CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.21
- 更新日2025.04.21
AI業界のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
世界のAI市場は近年、驚異的な成長を遂げています。成長の波に乗るため、多くのAI関連企業がM&Aを重要な戦略として位置づけています。一方で、深刻な技術人材不足、高騰する開発コスト、そして大手企業による市場寡占化など、業界特有の課題が山積みとなっている状況です。
今回は、2025年最新のAI業界M&A動向を中心に、M&Aのメリット・デメリット、成功のポイント、主な事例をご紹介します。
目次
AI業界の市場動向
総務省が公表する「情報通信白書」の資料によると、2022年における世界のAI市場規模(売上高)は前年比78.4%増となる18兆7,148億円に達しました。この成長は今後も持続し、2030年まで加速度的に拡大することが予測されています。なかでも生成AI市場は、2032年に1兆3,040億ドル規模に達すると見込まれています。
また、日本のAIシステム市場規模は、2023年の時点で6,858億7,300万円を達成しました。AIは今後、金融・ヘルスケア・製造といった幅広い分野で需要が高まると考えられており、2028年には市場規模2兆5,433億6,200万円に到達すると予想されています。
AI業界が抱える課題
人材不足や研究開発の高騰、大手企業の寡占化、そして法整備の遅れなど、AI業界は特有の課題を抱えています。それぞれ詳しくお伝えします。
技術人材の不足
AIの発展を支える専門人材の不足は、業界全体に深刻な影響を与えています。特に、深層学習(ディープラーニング)や自然言語処理といった、高度な分野に精通したエンジニアが不足しており、需要と供給のギャップが広がっています。中小企業は大手企業との人材獲得競争で劣勢に立たされることが少なくありません。
研究開発コストの高騰
大規模なAIモデルの開発には、膨大な資金・GPU・クラウドリソースの確保が必要です。最新のGPUの導入コストは非常に高額となり、これが中小企業や新興企業の参入を阻む要因となっています。
大手企業への集中が進行
AI技術の特許やデータセットが、一部の大手企業に集中する傾向が強まっています。このような状況により、データアクセスの不平等やリソースの偏在を引き起こし、中小企業やスタートアップがイノベーションを起こすハードルが高くなっています。
AI業界のM&A最新動向(2025年)
2025年に向けたAI業界のM&A市場は、技術革新と市場需要の急増にともない活発化すると予測されています。ここでは、近年のAI業界における最新動向をご紹介します。
大規模言語モデル(LLM)開発企業への集中投資
2025年のM&A市場では、大規模言語モデル(LLM)を開発する企業への関心が高まると予想されています。生成AI技術の発展にともない、LLMの高性能な自然言語処理能力が業務効率化やイノベーションにつながると期待されています。LLM開発企業への投資は世界的に増加傾向にあるとされ、今後も活発化する見通しです。
業務特化型AIソリューション企業の需要増加
近年は、特定の業界や業務プロセスに特化したAIソリューションが注目を集めています。主に製造業・医療・金融・農業など、幅広い分野での課題解決に活用されています。
例えば製造業の場合、予知保全や品質管理に特化したAI技術が注目されており、生産ラインの効率化が進められています。また、医療分野では、画像診断支援や創薬プロセスの効率化を目的としたAIソリューションが登場しました。希少疾患の治療法開発や個別化医療などに活用されています。
AI関連企業がM&Aで売却するメリット
技術革新の速いAI業界では、M&Aが企業成長において重要となってきます。ここでは、AI関連企業がM&Aをするメリットについて、売り手目線でご紹介します。
経営資源の最適化
安定した資金基盤を持つ大手企業と統合することで、AI関連の技術開発のペースを速められます。これにより、売り手側は最大の課題といえる資金調達問題を解決できるでしょう。また、M&Aによって自社の信用力が高まり、市場評価が向上する可能性もあります。
競争激化にともなうリスクの分散
日々競争が激化しているAI市場で生き残るには、継続的な技術革新と資金調達が欠かせません。M&Aは、こうしたリスクを分散させるための経営戦略になります。例えば、大手の傘下に入れば、市場変動や競合他社の台頭といったリスクへの耐性を高められます。技術の陳腐化が早いAI分野においては、適切な事業売却のタイミングを見極めることが大切です。
グローバル展開の足がかりの獲得
国際的な大手企業との経営統合は、海外市場への進出を加速させる絶好の機会となります。
相手企業が持つグローバルネットワークやブランド力を活用すれば、自社技術を世界規模で展開する足がかりになるでしょう。国内市場では限界があったAI技術も、グローバル企業の一部になることで、世界中のさまざまな産業・用途で重宝される可能性があります。
AI関連企業がM&Aで売却するデメリット
経営の主導権を失ったり、企業文化が変わったりと、M&Aには見過ごせないデメリットも存在します。売り手側の目線で詳しく見ていきましょう。
創業者の経営主導権が失われる
M&A後、創業者は経営主導権を手放すことになります。基本的には買収企業の方針に従う必要があり、自由な意思決定ができなくなるリスクがあります。特に共同創業の場合、経営者間の意見の相違から主導権をめぐる対立が生じることも少なくありません。
企業文化や理念の変化による士気低下
M&Aによる企業文化の変化は、従業員の士気低下を招く大きな要因です。買収企業と被買収企業の企業文化が大きく異なる場合、従業員は新しい環境に適応するストレスを感じ、モチベーションが下がる可能性があります。
特にAI関連企業では、自由な発想や挑戦を重視する文化が社内に根付いていることがあります。保守的な大企業に買収されると、それまでの企業文化が失われるかもしれません。
AI関連企業がM&Aで売却を成功させるためのポイント
AI関連企業がM&Aを成功させるには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
独自技術・知的財産権の管理
AI企業の競争力において重要となるのが、特許権や商標権、著作権などの知的財産権です。特に海外展開を視野に入れている場合、各国の法制度を理解し、国際的な知的財産権の保護を適切に行いましょう。知的財産権を戦略的に管理することで、企業の独自性と市場での競争優位性を確保できるだけでなく、M&A時の企業価値を大きく高められます。
収益モデルの明確化と将来性の提示
買い手企業は投資回収の見通しを重視するため、明確な収益モデルと将来性の提示が不可欠です。AI技術を活用してどのように収益を生み出すのか、そのビジネスモデルを明確に説明できることで、買い手企業の評価を高めます。
データ資産の整理と価値の“見える化”
データ資産は、自社の企業価値を左右する重要な要素です。データガバナンスの体制が整っていることを示し、買い手企業を惹きつけましょう。データドリブン経営を示すためにも、まずはデータ資産の棚卸とカタログ化を実施し、データの可視化に取り組む必要があります。あらかじめ“見える化”を済ませておけば、買い手は売り手側が持つデータの価値を正確に評価しやすくなるでしょう。
AI業界特有のM&A評価指標の把握
AI関連企業のM&Aでは、一般的な財務指標に加え、技術面やデータ資産の評価なども重視されます。特に、技術的優位性・データセットの質と量・研究者の数と質・特許ポートフォリオなどは重要です。デューデリジェンスでは、AIモデルの精度や性能、データセットの合法性と権利関係、技術の持続可能性と陳腐化リスクなどを精査することが求められます。企業の評価に関するポイントを押さえ、自社のアピールにつながるデータを整理しておきましょう。
AI業界のM&A事例
最後に、AI業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社トリプルアイズによる株式会社ゼロフィールドのM&A
AI技術を軸に事業展開する株式会社トリプルアイズは、2023年9月1日付で株式会社ゼロフィールドの全株式を取得し、完全子会社化しました。
ゼロフィールドはAI・ビッグデータ関連のシステム開発やGPUサーバーの運用、データセンター構築を手がけ、国内外に7拠点のデータセンターを持つ成長企業です。
本件は、画像認証を中心とするトリプルアイズのAI技術にゼロフィールドのGPUリソースやインフラ基盤を融合させることで、認証精度や速度の向上、両社の営業ネットワークを活かした相乗効果を狙ったものです。
特にAI分野では計算資源の確保が競争力に直結するため、同業他社と差別化を図るうえで戦略的なM&Aといえます。
【出典】株式会社トリプルアイズ「株式会社ゼロフィールドの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
ヒビノ株式会社による株式会社 CerevoのM&A
プロ用音響・映像機器を手がけるヒビノ株式会社は、2022年12月1日付でIoT製品開発を行う株式会社Cerevoの株式を取得し、連結子会社化しました。
Cerevoはライブ配信機器「LiveShell」やIoT家電、スマートトイなどユニークな自社製品を展開し、CESでの受賞歴からも高い技術力がうかがえます。
本件は、ヒビノの中期経営計画「ビジョン2025」に基づくM&A戦略の一環であり、Cerevoのハード・ソフト両面における開発力を取り込み、独創的なAV機器の開発やサービスの高度化を目指しています。
BtoB中心のヒビノがコンシューマー市場へ拡大する布石ともなりうる動きであり、新領域の事業創出に向けた意欲的な買収といえます。
【出典】ヒビノ株式会社「株式会社 Cerevoの株式の取得(連結子会社化)に関するお知らせ」
株式会社REAとJR 西日本グループの資本業務提携
西日本旅客鉄道(JR西日本)グループは、2023年4月、AIによる乗合配車システムを手がける株式会社REAと資本業務提携を締結しました。グループのCVCであるJR西日本イノベーションズがREAに出資し、同時に業務提携契約も結ばれました。
REAが提供するAI配車システム「Noruuu」と、JR西日本のMaaSアプリ「WESTER」を連携させ、デマンド型交通の実現を目指します。
すでに実証実験を通じて技術・運用面の有効性が確認されており、今後は同様のサービスを他地域へと展開していく方針です。高齢化や交通空白地域の課題を背景に、地域に根ざした交通ソリューションへのニーズが高まる中、鉄道会社がテック企業と連携する動きは今後も注目されます。
【出典】株式会社REA「JR 西日本グループと株式会社 REA との資本業務提携について 「WESTER」をフロントエンドとしたデマンド交通システムの実現」
まとめ|AI業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
AI関連企業のM&Aを成功へ導くには、複雑な技術評価や知的財産権の問題が絡むため、専門的な知見が欠かせません。自社の価値を最大化し、最適なM&A戦略を立てるにも、まずはAI業界に詳しいM&A仲介会社をはじめとする専門家にご相談ください。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。