CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.21
- 更新日2025.04.21
教育産業市場のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
少子高齢化が進む日本の教育産業市場では、生徒数減少や教育のデジタル化などの課題に対応するため、M&Aが活発化しています。大手教育グループによる地域密着型塾の買収やEdTech企業との連携など、業界再編が進んでいる状況です。
本記事では教育産業市場および教育機関のM&A最新動向やメリット・デメリット、成功のポイントを解説します。
目次
教育産業の市場動向
「株式会社矢野経済研究所」の調査によると、2023年度における教育産業全体の市場規模は、2兆8,331億7,000万円とされています。この数値は前年度と比較して0.7%減少しており、少子高齢化や人口減少の影響が市場全体に波及していることがわかります。
一方、少子化という構造的な課題に直面しつつも、一部の分野では着実な成長を遂げています。例えば、デジタル教育コンテンツ市場は、2022年度に前年比11.1%増となる632億円まで大きく伸長しました。業界で「映像授業」や「オンライン教材」の利用が進んだ結果、教育のデジタル化が市場拡大を促進しています。このように新しい教育形態に関わる分野は将来性が期待されている状況です。
【出典】株式会社矢野経済研究所「教育産業市場に関する調査を実施(2024年)」
【出典】株式会社矢野経済研究所「デジタル教育コンテンツ市場に関する調査を実施(2023年)」
教育産業市場が抱える課題
教育産業市場は、少子化の進行、技術革新、そして多様化する学習ニーズに直面しています。これらの課題に対応するため、多くの教育機関がM&Aを活用して事業拡大や経営基盤強化に取り組んでいます。
少子化による生徒数の減少
日本国内では少子化が進み、児童・生徒数の減少が顕著になっています。文部科学省の調査によると、2023年から2024年にかけての学校教育機関の在学者数は、減少傾向にあります。
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小学校の在学者数:594万2,000人(前年度より10万8,000人減少し過去最少)
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中学校の在学者数:314万1,000人(前年度より3万6,000人減少し過去最少)
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高等学校の在学者数:290万7,000人(前年度より1万2,000人減少)
急激な在学者数の減少は、教育産業全体にとって大きな課題です。特に学習塾や予備校などの民間教育機関にとっては、事業継続に向けた戦略の見直しが急務となっています。
教育人材の確保と講師の高齢化
教育産業市場では、講師不足および高齢化が深刻な課題となっています。講師の採用が難しい背景には、労働環境の厳しさや給与水準の低さが挙げられます。加えて、一部の教育機関では創業者の高齢化が進んでおり、事業承継問題が顕在化しました。後継者不足により、廃業を選択する教育機関も少なくありません。
教育のデジタル化・オンライン化への対応
技術革新にともない、教育業界ではデジタル化が急速に進んでいます。文部科学省提唱の「GIGAスクール構想」のように、教育現場におけるICT環境の効果的な導入が推進されています。
特に新型コロナウイルス感染症の影響で、オンライン授業やデジタル教材の需要が急増しました。AIを活用した個別指導やオンライン学習プラットフォームの導入が進み、教育サービスの多様化が進んでいます。ただし、デジタル技術の導入には多額の投資が必要となり、一部の教育機関はその対応に迫られています。
教育産業市場のM&A最新動向(2025年)
教育業界では少子化やデジタル化の進展を背景に、M&Aが急速に増加しています。ここでは、教育産業市場におけるM&A最新動向をご紹介します。
大手教育グループによる地域密着型小規模塾の買収
近年、地域密着型学習塾の買収が大手教育グループにおける中核戦略となっています。こうした買収戦略の背景には、各地域の優秀な講師陣や地元密着型の教育メソッドを取り込むことで、自社の競争優位性を高める狙いがあります。
EdTech企業による従来型教育機関の取得・統合
EdTech企業を買収し、自社サービスのデジタル化を図る動きが見られます。EdTechとは教育(Education)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、AIやIoT技術を活用した教育サービスを提供するのが特徴です。買収により、オンライン家庭教師サービスやオーダーメイド学習の導入や、個別指導型学習の充実化が図られています。
教育コンテンツ獲得を目的とした異業種の参入
異業種企業による教育分野への参入も増加しています。たとえば、不動産会社やIT企業が教育関連事業に資本を投入し、学習塾やデジタル教材の開発に取り組むケースが増えています。これにより、従来の教育業界の枠を超えたサービス提供が可能となり、競争力の向上につながっています。
教育機関がM&Aで売却するメリット
ここでは、教育機関がM&Aをするメリットを売り手目線でご紹介します。売却側にとっては、資源の効率的な活用や地域貢献の維持など、多くのメリットが期待できます。
事業を存続させられる
M&Aにより、地域の特色を生かした独自の教育サービスを継続できるようになります。例えば、地方で長年運営されてきた個人塾が全国チェーンの教育企業と統合すれば、地域ならではの教育手法や強みを保ちつつ、同時に経営基盤を強化できるでしょう。こうした取り組みは、地域社会への貢献の観点から有効です。
大手のブランド力や集客ノウハウを活用できる
大手教育グループの傘下に入ることで、ブランド力を活用した集客が可能となります。特に学習塾選びにおいては、授業形態や通いやすさ、評判が重視される傾向にあります。大手ならではの信頼性の高いブランドイメージは、新規顧客獲得において大きなアドバンテージとなるでしょう。
教育機関がM&Aで売却するデメリット
ここからは、教育機関におけるM&Aのデメリットをご紹介します。教育機関特有の理念や人材、カリキュラムなどが変化することで、これまで築き上げてきた自社の価値が失われる可能性に注意しましょう。
人気講師の流出による生徒の減少リスク
M&Aによって経営者が変わると、講師陣が不安や反感を抱き、離職してしまうケースが少なくありません。特筆すべきなのは、人気講師の離職です。学習塾においては、生徒から支持を得ている講師の存在が、生徒獲得の成否をわけます。既存の人気講師が離職した場合、その講師に惹かれて通っていた生徒も同時に離れてしまうリスクが高まります。
サービス転換が招く摩擦
地域に根ざした教育機関がM&Aにより全国チェーンの一部となると、地元密着型のサービスから全国一律のサービスへと転換を迫られることがあります。転換過程では、地域の特性や文化に合わせた教育サービスが失われ、地域社会との関係性が希薄化するかもしれません。
教育機関がM&Aで売却を成功させるためのポイント
ここでは、教育産業市場においてM&Aを成功させるためのポイントをご紹介します。
教育機関の評価価値を可視化
教育機関のM&Aでは、以下のような要素によって評価が変動します。
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生徒数や合格実績
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校舎・施設の価値
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独自の教育メソッドやカリキュラム
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講師の質
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講師と生徒との関係性 など
教育機関がM&Aを成功させるためには、自社の教育成果を明確に示すことが不可欠です。具体的な生徒数の推移データや有名校への合格実績などを可視化すれば、買い手企業に対して事業価値を明確に伝えることができます。校舎の設備や立地の良さなども評価基準の一つです。例えば、通いやすい立地に校舎を設けている場合は高評価が期待できるでしょう。
独自の教育メソッドやカリキュラム、講師の質といった無形資産も重要です。特に学習塾業界では、教育メソッドが個々の差別化のポイントとなっています。これらを文書化し、知的財産として整理しておくことで、M&A市場での評価を高められる可能性があります。
また、教育産業市場のM&Aにおいては、生徒・保護者との関係性維持が極めて重要です。M&Aによる経営変更が生徒や保護者に不安を与えないよう、丁寧な説明を心がけ、一人ひとりから理解を得ておく必要があります。
適切なM&Aプロセスを検討
教育機関のM&Aでは、関係者への丁寧な説明が欠かせません。生徒・保護者には教育方針や講師体制が変わらない旨を強調し、不安を和らげましょう。講師に対しては待遇やキャリア支援の方向性を明示し、早期段階での情報共有と対話を行っておくことで離職リスク軽減につなげます。
デューデリジェンスでは、生徒数の推移や講師の雇用状況、カリキュラムの独自性、教室設備の老朽化状況など、教育の継続に直結する項目を重点的に確認することがポイントです。また、統合後も教育の質を維持するため、ブランド戦略や指導方針の統一といった計画的な統合プロセスを実行することが求められます。綿密な計画を立て、戦略的にM&Aを進めていくことが重要です。
教育機関のM&A事例
最後に、教育業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
東京医科歯科大学と東京工業大学の統合
2024年10月、東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、「東京科学大学(Institute of Science Tokyo)」が誕生しました。6,000件以上の提案から決定した名称には、科学の発展と社会への貢献を担う意志が込められています。
統合により、医歯学と工学に加え、人文・社会科学の視点も取り入れた新たな学術領域の創出を目指します。ロゴマークには「科学の進歩」と「人々の幸せ」への探求心を象徴。ブランドカラーは「Science Blue」とし、グローバル展開も意識しています。
本統合は、学術研究とイノベーションの国際競争力を高める戦略的な動きといえ、今後の研究・教育分野でのシナジーが期待されます。
【出典】Tokyo Medical and Dental University「2024年10月、東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し「東京科学大学」が誕生。」
株式会社早稲田アカデミーによる株式会社幼児未来教育のM&A
株式会社早稲田アカデミーは、2024年1月、株式会社幼児未来教育(東京都渋谷区)の全株式を取得し、子会社化しました。
幼児未来教育は「ベンチャースクール サン・キッズ」ブランドで、未就学児向けの教育サービスや受験対策プログラムを提供し、高い評価を得てきました。早稲田アカデミーは本件を通じ、未就学児層との接点強化と新たな収益基盤の創出を図ります。
両社の事業親和性も高く、早期のシナジー創出が期待されます。教育領域における年齢層拡大を通じて、顧客生涯価値の向上と事業のさらなる拡大を目指す動きといえます。
【出典】株式会社早稲田アカデミー「株式会社幼児未来教育の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
株式会社リソー教育と学校法人駿河台学園の資本業務提携
株式会社リソー教育は、2019年7月、学校法人駿河台学園と資本業務提携を締結しました。両者は、リソー教育の個別指導ブランドと駿台学園の集団指導ノウハウを融合させるため、合弁会社「駿台TOMAS(仮称)」を設立。
超難関校受験対策に特化した個別進学指導塾を展開する方針です。また、駿台学園はリソー教育株式の6.61%を取得し、資本面からも連携を強化しました。
両社の教育理念を活かした新たなブランド構築により、競争力のある高品質な進学指導サービスの提供が期待されています。少子化が進む中、教育業界でのブランド力向上と事業領域拡大を狙った戦略的提携といえます。
【出典】株式会社リソー教育「学校法人駿河台学園との資本業務提携に関するお知らせ」
まとめ|教育産業市場のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
教育産業市場のM&Aには、事業継続や大手のブランド力活用、新領域展開などのメリットがある一方で、人気講師の流出など業界ならではのリスクも存在します。最新の市場動向を把握し、自社の強みを明確化してM&Aを成功に導きましょう。事業売却・事業承継に興味のある経営者は、一度M&A仲介会社などの専門家にご相談ください。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。