CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.03.12
- 更新日2025.03.12
訪問介護業界におけるM&Aの基本的な流れと成功させるポイント
訪問介護業界では、事業承継や経営統合を目的としたM&Aが注目されています。人材不足が深刻化する中、事業を存続させたり、成長させたりするためにM&Aを活用するのも一つの手です。
今回は、訪問介護事業におけるM&Aの流れや、成功させるためのポイント、実際の成功事例をご紹介します。
目次
訪問介護業界の現状とは
まずは近年における訪問介護業界の現状や課題についてご紹介します。なぜ訪問介護業界でM&Aが注目されているのか、その理由を見ていきましょう。
訪問介護とは
訪問介護とは、要介護者の自宅にホームヘルパーが訪問し、各種サービスを提供する「居宅介護」の一形態です。大規模な設備投資が不要で、職員は管理者・サービス提供責任者・ホームヘルパーなどの少人数体制で開業できるという特徴があります。
訪問介護とデイサービスの違い
訪問介護とデイサービスは、サービス内容や利用目的が異なります。訪問介護の場合、利用者の生活環境である自宅で、個別のニーズに合わせたサービスを提供します。また、介護の専門知識を持つ有資格から直接ケアを受けられるのも特徴です。
一方で、デイサービスは要介護者がグループホームや住宅型有料老人ホームに通い、その場所でサービスを受ける「通所介護」の一形態となります。複数の利用者が同じ空間で過ごすため、社会的な交流の機会が多く、生活にリズムができやすいとされます。
また、家族の「介護負担軽減(レスパイトケア)」を目的に利用するケースも少なくありません。
訪問介護業界の現状
厚生労働省が公表する「令和4年介護サービス施設・事業所調査の概況」の資料によると、2022年における居宅サービス事業所の事業所数のうち、訪問介護の事業所数は36,420件となっています。2021年の35,612件と比較してやや増加しています。
一方で、近年の介護業界は正社員での就業を希望する人材が定着しづらい背景から、深刻な人材不足の課題に直面しています。訪問介護の報酬体系は実働時間に基づいて算定されるため、移動時間が長くなるほど収益性が低下し、結果としてヘルパーの給与水準が低下してしまうのが問題点です。
さらに、多くの事業所で採用されている登録ヘルパー制度は、訪問の有無に収入が左右されるため、安定した収入を得にくい雇用形態とされます。
こうした背景から中小規模の事業者にとって厳しい状況が続き、M&Aによって大手の傘下に入ったり、事業承継を目的にM&Aを活用したりするケースが少なくありません。
【出典】厚生労働省「令和4年介護サービス施設・事業所調査の概況」
訪問介護事業を売却する際の主な理由
訪問介護業界では、新規参入する事業者がある一方で、廃業する事業者も目立ちます。ここでは、訪問介護事業を売却する理由を複数のポイントからご説明します。
後継者の不在
訪問介護業界においても、経営者の高齢化にともなう事業承継問題が発生しています。とりわけ中小規模の事業者においては、身内や社内からの後継者選定が困難な状況に陥ってしまうケースも少なくありません。事業の存続を図るための選択肢として、M&Aを通じた事業譲渡への関心が高まっているのです。
人材不足
訪問介護事業所では、法令により介護の有資格者の配置が義務付けられています。しかし、業界全体で深刻な人材不足に直面しており、専門資格を有するスタッフの確保・定着が大きな経営課題となっています。
経営状態の悪化
介護保険制度の改定や人件費高騰を受けて、訪問介護事業者の経営環境は厳しさを増しています。特に、経営基盤の脆弱な小規模事業者は、効率的な運営や設備投資が難しく、経営難に陥っている現状があります。
戦略的な判断
大手事業者との経営統合により、経営資源の最適化や新規サービスの展開が期待できます。また、地域での競争力強化や事業領域の拡大を目指す上でも、M&Aを効果的に活用する事業者が見られます。
訪問介護業界におけるM&Aの取引相場
訪問介護業界におけるM&Aでは、「EBITDA倍率法(マルチプル法)」や「年倍法」によって企業価値の評価が行われます。EBITDA倍率法では、EBITDAに業界標準の倍率を掛けて企業価値を算出します。
一方、年倍法では年間営業利益×倍率で企業価値を算出します。業界関わらず一般的な倍率は1~3倍程度ですが、この倍率は市場環境や企業の収益性・成長性など様々な要因によって変動します。
訪問介護業界のM&Aでは、顧客数や有資格者の人数なども、買い手にとって重要な指標になります。個別の状況によって価格が大きく変わるため、M&Aの専門家へご相談ください。
訪問介護事業をM&Aで承継する基本的な流れ
昨今の訪問介護業界の背景から、M&Aでの事業譲渡が注目されています。ここでは、訪問介護事業を承継する一般的な流れをご紹介します。
M&A専門家への相談
まずは訪問介護事業の譲渡へ向けて専門家に相談しましょう。M&A仲介会社などの専門業者では、訪問介護業界特有の課題や規制を熟知しており、事業価値の評価から実務的なアドバイスまで幅広いサポートを行っています。
M&A戦略の決定と承継先の選定
専門家との相談を経て、M&A戦略を策定します。具体的には、資産状況や従業員の雇用条件、利用者へのサービス継続性などの観点で、自社が重視するポイントを整理します。その上で、M&A仲介会社が保有するネットワークを活用し、承継先候補を選定します。
近年M&A仲介会社では、アドバイザーの属人的な繋がりだけでなく、AIなどの最新技術を用いて最適な承継先候補を見つける動きもあります。
CINC Capitalでは、未上場企業を含む数万件のM&A実績データベースを保有しています。自社に合う候補先を見つけたい方は、ぜひ一度お問い合わせください。
面談と基本合意
承継先候補との初期面談では、経営理念の共有や事業展開の方向性について意見交換を行います。双方の意向が一致した場合、基本合意書の締結へと進みます。
デューデリジェンス(企業監査)の実施
企業価値を正確に把握するため、財務・法務・労務など多角的な視点からデューデリジェンスを実施します。訪問介護事業特有の要素としては、介護保険法への適合性やケアマネジャーとの関係性、サービス提供体制の実態などを重点的に精査する傾向にあります。
最終契約書を締結
調査結果に基づき、詳細な譲渡条件を協議します。介護報酬の算定状況や利用者との契約内容、従業員の処遇条件など、事業継続に関わる重要事項を慎重に取り決めます。法務専門家の助言を得ながら、双方納得の上で契約内容を策定します。
クロージングと譲渡実行
契約締結後は、利用者や従業員への説明、行政機関への各種届出など、実務的な手続きを着実に進めます。全ての準備が整った段階で、最終的な経営権移転と対価の決済を行い、事業承継が完了します。
訪問介護事業のM&Aを成功させるポイント
ここでは、訪問介護事業のM&A成功に向けた取り組みやポイントを解説します。
資産価値と経営状況の確認
訪問介護事業所のM&Aでは、一般的に過去の収益実績と将来の収益予測が譲渡価格のベースになります。事業用資産(車両や事務備品など)の状況把握も必要ですが、より重要なのが、従業員の質と人数、そして利用者基盤です。
有資格者などの即戦力となる人材の在籍状況や、安定的な利用者数の確保が、M&A成功の鍵を握ります。また、介護報酬の算定状況や収益性の分析も重要な評価要素です。
適切なM&A手法の選択
M&Aの基本手法には、株式譲渡や事業譲渡などがあります。株式譲渡の場合、許認可を引き継ぐことができるため、スムーズな事業継続が可能です。
一方、事業譲渡では介護事業指定申請などの手続きが必要となりますが、特定の事業部門のみを切り離して譲渡できます。
専門家の活用
M&Aの成功には、信頼できる専門家の支援が不可欠です。M&A仲介会社は多数存在しますが、実績や規模を考慮して選びましょう。
訪問介護事業のM&Aの事例
エフビー介護サービス株式会社によるスマートケアタウン株式会社のM&A
エフビー介護サービス株式会社は、2023年7月28日にスマートケアタウン株式会社の全株式を取得し、子会社化することを決定しました。スマートケアタウンは長野県岡谷市で小規模多機能型居宅介護や通所介護を運営しており、同社の事業所2拠点をグループに加えることで、エリアの拡大と業務効率化を図る狙いがあります。
エフビー介護サービスは、信越・関東エリアで在宅介護サービスを中心に118拠点を展開し、地域密着型の介護サービスを提供してきました。一方で、スマートケアタウンの拠点がある岡谷市には事業所がなく、本件により新たな地域への進出が可能となります。また、既存拠点との距離が比較的近いため、人員配置の効率化やサービスの向上が期待されています。
スマートケアタウンは債務超過の状況にありますが、エフビー介護サービスのノウハウを活用し、早期の黒字化を目指す方針です。介護業界は人手不足やコスト上昇といった課題を抱えており、今後も事業基盤の強化や経営効率の向上を目的としたM&Aの動きが続くと考えられます。
【出典】エフビー介護サービス株式会社「スマートケアタウン株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
株式会社揚工舎による有限会社トータルケア陽だまりのM&A
株式会社揚工舎は、2023年5月17日に有限会社トータルケア陽だまりの全株式を取得し、100%子会社化することを決定しました。トータルケア陽だまりは神奈川県南足柄市で住宅型有料老人ホームを運営し、小田原市ではサービス付き高齢者向け住宅を展開しています。今回のM&Aにより、揚工舎は首都圏での事業拡大を図る考えです。
株式取得後、トータルケア陽だまりは「株式会社ヨウコーフォレスト相模沼田」に商号変更し、運営施設の名称も変更されました。揚工舎は介護施設の運営に加え、介護資格取得支援や人材派遣事業も展開しており、本件により介護サービスの充実とグループ全体のシナジーを強化する狙いがあります。
トータルケア陽だまりは近年、経営赤字が続いていましたが、揚工舎の経営ノウハウを活用することで、業績改善が期待されます。介護業界では、慢性的な人手不足やコスト上昇が課題となる中、規模拡大や経営効率化を目的としたM&Aが今後も活発に行われると考えられます。
【出典】株式会社揚工舎「有限会社トータルケア陽だまりの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
株式会社ヨウコーフォレスト西台による株式会社ケアネット・トキのM&A
株式会社揚工舎の子会社である株式会社ヨウコーフォレスト西台は、2023年5月11日、株式会社ケアネット・トキが東京都北区で運営する介護事業の一部を譲り受けることを決定しました。本件により、サービス付き高齢者向け住宅および訪問介護事業が、ヨウコーフォレスト西台の運営下に移ります。譲受後は、それぞれ「ヨウコーフォレスト北赤羽」「ヨウコーフォレスト北赤羽・訪問介護」として運営される予定です。
揚工舎グループは、有料老人ホームやデイサービス、訪問介護に加え、介護資格取得支援や人材紹介・派遣事業も手がけています。今回の事業譲受により、介護サービス事業のさらなる拡大と運営の効率化を目指します。
譲受対象となる事業の売上高は2022年7月期で5,700万円となっており、揚工舎の事業規模拡大に貢献すると考えられます。介護業界では、高齢化の進行に伴いサービス需要が高まる一方で、運営コストの上昇や人材不足といった課題が続いています。こうした環境下で、M&Aや事業譲受を通じた経営基盤の強化は、今後も重要な戦略となるでしょう。
【出典】株式会社揚工舎「当社子会社による事業譲受に関するお知らせ」
まとめ|ポイントを押さえて訪問介護事業のM&Aを成功させよう
訪問介護事業でM&Aを成功させるには、事業の現状把握や適切な譲渡手法の選択、専門家の支援が不可欠です。訪問介護業界特有の課題を理解しつつ、売り手として買い手が魅力に感じる譲渡計画を策定していきましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、合併のご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。合併やM&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
CINC Capital取締役執行役員社長。リクルート関連会社や外資系製薬会社、国内最大手M&A仲介会社で営業組織を牽引。 特にM&A実績の多い業界は調剤・IT・運送業。