CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.22
- 更新日2025.04.23
自動車業界のM&A動向(2025年)メリット/事例/成功のポイントを解説
自動車業界では、EV(電気自動車)シフトや自動運転技術の進展、環境規制の強化などにより、大きな変革の波が押し寄せています。自動車販売や整備業、ディーラーなどの事業者も経営基盤の安定や技術力の強化を図るため、M&A(企業の合併・買収)を活用する動きが散見されます。自動車小売業では会社譲渡や事業譲渡を通じた経営統合が進んでおり、中古車販売事業の売却や、新車販売ディーラーの子会社化といった案件が見られる状況です。
自動車販売や整備業など、自動車業界のM&Aでは、仲介会社を介した相談や成約までの手法の選定が成功の鍵となります。本記事では、2025年の最新動向を踏まえ、M&Aのメリットや成功のポイントについて解説します。
目次
自動車業界の市場動向
自動車業界の市場規模は、近年大きく変動しています。2019年の国内における四輪車生産金額は20兆8,459億円に達しました。しかし、新型コロナウイルスの影響によるサプライチェーンの混乱や半導体不足により、その後3年連続で20兆円を下回る状況が続きます。中国・武漢や湖北省の工場閉鎖に伴う部品供給の遅れや、半導体工場の稼働停止による車載半導体の供給不足が大きな要因です。そして世界的な供給制約は2023年にようやく解消され、国内四輪車生産金額は25兆6,365億円まで上昇します。
2021年以降、部品供給の回復とともに市場は持ち直しつつあり、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の普及拡大が進んでいます。環境規制の強化やカーボンニュートラルの目標達成に向け、各国政府がEVシフトを推進していることも、業界の動向に大きく影響を及ぼしている要因です。
一方で、自動車業界の競争環境は激化しており、従来のガソリン車主体の市場構造が大きく変わりつつあります。自動車部品製造業では、EV化に伴う技術革新が求められ、新たな開発投資の必要性が増している状況です。経済産業省の「2022年経済構造実態調査」によると、自動車関連の出荷額は全体で56.3兆円(17.1%)を占めています。うち、自動車本体は20.8兆円(6.3%)、自動車部品は34.7兆円(10.5%)です。
【出典】一般社団法人日本自動車部品工業会「2024 日本の自動車部品産業」
自動車業界が抱える課題
自動車業界は大きな変革期を迎えており、さまざまな課題に直面しています。ここでは、自動車業界が直面している主な課題について解説します。
環境規制とEVシフトへの対応
近年、世界的に環境規制が強化され、各国でガソリン車の販売禁止が検討されています。そのため、自動車メーカーはガソリンエンジンから電気自動車(EV)への転換を進めることが重要です。しかし、EVシフトには大規模な設備投資や技術革新が求められ、特に中小メーカーにとっては大きな負担となっています。バッテリーの調達や充電インフラの整備も課題の一つです。
サプライチェーンの混乱と原材料価格の高騰
コロナ禍や地政学的リスクの影響により、半導体をはじめとする自動車部品の供給が不安定になっています。特に半導体不足は、EVやコネクテッドカーの普及に伴い、今後も重要な課題となるでしょう。また、原材料価格の高騰もコスト負担を増大させ、メーカーの利益率を圧迫しています。安定したサプライチェーンの確立が急務となっています。
競争激化と異業種の参入
自動車業界では、新興EVメーカーやIT企業など異業種からの参入が相次いでいます。例えば、テスラの台頭によりEV市場の競争が激化し、ソニーはホンダと提携してEVブランドを発表しました。従来の自動車メーカーは、単なるハードウェアの提供にとどまらず、ソフトウェア開発やサービス提供の分野でも競争力を高めることが必要です。
自動車業界のM&A最新動向(2025年)
近年、自動車業界では市場の変化や技術革新に対応するため、M&Aを選択する企業が見られます。ここでは、最新のM&A動向について主要なポイントを解説します。
電動化・自動運転技術の強化を目的としたM&A
自動車業界において、EV(電気自動車)や自動運転技術の強化を目的とした企業買収が確認されています。例えば、大手自動車メーカーがEV用のバッテリー技術を持つ企業やAIを活用した自動運転技術の開発会社を積極的に買収し、次世代モビリティ市場への対応を進めるケースがあります。
電池技術の確保は喫緊の課題であるため、大手メーカーがバッテリーサプライヤーや素材メーカーとのM&Aを検討するケースも見られます。電動化への移行を加速し、コスト削減や供給の安定化を図るのが狙いです。
サプライチェーンの強化・統合を目的としたM&A
自動車業界では、世界的なサプライチェーンの混乱を受けて、安定した供給体制の確立が課題となっています。そのため、部品メーカー同士の統合や、自動車メーカーが自社内製化を進めるためのM&Aも見受けられます。
半導体不足が長期化するなかで、半導体メーカーとの提携や買収に踏み切る動きもあります。自動車メーカーが半導体の安定供給を確保するために、半導体企業を直接買収するケースも見られ、業界構造の変化が進んでいます。
海外市場への進出を目的としたM&A
自動車業界では、新興市場への進出を目指したM&Aの事例もあります。急成長を遂げる東南アジアやインド市場において、現地メーカーや販売ネットワークを持つ企業を買収することで、市場シェアの拡大を狙う動きが見られます。
また、欧州では環境規制の厳格化を背景に、EVや水素自動車に特化した企業の買収が行われるケースがあります。日本企業においても、環境対応や海外展開などを見据えたM&Aの動きが活発化する可能性があります。
自動車業界でM&Aを活用して売却するメリット
近年、自動車業界では市場の変化や技術革新の加速により、M&Aを活用した企業売却が注目されています。M&Aを通じた売却は、単なる資金確保だけでなく、自動車業界ならではのメリットをもたらします。
売却による事業承継と後継者問題の解決
自動車業界では、多くの中小企業が後継者不足に直面しています。M&Aを活用することで、経営者は会社の存続と従業員の雇用を確保しつつ、スムーズな事業承継を実現できます。技術力を持つ企業は大手メーカーや投資ファンドからの関心が高く、有利な条件での売却が可能です。
大手企業グループへの参入による安定経営
M&Aを通じて大手企業の傘下に入ることで、安定した経営基盤を得られるのも大きなメリットです。自動車業界では、開発コストの増大や部品調達の厳しさが課題となるなか、大手企業との統合によって資金や販路を確保しやすくなります。特にEV関連の技術を持つ企業は、大手メーカーの開発戦略の一環として重要視される傾向にあります。
技術力の評価と高値売却の可能性
自動車業界では、特定の技術を持つ企業の価値が高く評価されるケースが多くなります。例えば、バッテリー技術やAIを活用した運転支援システムの開発企業は、今後の市場拡大を見据えた買収対象となることがあります。技術的な優位性を持つ企業は、適切な買い手とマッチングすれば、高値での売却も期待できるでしょう。
グローバル市場へのアクセス拡大
M&Aによって海外の企業と統合することで、新たな市場に参入するチャンスが生まれます。自動車産業は世界規模で競争が進んでおり、海外企業とのM&Aによりグローバルなネットワークを活用できるようになります。売却後も企業としての成長を継続しやすくなるでしょう。
設備投資や研究開発の加速
自動車業界では、EV化や自動運転技術の進化に伴い、設備投資や研究開発の必要性が高まっています。独立した中小企業では資金確保が難しいケースも多いですが、M&Aによって大手企業の資本を活用できるため、事業の成長スピードを加速させることが可能です。
自動車業界がM&Aで売却を成功させるためのポイント
自動車業界では、技術革新や環境規制の変化により、M&Aの重要性がますます高まっています。ここでは、自動車業界におけるM&Aを成功させるためのポイントを解説します。
シナジー効果を明確にする
自動車業界のM&Aでは、統合によるシナジー効果を明確にすることが重要です。EV技術を持つ企業が大手メーカーと統合すれば、開発スピードの向上や市場競争力の強化が期待できます。単なる資本提携ではなく、技術・生産・販路の各面でどのような相乗効果が生まれるのかを具体的に検討する必要があります。
異業種企業との統合にも柔軟に対応する
近年、自動車業界ではソフトウェア開発企業や電池メーカーとのM&Aも見られます。自動運転やコネクテッドカー分野では、IT企業との連携が不可欠となっています。従来の自動車メーカー同士の統合だけでなく、異業種の企業とのM&Aを視野に入れ、技術や市場の広がりを意識することが重要です。
事業継続と人材確保を重視する
M&Aでは売却後の事業継続が重要な課題となります。自動車部品メーカーや下請け企業の場合、長年培った技術や人材の流出を防ぐための対策が必要です。買い手企業と交渉する際には、従業員の雇用維持や技術承継のための条件を明確にし、円滑な統合が進むよう調整しましょう。
規制対応と市場戦略を考慮する
自動車業界は、環境規制や安全基準の変更による影響を受けやすい業界です。EV化や排出ガス規制の強化により、事業戦略を再構築する必要がある場合もあります。M&Aを成功させるためには、買い手企業が規制対応に強いかどうかを見極め、長期的な市場戦略を立てることが求められます。
適切な企業評価と交渉を行う
M&Aを成功させるためには、自社の企業価値を正しく評価し、適正な価格で交渉を進めることが不可欠です。特に、自動車業界では特許技術や生産能力、取引先ネットワークの価値が高く評価されるケースがあります。専門家と協力しながら、売却価格だけでなく、売却後の事業展開や契約条件についても慎重に検討することが重要です。
自動車業界のM&A事例
最後に、自動車業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社レダックスによる新興自動車株式会社のM&A
株式会社レダックスは、2024年10月に新興自動車株式会社の全株式を取得し、連結子会社化しました。レダックスは9月に旧社名「カーチスホールディングス」から現社名へ変更し、事業拡大を推進しています。
新興自動車は千葉市を拠点に61年の歴史を持つ自動車整備工場で、地域密着型の事業を展開してきました。
本件M&Aにより、既存のカーチス千葉中央販売センターとの連携が期待され、グループ全体での販売・整備体制の強化とシナジー効果が見込まれています。
特に、過去に存在した大型販売拠点「カーチス千葉店」の顧客層を取り込む戦略が背景にあり、地域内での存在感向上を図る動きといえます。
【出典】株式会社レダックス「子会社等の異動を伴う株式取得に関するお知らせ」
株式会社オートバックスセブンによる近藤自動車工業株式会社のM&A
株式会社オートバックスセブンは、2024年5月に近藤自動車工業株式会社の全株式を取得し、完全子会社化することを決定しました。近藤自動車工業は、京都府久世郡久御山町を拠点に、自動車整備や販売を手がける事業者です。
本件は、オートバックスセブンが推進する「次世代技術に対応する整備ネットワーク」構築の一環であり、地域密着型の整備事業者との連携強化を目的としています。
これにより、整備ネットワークの拡充と顧客接点の拡大が期待され、収益基盤の安定にも寄与すると考えられます。なお、取得価額は非開示ですが、今期業績への影響は軽微と見込まれています。
【出典】株式会社オートバックスセブン「近藤自動車工業株式会社の株式取得(完全子会社化)に関するお知らせ」
日産自動車株式会社によるビークルエナジージャパン株式会社のM&A
株式会社INCJは、保有していたビークルエナジージャパン株式会社の全株式を日産自動車株式会社に譲渡しました。
ビークルエナジージャパンは、車載用リチウムイオン電池やバッテリーマネジメントシステムの開発・製造を手がける企業であり、日立系から独立後、ハイブリッド車市場の拡大に伴い存在感を高めてきました。
今回の譲渡は、電動化戦略を推進する日産自動車の下でさらなる成長を目指すためであり、OEM向け供給体制の強化が期待されています。自動車業界における電動化の流れが加速する中、バッテリー関連企業の戦略的再編が進んでいます。
【出典】株式会社 INCJ「ビークルエナジージャパン株式会社の株式譲渡について」
まとめ|自動車業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
自動車業界は、環境規制の強化や電動化、自動運転技術の進展などにより、大きな変革期を迎えています。このような状況のなかで、M&Aは成長戦略の一環としてますます重要性を増しています。企業が生き残り、競争力を高めるためには、M&Aの最新動向を押さえ、適切な戦略を立てることが不可欠です。
M&Aを活用することで、スケールメリットを活かしたコスト削減や技術革新の加速、人材・ノウハウの獲得など、多くのメリットを得られます。ただし、成功させるためには、単なる買収・売却にとどまらず、統合後のシナジー効果を最大化することが重要です。
今後も自動車業界におけるM&Aの動きは活発化すると予想されます。市場環境を正しく分析し、自社にとって最適なM&A戦略を構築することで、持続的な成長を実現しましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。