CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.10
- 更新日2025.04.14
クリニック業界のM&Aや事業承継の現状と動向|事例も紹介
高齢化に伴い多くの業界で後継者不足に悩む企業が増えていますが、クリニック・病院業界においても例外ではありません。また、地域医療の需要も増加していることから、クリニックや病院には効率的な運営が求められています。
こうした状況の中で、これらの問題を解決する手段としてM&A※や事業承継が注目を集めています。
本記事では、クリニック・病院業界の現状や動向を詳しく解説するとともに、具体的なM&A・事業承継の事例を紹介します。
※M&A…「Mergers and Acquisitions」の略で、日本語では「合併と買収」を指します。企業または事業の全部や一部の移転を伴う取引で、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味します。
目次
クリニック・病院業界の現状や動向
近年、少子高齢化により地域医療の需要は高まっています。一方で、その医療を提供するクリニック・病院の数は足りているでしょうか。
【出典】厚生労働省「2022年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況 病院数の年次推移」
厚生労働省の調べによると、病院は1999年から年々減少しています。2022年と1999年を比較するとおよそ1,000施設減少したというデータが出ています。
療養病床を有する病院においても、2005年から徐々に減少しています。
医療の需要は高まっているのにもかかわらず、「病院に勤める医師やスタッフが減っている」「後継者がいない」などの理由により、病院は減っています。
【出典】厚生労働省「2022年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況 診療所数の年次推移」
一方で、1999年から2022年にかけて一般診療所や無床一般診療所※は右肩上がりに増えています。一般診療所に至っては1999年から2022年にかけておよそ15,000施設増加しています。
つまり、先ほどの厚生労働省の調べも加えると、「医療施設の数は年々増えている状況ではあるが、病院は減少している」「開業している医師は多いが、病院は減少している」ということがわかります。
病院に勤めている医師が医療施設を開業する数が増えれば、病院の人手不足は今以上に深刻なものとなりそうです。
※診療所は病床を有さないものまたは19床以下の医療施設を指します。一方、病院は20床以上の病床を有する医療施設のことを指します。
【出典】厚生労働省「2022年度 国民医療費の概況 国民医療費・対国内総生産比率の年次推移」
厚生労働省の調べによると年々国民医療費は増加しており、2022年の国民医療費は平成元年の1989年と比べて2倍以上、およそ20兆円も増加しています。
クリニック・病院において人手不足や後継者不足の問題がさらに深刻になれば、医療費の増加つまり医療需要の増加に対応しきれなくなるでしょう。
クリニック・病院業界のM&Aや事業承継の必要性
ここでは、クリニック・病院業界の課題と解決につながるM&Aについて解説します。
後継者不足の問題に対応するため
日本は超高齢化社会に突入しており、多くの医師が定年を迎える一方で、新たな後継者が見つからないという課題に直面しています。
【出典】厚生労働省「年齢階級別にみた病院に従事する医師数及び平均年齢の年次推移」
厚生労働省の調べによると、病院に従事する医師の数は年々増加しており、平均年齢は1986年から上昇しています。
1984年に40.0歳だった平均年齢は、2022年には45.4歳となり、5.4歳も上がっています。
医師の平均年齢が上がっていることから、院長・経営者の年齢も上がることが読み取れます。そして医師も高齢化しているので引き継がせる相手がおらず、閉業してしまうというケースが多いようです。
そうした状況の打開策としてM&Aや事業承継という手段をとることで、引き継ぎ候補がいなくても、第三者や他の医療施設に事業を引き継ぐことが可能です。
2024年問題への対応のため
医療の2024年問題は、2024年の医療業界にて働き方に大きく変化が起こることで生まれる課題や問題のことを指します。
2024年問題は以下の内容が挙げられます。
-
診療報酬のマイナス改定の可能性
-
働き方改革による医師の時間外労働規制の開始【詳細はこちら】
-
大都市圏を中心とした医師の偏在問題の深刻化
-
団塊世代の後期高齢者入りによる医療需要の増加
そしてこれらの変化により、以下の経営課題が生じるとされています。
-
人件費の上昇(特に医師の給与)
-
医療設備の更新・維持コストの増大
-
収益性の低下
-
後継者問題
これらの問題を解決する手段として、M&Aの選択があります。資源や人材、ノウハウの確保により以下のメリットが期待できます。
経営側 |
患者側 |
|
メリット |
経営基盤の強化 |
医療サービスの質の維持・向上 |
M&Aを実施する際は以下のポイントを意識することで、2024年問題・課題の解決につながります。
-
地域における医療需要の見通し
-
経営側と患者側双方の医療提供体制の親和性
-
経営理念・方針の一致度
-
職員の処遇についての調整
-
必要な許認可の確認と対応
各ポイントを意識し、課題や問題に事前に備えることが大切です。
クリニック・病院業界におけるM&Aや売却を活用するメリット
ここでは、クリニック・病院業界におけるM&Aを実施することのメリットを紹介します。各メリットを理解し、今後の運営や事業承継に役立てましょう。
売り手のメリット
売り手側のクリニック・病院におけるM&Aや事業承継のメリットは以下のとおりです。
- 後継者不足の問題の解決
- 地域の医療体制の維持
後継者不足の問題の解決
病院や医療施設を誰かに引き継ぎをしたくても、親族(子どもなど)にも同じ病院内にも引継ぎ候補がいないことで、閉院の選択をとる病院は多いです。
しかし、M&Aや事業承継を行うことで、第三者や他の医療施設の医師が後継者となり、病院を閉院することなく、経営を維持できます。
地域の医療体制維持
もし、多くの地域住民に求められる病院が閉院を余儀なくされた場合、その地域住民にとっては深刻な影響が生じます。
また、地域医療が欠けることで、生活に支障が出る方もいるでしょう。
M&Aや事業承継により閉院を回避し、引き続き病院が有り続けることで、その病院周辺に住む住民や地域医療に大きく貢献できます。
買い手のメリット
買い手側がクリニック・病院をM&A・事業承継をするメリットは以下のとおりです。
-
診療領域の拡大
-
医師や看護師の確保
診療領域の拡大
「診療領域を拡大したい」「医療現場の質を向上させたい」と考えている病院やクリニックもあります。これらを実現するために既存の病院・クリニックが一から新たに対応していくのは非常にハードルが高く、時間もかかります。
そこで、M&Aを実施することで、売り手が既に持っている診療領域を買い手の病院に取り入れ、領域の拡大に必要な時間と労力、コストを大幅に削減できます。
医師や看護師の確保
病院やクリニックの買収により病床や医療機器、技術の確保もできますが、売り手の医師や看護師を引き継ぐことできる点も大きなメリットです。
買い手の病院の規模が大きい場合は、その分従事する医師や看護師が多く必要になりますが、採用から教育に至るまでは時間がかかります。
そこで、M&Aを行えば迅速に人材確保ができ、人材面での課題解消につながります。
クリニック・病院業界のM&Aを成功させる3つのポイント
クリニック・病院業界は、医療法人というカテゴリーに該当するため、他の業界に比べて、譲渡の内容はよく理解し、対応する必要があります。
クリニック・病院業界のM&Aを成功させるためのポイントは以下の通りです。
- 医療法人の持分による譲渡の手法の違い
- 出資持分の評価方法と譲渡価額の算定
- 法的要件の内容
医療法人の出資持分による譲渡の手法の違い
医療法人は、出資持分の有無により分類されます。2006年の医療法改正により、新規設立は原則として持分なし医療法人となりました(2007年3月31日までの申請は持分あり医療法人の設立も可能)。
持分あり医療法人の場合:
-
解散時に残余財産は出資者に分配される
-
出資持分は相続税・贈与税の対象となる
-
持分なし医療法人への移行は可能(逆は不可)
持分なし医療法人の場合:
-
解散時の残余財産は定款で定めた他の医療法人等に帰属
-
出資持分がないため、相続税・贈与税の対象とならない
2006年の医療法改正により持分の有無が区別されました。この2006年までに医療法人の立ち上げを行った人とそれ以降に行った人の対応の違いは以下の通りです。
-
出資持分あり…医療法人を解散させた場合、医療法人の財産は、元々のお金を出資した人に戻ってくる
-
出資持分なし…医療法人を解散させた場合、医療法人の財産は、定款で定められた他の医療法人や財団などに帰属することが一般的。定めがない場合のみ、国庫に帰属する
出資持分の有無で解散時の払い戻しの請求の違いが出てきます。
また、出資持分ありの場合、払い戻しができる分、その払い戻しによる相続税・贈与税がかかります。相続税・贈与税に注意したい方は特に承継時はよく確認する必要があります。
出資持分の有無でM&Aの手法(スキーム)が異なるのでその点も確認が必要です。
なお、一定の要件を満たす持分なし医療法人への移行計画を作成し、厚生労働大臣の認定を受けた場合は税制優遇措置が受けられます。M&A仲介会社から支援を受け、税金対策を行いましょう。
出資持分ありの医療法人の譲渡方法
出資持分がある医療法人の譲渡は、出資持分の譲渡を通じて行われ、譲渡契約書の作成や社員・役員の変更手続きが必要です。
譲渡には定款変更、社員総会での承認、登記申請などが伴います。契約書には譲渡価格や支払い方法、役員変更、従業員の契約引き継ぎなども記載します。
手続きには、社員総会の承認に加え、理事会の承認も必要です。都道府県への届出が必要な場合があります。
譲渡価格は純資産額のほか、 収益力、不動産の実勢価格、のれん価値、負債の状況を基に算定され、譲渡益には課税されるため注意が必要です。
なお、多額の相続税・贈与税が心配されるのがこの出資持分ありの譲渡です。このケースの相続税対策として、厚生労働省が「認定医療法人制度※」という制度を設けています。この制度は「持分なし医療法人への移行」を促進するための制度です。
【出典】①「【3分で分かる!】認定医療法人制度の活用について」
持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について(認定医療法人)
出資持分なしの医療法人の譲渡方法
出資持分のない医療法人の譲渡では、出資持分譲渡は利用できず、社員の入退社や役員変更を行い法人格を承継します。
手法の例として、事業譲渡や会社分割、合併が挙げられます。
譲渡対価は退職金で調整します。調整時は以下の点に注意が必要です。
- 過去の役務提供への対価として合理的な金額であること
- 規程に基づく支給であること
- 税務上の妥当性
また、事業譲渡や合併・分割も選択可能です。これらを選択する際は以下の点に注意が必要です。
事業譲渡 |
合併・分割 |
|
譲渡時の注意点 |
許認可の承継を理解する |
譲渡の流れを理解する |
事業譲渡では法人格は承継されず、許認可や営業権(のれん)の評価が難しいため注意が必要です。
合併や分割の場合、手続きが煩雑なためM&Aに詳しい専門家から支援を受けることが推奨されます。
出資持分の評価方法と譲渡価額の算定
ここでは出資持分の評価方法と譲渡価額の算定方法について解説します。出資持分ありの医療法人に該当する方はよくご確認ください。
医療法人の出資持分の譲渡価格の算定は、以下の要素を考慮して行われます。
-
純資産価値の評価
貸借対照表上の純資産額を基準とします
有形固定資産(建物、医療機器など)の時価評価を大切にします
土地や建物の不動産鑑定評価を実施することが一般的です
-
利益剰余金の考慮
過去の収益性と将来の収益見込みを反映します
医療法人の過去数年間の経営成績を分析します
純資産に未処分利益を加算する方法が一般的です
-
収益還元法
将来の予想収益を現在価値に割り引いて算定します
DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法を活用します
医療法人の収益性、成長性を反映します
※DCF法…企業が生み出すキャッシュフローに注目して、企業価値を算出する方法を指します -
類似法人との比較
同規模・同業種の医療法人の譲渡事例を参考にします
業界の標準的な評価倍率を考慮します
なお、非常に細かい内容となるため、専門の公認会計士や税理士に相談することを推奨します。
法的要件の内容
医療法人の譲渡にあたり、法的要件を理解する必要があります。押さえるべき要点は以下の通りです。
-
医療法人の定款変更手続き
-
都道府県知事の認可要件
-
社員総会での承認事項
ここでは各法的要件について解説します。
医療法人の定款変更手続き
定款変更は、医療法人の基本的な組織運営に関する重要な変更です。
定款変更の内容を明確に定め、社員総会で特別決議(総社員の3分の2以上の賛成)を得る必要があります。なお、理事会での事前承認も必要です。
変更と登記の期限は知事の認可後2週間以内です。
変更内容には、新たな社員(出資者)の氏名、持分の割合、出資額などを明記しなければなりません。
変更後の定款は、法人の基本情報、目的、事業内容、社員構成などを正確に反映する必要があります。
定款変更の議事録を作成し、詳細な変更内容を記録として残すことが求められます。
都道府県知事の認可要件
医療法人の譲渡には、都道府県知事による認可が不可欠です。譲渡対象となる医療施設は、譲渡側で廃業手続きを行い、譲受側は開業手続きを行うことになるのが原則です。
定款変更の内容が医療法の規定に適合しているかを審査します。
審査の基本要件は以下の通りです。
-
譲受医療法人が医療法第54条の規定する基準を満たしていること
-
譲渡後も安定的な医療提供体制が確保されること
-
譲渡価額が適正であること
-
譲渡後の経営計画が実現可能であること
医療法人の公益性や医療提供体制に支障がないかが確認されます。
定時変更に必要な書類は基本書類のほか、譲受側・譲渡側でそれぞれ必要なものがあります。
基本書類 |
譲受側提出書類 |
譲渡側提出書類 |
|
書類の詳細 |
認可申請書 |
定款 |
理事会議事録 |
審査は申請受付から認可まで2〜3ヶ月程度かかることが多いです。
社員総会での承認事項
社員総会は、医療法人の譲渡における重要な意思決定の場です。
出資持分の譲渡は、社員総会における特別決議事項となります。
譲渡の理由、条件、新たな社員の適格性について詳細な説明が求められます。
-
債権者保護手続きの必要性
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社員への説明義務
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保険医療機関指定の継続要件
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税務上の手続き要件
譲渡に当たっては出席社員の3分の2以上の賛成を得る必要があります。
現存する社員の持分譲渡に対する同意や、新規社員の受け入れに関する合意形成が重要です。
議事録には、譲渡の経緯、決議内容、賛成・反対の意見などを詳細に記録します。
クリニック・病院業界のM&Aの事例
ここではクリニック・病院業界のM&Aの事例を紹介します。各事例を参考にして、自社・自院のM&Aに活かしていきましょう。
医療法人平和会と平和病院がCHCPホスピタルパートナーズに譲渡
医療法人平和会と平和病院は、株式会社CHCPホスピタルパートナーズと経営統合を行いました(2020年7月)。
CHCPホスピタルパートナーズは地域ヘルスケア連携基盤のグループ会社として、地域に根ざした医療提携体制の構築を目指しています。
医療法人平和会と平和病院も地域密着型の医療提供を重視しており、この理念の共通性が統合の基盤となりました。また、平和会が求めていた経営支援体制の強化とCHCPホスピタルパートナーズの支援方針が合致し、統合が実現しました。
【出典】CHCP地域ヘルスケア地域基盤「医療法人平和会への経営支援に関するお知らせ」
医療法人博洋会が運営する藤井病院が医療法人社団竜山会に事業譲渡
医療法人博洋会は、同法人が運営する石川県金沢市の藤井病院について、医療法人社団竜山会への事業譲渡を実施しました(2021年6月)。
藤井病院は診療報酬の不正請求により保険医療機関指定取り消し処分を受けていましたが、医療法人博洋会は地域医療の継続性と職員の雇用維持を重視し、事業譲渡先を検討しました。その結果、医療法人社団竜山会への事業譲渡が実現しました。
この譲渡により、地域における医療サービスの提供体制が維持され、また従業員の雇用継続も図られることとなりました。
【出典】石川県「金沢古府記念病院の開設 (藤井病院の承継)について」
ヘルスケアアクセラレーターグループが医療法人川崎病院を承継
全国各地に拠点を置くヘルスケアアクセラレーターグループが、医療法人川崎病院を事業承継しました。(2022年6月)
川崎病院は千葉県夷隅郡大多喜町にある総合病院です。川崎病院は後継者不在により一時は閉院も考えられましたが、地域医療を守る責務から第三者への承継を検討しました。
一方、ヘルスケアアクセラレーターグループは次世代型の病院・介護施設運営を目指しており、全国各地に拠点を置く医療法人グループです。
川崎病院は承継先としてヘルスケアアクセラレーターグループを選び、M&Aが実現しました。後継者の問題は解消され、川崎病院は経営安定とサービス向上につなぐことができました。
【出典】株式会社ストライク「開業115年の小さな町の総合病院 後継者不在のなか、地域医療を担う使命感から選んだ、M&Aという選択」
まとめ|クリニック・病院業界は高齢化や後継者不足が課題。M&Aが解決の鍵に
クリニック・病院業界は、高齢化と後継者不足という大きな課題に直面しています。これらの問題を解決するためには、M&Aの活用が有効です。M&Aにより、後継者の確保や医療体制の維持が図れます。
クリニックや病院の経営継続に課題を抱えている場合は、今後の持続的な運営を考える上で、M&Aの実施を検討することをおすすめします。また、M&A仲介会社に相談することで、よりスムーズにM&Aを進められます。
CINC CapitalはM&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。