CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.22
- 更新日2025.04.23
漁業のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
国内の漁業・水産業界は急速に縮小しており、10年間で水産物消費量が約23%も減少しました。若年層の魚離れや漁業従事者の高齢化、海洋環境の変化など、業界は構造的な課題に直面しています。それにともない、事業拡大や「生存戦略」としてのM&Aが検討されているのです。
本記事では、漁業・水産業界におけるM&A最新動向や、売り手企業目線のメリット・デメリット、成功のポイントをご紹介します。
目次
漁業・水産業の市場動向
「令和5年度 水産白書」によると、2022年度の国内消費仕向量は643万トンとなり、10年前となる2012年度に比べて約23%減少しました。食用魚介類の自給率は約56%まで低下し、1964年の113%をピークに減少傾向が続いています。
消費動向に目を向けると、2022年度の1人当たりの年間消費は22.0kgと、ピーク時(2001年度の40.2kg)から大幅に減少しています。年齢階層別では、ほぼすべての層で魚介類摂取量が減少傾向にありますが、特に若年層の魚離れが顕著です。
【出典】水産庁「令和5年度 水産白書」
漁業・水産業が抱える課題
日本の漁業・水産業界は長期的な縮小傾向に直面しており、各社は市場競争力の向上を喫緊の経営課題に挙げています。ここでは、漁業・水産業界における経営課題についてご紹介します。
働き手の高齢化と後継者問題
漁業・水産業における経営者の高齢化と、後継者問題は深刻です。「農林水産省」の調査によれば、2018年の漁業就業者数は15万1,701人でしたが、2022年には12万1,389人と、約20%減少しています。
また、漁業従事世帯員の年齢階層を見ると、65歳以上が半数を占めているのも特筆すべき点です。
若年層が漁業に参入しづらい背景には、厳しい労働環境と収入の不安定さがあります。また、漁業権の継承問題や、船舶・設備への多額の初期投資も参入障壁となっています。
【出典】農林水産省「2023年漁業センサス結果の概要(確定値)」
海洋環境変動にともなう漁獲量減少
日本の漁業生産量は著しい下降線をたどっています。1984年、日本の総漁獲量はピークに達しましたが、1988年~1995年にかけて一気に減少しました。その後も減少傾向が続いています。
要因は多岐にわたりますが、海水温上昇による海洋環境変動の影響も大きいといわれています。水産資源の枯渇と国内消費の縮小が、結果的に漁獲量減少を招いているのです。
国際競争の激化と収益性の低下
原材料費やエネルギー価格の高騰により、各社は水産加工品の価格転嫁を余儀なくされています。しかし、漁船燃料費などのコスト増を十分にカバーするには至っておらず、多くの事業者が収益性の低下に直面しています。
漁業・水産業のM&A最新動向(2025年)
競争力強化と事業拡大を実現するアプローチとして、昨今はM&Aが注目されています。ここでは、漁業・水産業におけるM&Aの最新動向をご紹介します。
大手水産会社による中小漁業者の買収
現場の人材確保が困難を極める中、大手水産企業が中小漁業者と連携したり、買収を行ったりする事例が報告されています。主な目的は、経営効率化とコスト構造の最適化です。地域密着型の漁場アクセス権や伝統的な捕獲技術といった無形資産を獲得することで、水産資源の安定確保を実現する狙いがあります。
異業種からの参入と垂直統合
食品製造業や外食チェーンなど、原材料の安定確保を重要課題とする業界の一部において、水産分野への参入事例があります。例えば、原料調達から最終製品販売までを一貫して管理する「垂直統合」により、漁業・養殖事業への参入を進める動きが見られます。
海外展開を見据えた国際的なM&A
水産業界では、国内外をまたぐクロスボーダーM&Aの案件も実施されています。日本企業による海外事業者の買収、そして海外資本による国内水産会社の取得が双方向で行われています。国内企業が海外市場への本格進出の手段として現地企業を買収するケースもあるようです。新規市場の開拓と事業領域の拡大を同時に図ることができます。
漁業経営者がM&Aで売却するメリット
中小規模の漁業経営者にとって、M&Aは自社の強みを最大限に活かしながら業界変化に対応するための手段といえます。ここでは、漁業経営者がM&Aで売却するメリットをご紹介します。
後継者問題の解決
M&Aを通じて、後継者がいない場合も事業を第三者に引き継ぐことができます。特筆すべきは、長年かけて築き上げた独自の漁法や加工技術、地域ブランドなどの無形資産を喪失せずに次世代に引き継げる点です。これらの価値は一度失われると再構築が困難であるため、事業承継・会社売却によって技術的資産を守れるのは大きいでしょう。
売上拡大と収益安定化
大手企業の傘下に入った場合、買い手企業の既存販路やマーケティング力、ブランド戦略などの経営資源を活用できます。特に中小規模の漁業事業者にとって、独自では構築困難な販売ネットワークへのアクセスは、売上拡大と収益安定化につながるでしょう。また、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用した次世代型漁業への転換も、資金力のある企業との連携により現実的となります。
経営者の個人保証・リスク負担からの解放
天候不順や資源変動、国際情勢の影響など、漁業・水産業特有の不確実性は経営者の大きな負担となります。このようなリスクへの不安を感じる場合、M&Aによる事業売却が有効です。経営悪化前に適切なタイミングでM&Aを実行すれば、倒産リスクを回避すると同時に、さまざまな個人保証からも解放されます。
漁業経営者がM&Aで売却するデメリット
水産業界でのM&Aには、固有のリスクがともないます。地域に根差した漁業ビジネスの場合、地域社会との関係変化や伝統技術の継承問題など、慎重に検討すべき側面があります。詳しく見ていきましょう。
地域漁業組合との関係性変化
水産業の根幹は、地域の漁業協同組合との信頼関係にあります。M&Aにより経営主体が変わることで、その関係性が変化するかもしれません。特に買参権は新規取得が極めて困難であるため、M&A後もこの権利を維持できるかが経営上の最重要事項となります。
伝統的な漁法や独自技術が失われるリスク
日本の水産業は、地域ごとの自然環境に適応した独自の漁法や技術体系を発展させてきました。しかし、M&Aによる経営効率化の過程で、これらが失われるリスクがあります。例えば、沿岸漁業における定置網、地引網、一本釣り、採貝・採藻といった多様な漁法が行われなくなり、後生に引き継げない可能性があります。
漁業経営者がM&Aで売却を成功させるためのポイント
水産業界でのM&Aを成功させるには、経営課題への深い理解と戦略的アプローチが欠かせません。複数のポイントに分けてご説明します。
漁業権の移転条件を確認する
漁業権は、農地や工場の所有権とは本質的に異なり、自由な売買・譲渡が制限されています。この権利は「公共資源の利用許可」という性質を持つため、単純な資産として取引できないことがほとんどだからです。権利ごとに移転条件が大きく異なるため、地元漁協や水産行政機関に連絡し、そもそもM&Aを実施できるのかを確認しましょう。
漁獲データや取引先情報を整理する
漁業は季節性や環境変動の影響を強く受けるため、単年度のデータだけでは正確な事業価値判断ができません。最低でも5年以上の漁獲量推移、魚種構成変化、季節変動パターンなど整理し、買い手候補に提示する必要があります。
従業員とのコミュニケーションを大切にする
M&A検討段階から目的や今後の方針、一人ひとりの処遇について丁寧に説明し、従業員の不安解消に努めましょう。特に家族経営から大手企業傘下に移行する場合、従業員の働き方や企業文化の変化に対する懸念が生じやすく、細やかな配慮が必要です。
漁業・水産業のM&A事例
最後に、漁業・水産業のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
マルハニチロ株式会社による有限会社海晴丸のM&A
マルハニチロ株式会社は、2024年11月に有限会社海晴丸の株式を取得し、子会社化しました。海晴丸は静岡県沼津市を拠点に、マダイやブリの養殖事業を手がけています。同社の養殖場は日本最東端に位置しており、高水温の影響を受けにくい環境が特長です。
また、首都圏に近い立地により、鮮度の高い魚の供給や、輸送コスト・温室効果ガス削減にも寄与すると見込まれています。マルハニチロは今回の子会社化を通じて、持続可能な養殖事業の強化と食の安定供給に向けた取り組みをさらに推進していく方針です。
【出典】マルハニチロ株式会社「有限会社海晴丸の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスによる株式会社マルキチのM&A
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、2023年3月に株式会社マルキチの発行済株式70%を取得し、子会社化しました。
マルキチは北海道網走市を拠点に、ホタテを中心とする水産加工品を製造・販売しており、HACCP認証を持つ自社工場で高品質な製品を提供しています。
本件M&Aにより、ヨシムラHDは海外で需要が拡大する北海道産ホタテの安定確保と加工体制を強化し、グループ企業の販路を活かした海外展開を加速する狙いです。水産品輸出市場の成長を背景に、事業基盤の強化とシナジー創出が期待されています。
【出典】株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス「株式会社マルキチの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスによる株式会社ワイエスフーズのM&A
株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングスは、2023年8月に株式会社ワイエスフーズの発行済株式70%を取得し、子会社化しました。ワイエスフーズは北海道噴火湾沿岸でホタテを中心に水産加工を行い、大規模な加工・保管設備を有しています。
本件により、ヨシムラHDはオホーツク海に加え噴火湾産のホタテ調達ルートを確保し、安定供給体制を強化しました。また、グループ会社とのリソース共有により生産性向上や海外販路の拡大も見込まれ、北海道産ホタテの需要増加を背景にさらなる成長が期待されています。
【出典】株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス「株式会社ワイエスフーズの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
まとめ|漁業・水産業のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
漁業・水産業界は縮小市場と人材不足という厳しい現実に直面していますが、M&Aは多くの経営課題を解決する有効な手段といえます。一方で、地域漁業組合との関係変化など、把握しておくべきデメリットもあります。これから事業承継・会社売却を検討する場合、まずはM&A仲介会社に相談してみましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。