CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.01.29
- 更新日2025.01.31
不動産M&Aが注目される理由は?メリット・デメリットや留意点
不動産M&Aは、節税効果の高さから注目を集めています。近年は不動産市場の変化や事業承継問題などを背景に、M&Aを検討する方が多くなっています。その一方で、売り手と買い手の双方にメリットをもたらすM&Aも、成功させるには専門知識や税務戦略が必要です。
本記事では、不動産M&Aの基本的な特徴やメリット・デメリット、税務上の留意点を解説します。不動産M&Aを成功に導くためにぜひ参考にしてみてください。
目次
不動産M&Aの特徴とは?
不動産M&Aにはどんな特徴があるのでしょうか。まずは一般的なM&Aとの違いを解説します。
不動産M&Aとは?
不動産M&Aは、不動産の取引を目的に行われるM&Aの手法です。一般的なM&Aが事業拡大や新規分野への参入を目指すのに対して、不動産M&Aでは投資や資産管理などのためにM&Aを検討します。
不動産M&Aの大きな特徴は、不動産そのものではなく、不動産を所有する企業の株式を売買することです。M&Aを行うことで、場合によっては不動産を直接売買するよりも税負担を抑えられ、節税効果を得られる可能性があります。
不動産業界の特徴
不動産業界では、業界に参入する事業者が増加傾向にあり、年々競争が激化しています。また、昨今はスマートビルディングをはじめとした最先端のテクノロジーの活用が進み、不動産業界においてもデジタル化が加速している状況です。
それに加えて、近年は全国的に地価が上昇傾向にあり、再開発により需要を大きく向上させたエリアも少なくありません。市場動向は好調であり、M&Aも活発になっています。
不動産M&Aに注目が集まる理由
不動産M&Aは、節税効果に加え、事業承継、遊休不動産の有効活用、企業価値向上といった様々なメリットがあり、近年注目されています。
不動産そのものを売買する場合、売り手側は不動産売却益に課税される法人税を負担するほか、法人税の控除後に所得税を負担することになります。また、買い手側は不動産の登記にあたり登録免許税・不動産取得税・印紙税などを納める必要があります。
それに対して、不動産M&Aで取引を行うと、売り手側は株式譲渡で譲渡所得に課税される所得税・住民税・復興特別所得税などを負担することになり、場合によっては法人税よりも節税効果が高くなる可能性があるのです。買い手側に関しても、不動産M&Aを利用すると不動産の所有者に変更がないので、登記に関わる税金の負担を抑えられます。
近年は、事業承継問題から不動産M&Aを利用する売り手が多くなっています。その理由は、不動産M&Aを利用すれば廃業で発生する手間と費用を大幅に抑えられることに加えて、従業員の雇用維持にも繋がるためです。M&Aによって、事業とともに所有する不動産を手放す事業者が多くなっています。
不動産M&Aの主な手法
不動産のM&Aの主な手法として、「株式譲渡」と「会社分割」があります。それぞれの特徴や違いをご紹介します。
株式譲渡の活用
株式譲渡は、買い手側が売り手側の株式を取得することにより、対象会社の株式を取得することで、当該会社が保有する不動産の支配権を獲得する手法です。この手法により、売り手企業(対象会社)が買い手側の子会社となり、不動産も含めて買い手側が支配することになります。一般的なM&Aでは株式譲渡後も事業を継続します。
一方、株式譲渡後に買収した事業を廃業する場合、廃業の理由によっては、税務当局から『法形式と経済実態の乖離』を指摘され、租税回避とみなされる可能性があります。特に、買収直後に正当な経済的理由なく廃業する場合や、廃業に伴う資産の売却等を通じて不当に利益を移転させる場合などは注意が必要です。
会社分割の活用
会社分割は、会社の一部の事業を他の会社(新設会社または既存会社)に承継させることです。その手法は大きく2つに分けられ、新たに設立した会社に承継する「新設分割」と、既存の会社に承継する「吸収分割」があります。不動産M&Aの場合、新設分割によって不動産を所有する子会社を設立し、その子会社の株式を売却するのが一般的です。
不動産M&Aと不動産売買はどちらが有利?
ここまでお伝えしたように、不動産M&Aを選択すると、売り手・買い手ともに不動産売買と比べて節税につながる可能性があります。場合によっては、不動産M&Aを選択したほうが手元に残る金額が大きくなるケースもあるでしょう。
その一方で、不動産も含めてM&Aで取引する際は、売り手・買い手ともに不動産売買と比べて多くの時間と手間がかかり、かつM&Aの専門知識が必要となります。不動産M&Aと不動産売買のどちらを選択するべきか、信頼できる専門家に相談した上で判断すると良いでしょう。
【売り手側】不動産M&Aのメリット・デメリット
不動産M&Aのメリット・デメリットを、売り手側の視点で見ていきます。
売り手側のメリット
不動産M&Aでは、不動産価値に加え、事業としての継続価値まで評価対象となります。また、既存の契約関係を継続すれば、テナントとの関係を維持することが可能です。個別資産の移転手続が不要となるので、手続面の効率性の面でもメリットがあるといえます。
場合によっては、不動産M&Aを選択することで、不動産売買よりも税負担を抑えられる可能性があります。専門家へ相談したうえで適切なM&Aスキームを判断するようおすすめします。
売り手側のデメリット
不動産M&Aでは、適切な買い手を見つけるのが難しいことがあります。不動産だけでなく事業承継も行うので、候補先が限られやすく、理想的な取引先が見つかるまでに時間がかかる傾向にあります。
また、M&Aは通常の不動産売買と比べて手続きに時間と手間がかかりやすいのが注意点です。難易度の高い手続きを期限内に済ませる必要があるので、専門家による支援が求められます。
【買い手側】不動産M&Aのメリット・デメリット
続いて、買い手側の視点でメリット・デメリットを見ていきます。
買い手側のメリット
不動産M&Aなら、通常の不動産売買で負担することになる登録免許税・不動産取得税・印紙税などが発生しません。それだけでなく、不動産の登記申請の手続きや、登記にかかる費用も不要となるので、不動産の取得にかかるコストを抑制できます。
また、売り手側が廃業を目的に不動産M&Aを利用するケースでは、買い手側の交渉次第で、売却価格を抑えられる可能性があるでしょう。
買い手側のデメリット
不動産M&Aでは、簿外債務や将来的な訴訟リスクなど、予期せぬ負債を引き継ぐ可能性があります。また、デューデリジェンスなどの詳細な調査に時間と費用がかかり、通常の不動産売買と比べて手続きが複雑です。取引に際してあらゆるリスクに備えるためにも、M&A仲介会社や専任アドバイザーのサポートを受けるのが良いでしょう。
不動産M&Aにおける税金面の留意点
不動産M&Aで発生する税金は、通常の不動産売買とは大きく異なります。ここでは、不動産M&Aの税金面について、押さえておきたいポイントをご紹介します。
株式譲渡による不動産M&Aに課される税金
株式譲渡による不動産M&Aの場合、売り手側には株式譲渡益に対して20.315%(所得税15.315%・住民税5%)の税率が適用されます。不動産売却益に対して33〜35%程度の法人税等が課されるほか、売主が課税事業者で、かつ事業用・投資用建物の場合は消費税も課されます。あくまでも個別の状況によるものの、株式譲渡のほうが税務上有利となる可能性があります。
ただし、具体的なケースに応じて、税務上の有利不利が変動するため、専門家と相談したうえで総合的に判断を行うと良いでしょう。
会社分割を用いた不動産M&Aに課される税金
新設分割による会社分割を行う場合、分割法人には資産・負債の譲渡損益に対する法人税が課され、株主への分配があれば配当課税の可能性があります。ただし、組織再編税制の適格要件を満たす場合には、譲渡損益に対する課税は発生せず、帳簿価額での引継ぎが可能となります。具体的な課税関係については、税理士などの専門家への相談をご検討ください。
短期所有土地の譲渡と見なされた場合
不動産M&Aにおいて、特定の条件に該当する場合には、「短期所有土地の譲渡に類似する株式等の譲渡」として取り扱われる可能性があります。これは、資産総額に占める土地等の割合が一定以上となる場合などが対象となり、通常の株式譲渡とは異なる税率が適用されることがあります。具体的な税率については、税理士等の専門家にご確認ください。
税負担を軽減するには?
不動産M&Aで税負担を最小限に抑えるためには、適切なスキームの選択が不可欠です。例えば、前述した短期所有土地の譲渡と見なされないよう、資産構成比率に注意を払うことで納める税金を減らせる可能性があります。専門家に相談し、不動産M&Aの実施が可能であるか確認し、適切な判断を行いましょう。
不動産のM&A事例
ランディックスによるリンネの完全子会社化
株式会社ランディックス(東京都目黒区)は、不動産テックベンチャーのリンネ株式会社(東京都千代田区)を完全子会社化しました。リンネは独自のIT技術と顧客管理システムを活用し、迅速かつ顧客ごとに最適化された不動産紹介を実現しており、東京エリアでの中古マンションの売買仲介を主力事業としています。
ランディックスは東京城南エリアで富裕層向け戸建住宅の売買仲介を主力とし、高いリピート率と紹介率を強みとしています。今回の子会社化により、リンネのIT技術を活用し営業組織全体の顧客対応を標準化、効率的な物件紹介を可能にします。また、富裕層顧客データとリンネの技術を組み合わせることで、仕入業務の効率化や新たな収益機会を模索します。
一方、リンネは人材不足やエリアノウハウの不足といった課題を抱えていましたが、ランディックスとの経営資源・ノウハウ共有により、事業成長を加速させる見込みです。戸建住宅とマンションという異なる物件種別を主軸とする両社は競合関係にならず、むしろ相互補完的なシナジー効果を発揮できると考えられています。
この提携により、ランディックスは「唯一無二の豊かさを創造する」という理念の下、IT技術を駆使して不動産業界の変革を促進し、さらなる事業成長を目指します。
【出典】株式会社ランディックス「ランディックスが不動産テックベンチャーのリンネを完全子会社化」
株式会社AVANTIAによるドリームホームグループのM&A
株式会社AVANTIA(愛知県名古屋市)は2021年4月、株式会社DreamTown、株式会社ドリームホーム、ドリームホーム株式会社から構成されるドリームホームグループの全株式を取得し、完全子会社化しました。
ドリームホームグループは、京都府内で戸建住宅の供給を行う株式会社DreamTownを中核とし、販売・仲介業務を担う2社を含む不動産事業者で、京都エリアでトップクラスの供給実績を誇ります。
一方、AVANTIAは中期経営計画に基づき関西地区での事業基盤拡大を進めており、今回の買収はその戦略の一環です。
この買収により、AVANTIAは関西地区での事業展開を加速させるとともに、ドリームホームグループのブランド力や営業力と、自社の住宅商品「AVANTIA」のデザイン性・品質を融合させ、顧客満足度の向上を図ります。
また、グループ内の連携による効率的な営業基盤の拡充や販売棟数の増加が期待されます。
ドリームホームグループにとっても、AVANTIAの経営資源やノウハウを活用することで、事業基盤をさらに強化し、地域でのプレゼンスを高めることが可能となります。このM&Aは、双方にとってシナジーを生む戦略的な提携として注目されています。
【出典】株式会社AVANTIA「ドリームホームグループの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
GA technologiesによるマーキュリーリアルテックイノベーターのM&A
2024年7月、GA technologies(以下「GA」)は、マーキュリーリアルテックイノベーター(以下「マーキュリー」)の普通株式に対する公開買付けを実施しました。本取引によりGAはマーキュリーを連結子会社化し、業務提携を通じた事業シナジーの創出を目指しています。
マーキュリーは、新築マンションや中古物件に関する不動産データベース事業を中心に展開する企業で、長年蓄積してきた正確な不動産価値分析に基づくデータ提供で不動産業界の信頼を得てきました。一方、GAは「RENOSY」ブランドで不動産投資や賃貸管理サービスを提供し、テクノロジーを活用したDX推進を特徴としています。
両社は、資本業務提携を通じて、より高精度な不動産データベースの構築やデータを活用した新サービスの開発を目指します。また、GAの技術力を活かし、マーキュリーのシステム開発力向上にも寄与することが期待されています。
本取引は、マーキュリーの上場を維持しながらも、GAが株式の過半数を取得する形で進められました。これにより、GAグループ全体の競争力を高めつつ、マーキュリーの企業価値向上を実現する狙いがあります。不動産テック業界における連携強化の好例として注目されています。
【出典】株式会社マーキュリーリアルテックイノベーター「株式会社GA technologiesによる当社株式に対する公開買付けに関する意見表明及び資本業務提携契約締結のお知らせ」
まとめ|正しい知識と戦略を持って不動産M&Aを成功させよう
不動産M&Aを活用すれば、事業承継や資産の管理において節税効果が期待できます。その一方で、手続きの複雑さや専門性の高さがハードルになりやすく、さらには買い手・売り手の選定が難しいといった課題が存在します。
不動産M&Aの特徴を正しく理解し、専門家の支援を受けながら自社に最適な戦略を立てましょう。
この記事の監修者
CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
CINC Capital取締役執行役員社長。リクルート関連会社や外資系製薬会社、大手・ベンチャー独立系M&A仲介会社で営業組織を牽引。 特にM&A実績の多い業界は調剤・IT・運送業。