CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。

お電話でのご相談はこちら(無料)

03-4500-7072

CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。

【2025年】保険代理店のM&A動向は?メリットやデメリットから事例・成功のポイントまで解説

業種

  • 公開日2025.04.28
  • 更新日2025.04.28

【2025年】保険代理店のM&A動向は?メリットやデメリットから事例・成功のポイントまで解説

シェアする

2025年、保険代理店業界ではM&A(企業の合併・買収)の動きがこれまで以上に活発化しています。少子高齢化や後継者不足、業界再編といった社会的背景に加え、デジタル化の波が経営の効率化を後押ししていることも要因です。

中小規模の保険代理店にとっては、M&Aが生き残りや成長の戦略として注目されており、実際に多くの成功事例が生まれています。本記事では、保険代理店におけるM&Aの基本から、そのメリット・デメリット、実際の事例、成功のポイントまでをわかりやすく解説します。

保険業界の市場動向

保険業界では、契約件数の増加と契約高の減少といった複雑な動きが見られます。消費者ニーズの変化が、業界全体の構造にも影響を与えています。

2023年度末時点で、個人保険の保有契約件数は1億9,494万件と増加が続いています。一方で契約高は790兆円台に減少し、保障内容が高額な死亡保障から医療や介護中心へとシフトしていることが要因です。新規契約件数は減少したものの、新規契約高や収入保険料は増加しており、高付加価値な保険への需要が伸びています。

また、保有契約の年換算保険料も5年ぶりに増加に転じ、第三分野の重要性が増しています。これらの動きから、保険業界は顧客ニーズの変化に応じた再編のフェーズに入っているといえるでしょう。

【出典】一般社団法人生命保険協会「生命保険の動向」

保険代理店業界が抱える課題

保険代理店業界では、少子高齢化や社会の急速なデジタル化を背景に、経営の持続性を脅かす課題が浮き彫りとなっています。ここでは、業界が直面する主要な3つの課題について解説します。

人材不足と後継者問題

保険代理店業界では人材不足が進行しており、特に経営者の高齢化に伴う後継者問題が課題となっています。

多くの代理店は地域密着型の中小事業者であり、家族経営や個人経営が主体です。そのため、次世代への事業継承がうまく進まず、経営者の高齢化とともに廃業リスクが高まっています。保険募集人の高齢化も並行して進んでおり、若手人材の確保が難しい状況です。

実際、募集人資格を持つ人材の新規参入は年々減少傾向にあり、業界全体の活力が低下しています。また、保険商品の専門性やコンプライアンスの厳格化により、即戦力となる人材の育成には時間とコストがかかるため、採用難が続いているのが現状です。

こうした背景から、M&Aによる事業承継や人材確保が有力な解決策として注目されています。特に、後継者のいない代理店が、経営資源を外部に承継することで、顧客基盤を維持しながら事業の継続を図る動きが広がっています。

デジタル化への対応の遅れ

保険代理店業界は、他業種に比べてデジタル化の進展が遅れており、これが競争力低下の一因となっています。

オンライン手続きやリモート営業が一般化する中で、依然として対面重視・紙ベースの業務が中心である代理店は、顧客ニーズに迅速に対応できず、サービスレベルの低下を招いています。特に若年層の保険加入者は、スマートフォンやウェブを通じた情報収集・契約手続きに慣れており、デジタル対応ができない代理店は取り残されつつあります。

また、業務効率の観点でも、アナログな業務フローは人件費や時間コストを圧迫しています。例えば、顧客情報の管理が紙ベースだったり、契約書の電子化が進んでいなかったりすることで、情報の一元管理や迅速な対応が困難になります。

その結果、大手代理店やデジタル先進企業との競争で後れを取る中小代理店が増え、M&AによってIT化が進んでいる企業と連携する必要性が高まっています。業務効率と顧客満足の両立を目指すには、IT投資と体制整備が急務です。

業界全体の競争激化

保険業界では代理店チャネルの自由化が進み、複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店の増加により、業界全体の競争が激化しています。

従来、保険代理店は「特定の保険会社との長期的関係」を軸に営業を行ってきましたが、現在では多くの代理店が多数の保険会社の商品を取り扱うようになり、差別化が難しくなっています。これにより、価格や手数料、サービスの質などでの比較が進み、顧客の選択基準も厳しくなっています。

また、インターネットを活用した「ネット保険」やダイレクト型保険の普及により、消費者は自身で情報収集し、手軽に契約できる環境が整いました。これにより、代理店を通さずに保険に加入するケースも増え、既存の代理店モデルの優位性が揺らいでいます。

このような競争環境では、営業力・商品提案力・アフターサービスの質が問われるため、中小規模の代理店にとっては生き残りをかけた戦略が必要です。M&Aにより経営基盤を強化したり、専門性の高いニッチ市場に特化するなど、競争優位性を確立する取り組みが求められています。

保険代理店のM&A最新動向(2025年)

​保険代理店業界では、事業承継や業界再編の波を受けて、M&Aがますます活発化しています。ここでは、2025年時点で特に注目される3つの最新動向について解説します。

大手による中小代理店の買収が増加

2025年現在、メガバンク系や大手保険会社傘下の代理店による中小代理店の買収が注目されています。​

背景には、少子高齢化による経営者の高齢化や人材不足といった構造的課題があり、独立系代理店の中には後継者不在を理由に売却を検討するケースが増えています。​大手にとっては、地域に根ざした代理店の買収を通じて、顧客基盤の拡大や販売網の強化が可能になるため、積極的な買収戦略を展開しています。​

特に、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険は、2025年3月に合併を発表し、国内最大手の損害保険会社となる予定です。 ​この合併により、両社は販売チャネルの統合と効率化を図り、さらなる市場シェアの拡大を目指しています。​

この傾向は、規模の経済を活かしながら経営効率を高めたい大手と、事業の持続可能性に課題を抱える中小代理店の利害が一致しているため、今後さらに加速すると見込まれます。

小規模(個人)代理店のM&A参入が活発化

近年、保険代理店業界では、後継者不足や経営環境の変化により、中小規模の保険代理店同士のM&Aが増加しています。​このような動向から、個人代理店が「買い手」としてM&Aに参入するケースも見られるようになっています。

その背景には、保険募集人が法人化し、複数拠点展開を目指す中で、地域密着型の小規模代理店を取り込む動きがあるためです。例えば、訪問営業や地元密着の強みを持つ個人代理店が、自身の営業網拡大や人材確保の手段として近隣の代理店を買収するケースが増加しています。​

また、M&Aプラットフォームの普及により、個人でも買収案件にアクセスしやすくなったことも要因のひとつです。​2023年以降、M&A仲介業者各社は小規模M&A市場の活性化に注力しており、事業承継補助金や資金調達支援の制度を活用した買収が可能になっています。​

これにより、従来は難しかった「個人によるM&A」も現実的な選択肢となり、若手経営者による事業拡大戦略として注目を集めています。​特に都市圏を中心に、代理店経営を複業・起業として始める動きも出てきており、今後はM&Aを起点とした個人の新規参入がさらに進む可能性があります。​

地域密着型代理店の統合による効率化の推進

保険代理店業界では、顧客基盤の拡大や事業領域の多角化を目的にM&Aが進行中であり、特に中小代理店の統合が進展しています。 ​

従来は同一エリア内で競合関係にあった代理店同士が、経営資源の共有や人員の再配置を目的に、M&Aを通じて一体化する動きが目立っています。​これにより、無駄な営業拠点の統廃合や業務の一元化が実現し、限られた人材とコストの中で持続可能な経営体制を築くことが可能となります。​

特に、地方都市では人口減少が進む中で顧客獲得が難しくなっており、単独での生き残りが困難な代理店が増加しています。​こうした背景から、地域ごとの連携・統合が進み、エリア内の営業体制を最適化する流れが定着しつつあります。​

また、統合によってデジタル化や人材育成のリソースも集約しやすくなり、結果的に顧客サービスの質向上にもつながっています。​今後も、同一エリア内でのM&Aや共同運営による「地域単位での再編」が、業界全体の効率化に向けた鍵となるでしょう。

保険代理店がM&Aをするメリット

保険代理店におけるM&Aは、単なる事業規模の拡大だけでなく、事業承継や収益安定化など、業界特有の課題を解決する手段としても有効です。

特に、経営者の高齢化が進む中での後継者問題や、競争が激化する市場環境に対応するための経営基盤強化は、多くの代理店にとって重要なテーマとなっています。

事業承継問題を解決できる

保険代理店業界では、経営者の高齢化が進む一方で、後継者不足が深刻な課題となっています。M&Aを活用すれば、こうした事業承継の問題をスムーズに解決することが可能です。

多くの保険代理店は、創業者や家族経営によって運営されており、次世代への事業承継が難しいケースが少なくありません。M&Aによって、経験豊富な経営陣や新しいノウハウを持つ企業に事業を引き継ぐことで、代理店の継続的な発展が期待できます。

また、既存の取引先や顧客との関係を維持しながら経営を移行できる点もM&Aの大きな利点です。特に、長年築いてきた顧客との信頼関係を損なうことなく引き継ぐことで、顧客離れを防ぎ、安定した収益基盤を維持することが可能になります。

既存顧客基盤を拡大し収益を安定化できる

M&Aを活用することで、異なる地域や異なる顧客層を持つ代理店の顧客基盤を獲得でき、収益の安定化が期待できます。

保険代理店は、地域密着型のビジネスモデルが多く、新規開拓には時間とコストがかかるため、M&Aによって既存の顧客ネットワークを引き継ぐことは大きなメリットとなります。特に、異なる地域に拠点を持つ代理店を買収すれば、より広範な市場にアプローチできるようになります。

また、M&Aにより複数の保険会社の取り扱いが可能になり、顧客への提案の幅が広がる点も重要です。取り扱う商品が増えることで、顧客ニーズに柔軟に対応できるようになり、契約獲得の機会が増えるだけでなく、クロスセル(異なる保険商品の提案)による収益向上も期待できます。

さらに、代理店手数料収入の増加により、経営の安定化が図れるのも魅力です。販売実績の向上により、保険会社との取引条件が改善され、手数料率の優遇を受けやすくなるため、経営の安定化と成長の両方を実現できます。

大手グループの傘下に入ることで経営リスクを軽減できる

中小規模の保険代理店が、大手グループの傘下に入ることで、財務基盤の安定や経営リスクの軽減が可能です。

個人経営や独立系の代理店は、景気変動や市場環境の変化による影響を受けやすく、単独での事業運営にはリスクが伴います。しかし、大手企業のグループに入ることで、資本力を活用しながら安定した事業運営ができるようになります。特に、資金調達の面での不安が軽減されるため、新たな事業展開や投資を行いやすくなるメリットがあります。

さらに、大手グループの経営ノウハウやマーケティング支援を受けることで、事業拡大のチャンスが広がります。例えば、営業戦略の高度化やブランド力の向上など、独立経営では難しい成長戦略を実行しやすくなります。

また、業務の効率化やシステム導入の支援を受けることで、負担を軽減できる点も魅力です。M&Aによって、最新の顧客管理システムや業務プロセスの標準化が進み、業務のスムーズな運営が可能になります。

営業エリアを広げることで新しい市場を獲得できる

M&Aを活用することで、営業エリアを広げ、新しい市場への参入が容易になります。例えば、地方の代理店が都市部のネットワークを活用することで、新たな顧客層を開拓できる可能性があります。また、都市部の代理店が地方に進出することで、地域ごとの市場特性を活かした営業活動が可能になります。

さらに、異なる市場特性を持つエリアに進出することで、リスク分散の効果も期待できます。特定の地域や業種に依存した経営は、市場環境の変化に対するリスクが高まるため、M&Aによる多角化は安定経営のための有効な戦略となります。

デジタル化やIT導入を進める環境が整う

M&Aによって、ITシステムの導入を促進し、業務効率を向上させる環境を整えることができます。

近年、保険業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでおり、デジタルマーケティングやオンライン契約の活用が競争力の強化につながっています。M&Aを通じて、こうした最新のシステムを導入し、顧客対応の効率化やデータ活用の高度化を図ることができます。

また、顧客管理や営業支援ツールの統一により、業務の一元化が進みます。異なる代理店間でバラバラだった管理体制を統一することで、業務の標準化が実現し、経営の透明性も向上します。

保険代理店がM&Aをするデメリット

M&Aは事業の成長や安定化を促進する一方で、慎重に進めなければさまざまなリスクを伴います。特に、保険代理店業界は地域密着型のビジネスモデルが多いため、顧客との関係性や取引条件の変化が経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。

地域密着型の顧客から信頼を失うリスクがある

保険代理店は、地域に根ざした信頼関係を築くことで成り立っているビジネスです。しかし、M&Aによって経営体制が変わることで、長年の顧客からの信頼を失うリスクが生じます。

例えば、大手資本が入ることで「地元の代理店」としてのブランドが損なわれ、顧客が「親しみやすい代理店」ではなくなったと感じる可能性があります。特に地方では、経営者や担当者との個人的なつながりが重視される傾向があり、M&Aによる組織変更や担当者の異動によって、顧客が他の代理店へ乗り換えるケースも少なくありません。

また、規模が大きくなることで業務の効率化が優先され、従来の個別対応が難しくなることもあります。これにより、「今までは親身になって相談に乗ってくれたのに、対応が画一的になった」といった顧客の不満が増加するリスクも考えられます。M&A後も、従来の顧客サービスを維持しながら、地域に根ざした信頼関係を継続できるかが重要な課題となります。

買収後の従業員管理が難しくなる

M&A後の組織統合において、従業員の適応がスムーズに進まないと、業務の混乱や離職の増加につながる可能性があります。

特に、異なる企業文化や業務フローを持つ代理店同士が統合する場合、業務の進め方や顧客対応のスタイルに違いが生じることが多く、それが従業員のストレス要因となります。新しいルールや方針への適応が求められることで、従業員が不満を抱き、最悪の場合、優秀な人材の離職につながることもあります。

また、M&Aによって人員整理が必要になる場合、従業員のモチベーションが低下し、士気が下がるリスクがあります。例えば、営業職の重複による配置転換や、一部の従業員の退職勧奨などが行われると、組織全体の働きやすさに影響を与えることになります。

さらに、営業スタイルの統合には時間と労力がかかります。買収側と被買収側で営業の進め方や顧客対応の文化が異なると、統一するための研修や調整が必要となり、短期間での効率的な運営が難しくなるケースもあります。そのため、M&A後の従業員のマネジメントは慎重に進める必要があります。

保険会社との取引条件が変更されるリスクがある

保険代理店にとって、保険会社との契約条件は収益に直結する重要な要素です。しかし、M&Aによる経営統合が、取引条件の見直しにつながる可能性がある点には注意が必要です

M&A後、代理店の規模が拡大すると、保険会社が契約内容を再評価する場合があります。一般的には、販売実績の向上によって手数料率の改善が期待できますが、逆に「特定の保険会社の販売比率が下がる」といった理由で、不利な条件に変更されるリスクもあります。例えば、M&Aによって取引する保険会社のラインナップが変わると、一部の契約が終了し、手数料収入が減少する可能性があります。

また、保険会社の意向次第で契約内容の変更が行われることもあり、M&Aによる経営統合が必ずしも有利な条件につながるとは限りません。特に、統合によって取り扱い商品のバランスが変わる場合、既存の顧客のニーズと合わなくなる可能性もあります。その結果、顧客離れを招くリスクがあるため、M&A前の段階で取引先の保険会社との十分な交渉が求められます。

【買い手】保険代理店をM&Aするメリットデメリット

ここれは、買い手にとってのメリット・デメリットを見ていきましょう。

買い手にとってのメリット

M&Aは買い手にとって、短期間で事業の成長を実現する有効な手段となります。特に、保険代理店業界では、顧客基盤の拡大や取引条件の改善といったメリットが期待できます。

まず、M&Aにより既存の代理店の顧客基盤を引き継ぐことで、事業の拡大と収益の安定化が可能になります。新規顧客の獲得には時間とコストがかかりますが、M&Aで既存顧客を引き継げば、その手間を大幅に削減できます。特に、地域に密着した代理店を買収することで、その地域の市場に迅速に参入できる点も大きなメリットです。

次に、代理店の規模が拡大することで、保険会社との取引条件が有利になる可能性があります。保険会社は、販売実績の高い代理店に対して手数料率を優遇したり、販売ノルマを柔軟に設定したりすることがあります。そのため、M&Aによる代理店の統合は、経営効率の向上につながると言えます。

さらに、既存の代理店を引き継ぐことで、新規開拓にかかる労力を軽減できる点も魅力です。通常、新たな市場で事業を展開するには、多くの営業リソースやマーケティング活動が必要ですが、M&Aを活用すれば、すでに確立された販売網や顧客関係をそのまま利用できます。

買い手にとってのデメリット

一方で、M&Aには買い手側が慎重に対処すべきリスクも存在します。これらのデメリットを理解し、適切な準備を行うことが、M&Aの成功につながります。

まず、買収後の従業員の離職や顧客の流出リスクが挙げられます。経営が変わることで、従業員が将来に不安を感じたり、従来の顧客がサービスの質の変化を懸念したりする可能性があります。特に、前経営者の影響力が強い代理店では、顧客が経営者とともに離れるケースも少なくありません。こうしたリスクを抑えるためには、買収後のスムーズな統合計画が必要です。

次に、企業文化や経営方針の違いによる統合の難しさがあります。買収した代理店の組織文化が買い手企業と大きく異なる場合、従業員の意識改革や業務プロセスの調整に時間を要することがあります。また、経営方針が統一されていないと、業務効率の低下や社内の混乱を招く可能性があるため、統合計画を慎重に策定することが重要です。

さらに、M&Aには買収資金や統合コストが発生し、これが経営に負担を与える可能性もあります。買収費用だけでなく、ITシステムの統合や人材育成、営業戦略の見直しなど、統合プロセスにかかる追加コストも考慮しなければなりません。資金計画を適切に立て、財務リスクを抑えることが求められます。

保険代理店がM&Aを成功させるためのポイント

保険代理店のM&Aは、単なる経営統合にとどまらず、顧客や従業員、取引先との関係を円滑に引き継ぐことが成功の鍵となります。

特に、地域に根差した代理店の場合、M&A後もスムーズに業務を継続できるよう慎重な準備が必要です。

地域密着型の顧客基盤を維持するための計画を立てる

M&A後も地域の顧客にとって安心できる代理店であるためには、継続的な信頼関係を築くことが重要です。地域特有のニーズを把握し、買収側のブランドが自然に受け入れられるような計画を立てましょう。

M&Aによって経営主体が変わると、既存の顧客が「契約内容は変わらないのか」「これまでと同じ担当者に相談できるのか」といった不安を抱くことがあります。そのため、地域の特性や顧客層に合わせた対応が求められます。特に、地方では「地元密着型の信頼」が重要視されるため、買収側のブランドやサービスが地域に受け入れられるよう、説明会や広報活動を積極的に行うことが有効です。

また、M&A後も円滑な運営を続けるには、金融機関・自治体・商工会などの地元関係者とのネットワークを維持・強化することが欠かせません。これにより、地域社会の信頼を獲得し、安定した経営基盤を確保できます。

保険会社との取引条件が維持または改善されるように調整する

M&A後も、保険会社との良好な関係を維持し、取引条件が悪化しないようにすることが重要です。事前の交渉を通じて、契約の継続や条件の改善を図りましょう。

M&Aによって代理店の経営が変わると、保険会社側も取引条件を見直す可能性があります。最悪の場合、代理店契約が解除されることもあるため、M&A前に保険会社としっかり協議し、契約の継続を確認しておくことが重要です。また、手数料率や販売ノルマ、取り扱い商品のラインナップなどの条件が不利にならないよう、交渉の場を設ける必要があります。

さらに、M&Aによって代理店の規模が拡大することで、販売実績の向上が期待できます。この点を根拠に、手数料率の改善や優遇措置を求める交渉も有効です。保険会社との関係を戦略的に強化することで、M&Aのメリットを最大限に活かすことができます。

従業員の離職を防ぐためのコミュニケーションを徹底する

M&Aによる経営統合の際には、従業員の不安を解消し、離職を防ぐためのコミュニケーションが不可欠です。経営方針や労働条件の変化について、透明性のある説明を行いましょう。

従業員にとって、M&Aは「職場環境の変化」そのものです。雇用条件や業務内容が変わる可能性があるため、不安を抱く従業員も少なくありません。これを防ぐには、経営方針の変更点や雇用条件の維持・改善点について、個別面談や説明会を通じて明確に伝えることが重要です。

また、買収側と被買収側の従業員が円滑に融合するためには、交流の機会を設けることも有効です。例えば、合同研修や懇親会を実施することで、企業文化の違いを理解し合い、スムーズな組織統合を図ることができます。

買収対象の代理店が保有する顧客層を正確に把握する

M&Aの成功には、買収対象の代理店が持つ顧客層を正確に把握し、適切な引き継ぎ戦略を立てることが不可欠です。契約データを分析し、主要顧客との関係を維持するための対策を講じましょう。

顧客の年齢層や契約内容、更新率などのデータを詳細に分析することで、どの層の顧客を重点的にフォローすべきかが明確になります。特に、法人契約や団体契約を多く持つ代理店の場合、主要顧客との関係を維持するための面談や契約継続交渉が重要になります。

さらに、M&A後の顧客離れを防ぐには、サポート体制の強化やサービスの向上も必要です。例えば、M&Aを機に新たなサポート窓口を設置したり、顧客対応のスピードを改善したりすることで、顧客の安心感を高めることができます。

M&A後にIT化やデジタルツールの導入を検討する

M&Aを機に業務効率を向上させるため、IT化やデジタルツールの導入を積極的に検討しましょう。顧客管理や社内業務の効率化を図ることで、競争力を強化できます。

近年、保険業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでおり、オンライン契約システムや顧客管理システム(CRM)の導入が一般的になっています。M&Aを機に、これらのシステムを導入することで、業務の効率化や顧客満足度の向上が期待できます。

また、買収先の代理店がすでに使用しているシステムとの統合をスムーズに進めるためには、事前にIT環境を調査し、適切な移行計画を立てることが重要です。IT化を成功させることで、M&Aの効果を最大限に引き出すことができます。

保険代理店のM&A事例

メットライフ生命によるフォルテシモを完全子会社化

2019年6月、メットライフ生命保険株式会社は、株式会社フォルテシモの全株式を取得し、完全子会社化しました。フォルテシモは生命保険・損害保険商品の総合代理店として20年以上にわたり事業を展開してきた企業で、「すべては大切な人のために」という経営理念のもと、顧客本位のサービスを提供してきました。この理念は、顧客のニーズに寄り添うメットライフ生命の価値観と一致しています。

今回の買収により、メットライフ生命はフォルテシモをグループに迎えることで、総合保険代理店としてのサービス品質向上を目指します。また、両社の連携により、顧客に対してより付加価値の高い商品やサービスの提供が期待されています。メットライフ生命のCEOエリック・クラフェイン氏は、人生100年時代における顧客サポートの強化を目指した戦略的パートナーシップと位置づけています。

保険業界においては、多様な保険商品を取り扱う総合代理店の役割が重要視されており、今回のM&Aは、顧客接点の強化と市場競争力の向上を図る一例といえます。

【出典】メットライフ生命「株式会社フォルテシモの子会社化について」

朝日生命保険によるNHSインシュアランスグループの子会社化

2021年1月、朝日生命保険相互会社は、NHSインシュアランスグループ株式会社(以下、NHSIG)の全株式を取得し、同社を子会社化しました。NHSIGは、保険代理店4社を傘下に持つ持株会社で、テレマーケティングと訪問販売を組み合わせた「ハイブリッド型営業体制」による保険提案を強みとしています。

新型コロナウイルス感染の拡大に伴い、非対面営業が急速に注目される中、NHSIGのノウハウは、With/Afterコロナの時代における新しい営業スタイルとして評価されています。今回の子会社化により、朝日生命は代理店チャネルの強化に加え、NHSIGのハイブリッド型ビジネスモデルを活用し、柔軟な営業体制の構築を目指します。

本件は、保険業界におけるコロナ対応型ビジネスモデルの重要性を示す好例であり、非対面・対面を組み合わせた営業の進化が期待されています。

【出典】朝日生命保険相互会社「NHSインシュアランスグループ株式会社の株式取得・子会社化について」

SBI新生銀行、ファイナンシャル・ジャパンをエージェント・インシュアランス・グループに譲渡

2024年2月、株式会社SBI新生銀行は、子会社であるファイナンシャル・ジャパン株式会社の全株式を、株式会社エージェント・インシュアランス・グループ(以下、エージェント社)に譲渡する基本合意書を締結しました。ファイナンシャル・ジャパンは保険を中心とした総合的な金融コンサルティングサービスを提供してきた保険代理店です。

保険業界では代理店の大型化や業界再編が進む中、厳格化する金融規制により、保険会社から高品質な業務運営が求められています。エージェント社は国内外で保険代理店支援や保険ブローカー事業を展開しており、同社グループ入りすることで、ファイナンシャル・ジャパンは業界での競争力を高め、保険会社の要請に応える体制を強化できます。

本譲渡により、両社間のシナジー効果が期待され、エージェント社は保険業界における地位をさらに強化し、企業価値の向上を目指します。本件は、保険業界の再編が進む中での重要なM&A事例といえるでしょう。

【出典】株式会社SBI新生銀行「ファイナンシャル・ジャパン株式会社の株式会社エージェント・インシュアランス・グループへの株式譲渡について」

第一生命、アルファコンサルティングを子会社化

2018年4月、第一生命保険株式会社は、保険代理店事業を展開する株式会社アルファコンサルティングの全株式を取得し、子会社化しました。アルファコンサルティングは、複数の生命保険会社の商品を取り扱う乗合保険募集代理店で、全国22拠点に約120名の保険募集人を抱えています。同社は「すべてはお客さまのために」を理念とし、顧客ニーズに合った高品質なサービスを提供してきました。

第一生命は、顧客が複数の保険商品を比較して加入したいというニーズに応えるため、アルファコンサルティングと商品・サービスの共同開発やノウハウ共有を進める計画です。この子会社化は、第一生命グループの中期経営計画「CONNECT 2020」の一環として実施され、グループ内の連携を強化し、企業価値向上を目指す取り組みの一部となっています。

このM&Aは、保険業界における代理店チャネル強化の一例であり、顧客中心のサービス提供を実現するための戦略的な動きといえます。

【出典】第一生命保険株式会社「株式会社アルファコンサルティングの株式取得・子会社化について」

まとめ|保険代理店のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう

近年、保険代理店業界では後継者問題や経営効率化を背景に、M&Aが広く活用されています。大手による買収だけでなく、小規模代理店同士の統合や個人による買い手参入など、さまざまな形態が広がっています。

成功のためには、自社の課題や目的を明確にし、信頼できる相手と合意形成を図ることが重要です。顧客基盤や従業員の引き継ぎにも配慮し、M&A後の運営体制を見据えた準備が欠かせません。業界動向を的確に把握し、将来を見据えた判断を行うことで、M&Aを成長のチャンスへとつなげることができます。

CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者

阿部 泰士

CINC Capital取締役執行役員社長

阿部 泰士

リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。

OTHERS 関連コラム すべてのコラムを見る

SEMINARセミナー すべてのセミナーを見る

“経営者”のためのM&A研究会 ~単独成長・IPO・M&A 選ぶべき道~
  • M&A体験談

“経営者”のためのM&A研究会 ~単独成長・IPO・M&A 選ぶべき道~

2025/06/18(水)14:00〜18:30

オンライン

申し込む
【60代の経営者様向け】会社売却準備を徹底解説
  • Tips

【60代の経営者様向け】会社売却準備を徹底解説

2025/05/13(火)17:00〜18:00

オンライン

申し込む
最大800万円!?手残りを最大化するための「M&A補助金」~申請前に押さえるべきポイントを徹底解説~
  • Tips

最大800万円!?手残りを最大化するための「M&A補助金」~申請前に押さえるべきポイントを徹底解説~

2025/04/22(火)17:00〜18:00

オンライン

申し込む

CONTACTお問い合わせ

秘密厳守いたします。お気軽にご相談ください。最新の業界動向・M&A相場などわかり易くご説明させていただきます。