CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.04.24
- 更新日2025.04.24
システム開発業界のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
システム開発業界では、技術革新の加速やIT人材の不足といった要因が重なり、ここ数年でM&Aを活用した譲渡・継承が重要な選択肢となっています。特に2025年に向けては新規参入や事業拡大を目指す企業が増え、システム開発会社の買収や統合がさらに進むと予測されています。
一方で、技術面の多様化やクラウド化の進展により、システム開発企業間の競争は激化しています。このような状況では、経営者による迅速な判断や経営戦略の柔軟性が重要視され、M&Aが効果的な成長手段として選ばれるケースが増えています。
本記事では、システム開発業界の最新動向やM&Aのメリット・デメリット、成功事例や失敗リスクを含めて、これからM&Aを検討する際のポイントを解説します。2025年以降にも通用する視点や事前準備の方法など、実践的な内容をわかりやすくまとめています。
目次
システム開発業界の市場動向
このセクションでは、現在から2025年にかけてのシステム開発業界の市場動向を振り返り、需要の高まりや成長要因について考察します。
システム開発業界は、企業のデジタルトランスフォーメーションや業務の高度化が進む中で需要が急拡大しています。とくにAI、クラウド、IoTなどの新技術分野は、幅広い業界で採用事例が増え、人材確保や技術投資へのニーズが高まっています。2025年に向けた市場予測では、IT予算の増加や国内産業の構造転換を後押しに、さらなる拡大が期待されています。
他方で、コロナ禍以降一部の業種で投資が停滞するケースもあり、事業領域の選定やパートナー戦略が重要となっています。システム開発企業にとっては、限られた人材リソースを効率的に活用しつつ、新しい事業チャンスを逃さないための柔軟な経営判断が欠かせません。これらの背景から、企業資源を強化する目的でM&Aを選択する経営者が増えてきています。
システム開発業界業界が抱える課題
システム開発業界の企業が直面しやすい課題を取り上げ、その背景と解決策の方向性を探っていきます。ここでは、主な課題を3つ見てみましょう。
慢性的な人材不足
IT業界全体でエンジニアが不足している中、システム開発会社ではプロジェクトに十分な人員を配置できないケースが散見されます。結果として、納期の遅延や品質リスクが高まると同時に、エンジニアが過剰労働に陥るリスクもあるため、人事戦略や組織マネジメントでの対応が不可欠です。
M&Aでチームごと買収することで一時的に人材不足を解消する方法もありますが、長期的には教育体制の整備や離職率軽減策も重要といえます。
急速な技術進歩への対応
IT分野ではAIやビッグデータ分析、クラウド化などが急速に進むため、企業としては継続的な学習や設備投資が求められます。先進技術を習得しないとプロジェクト獲得の機会を逃すだけでなく、新規顧客開拓の難易度も高まります。
システム開発会社はM&Aによって専門知識を保有する企業を取り込み、技術領域を素早く拡充する動きを強めています。
セキュリティリスクが増大する現状とその対策
クラウドやIoTの普及により、多種多様なデバイスやネットワークがシステムと連携するようになりました。
その分、外部からのサイバー攻撃リスクや情報漏洩リスクも高まっています。システム開発会社は、常に最新のセキュリティ情報を把握し、万全な体制を構築する必要があります。
中小企業にとってはコスト面での負担が大きいため、セキュリティ技術に強みを持つ企業とのM&Aを検討するケースも増加しています。
システム開発業界のM&A最新動向(2025年)
システム開発業界で注目されるM&Aの動きについて、その背景や狙いをもとに整理します。
参入コスト削減のためのM&A
システム開発の初期投資は、設備だけでなく高額な人件費や研究開発費も必要とされます。そのため、新たに事業部を立ち上げるより、すでに実績のある企業を買収するほうが短期的にリソースを確保しやすい点が魅力です。
また、経験豊富なプロジェクトマネージャーやエンジニアをまとめて獲得できるため、早期に事業を軌道に乗せることが期待できます。
システム開発内製化のための異業種M&A
これまでは外注が一般的だったシステム開発を、サービス強化や品質管理のために内製化する企業が増えています。異業種の企業がシステム開発会社を買収することで、自社のビジネスモデルにフィットした独自のツールやプラットフォームを迅速に構築しやすくなります。
加えて、専門知識の習得やノウハウの独占により、事業の独自性やコスト競争力を高められる点が大きなメリットです。
人材獲得を目的とするM&A
慢性的なエンジニア不足を解消する狙いから、特定の領域に強みを持つチームを一括で吸収できるM&Aが注目されています。専門性を有する人材がそろっているため、即戦力として大規模案件にも対応できる点が魅力です。
ただし、買収後の経営方針や組織風土が合わず、期待するパフォーマンスを発揮できないケースもあるため、しっかりとした統合戦略が求められます。
【売り手】システム開発業界がM&Aをするメリット
株式譲渡や事業譲渡などにより、自社の持つ課題を解決できる可能性があります。ここでは、システム開発業界がM&Aをする売り手目線のメリットをご紹介します。
買い手企業のリソースを活用して事業拡大できる
売り手企業が開発中だったシステムやサービスに対して、買い手企業の豊富な資金力や販売網を組み合わせることで、高速かつ大規模に事業を展開できます。自社だけでは届かなかったユーザー層へもアプローチし、サービスの多角化を図りやすい点がメリットです。また、大手企業のブランド力を使うことで、受注案件の単価向上が見込める場合もあります。
競合優位性を高めることができる
異なる技術領域に強みを持つ企業同士が統合することで、競合他社より幅広い開発領域をカバーできるようになります。その結果、顧客から見たときの提案力が高まり、同業他社との差別化を図りやすくなるでしょう。特に先進技術に強い企業を取り込む場合は、長期的な成長の原動力として機能することが期待されます。
経営者や従業員の負担を軽減できる
M&A後は管理部門やバックオフィスの統合が進むため、経営者や従業員にも分業化のメリットが生まれます。大規模体制になることで、労働環境や福利厚生の見直しが進み、働きやすい職場づくりに取り組みやすくなる点も大きいです。エンジニアが開発業務に専念できるようになることで、生産性や品質向上が期待できます。
【売り手】システム開発業界がM&Aをするデメリット
M&Aには、いくつかのデメリットが存在します。今後M&Aを検討する中で、売り手側が知っておくべき注意点は以下の通りです。
従業員の離職リスク
買収後の社名変更や報酬体系の変化、組織構造の変更などにより、従業員が急激な変化に不安を感じ、退職するケースがあります。
エンジニアの場合は業務内容の大幅な変更に抵抗を示すこともあるため、十分な説明と支援体制が欠かせません。離職が相次ぐと企業価値や開発力の低下を招き、M&Aの目的が達成できないおそれがあるでしょう。
交渉過程での情報漏洩リスクがある
企業買収のデューデリジェンスでは財務データや顧客リスト、開発ノウハウなど機密性の高い情報を開示しなければなりません。
これらの情報が外部に流出すると、自社の競争力を損ねるだけでなく、取引先や顧客との信頼関係に影響を及ぼす可能性もあります。交渉の初期段階から秘密保持契約の範囲や違反時の対応策を明確にしておくことが重要です。
買収後に経営・開発方針の違いが発生する場合がある
統合後に経営層の考え方が合わず、プロダクト開発の方向転換やリソース配分をめぐって対立が生じる可能性があります。
中長期的な視点で見れば、新たなシナジーを生み出すには多少の調整が必要ですが、当面は社内の混乱を防ぐための丁寧なコミュニケーションが不可欠です。事前に両社のビジョンや方針をすり合わせる作業を怠ると、M&A本来の効果が発揮できなくなる懸念があります。
【買い手】システム開発業界がM&Aをするメリットデメリット
一方で買い手側がM&Aを行う場合のメリットおよびリスクについて、具体的な事例を踏まえて確認します。
買い手企業にとっては、開発リソースを短期間に拡充できるメリットが最大の魅力です。新しい技術やノウハウを即時に取り込めるため、競争力を維持・強化するうえで効果的といえます。特にクラウドやAIを中心とした新技術の分野では、実績あるシステム開発会社の買収で市場シェアを一気に拡大することも可能です。
ただし、買収には大きな投資が伴うため、統合後の効果が予想通りに得られない場合には多額のコスト負担が問題化します。また、組織文化や経営方針が異なる企業を統合する際には、想定以上の摩擦が起こりやすく、業務効率や社員のモチベーション低下などのリスクが考えられます。そのため、事前のデューデリジェンスやアドバイザーの活用が重要となるのです。
システム開発業界がM&Aを成功させるためのポイント
システム開発業界のM&Aを成功に導くためには、綿密な事前準備と適切な実行プロセスの管理が重要となります。以下に、特に重要なポイントを3つ解説します。
従業員の不安を軽減しスムーズな移行を目指す
組織再編や企業名の変更など、大きな変化は現場の従業員に不安感を与えやすいものです。丁寧な説明会や質問の場を設けるなど、コミュニケーションを円滑にしながら、業務や待遇面への影響を具体的に示すことで混乱を抑えられます。
移行期におけるケアが十分に行き届かないと、優秀なエンジニアほど離職につながるリスクがあるため注意が必要です。
財務や技術力を正確に評価してもらう準備をする
日本の中小企業M&Aにおいて、企業価値評価の手法は一般的に「時価純資産+営業権法」や「マルチプル法」が採用されることが多いです。
システム開発会社においては、ソフトウェアや特許などの無形資産が企業価値を左右する場合が多いです。正しい企業評価のためには売上見込みや保有技術を明確化し、実績を示す資料を整備しておくことが重要です。
また、プロジェクト管理ツールの導入や開発実績の可視化など、第三者から評価しやすい仕組みを整えることで、買収交渉を円滑に進められるでしょう。
適切なアドバイザーや専門家を活用する
M&Aには法務や財務、税務など、多岐にわたる専門的な知識が求められます。企業内だけで対応するのは困難な場合が多いため、外部のアドバイザーやコンサルタントを活用することが一般的です。
特に、システム開発特有の技術面評価や人材査定などは業界知識を持った専門家に任せると、統合後の成果を最大化できる可能性が高まります。
システム開発業界のM&A事例
最後に、システム開発業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社クレスコによる日本ソフトウェアデザイン株式会社のM&A
システム開発やITコンサルティングを手掛ける株式会社クレスコは、完全子会社間の組織再編を実施しました。2024年7月に、子会社の株式会社メクゼスが同じく子会社である日本ソフトウェアデザイン株式会社(JSD)を吸収合併。
さらにクレスコ本体が、JSDの名古屋営業所における事業を譲受する形となります。本再編の目的は、地域別に分散していたノウハウや人材、経営資源を再構築し、生産性とサービス提供の効率を高めることにあります。
特にメクゼスを存続会社としたことで、大阪を拠点とする体制を強化しつつ、事業統合によるスピーディーなビジネス展開が期待されます。IT業界では、類似事業を持つ子会社の統合により、競争力を維持・向上させる戦略が近年増加しており、本件もその一環と見られます。
【出典】株式会社クレスコ「当社および連結子会社間における組織再編」
エレコム株式会社によるgroxi株式会社のM&A
エレコム株式会社は2023年6月、岩崎通信機の完全子会社であるgroxi株式会社の全株式を取得し、同社を子会社化しました。
groxiはネットワークの設計・構築・保守・運用に強みを持つ企業で、今回の買収によりエレコムは、ネットワーク関連機器の開発・販売に加えて、工事や運用保守を含めたワンストップのサービス提供が可能な体制を整えました。
岩崎通信機が有する無線技術やIP音声技術との連携により、特に中小企業のオフィスDXニーズに応える付加価値の高いソリューション提供が期待されます。ハードとソフトを統合したトータルソリューションの展開を目指す本件は、IT業界におけるサービス多様化と地域対応力の強化を象徴する事例といえます。
【出典】エレコム株式会社「groxi株式会社(岩崎通信機グループ)の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ岩崎通信機社との協業によるDX化推進ビジネスを強化」
コムチュア株式会社によるソフトウエアクリエイション株式会社のM&A
コムチュア株式会社は、2024年4月に完全子会社であるソフトウエアクリエイション株式会社(SCC)を吸収合併しました。SCCは2022年にグループ入りし、同社との一体経営を進めていましたが、事業領域の重複が多いことから今回の合併に至りました。
既に間接部門の統合も行われており、経営資源の最適化によって業務効率と収益性の向上が期待されています。合併後もコムチュアの商号や所在地などに変更はなく、グループの強固な組織体制の構築が進められています。
IT業界では、グループ内再編による事業戦略の統一とコスト最適化がM&Aの主要目的となる傾向が強まっており、本件もその典型的な事例といえます。
【出典】コムチュア株式会社「連結子会社の吸収合併(簡易合併)に関するお知らせ」
まとめ|システム開発業界の特徴を理解し、M&Aを成功へ
最後に、システム開発業界におけるM&Aのポイントを再確認し、今後の市場での成長戦略を考えるうえでの総括を述べます。
システム開発業界では人材不足や急激な技術変化といった課題がある一方、市場規模自体は拡大傾向にあり、M&Aは効率的な成長手段となっています。2025年に向けては異業種からの参入や内製化の動きがより活発化するため、売り手・買い手双方にとって多様な選択肢が広がるでしょう。
M&Aを成功させるためには、企業同士のビジョンや技術スタンスを適切にすり合わせ、従業員の不安を最小限に抑えるための社内コミュニケーションが重要です。
加えて、財務や法務面でのリスクチェックを徹底し、統合後のシナジーを最大化する計画を事前に練っておくことで、スムーズに成果を上げられます。システム開発業界の特性を理解したうえで戦略的にM&Aを活用すれば、急速に変化するIT市場の波を捉え、企業価値を高める飛躍的な機会となるでしょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。