CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.04.07
- 更新日2025.04.09
旅行代理店のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
旅行業界はコロナ禍の影響で大きな打撃を受けましたが、2022年以降は徐々に回復傾向にあると見られています。そんななか、旅行会社や旅館などを対象としたM&Aが、事業承継や事業拡大の有力な手法として注目を集めています。
本記事では、旅行代理店のM&Aを取り巻く最新動向を解説し、成功事例や旅行業界特有の課題についても徹底解説します。売却や資本業務提携などを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
旅行代理店の市場動向
旅行代理店業界は、コロナ禍からの影響を受けつつも、徐々に回復傾向を見せています。2023年度の主要旅行業者の総取扱高は約3兆6,337億円で、前年から24.8%増加しましたが、2019年度(コロナ前)の79.5%にとどまっています。海外旅行は前年から約2.4倍に増加したものの、2019年度比では約60%の水準にとどまり、国内旅行も2019年度比で約92%と完全回復には至っていません。
一方で、訪日外国人旅行(インバウンド)市場の回復が顕著で、2023年の訪日外国人旅行者数は2019年比で約9割まで回復し、消費額は過去最高を記録しました。また、旅行者の行動はデジタル化が進み、個人で旅行を計画するスタイルが増加しています。
こうした市場環境の変化に対応し、旅行代理店業界ではサービスの多様化や競争力強化が求められており、M&Aがその重要な手段として注目されています。
【出典】観光庁「2023年度(令和5年度)主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計」
旅行代理店業界が抱える課題
旅行代理店業界は、コロナ禍からの影響を受けて変化している一方、いくつかの根本的な課題を抱えています。ここでは、業界が直面している主要な課題について解説します。
後継者不在の問題
旅行代理店業界では、事業承継が大きな課題となっています。サービス業全般の後継者不在率が55.5%と高く、全国平均の52.1%を上回っていることからも、旅行代理店において後継者問題が深刻であることがわかります。
近年、全世代で後継者不在率は減少傾向にあり、業界全体の承継環境は厳しい状況です。旅行代理店は景気の影響を受けやすい不安定な業種であるため、経営者自身が「自分の代で廃業する」という選択をするケースも多く見られます。
廃業を選ぶ場合、登録業者としての資格が失われ、取引先や顧客基盤も崩壊するリスクが高まるでしょう。そのため、M&Aを活用した事業承継が、業界存続の重要な手段とされています。
【出典】帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2024年)」
景気依存による業績の不安定さ
旅行代理店は、景気の変動に大きく左右される業種です。景気が良い時期には国内外の旅行需要が高まり、業績も向上しますが、景気が低迷すると旅行需要が減少し、売上高が大きく減少する傾向があります。
こうした不安定さから、事業計画の長期的な安定化が難しく、経営者や従業員にとって将来への不安材料となっています。この課題に対処するためには、旅行代理店が多様なサービスや収益源を確立し、景気変動に対する体制を強化することが必要です。
デジタル化の進展への対応
近年、旅行業界全体でデジタル化が進んでおり、個人で旅行を計画する「セルフサービス型旅行」の需要が拡大しています。こうした状況に対して、IT人材の確保やデジタル技術の導入を推進することで、新たなビジネスチャンスを創出することが重要です。
旅行代理店のM&A最新動向(2025年)
旅行代理店業界のM&Aは、業界の構造変化や顧客ニーズの多様化を背景に、いくつかの特徴的な動きが見られます。ここでは、主要な動向と今後の展望を解説します。
地域特化型事業者の買収増加
観光需要の変化にともない、地域に根差した特色ある旅行代理店の買収が活発化しています。地方でのガイドツアーや独自の宿泊プランを提供する小規模代理店が、大手企業によるM&Aの対象となり、より広い市場への展開が進んでいます。
デジタル領域でのM&A活性化
オンライン予約プラットフォームを提供する「オンライン旅行代理店(OTA)」を中心に、デジタル領域でのM&Aが進んでいます。システム開発力や顧客基盤の強化を目的とした統合や買収が行われており、新たなサービスモデルの開発が期待されます。
業界再編の動き
市場環境の変化に対応するため、大手を含めた業界再編の動きが加速しています。規模の経済を追求した統合や、異業種との連携による新規事業展開など、多様な形態のM&Aが見られます。
旅行代理店がM&Aをするメリット
ここでは、旅行代理店がM&Aを実施することで得られるメリットについて解説します。旅行業界特有の視点を交え、M&Aによってどのような成果が期待できるのかを確認してみましょう。
市場競争力の強化
M&Aを通じて、旅行代理店は規模の拡大と市場競争力の向上を実現できます。インターネット予約の普及に伴い競争が激化するなか、大手企業や有力な代理店との提携によって、業界内での存在感を高められる点がメリットです。
規模が大きくなることで広告宣伝費やシステム投資に充てる予算が確保しやすくなり、ブランド力向上や集客力の強化にもつながります。
経営の安定化
経営難に陥った旅行代理店が、大手企業の資本力を活用して経営の安定化を図るケースも増えています。M&Aによって財務基盤を強化し、事業を継続させることで、従業員の雇用を守りつつ長期的な成長を目指せます。
後継者問題を抱える中小代理店にとって、M&Aは事業存続の有効な手段となるのも大きな利点です。
売却益の獲得
M&Aにより、経営者が売却による利益を得ることも可能です。経営再建の一助として、新規事業へつなげるための資金としても活用できます。
旅行代理店がM&Aを成功させるためのポイント
旅行代理店がM&Aを成功させるためには、業界特有の課題や特性に応じた戦略と計画が不可欠です。ここでは、旅行代理店のM&Aにおいて特に重要とされる成功のポイントを解説します。
M&Aによる将来性を見極める
M&Aを実施することで、自社の将来にどのような利益が出るのかを判断することが大切です。M&Aにはメリットだけではなく隠れた負債などのリスクもあるため、慎重に検討することが求められます。専門家によるアドバイスを受け、事前のデューデリジェンスを徹底することがポイントの一つです。
ブランド価値の維持とシナジーの創出を考慮する
企業のブランド価値を維持しながら、自社ブランドとの統合を通じてシナジーを生み出すことが重要です。旅行代理店では、顧客との信頼関係が非常に重要視されるため、M&Aによるブランドイメージの低下を防ぐことが求められます。一方で、ブランドの統合による相乗効果を活かすことで、より広範囲な顧客層へのアプローチが可能になります。
旅行代理店のM&A事例
株式会社西友ホールディングスによる奥ジャパン株式会社のM&A
2024年12月、西武ホールディングス(以下、西武HD)は、エンデバー・ユナイテッドが運営する投資ファンドから、アドベンチャーツーリズム専門の旅行会社である奥ジャパン株式会社(本社:京都市)の全株式を取得し、子会社化しました。
今回のM&Aは、インバウンド需要の拡大を見据えた戦略的な動きです。西武HDは、ホテル・レジャー事業や沿線開発を展開しており、体験価値を重視した観光施策を強化しています。一方、奥ジャパンは、中山道や熊野古道を中心に、訪日外国人向けのウォーキング・ハイキングツアーを提供し、地域密着型の観光を展開してきました。西武HDは、奥ジャパンのツアー造成ノウハウと自社の観光資産を掛け合わせ、シナジーを創出することを狙っています。
この買収により、西武HDは「地域とのふれあい」を重視した観光体験の提供を強化し、持続可能なインバウンド観光の推進を目指します。M&Aを通じて、沿線開発や観光事業の付加価値を高める狙いがうかがえます。
【出典】株式会社西友ホールディングス「奥ジャパン株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社による株式会社インプレストラベルのM&A
2024年12月27日、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社(以下、アジャイルメディア)の連結子会社である株式会社インプレストラベル(以下、インプレストラベル)は、西木久恵氏が運営する旅行代理店「トラベルサポート空」の事業を譲受することを決定し、事業譲渡契約を締結しました。事業譲受の実施は2025年1月23日を予定しています。
インプレストラベルは、ファンマーケティングの視点を活かした旅行商品の企画・販売を行う旅行代理店で、2024年11月にアジャイルメディアが株式を取得し子会社化したばかりです。一方、「トラベルサポート空」は、海外旅行手配を専門とし、特にブータン旅行などでリピーター顧客を獲得してきました。今回の事業譲受により、インプレストラベルは旅行業のラインナップを拡充し、より幅広い顧客層に対応できる体制を強化する狙いがあります。
譲受後も西木氏はインプレストラベルと業務委託契約を結び、これまでのノウハウを活かしてサポートを続ける予定です。ファンの声を活かした旅行商品の開発と、個別対応型の旅行手配の強みを組み合わせることで、差別化を図る戦略が期待されます。
【出典】アジャイルメディア・ネットワーク株式会社「連結子会社における事業の譲受に関するお知らせ」
株式会社エアトリによる株式会社GROWTHのM&A
2024年4月30日、株式会社エアトリ(本社:東京都港区)は、マーケティング領域特化型ジョブマッチングプラットフォーム『JOB DESIGN』を運営する株式会社GROWTH(本社:東京都新宿区)の株式を取得し、子会社化しました。これにより、エアトリは新たに「マッチングプラットフォーム事業」を開始し、事業ポートフォリオを拡充しました。
GROWTHは、フリーランスや副業人材と企業をつなぐマーケティング領域特化のマッチングサービスを提供しており、広告事業やブランド事業も展開しています。エアトリは本M&Aを通じて、グループ各社や投資先企業のマーケティング力を強化し、相乗効果を創出する狙いがあります。また、GROWTHの将来的な上場も視野に入れており、エアトリの上場経験を活かした支援を行う予定です。
本買収により、エアトリは人材マッチング分野への本格参入を果たし、エアトリ経済圏の拡大を推進します。今後は、マーケティング領域にとどまらず、他分野への展開も検討されており、事業成長の加速が期待されます。
まとめ|旅行代理店のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
旅行代理店業界のM&Aを成功させるためには、旅行商品の多様化や地域特性を活かした事業戦略などを明確にし、適切な買収先や譲渡先を見極めることが重要です。また、会社売却を検討する際には、更新される市場動向や法的な注意点に留意しながら計画を進める必要があります。
さらに、M&A後の統合プロセスを円滑に進めるためには、専門家の支援を活用することが有効です。M&Aをより確実に進めるために、先行事例を参考にしつつ、最適な戦略を構築しましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。