CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.21
- 更新日2025.04.21
農業業界のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
2025年に向けて農業業界ではM&Aを活用した事業承継や新規参入が増えると予想されています。高齢化や後継者不足が課題とされている一方、農業に対する企業の注目度が高まり、業界全体の構造変化が進んでいるのです。
本記事では、農業M&Aの背景や市場動向、メリット・デメリット、成功ポイント、さらに具体的な事例を取り上げ、2025年の業界の動きを総合的に解説します。
目次
農業M&Aが注目される背景と市場動向
農業M&Aの需要が増えている背景には、業界特有の経営課題と法改正による後押しが大きく関係しています。
ここでは、主な背景や市場動向を見ていきましょう。
事業承継問題と高齢化による後継者不足
農業従事者の平均年齢は上昇傾向にあり、後継者不足は深刻な問題となっています。長年培ってきたノウハウや地域での信頼関係を引き継ぐためにも、M&Aは効果的な打開策となるでしょう。
また、個人事業主による経営では、高齢化により体力的な負担が増し、十分な収穫量や安定供給が難しくなることが少なくありません。これをきっかけに法人化や第三者への事業譲渡を検討する動きが増えています。
M&Aを活用することで、売り手となる農業者は速やかに経営を譲り、買い手側は成熟したビジネス基盤と農地を一体的に引き継ぐことができます。
企業の農業参入を後押しする農地法改正
近年の農地法改正により、企業が農地を扱いやすくなったことが農業M&Aの増加要因のひとつとされています。法的手続きは依然として複雑ではあるものの、適切な要件を満たすことで、法人として農地をリースするなどの方法をとりやすくなりました。
これにより、食品メーカーや商社などの異業種からの農業参入が活発化しており、もともと農業分野で培われてきたノウハウや取引関係をスピーディーに活用できる点が評価されています。
農地を直接所有する以外にも、パートナーシップを通じて生産から販売までの一貫体制を構築する試みが増えており、企業同士でのM&Aが農業の新たなビジネスモデルを生み出しているのが特徴です。
コロナ禍や世界情勢がM&Aに与える影響
新型コロナウイルスの影響により、食料供給の安定性や地産地消の重要性が再認識されました。これを受けて、より身近なネットワークで農産物を生産・流通させる動きが強まり、農業M&Aへの関心も高まっています。
さらに、国際情勢の変化に伴う貿易や物流の不安定要素が増え、一部の企業や農業法人はリスク分散や供給網の確保を目的に買収や提携を検討するケースが増えています。
このように、コロナ禍や世界情勢の変化は農業全体の再編を加速させ、経営基盤の強化と規模拡大を同時に実現するM&Aの有用性が一層注目を集めているのです。
生産形態によるM&Aの進め方の違い
農業業界のM&Aは、生産形態が異なるとM&Aの進め方も異なります。これらの生産形態別の特性を理解し、デューデリジェンスや統合計画に反映させることで、農業M&Aの成功率を高めることができます。
特に重要なのは、各形態特有のリスク要因を事前に把握し、対策を講じておくことです。ここでは、生産形態別にM&Aの特性を見ていきます。
施設園芸型農業のM&A特性
施設園芸型農業は、ハウスや水耕栽培設備などの高額固定資産の評価が複雑で、減価償却状況により買収価格が変動する点が特徴的です。また、年間を通じた安定的な生産・出荷計画に基づき、M&A実行は作型に合わせる必要があります。
露地栽培型農業のM&A特性
露地栽培型農業は、所有地・借地の構成比率や借地契約条件の精査が必須であり、作付け計画や収穫時期を考慮したクロージング時期の設定が重要です。水利権や農作業の協力体制など地域コミュニティとの関係性の引継ぎが不可欠で、経営移行後も各種農業補助金の受給資格が維持できるかの確認も必要となります。
畜産業のM&A特性
畜産業のM&A特性は、家畜という「動く資産」の評価において頭数だけでなく品質・年齢構成・繁殖能力などの複合的な評価が必要です。家畜商免許や畜舎の環境関連許可など各種許認可の承継手続きが煩雑で、疾病予防体制や飼養管理方法の継続性確保が重要となります。
また、堆肥処理施設や排水処理設備の状況確認と地域との協定内容の把握など、廃棄物処理・環境対策の精査も不可欠です。
米作・土地利用型農業のM&A特性
米作・土地利用型農業のM&A特性は、分散した農地の所有・借地・作業受託などの権利関係の整理が複雑である点が挙げられます。
コンバインやトラクターなどの高額な農業機械の稼働状況や更新計画の精査が重要で、カントリーエレベーターやライスセンターなどの共同利用施設との関係性の確認も必要です。
また、地域の営農組織との連携体制の維持・強化策の検討など、集落営農との関係も重要な考慮点となります。
6次産業化事業のM&A特性
6次産業化事業のM&A特性は、生産・加工・販売の各部門の収益構造を個別に評価する必要がある複合的な事業評価が特徴です。地域ブランドや独自販路の評価、承継方法の設計が重要です。HACCP対応など、食品安全に関する法的要件も事前に確認する必要があります。
また、農業生産と食品加工・販売など異なるスキルを持つ従業員の処遇設計など、多様な人材の統合についても慎重な検討が求められます。
農業M&Aの主なメリット
株式譲渡や事業譲渡などにより、自社の持つ課題を解決できる可能性があります。ここでは、農業業界がM&Aをする売り手目線のメリットをご紹介します。
売り手側のメリット:後継者確保・経営者利益の確保
農業の後継者不在に悩むオーナーにとって、M&Aは最も現実的な解決策の一つです。地元コミュニティへの貢献や雇用の維持を考慮しつつ、第三者へ事業を譲渡することで懸念事項を大幅に軽減できます。
引退時にまとまった譲渡益を得られるため、経営者個人の財務的な安定を確保できるのも大きな魅力です。退職後の暮らしに備えた資金計画を立てやすくなることで、従来の農家にとっても安心感が生まれます。
また、事業承継で時間と労力を要する手続きを短縮できる点も重要です。買い手との信頼関係が構築できれば、従業員や取引先との関係を維持しながらスムーズに経営移行が進むでしょう。
買い手側のメリット:事業領域の拡大・新規参入
農業分野への進出を検討する企業には、既存経営体をM&Aで取り込むことが非常に効率的です。ゼロから始める場合に必要な農地交渉や設備投資の負担を大幅に軽減できます。
すでに確立された販路やノウハウをそのまま活用できるため、事業立ち上げ時のリスクを下げられる点が魅力です。加えて、ブランド力や地域に根ざした生産技術を取り込むことで、他社との差別化を期待できます。
結果的に、生産から販売までを一体化することで販路拡大やコスト削減に直結し、企業全体の収益力強化につながる可能性が高いのです。
農業M&Aの主なデメリット・リスク
M&Aには、いくつかのデメリットが存在します。今後M&Aを検討する中で、売り手側が知っておくべき注意点は以下の通りです。
売り手側のデメリット:手続きが複雑になりやすい点
農地法をはじめ、農業関連の法律には特有の要件や書類準備が求められます。そのため、専門家を交えないまま手続きを進めると、許認可が下りないリスクや取引の遅延につながるおそれが高まります。
特に、会社形態での農地所有は一定の条件を満たさなければならず、法人化しても適格要件をクリアできないケースは少なくありません。これを理解せずにM&Aを強行すると、農地運用の継続が不可能になるリスクがあります。
結果として、事前の調査と計画なしに進められるM&Aはほぼ存在しないといってよく、包括的な法的対応と行政手続きの理解が必要です。
売り手側・買い手側双方のデメリット:異なる企業文化による摩擦やトラブル
買い手と売り手で企業風土や意思決定のスピードが全く異なる場合、従業員のモチベーションや顧客管理が混乱するリスクがあります。経営スタイルの大幅な変更に対して反発が起こる可能性も高いです。
また、農業独自の慣習や地域コミュニティとの関係を理解しないまま一方的に改革を進めると、従業員だけでなく取引先や地域住民との間でトラブルが起きやすくなります。
これらの懸念を解消するには、事前に双方が協議し、現場の声を丁寧に拾い上げるプロセスを設けることが大切です。M&A後の経営方針や体制について、早い段階で情報共有を行い、信頼関係を築くのが望ましいでしょう。
農業M&Aを成功させるためのポイント
農業業界のM&Aを成功に導くためには、綿密な事前準備と適切な実行プロセスの管理が重要となります。以下に、特に重要なポイントを3つ解説します。
事業計画や経営ビジョンを明確化する
M&A後の農業事業をどのように成長させるのか、具体的な戦略とビジョンを示すことは双方の信頼関係を築くうえで大切です。特に、地域活性化を目指すのか、ブランド向上を図るのかといった方向性を明確にしておく必要があります。
明確な事業計画に基づいて取り組むことで、買い手にとっては投資対効果が把握しやすくなり、売り手にとっては事業承継と同時に組織の将来を見据えた交渉が可能となります。
将来的に生産量や出荷先をどう拡充していくか、必要となる設備投資は何かといった具体策を事前に詰めておけば、関係者全体の意欲を高め、M&A後の運営を円滑に進められるでしょう。
社内外ステークホルダーとの十分なコミュニケーション
農業経営には従業員だけでなく、地域住民や取引先との強い繋がりが不可欠です。M&Aの話が進む段階から、将来の方向性や組織体制の変更点などを早めに伝えることで、心配事を減らす効果が期待されます。
特に高齢化が進む地域では、新たな経営体制への不安が大きくなりがちです。施設の利用や雇用確保など、どのような変化が起きるのかをきちんと共有することでスムーズな移行を目指せます。
定期的な説明会や個別面談の機会を設けて、双方が抱えている疑問や懸念を取り除くよう努めることが、長期的な信頼関係の構築につながります。
M&Aの専門家を活用する
M&Aを成功させるには、プロの力を借りることも大切です。専門知識がない状態で交渉を続けると、不当な条件で売却してしまう可能性も考えられます。プロのサポートを受け、希望の条件での成約を目指しましょう。
農業M&Aの事例
最後に、農業業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
ベルグアース株式会社による伊予農産株式会社のM&A
2021年11月、ベルグアース株式会社は、伊予農産株式会社を株式交換により完全子会社化しました。本件は、2021年8月に締結した経営統合に向けた基本合意書に基づき進められ、同年11月30日を効力発生日として実施されました。
ベルグアースは、野菜苗の生産・販売を手掛けるアグリベンチャー企業で、「苗事業の拡大」「多角化」「グローバル展開」を戦略の柱に成長を目指しています。一方、伊予農産は、種子・苗・農園芸資材の卸売を展開し、73年の歴史を持つ企業です。両社は長年取引関係にあり、伊予農産の持つ資材調達力と販売ネットワークは、ベルグアースの成長戦略において重要な要素となっていました。
本買収により、ベルグアースは苗事業の原材料調達力を強化し、収益性向上を図るとともに、伊予農産の地域密着型の営業基盤を活用することで、農業生産者へのサービス提供を強化できます。また、両社の購買力・営業基盤を統合することで競争力の向上が期待されます。
今回のM&Aは、種苗業界における供給網の強化と事業基盤の拡大を目的とした戦略的統合であり、ベルグアースが掲げる「食と暮らしを豊かにする」アグリベンチャー企業への進化を加速させるものとなります。
【出典】ベルグアース株式会社「(開示事項の経過)ベルグアース株式会社による伊予農産株式会社の完全子会社化に係る株式交換契約の締結(簡易株式交換)に関するお知らせ」
まとめ|農業業界のM&A動向やポイントを把握し、M&Aを成功へ
農業M&Aは、業界が抱える課題を解決するだけでなく、新たなビジネスチャンスの創出にもつながっています。2025年以降もさらに重要性が増していくと見られ、事前準備や専門家の活用の重要性はさらに高まるでしょう。
農業M&Aは後継者不足や企業参入のハードルを乗り越え、事業承継や新規参入をスムーズに進める上で有効な施策となっています。特に、法人経営へと移行する動きや異業種とのシナジーを狙った買収は、地域経済の活性化にも大きく寄与しているのが特徴です。
一方で、農地法など多岐にわたる法規制や手続き面でのリスクを把握し、企業文化の違いによる摩擦を最小化する必要があります。そのためには、専門家との連携や綿密なコミュニケーションが欠かせません。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。