CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。

業種
- 公開日2025.04.28
- 更新日2025.04.28
ビルメンテナンス業界のM&A動向(2025年)メリット/事例/成功のポイントを解説
ビルメンテナンス業界は、人手不足や高齢化、技術の進化といった課題に直面しています。解決手段の一つとなるのがM&Aです。2025年も、後継者不在を背景にした中小企業の売却や、大手による効率化・サービス拡充を目的とした買収が行われています。業界の現状やM&Aの傾向について確かめておきましょう。
本記事では、ビルメンテナンス業界の最新M&A動向やメリット、具体的な事例、そしてM&Aを成功させるためのポイントまで解説します。
目次
ビルメンテナンス業界の市場動向
ビルメンテナンス業界は、清掃管理・衛生管理・設備管理・建物設備の保全・警備防災など、多岐にわたる業務を包括する産業です。なかでも、清掃管理業務がもっとも大きな割合を占め、次いで設備管理や警備防災といった業務が続きます。これらはすべて、オフィスビルや商業施設、医療機関などの快適性・安全性を維持するうえで欠かせない存在です。
市場規模に目を向けると、近年はわずかながらも拡大傾向にあります。公益社団法人全国ビルメンテナンス協会が公表した「ビルメンテナンス情報年鑑2024」によると、2022年度の業界市場規模はおよそ推計4兆6,300億円でした。前年度の約4兆5,600億円から、約700億円の増加です。新型コロナウイルスの影響により一時的に停滞したものの、その後は再開発案件の進展やビル新設に伴う管理需要の増加により、再び成長路線に戻りつつあります。
また、近年ではビルの設備が高度化・IT化していることもあり、専門的な知識や技術を持つ人材のニーズが増している点も注目すべきポイントです。オペレーションの効率化を求めて、大手企業による中小ビルメンテ会社の買収や、ITベンチャーとの連携など、業界再編の動きも活発化の傾向にあります。
このように、ビルメンテナンス業界は安定した需要を背景に、今後も緩やかな成長が続くと見られています。しかし同時に、業務の多様化や人材確保といった新たな課題にも直面しています。
【出典】公益社団法人全国ビルメンテナンス協会「ビルメンテナンス情報年鑑2024」
ビルメンテナンス業界が抱える課題
ビルメンテナンス業界は市場の安定的な推移とは裏腹に、いくつかの深刻な課題に直面しています。ここでは、業界が抱える主な課題について解説します。
人手不足と労働力の高齢化
もっとも深刻な課題として挙げられるのが、人手不足と従事者の高齢化です。ビルメンテナンス業は清掃、警備、設備管理など労働集約型の業務が多く、若年層の就業者確保が難航中です。特に現場を支えるパートやアルバイトの不足は深刻で、必要な人員を確保できずに新規受注を断念するケースもあります。また、ベテラン職員の退職が進むなかで、知識や技術の継承が進まず、現場力の低下も懸念されています。
こうした状況への対策として、外国人技能実習生の受け入れを検討する企業も見られます。清掃ロボットや警備ロボットの導入による省人化も模索されていますが、コストや技術的課題からすぐに普及が進む状況ではなく、当面は人的資源の確保が大きなテーマとなるでしょう。
技術革新への対応の遅れ
近年では、ビル設備の自動制御化や、ICT・IoT技術を活用した管理手法の導入が急速に進んでいます。AIを活用した警備システムや、IoTセンサーによる設備の予防保全などはすでに実用段階に入っており、大手企業を中心に活用が広がっています。
一方で、多くの中小企業では、こうした技術革新への対応が後手に回っているのが現状です。その背景には、初期導入コストの高さだけでなく、デジタル技術を扱える人材が不足している点や、現場とのスムーズな連携体制を整備できていない点が挙げられます。
このままでは業務の効率化やサービスの高度化が進まず、結果として競争力の低下につながる恐れがあります。とりわけ都市部では建物の構造が高度化・複雑化しており、従来の手作業を中心としたメンテナンス体制では対応が難しくなってきているのが実情でしょう。
価格競争と収益性の低下
ビルメンテナンス業界では価格競争が年々激化しており、サービス単価の下落が企業経営を圧迫しています。顧客企業はコスト削減を重視する傾向が強まっており、安価な見積もりを出す業者に依頼が集中する結果、価格競争がさらに加速するという悪循環に陥っています。
このような環境下では利益率の確保が難しくなり、人材育成や設備投資に十分な資金を回せない企業も少なくありません。また、建物や設備の老朽化に伴い、メンテナンスの難易度やコストが増加しているにもかかわらず、適正な価格での契約が結びにくくなっている点も課題です。
ビルメンテナンス業界のM&A最新動向(2025年)
近年、ビルメンテナンス業界では各所でM&Aが実施されており、2025年もその流れは続いています。ここでは、2025年時点で注目されるビルメンテナンス業界のM&A動向を3つの視点から解説します。
安定収益を求めた買収ニーズ
ビルメンテナンス業は、経済の景気変動に左右されにくい安定性が大きな特徴です。定期的な清掃や設備点検など、建物が存在する限りニーズが絶えることはなく、安定的なキャッシュフローを見込めるため、異業種からの参入も見られます。
例えば、不動産・建設業界とのシナジーを見込んだ買収や、資本力のある企業が中小のメンテナンス会社を取り込む動きなどがあります。今後も、ビルメンテナンス企業は「安定収益の確保」を目的とした買収の対象となる見込みです。
サービス高度化を目的としたM&A
近年では、ビルメンテナンス業界のなかでも業務の多様化・複雑化が進んでいます。単なる清掃や点検作業にとどまらず、顧客の多様なニーズに応じた総合的なサービス提供が求められるようになっています。そのため、AI・IoT技術を有するベンチャー企業や、エネルギーマネジメントに強い企業との統合を検討する企業もあるようです。
例えば、「総合ファシリティマネジメント(TFM)」体制の構築を目指したM&Aも行われています。複数の会社を傘下に収め、清掃・警備・設備管理などのサービスを一元化することで、コスト削減と品質向上を同時に実現できるのがメリットです。
後継者不在による売却案件
少子高齢化の影響を受け、ビルメンテナンス業界でも経営者の高齢化と後継者不在の問題が深刻化しています。とりわけ中小規模の事業者では事業承継のめどが立たず、第三者への事業売却を検討するケースも少なくありません。地域密着型のビルメンテナンス会社が後継者不足を理由にM&A市場に現れるケースもあります。買い手にとっては、「地域の拠点を手軽に確保できる好機」といえるでしょう。
また、人手不足への対応策として、有資格者を含む人的資源の獲得を目的としたM&Aも実施されることがあります。企業間の人材獲得競争は激化しており、結果として業界全体の再編が一層進行する見通しです。
ビルメンテナンス業がM&Aで売却するメリット
ビルメンテナンス業界におけるM&Aのメリットを、売り手側の目線でご紹介します。一般的なM&Aのメリットだけでなく、業種ならではの特徴や背景を踏まえて、売却によって得られる利点を解説します。
後継者問題をスムーズに解消できる
ビルメンテナンス業は、長年現場を見続けてきた経営者の引退が大きな転換点となりますが、業界全体で後継者不足が深刻化しています。身内や社内に適任者がいない場合でも、M&Aを通じて外部の企業に事業を引き継ぐことで、後継者問題をスムーズに解消できます。特に同業他社や設備管理を手がける企業が譲受企業となることが多く、業務の継続性が確保されやすいのもポイントです。
従業員の雇用と待遇を守りやすい
廃業すれば従業員は職を失ってしまいますが、M&Aによる売却であれば、従業員の雇用は譲受企業に引き継がれます。特にビルメンテナンス業では現場を熟知したスタッフの存在が不可欠であり、譲受側も雇用維持を前提として交渉に臨むケースが多く見られます。加えて、大手企業への譲渡であれば、待遇や福利厚生が改善されることも期待できるでしょう。
個人保証の解消による心理的負担の軽減
中小のビルメンテナンス企業では、金融機関からの借入時に経営者が個人保証を求められることが一般的です。しかし、M&Aによって経営から退くことで個人保証を解除できる可能性があります。特に買い手企業が財務基盤の安定した企業であれば、金融機関との協議を経て保証の解除が進められるため、経営者個人のリスクを大幅に軽減できます。
売却益(創業者利益)を得られる
株式譲渡の場合、会社の売却によって得られる売却益は、経営者にとっての「創業者利益」となります。引退後の生活資金や新たなビジネスへの投資資金を確保できるのもメリットです。ただし、M&Aのスキームに事業譲渡を選んだ場合、売却益は企業(法人)に帰属します。スキームの選択は慎重に行いましょう。
経営の安定化と事業の継続
資金面や営業面での課題を抱えている中小企業にとって、M&Aは経営の不安定さを打開する手段です。大手ビルメンテナンス企業や関連業種とのM&Aによって、財務面や人材面での支援が受けられ、現場業務に専念しやすい体制が整うこともあります。自社ブランドやサービスを維持しつつ、より安定した経営の実現も見込めるでしょう。
ビルメンテナンス業がM&Aで売却を成功させるためのポイント
ビルメンテナンス業界におけるM&Aは、適切なタイミングや戦略的なアプローチが成功のカギとなります。売却を成功させるためには、業界特有の要素を理解したうえで、しっかりと準備を進めることが重要です。以下のポイントを参考に、M&Aをスムーズに進めましょう。
相場を調べる
M&Aを成功させるためには、企業価値の相場を把握することが非常に重要です。ビルメンテナンス業の企業価値は、一般的に「時価純資産+営業権法」や「マルチプル法」といった方法で評価されます。算定の際は、過去の実績や契約内容、保有している技術や設備、さらには従業員のスキルなど、さまざまな要素が考慮されます。まずは、同業種のM&A事例や市場動向を調査し、相場感を持つことが大切です。
適切なタイミングを見極める
M&Aを成功させるためには、タイミングが非常に重要です。特に業界の再編が進んでいるタイミングでは、早期にM&Aを実施することが競争優位を保つために効果的です。また、業界が成長している時期に売却を検討すれば高い評価を得られます。市場環境や競合動向をよく観察し、最適なタイミングを見極めましょう。
スキームを選択する
M&Aにはさまざまなスキームがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。現金一括での売却や株式交換、事業譲渡など、売却方法によって条件が大きく変わるため、自社の状況に最適な手法を選択することが重要です。税金面や資金調達の観点からも、どのスキームがもっとも有利かを慎重に検討しましょう。
M&A・事業承継の専門家に相談する
M&Aは専門的な知識と経験が求められるプロセスです。特に、初めてM&Aを行う場合は、専門家のサポートを受けることが成功への近道です。M&A仲介会社や経営コンサルタント、会計士、税理士、弁護士など、経験豊富な専門家に相談し、プロセスを円滑に進めるためのアドバイスを受けましょう。
ビルメンテナンス業界のM&A事例
最後に、ビルメンテナンス業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社ハリマビステムによる株式会社アイワサービスのM&A
2025年4月、ビル総合管理を手掛ける株式会社ハリマビステムは、関西を拠点に病院清掃を中心とした建築物総合サービス業を展開する株式会社アイワサービスの全株式を取得し、完全子会社化しました。
アイワサービスは長年にわたり高品質な清掃サービスで信頼を築いており、安定した業績を維持しています。ハリマビステムは2026-2035年の長期ビジョンの一環として事業エリアの拡大を掲げており、本件は関西エリアの基盤強化と、両社間のベストプラクティス共有によるシナジー創出が目的です。
今後はグループ連携を深めることで、さらなる企業価値の向上が期待されます。
【出典】株式会社ハリマビステム「株式会社アイワサービスの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
イオンディライト株式会社による株式会社アスクメンテナンスのM&A
イオンディライト株式会社は、2023年4月に熊本市の株式会社アスクメンテナンスを完全子会社化しました。
アスクメンテナンスは、九州一円で清掃・設備管理・マンション管理などを手がけ、商業施設や病院など多様な施設にサービスを提供する地域密着型企業です。特に清掃分野での高評価を受けており、2022年には九州で初のエコマーク認定を取得するなど、環境対応にも注力してきました。
本件M&Aは、イオンディライトのビジョン2025に基づく地域経済圏の形成とFM(ファシリティマネジメント)分野での九州基盤強化を目的としています。両社の技術やノウハウの融合によるサービス品質の向上が期待されます。
【出典】イオンディライト株式会社「株式会社アスクメンテナンスの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
株式会社穴吹ハウジングサービスによる建衛工業株式会社のM&A
株式会社穴吹ハウジングサービスは、2020年12月に建衛工業株式会社(札幌市)を子会社化しました。建衛工業は札幌を拠点にマンション・ビル管理業を展開しており、地域に根差したサービスで約4,300戸を管理しています。
今回の株式取得(持株比率91%)は、同社の後継者問題の解決とサービス提供力の強化を目的としたもので、穴吹ハウジングサービスにとっては北海道エリアへの事業拡大の一環です。
管理戸数約13万戸を有する同社は、今後も全国展開を進めながら、単なる管理に留まらない「しあわせ『感』理」の実現を掲げています。本件は、地域密着型企業との連携によって広域での管理体制を強化する好例といえます。
【出典】株式会社穴吹ハウジングサービス「建衛工業株式会社の株式取得(子会社化)契約締結に関するお知らせ」
まとめ|ビルメンテナンス業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
ビルメンテナンス業界では、深刻な人手不足や後継者不在といった課題を背景に、M&Aによる事業承継や成長戦略が実行されることがあります。業界特有のストック型ビジネスモデルは、買い手企業からの関心も高く、売却を検討する企業にとっては好機ともいえる状況です。
特に中小企業の経営者にとっては、M&Aは単なる事業譲渡にとどまりません。従業員の雇用確保や経営の安定化、創業者利益の獲得、さらには個人保証の解消など、多くのメリットをもたらします。
こうしたメリットを最大限に活かすためには、業界特性に合った戦略的な準備と、信頼できるM&A仲介会社のサポートが欠かせません。本記事で紹介したM&A動向や売却のポイントを参考に、自社にとって最適なタイミングと方法でM&Aを進め、納得のいく形で次のステージへ進めるよう備えましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。