CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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資金調達
- 公開日2025.04.28
- 更新日2025.04.30
J-KISSとは?資金調達の仕組みやメリット、問題点をわかりやすく解説
スタートアップの資金調達において、J-KISSはよく耳にするけれど、仕組みやリスクが分からないと感じていませんか?新株予約権やCAP、ディスカウントといった専門用語が多くて、内容を正確に理解するのが難しいという方も多いです。
本記事では、J-KISSの基本的な仕組みから、メリット・デメリットまで解説します。
目次
J-KISSとは?
J-KISSとは、スタートアップが迅速かつ柔軟に資金調達を行うために設計された投資契約のひな形です。Coral Capitalが公開したこの契約は、将来的に株式へ転換される新株予約権を活用した出資スキームとなっています。
この章では、J-KISSの基本的な仕組みや他の類似手法との違いを順を追って解説します。
J-KISSの仕組み
J-KISSは、新株予約権を活用して将来の資金調達時に自動的に株式へ転換される仕組みです。この方式では、発行時点で株価や企業価値を定める必要がありません。転換条件として、一定額以上の資金調達(適格資金調達)やM&Aなどのイベントが発生した際に、投資家は契約で定めた条件に従って株式を取得します。
特に、評価額の上限(VALUATION CAP)や割引率(ディスカウント)といった条項によって、早期に投資した出資者を保護できる点が大きな特徴です。これにより、スタートアップと投資家の双方が柔軟かつ公正な条件で契約を結べるようになっています。
転換社債との違い
J-KISSは転換社債と異なり、負債ではないため返済義務がありません。転換社債は利息の支払いや満期時の償還が求められる一方、J-KISSではそのような義務が発生しません。したがって、企業側は財務的なプレッシャーを回避しながら資金調達が可能です。
J-KISS発行時の出資金は、会計処理上「新株予約権」などの純資産項目として計上されるケースが多いものの、処理方法は会計方針や監査法人の判断によって異なる場合があります。このように、J-KISSは転換社債に比べて、スタートアップがより簡単に資金調達を行える仕組みです。
SAFEとの違い
J-KISSはSAFEと同様に、将来の株式転換を前提とした出資契約です。ただし、J-KISSは投資家保護の観点からSAFEよりも詳細な条件設定がなされています。たとえば、転換期限やM&A時の取得条項などが標準で盛り込まれており、投資家のリスクを軽減する構造になっています。
一方、SAFEは契約の自由度が高く、特に米国で起業家に好まれる柔軟性のある形式ですが、法的には株式や新株予約権と異なる扱いを受ける場合があります。J-KISSは日本の法律に適合する形で構成されており、国内のスタートアップにとって利用しやすい選択肢です。
J-KISSのメリット
J-KISSには、投資家とスタートアップの双方にとって利点があります。投資家にはリターン確保やダウンサイドリスクの軽減といった魅力があり、スタートアップにとっては迅速で柔軟な資金調達が可能になる点が注目されています。
本章では、それぞれの立場から見たJ-KISSの主なメリットを解説します。
投資家視点
J-KISSは、早期に投資した投資家にとってリターンを確保しやすい仕組みです。その理由は、評価上限(CAP)や割引価格(ディスカウント)が設定されており、将来の株式取得時に有利な価格で転換できるからです。例えば、シリーズAラウンドで決まった株価よりも安い価格で株式を取得できるため、投資額に対する株式の取得比率が高くなります。
さらに、M&A時には、契約内容に応じて出資額の2倍での買い取りや株式転換が選択肢として提示される場合があります。このように、J-KISSは投資家にとって利益の最大化と損失リスクのコントロールを同時に可能にする投資手段です。
スタートアップ視点
J-KISSは、スタートアップにとって資金調達のスピードと柔軟性を両立できる手段です。通常の株式発行では、バリュエーションの調整や契約交渉に時間がかかりますが、J-KISSではそれを次回ラウンドに先送りできるため、素早い資金確保が可能になります。
また、契約書がひな形化されているため、リーガルコストを抑えながら手続きも簡素化できます。さらに、J-KISSは負債ではないため、利息や元本返済の必要がなく、キャッシュフローへの影響を抑えることが可能です。これらの特徴により、J-KISSは事業初期におけるスタートアップの成長を後押しする有効な資金調達手段として広く活用されています。
J-KISSのデメリットや問題点
J-KISSは優れた資金調達手段ですが、すべての関係者にとって完璧なスキームではありません。契約条件や将来の資本政策に影響する要素があるため、利用時には慎重な設計が求められます。
本章では、投資家とスタートアップそれぞれの立場から見たJ-KISSの課題を取り上げます。
投資家視点
J-KISSは、株式転換までの間に議決権や配当などの株主権が得られないという課題があります。この仕組みにより、投資家は出資後も経営に関与できず、情報も制限されるケースがあります。さらに、スタートアップが適格資金調達を達成できなかった場合、転換は一定のCAP価格に基づくため、市場価格よりも不利な条件で株式を取得する可能性があります。
また、非上場企業の新株予約権という性質上、保有価値の評価や管理が煩雑になる点もデメリットです。したがって、J-KISS投資には早期投資の見返りを期待できる一方で、透明性や管理面におけるリスクも内在しています。
スタートアップ視点
J-KISSは発行時に株数や評価額が確定しないため、将来的な持株比率の予測が難しくなります。この不確実性が資本政策に影響を及ぼす可能性があります。特に、VALUATION CAPの設定が低すぎると、転換時に多くの株式を投資家に渡すことになり、結果として創業者の持分が大きく希薄化する恐れがあります。
また、複数のJ-KISSを発行した場合、各契約の条件が重なり合って複雑化し、次回の資金調達やM&Aの際に交渉が難航するリスクがあります。こうした背景から、J-KISSを利用する際は資本構成への長期的な影響を見据えた契約設計が不可欠です。
J-KISSのデメリットや問題点
J-KISSは柔軟な資金調達手段として注目されていますが、契約の仕組みや将来的な影響において注意点もあります。契約時の判断を誤ると、リターンや経営権に大きな影響を及ぼす可能性があるため、慎重な対応が求められます。
本章では、投資家とスタートアップそれぞれの立場から見た課題について詳しく解説します。
投資家視点
J-KISSでは、出資後すぐに株式を取得するわけではないため、投資家には議決権や配当などの株主権がありません。この構造により、投資家は株式転換が行われるまでの間、経営に関与する手段が限られます。
さらに、スタートアップが適格資金調達に失敗した場合は、契約で定めたCAP価格に基づき普通株式へ自動転換されることになるのです。その際、想定より高い価格で株式を取得する結果となれば、投資家のリターンは目減りする可能性があります。
加えて、非上場の新株予約権という性質上、適正な時価評価が難しく、会計上の処理や管理も煩雑です。このように、J-KISSは期待リターンとリスクのバランスを見極めながら活用する必要があります。
スタートアップ視点
J-KISSを活用すると、発行時には株数や評価額が確定しないため、将来的な持株比率の見通しが立ちにくくなります。これは資本政策の管理を難しくし、創業者や既存株主の持分が予想以上に希薄化するリスクにつながります。特に、設定したCAPの水準が低すぎると、転換時に大量の株式を投資家に発行する必要があります。結果的に経営権を圧迫するリスクにつながる可能性があるのです。
また、複数のJ-KISSを発行すると、それぞれ異なる条件の積み重ねが複雑化し、次回の資金調達やM&Aの場面で調整が困難になるケースもあります。これらの要素を踏まえ、J-KISSを導入する際には中長期の資本戦略を明確に描いた上で慎重に契約条件を設計することが重要です。
J-KISSの契約内容と必要書類
J-KISSを活用する際には、投資家との契約内容を明確に定め、法律上必要な書類を整備する必要があります。J-KISSの契約では、転換条件や出資額、評価上限(VALUATION CAP)など、将来の株式転換に関するルールを事前に取り決めることが基本です。
特に重要なのが「適格資金調達」の定義であり、通常は1億円以上の資金調達が行われた場合に株式への転換が自動で実行される仕組みになっています。また、ディスカウント率や転換期限も契約時に明記する必要があります。これらの条件は、投資家のリスクを抑えながら、スタートアップに柔軟な資金調達機会を提供する役割を果たします。
契約書類としては、まずJ-KISSの「投資契約書(新株予約権引受契約書)」を締結する必要があります。さらに、新株予約権の発行に関する「株主総会議事録」や「発行要項」、「取締役会議事録」などの社内決議文書も必要です。
発行後には「登記申請書」を法務局に提出することで法的な手続きが完了します。Coral Capitalが公開するJ-KISSパッケージには、これらの書類テンプレート一式が含まれており、実務を円滑に進めるための指針として活用されています。
このように、J-KISSを活用する際は、投資条件と法的手続きをセットで整備することが、トラブルのない資金調達を実現するうえで欠かせません。
J-KISSのCAP・ディスカウントとは?
J-KISSでは、投資家が将来の株式取得時に有利な条件で転換できるよう、CAP(評価上限額)とディスカウント(割引率)という2つの調整機能が設定されます。CAPとは、株式に転換される際の「株価の上限」をあらかじめ定めておく仕組みです。
これは、スタートアップが大きく成長して企業価値が想定以上に上がった場合でも、投資家が設定された上限価格に基づいて株式を取得できるようにすることで、出資時のリスクを補う役割を果たします。
たとえば、シリーズAでの企業評価額が5億円に達した場合でも、CAPが2億円に設定されていれば、投資家は2億円の評価に基づいて株式を得ることができます。これにより、早期にリスクを取った投資家の利益を守ることが可能になります。
一方で、ディスカウントとは、次回資金調達時に決まる株価から一定の割引を適用して転換する仕組みです。この仕組みにより、J-KISS投資家はシリーズA以降の出資者よりも有利な条件で株式を受け取ることができ、シード投資に対する報酬として機能します。
これらの転換条件は「CAPとディスカウントのいずれか低い株価」が適用されるため、投資家は常に有利な条件で株式を取得可能です。ただし、実際の優先順位は契約内容によって異なる場合があります。
J-KISSの会計処理と税務
J-KISSは株式ではなく新株予約権を活用した資金調達であるため、会計処理や税務面で特有の取り扱いがあります。本章では、発行時や転換時の仕訳処理、資本金への影響、そしてエンジェル税制の適用可否について解説します。
いずれも実務に直結する要素であり、経理担当者や経営者が押さえておくべきポイントです。
J-KISSの仕訳
J-KISSによって資金を受け入れた場合、企業はその金額を負債ではなく純資産の「新株予約権」として仕訳します。この処理により、貸借対照表の負債が増加せず、企業の信用力に与える影響を抑えることが可能です。
転換時には、この新株予約権を資本金と資本準備金に振り替えることで株主資本に組み入れられます。J-KISSは返済義務がないため、会計処理の観点でも資本性の強い調達方法といえるでしょう。
J-KISSの資本金への影響
J-KISSは発行時点では資本金に影響を与えません。これは、出資を受けても株式が発行されていないため、資本準備金や資本金への計上が発生しないからです。
資本金として反映されるのは、J-KISSが株式に転換されたタイミングです。その際、払込金額のうち一定割合が資本金に計上され、残りは資本準備金となります。したがって、J-KISSの発行は短期的には資本金を増やさずに資金を得られる手段であり、将来的な資本構成の変化に備えておく必要があります。
エンジェル税制の適用可否
これまでJ-KISSは「株式取得」を伴わないため、エンジェル税制の対象外とされていました。 しかし、2024年度の税制改正により、2024年4月1日以降に取得した新株予約権を活用した出資も制度の対象に追加されました。
これにより、個人投資家がJ-KISSを通じて出資した場合でも、一定の条件を満たせば、行使時(株式転換時)に所得控除などの優遇措置を受けられるようになりました。
実際の適用要件や時期については今後の政令で確定される見込みです。この改正は、シード期への出資促進やスタートアップ支援を後押しする制度的な追い風といえるでしょう。
M&A時にJ-KISSはどう扱われる?
スタートアップがM&Aにより買収される際、未転換のJ-KISSがどのように扱われるかは、投資家にとって非常に重要な論点です。買収によってEXITを迎える場合でも、J-KISSは投資家の利益を守る仕組みを備えています。
J-KISSでは、企業が買収される際に「取得条項(Acquisition Clause)」が発動され、投資家には2つの選択肢が与えられます。
ひとつは、新株予約権を事前に普通株式に転換し、その株式を売却によって換金する方法です。この場合、評価上限(CAP)に基づいて株数が決まり、企業の売却額に応じた対価を受け取れます。もうひとつは、契約で定められた「出資額の2倍」で新株予約権自体を買い取ってもらう方法です。
どちらの選択肢を選ぶかは投資家に委ねられ、最も有利なリターンを得られる手段を自由に選択できます。具体的な条件や選択肢は契約によって異なるため、事前に契約内容を確認することが重要です。
このように、M&A時においてもJ-KISSは、早期にリスクを取った投資家が損失を被らないよう配慮された設計となっています。
まとめ|適切な条件設定と正確な運用で、J-KISSの活用を
J-KISSは、シード期のスタートアップと投資家の双方にとって、迅速かつ柔軟な資金調達を可能にする有効な手段です。評価額を先送りできる仕組みや、転換条件の明確化により、将来の株式転換に備えた設計がなされています。
ただし、契約内容や資本政策への影響を十分に理解し、慎重に活用することが重要です。適切な条件設定と正確な運用によって、J-KISSは健全なスタートアップ投資を支える強力なツールとなるでしょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。