以前からナカヤマと業務提携を進めており、今回の子会社化により提携をさらに強化しました。両社の経営資源を活かし、リフォーム需要の拡大と住宅関連事業の成長を目指す戦略的な動きです。
【出典】株式会社ヤマダ電機「株式会社ナカヤマの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
家電量販店のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
M&Aは、後継者問題の解決や競争力強化、デジタル化推進など多くのメリットをもたらします。しかし同時に、従業員のモチベーション低下や離職リスクも潜んでおり、決して無視はできません。
市場環境が急速に変化する中、自社の強みを活かしながら戦略的なM&Aを実行することで、持続可能な成長への道を切り開けるでしょう。事業売却・事業承継を検討中の家電量販店経営者様は、業界の特性を理解したM&A仲介会社に相談するのがおすすめです。
CINC Capitalでは、家電小売業界の特性を熟知した専門チームが、オーナー様の想いに寄り添ったM&Aをサポートしています。店舗の立地価値や顧客データベースの活用、デジタル戦略など、家電量販店特有の資産価値を最大限に評価し、最適なマッチングを実現します。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。