CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.10
- 更新日2025.04.14
ホテル・旅館業界のM&Aの実態は?売却事例やメリットを紹介
近年、ホテルや旅館業界でM&A※が活発化しています。その背景には業界特有の課題があり、後継者不足や運営コストの増加などが挙げられます。
本記事では、ホテル・旅館業界におけるM&Aの実態について詳しく解説します。また、売却事例やメリットについても併せてお伝えします。
※M&A(エムアンドエー)とは、「Mergers and Acquisitions」の略で「合併と買収」を意味します。企業または事業の全部や一部の移転を伴う取引で、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を指します
目次
ホテル・旅館業界の現状や動向
ホテル・旅館業界は近年、大きな変化が見られます。
下記のグラフは、国土交通省の観光庁が調査した国内の延べ宿泊者数を示したものです。【出典】国土交通省 観光庁「宿泊旅行統計調査報告」
観光庁の調べによると、2019年までは外国人観光客を含め、日本国内の観光・旅行需要が高まり、右肩上がりに宿泊者数が増加しました。しかし、新型コロナウイルスが大流行した2020年、2021年は4億人を切るほどに減少しています。2022年から再び宿泊者数は4億人を超えて増加していますが、新型コロナウイルスの大流行による宿泊客減少は各宿泊施設に大きな影響を与えています。この時の宿泊者数・売上減少により、経営が苦しくなった宿泊施設は非常に多いでしょう。
2023年は外国人観光客や外国人移住者による宿泊の増加もあり、宿泊者数は過去最高の6億人以上となりました。国が観光や海外からの移住を推し進めていることもあり、今後も宿泊者数は伸びると予想されます。
【出典】厚生労働省「我が国の人口について 日本の人口の推移」
一方、厚生労働省の調べでは、少子高齢化により今後15~64歳人口の割合が右肩下がりに減少すると予想されています。2070年には約52.1%になると予測されており、現場で働ける人材の不足が大きな課題です。
ホテル・旅館業界のM&Aの実態
ホテル・旅館業界は以下の課題をどう解決するかが鍵です。
- 集客力
- 施設老朽化
- 人材の確保
上記3つの課題の解決策として、主に以下が挙げられます。
- 集客力…マーケティングに注力し、市場のニーズに合った事業運営を行う
- 施設の老朽化…売上を確保しながら、利益や資産を利用して施設のメンテンナンスに当てる
- 人材の確保…採用力を強化し、人材の獲得に注力する
これらの解決策の一つにM&Aがあり、ホテル・旅館業界では近年M&Aの需要が伸びています。
M&Aの選択により人材や資産の取得ができれば、従業員の確保やメンテナンスのための投資が可能となります。
また、経営がうまくいっている企業からの買収が叶えば、その企業からマーケティングのノウハウを入手し、今後の集客や経営に活かすことも可能です。
ホテル・旅館業界におけるM&Aのメリット
ホテル・旅館業界においてM&Aを実施するメリットは以下のとおりです。
- 後継者不足の問題が解決される
- 従業員の雇用が維持できる
- 設備投資の資金が確保できる
- ブランド力が向上する
- 経営ノウハウを獲得できる
- 予約システムなどのIT投資負担が軽減できる
- 仕入れコストの削減ができる
このように、M&Aによるメリットは多岐にわたります。
ここでは、売り手のホテル・旅館に向けて、M&Aのメリットについて解説します。
後継者不足の問題が解決される
少子高齢化の影響は当然、ホテル・旅館業界にも影響を与えています。
ホテルや旅館の経営者が高齢化する中で、後継者が見つからないケースが増えています。経営者としては、後継者が見つからず廃業となる事態は避けたいはずです。
M&Aを実施することで、事業を承継し、経営の維持が期待できます。他の宿泊施設に売却することで、売却先の経営者が引き継ぎを行い、後継者不足の解決につながるでしょう。
【出典】中小企業庁「後継者の有無別に見た、売り手としてのM&Aの目的や想定する効果」
なお、中小企業庁の調べによると、M&Aの目的や想定する効果に「事業承継」と回答する方は非常に多く、後継者がいない事業においては70.0%と高い数値を示しています。
従業員の雇用が維持できる
経営が厳しくなった場合でも、事業を売却することで従業員は新しい運営母体の下で働き続けることができ、雇用の安定が図られます。
このようにM&Aは、雇用継続の手段としても有効であり、従業員の生活を守るための手段にもなります。
設備投資の資金が確保できる
宿泊施設に老朽化した箇所があれば、その部分を直すために資金が必要となります。しかし、経営が苦しい状況では資金を確保できないケースもあるでしょう。
事業譲渡をはじめとしたM&Aによって宿泊施設を売却すれば、その時に得た売却益を設備投資の資金などに当てることができます。
ブランド力が向上する
知名度のあるホテルや旅館に宿泊施設を売却することで、買い手側のブランドを活用できます。
例えば、大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ株式会社(大江戸温泉物語グループ)は日本で最大級の宿泊施設を運営する会社です。仮に大江戸温泉物語グループとの事業譲渡に至った場合、売り手は「大江戸温泉物語+売り手の宿泊施設名」といった名前を掲げることが可能です。これにより、ブランド力が上がり、集客にも良い影響をもたらすことが期待できます。
経営ノウハウを獲得できる
買い手企業がホテルや旅館の運営に精通している場合、買い手の経営ノウハウを取得することが期待できます。
宿泊施設を売却した上で、引き続き宿泊施設を運営したい場合は、今後経営を成功させるための経営やマーケティングに関するノウハウを、買い手企業から取得できるのは大きなメリットでしょう。
経営力の向上などが目標にある方は、M&Aを選択肢に加えることをおすすめします。
予約システムなどのIT投資負担が軽減できる
宿泊施設に新規でIT技術を導入する場合、大きなコストがかかるおそれがあります。しかし、IT導入を進めているホテルや旅館に売却することで、買い手のホテルや旅館に導入されているIT技術を売り手側も利用できる可能性があります。
仕入れコストの削減ができる
大手のホテル・旅館に売却することで、その買い手が持つ流通網を利用し、仕入れコストの削減が期待できます。
基本的に仕入れコストは発注単位が小さいほど、商品や仕入れ品の1個あたりのコストが上がります。複数の宿泊施設を持つ大手のホテル・旅館とM&Aを行うことで、一括した仕入れが可能となり、仕入れコストの削減が見込めるでしょう。
【2024年】ホテル・旅館業界のM&Aの事例
2024年もホテル・旅館業界では多くのM&Aが行われており、業界再編が進んでいます。
ここでは、2024年に実施された代表的なM&A事例を紹介します。
大和財託が滋賀県の温泉旅館を取得
大和財託株式会社は有限会社須賀谷温泉の株式を100%取得し、温泉旅館「須賀谷温泉」を買収しました。(2024年9月)
大和財託は収益不動産を活用した資産運用コンサルティングや賃貸管理を行っています。また建築物の設計・施工の機能も自社内製化しています。
一方で須賀谷温泉は歴史ある名湯で、織田信長の妹のお市や浅井長政も湯治したと言われています。
須賀谷温泉が集客・売上確保に悩んでいたところ、大和財託の設計・施工の知見や技術を生かしたリノベーションとリブランディングが魅力的に感じ、その後M&Aに至りました。
また、須賀谷温泉などの旅館の再生を成功させ、地方創生に取り組むことで、観光を軸に地域活性化への貢献も期待されています。
【出典】大和財託株式会社「【プレスリリース】温泉旅館を完全子会社化し、ホテル・旅館の開発運営事業に新規参入」
ロイヤルホテルが東京都の芝パークホテルを子会社化
株式会社ロイヤルホテルは、株式会社芝パークホテルの株式70.7%を追加取得し、子会社化しました。(2024年11月)
ロイヤルホテルは、西日本を中心にリーガロイヤルホテルを展開し、国内に基盤をおいています。
一方、芝パークホテルは1948年に東京・芝で外国貿易使節団を迎えるホテルとして創業し、海外客に定評があります。
国内でのホテル事業展開の加速はもちろん、インバウンド集客の強化が必要だと考えていたロイヤルホテルは芝パークホテルが魅力的に映り、M&Aに至りました。
また、企業風土が近似しているという点でも合致し、今後芝パークホテルと補完し合うことにより成長を目指せるとロイヤルホテルはコメントしています。
【出典】株式会社ロイヤルホテル「株式会社芝パークホテルとの資本業務提携契約締結 および子会社化に関するお知らせ」
霞ヶ関キャピタルがホテル事業を展開する長崎県の会社を子会社化
霞ヶ関キャピタル株式会社がホテル事業を展開する反田海運株式会社の株式100%を取得し、子会社化しました。(2024年10月)
反田海運株式会社はホテルニュータンダをはじめとしたホテルを長崎市で複数経営しています。また、高島トマトを贅沢に使ったソースや野母崎半島で育ったスイートバジルを使ったソースの製造・販売などをしており、地域に大きく貢献しています。
一方で、霞ヶ関キャピタル株式会社は、東京都を拠点とする不動産コンサルティング事業を行っています。
今回、霞が関キャピタルのリブランドによる事業の改善や価値向上が大変魅力となり、霞ヶ関キャピタルの子会社であるfav hospitality groupを通して、反田海運のM&Aに至っています。
【出典】霞ヶ関キャピタル株式会社「ホテル保有・運営会社の株式取得に関するお知らせ」
【2023年以前】ホテル・旅館業界のM&Aの事例
2023年以前に行われたホテル・旅館業界のM&Aの事例について解説します。
業界の動向やM&Aの効果を理解する上で非常に参考になるので、ぜひ情報を押させておきましょう。
大江戸温泉物語グループが長野県のホテル木曽路を買収
大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ株式会社は、長野県のホテル木曽路を買収しました。(2018年4月)
ホテル木曽路は、長野県にあるホテルで「温泉と旅の楽しさをもっと気軽に何度でも」をコンセプトに地域の人や観光客に愛されています。
一方で、大江戸温泉物語グループも温泉の楽しさを伝えることをコンセプトに多くのホテルやリゾート施設を経営しています。
大江戸温泉物語グループは買収の理由を「木曽地域の自然や中山道などの歴史的な魅力を活用できるため」と話しています。
ホテル木曽路も宿泊施設の改修工事が必要であったところ、大江戸温泉物語グループの魅力や経営力に縁を感じて、M&Aを決意しました。
【出典】PR TIMES「大江戸温泉物語 長野県南木曽町の『ホテル木曽路』を取得」
温故知新が九州屈指の高級旅館の事業を承継
株式会社温故知新が長崎県壱岐市にある旅館「海里村上」を譲受しました。(2018年8月)
海里村上は九州屈指の高級旅館で名高い宿泊施設です。湯元湾を眺めることができます。過去に、日本の離島初、唯一のミシュラン5パビリオン掲載の実績もあります。
一方、温故知新も「地域の光の、小さな伝道者」をコンセプトに、ホテルやリゾート施設、カフェなどを全国展開しています。
海里村上は業績不振ではなかったものの、オーナーの体調不良などを理由に引退を考えていました。
後継者不在という課題に直面していたところ、ある個人投資家が「温故知新社が運営を行うこと」を条件に名乗りを上げました。海里村上のオーナーも承継を決意し、M&Aに至りました。
【出典】株式会社温故知新「九州屈指の高級旅館海里村上を温故知新が事業承継」
ニトリが札幌市の平磯岬の高台に立つ高級旅館の買収
株式会社ニトリが北海道小樽市にある「銀鱗荘」を、株式会社銀鱗荘および東名観光開発株式会社から買収しました。(2018年8月)
銀鱗荘は小樽市の高級旅館として高い人気を誇る宿泊施設です。2023年には銀鱗荘本館と隣接するグリル銀鱗荘が、国の登録有形文化財に登録されました。
一方、ニトリは家具やインテリア用品の小売業として全国展開する人気店です。実はニトリの本社は銀鱗荘と同じ北海道にあります。
のちにニトリの子会社であるニトリパブリックが株式会社銀鱗荘及び東名観光開発株式会社から取得する形でM&Aに至りました。
【出典】株式会社 ニトリホールディングス「「銀鱗荘」事業承継についてご案内」
まとめ|ホテルや旅館を安定して運営するためにM&Aの実施がおすすめ
ホテル・旅館業界において、M&Aは多くのメリットをもたらします。特に業界の現状や動向を踏まえると、M&Aは事業継続において非常に有効な手段となるでしょう。
もし以下のメリットに魅力に感じる方は、ぜひM&Aや事業の売却を検討しましょう。
- 後継者不足の問題が解決される
- 従業員の雇用が維持できる
- 設備投資の資金が確保できる
- ブランド力が向上する
- 経営ノウハウを獲得できる
- 予約システムなどのIT投資負担が軽減できる
- 仕入れコストの削減ができる
CINC CapitalはM&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。
業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。