CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.04.21
- 更新日2025.04.21
PR業界のM&A動向(2025年)メリット/事例/成功のポイントを解説
PR(パブリックリレーションズ)業界は、企業やブランドの認知度や価値の向上を目的とした広報・プロモーション活動を担う業界です。近年では広告代理店やIT企業との連携が進み、事業領域が広がる中でM&Aの動きも活発化している状況です。
本記事では、PR業界のM&A動向や事例、売却時のメリットを解説し、成功のポイントを紹介します。
目次
PR業界の市場動向
PR業界は、企業やブランドの認知度向上を目的とし、広報戦略の立案やメディアリレーションの構築を担っています。近年はデジタル化が進行し、SNSやインフルエンサーマーケティングがPR戦略の中心となるなど、市場環境は大きく変化しています。
日本国内の広告・プロモーション市場全体は拡大傾向にあり、なかでもインターネット広告費の成長が顕著です。株式会社電通の調査レポート「2023年 日本の広告費」によると、2023年における国内の総広告費は7兆3,167億円に達し、前年比3.0%の増加となっています。このうち、インターネット広告費は3兆3,330億円で過去最高を記録しました。
PR業界では、従来のマスメディア向けの広報活動だけでなく、デジタルPRの分野が急速に成長しています。SNSや動画コンテンツを活用した企業ブランディングが普及し、従来のPR会社だけでなく、デジタルマーケティングを専門とする企業が市場に参入しています。
PR業界が抱える課題
PR業界はデジタル化の進展や消費者の変化に対応しながら成長を続けていますが、特有の課題を抱えています。ここでは、PR業界が抱える課題を解説します。
デジタル化に対応する人材の不足
PR業界では、従来の報道対応やメディアリレーションズからデジタルPRへと重点が移行しています。M&Aを成功させるためには、①デジタルメディア対応力(SNS運用、オンライン配信、デジタルPRの実績)、②データ分析能力(PR効果測定、アトリビューション分析)、③テクノロジー活用力(MAツール、PR管理ツール導入状況)などを評価基準として、買い手企業の選定を行うことが重要です。
特にAIやデータアナリティクスを活用したPR効果測定が可能な企業との統合は、今後の競争力強化につながります。PR業界のデジタルトランスフォーメーションを見据えたM&A戦略が求められるでしょう。
広告の信頼性の低下
近年はフェイクニュース・誇大広告・過剰な宣伝活動などの影響により、消費者が広告に対して抱く信頼が低下しています。SNSの普及によって消費者が情報を容易に取得できる環境となった一方で、企業のPR活動が消費者から疑念を持たれることが増えてきました。PR業界では、透明性の高いコミュニケーションを図り、消費者との信頼関係を築くことが求められています。
プライバシー保護への対応
個人情報保護法やGDPR(一般データ保護規則)などの法規制の強化により、PR業界におけるデータ収集やターゲティング広告の活用が難しくなっています。消費者データを活用したマーケティングが重要な役割を果たす中で、プライバシー保護へどのように対応するべきか、業界全体の課題となっている状況です。透明性を確保しながらも安全なデータ運用を行うことが求められます。
PR業界のM&A最新動向(2025年)
PR業界は急速なデジタル化や市場の多様化が進む中、デジタル技術の活用やグローバル展開を目指す企業が増えており、M&Aが活発化しています。ここではPR業界の最新動向をご紹介します。
デジタルPR企業の買収が加速
PR業界では、SNS活用やオンラインメディア対応に特化した企業の買収が増加傾向にあります。デジタルマーケティングの重要性が高まる中、デジタル領域に強みを持つ企業の買収によって、オンラインメディアを駆使した新しい戦略を実現することが可能です。また、インフルエンサーやSNSキャンペーンの分野で強力なプラットフォームを持つ企業の買収も注目されています。
事業承継を目的としたM&Aの増加
日本国内では、中小企業の経営者の高齢化が進み、事業承継問題が深刻化しています。PR業界においても、後継者不在の企業がM&Aを通じて事業を引き継ぐケースが目立ちます。M&Aによって企業の存続や雇用の維持が可能となるため、事業継続の手段として注目されている状況です。
海外企業による日本市場への進出
グローバル化が進む中で、海外企業が日本のPR市場に参入するケースも増加傾向です。海外企業は、日本市場における認知度向上や新規顧客開拓を目的として、現地企業とのM&Aを進めています。日本市場の特性に合わせたローカライズや、現地パートナーとの提携が重要な要素となる中で、M&Aを活用して市場での競争力を高めています。
PR会社がM&Aで売却するメリット
PR業界の厳しい競争環境や市場変動に適応するために、M&Aは有効な戦略だといえるでしょう。ここでは、売り手側のPR会社がM&Aを行う具体的なメリットについて解説します。
市場対応力の強化
市場競争が激化するPR業界において、M&Aは中小企業が限られた資源を生かして市場対応力を強化する手段の一つです。売り手側はM&Aによって大規模な企業グループに参加することで、市場のニーズに柔軟に対応できる体制を整えられます。新たな顧客層や市場へのアクセスにより、競争力を高められるでしょう。
デジタル戦略の強化
近年のPR業界では、SNSやオンラインメディアの活用がますます重視されています。M&Aによってデジタルマーケティングやインフルエンサーマーケティングに特化した企業と統合すれば、自社のデジタル戦略を強化し、オンラインでの影響力を増すことができます。また、デジタル領域のノウハウやリソースを迅速に取り込み、時代の変化に柔軟に対応できるでしょう。
事業承継問題の解決
M&Aは事業承継の新たな解決策としても注目されています。中小規模のPR会社では、経営者の高齢化にともなう後継者不足が大きな問題となっていますが、M&Aは事業の存続と従業員の雇用を維持する有効な手段となり得ます。M&Aを通じて経営者が事業を次世代に引き継げば、会社の継続性が保たれるのがメリットです。
経営資源の強化と規模の拡大
PR業界における厳しい競争環境を生き抜くためには、経営資源の強化と事業規模の拡大が不可欠です。売り手側はM&Aによって資本力のある企業と提携でき、資金や人材、技術面での支援を受けられます。市場における競争優位性を確保し、事業の成長を加速させることが可能です。
PR会社がM&Aで売却を成功させるためのポイント
PR業界におけるM&Aを成功させるためには、業界特有の課題を理解し、戦略的に準備や交渉を進めることが必要です。以下のポイントを押さえて、円滑にM&Aを進めましょう。
デジタル化への対応力
PR業界では、Web広告やSNSなどのデジタルメディアを駆使する企業が成長しています。M&Aを行う際には、相手企業が有するデジタル技術やWeb関連のノウハウを確認することが重要です。特に、マーケティングスキルやソフト開発能力が高い買い手企業を選ぶことで、デジタル化の波に乗りやすくなり、今後の競争優位を確保しやすくなります。
グローバル化の視点を持つ
PR業界では、国内市場だけでなく、海外の顧客や企業との取引も増加しています。M&Aを成功させるためには、「相手企業がグローバル展開を視野に入れた戦略を持っているか」「グローバル市場に対応する能力を持っているか」を見極めることが大切です。海外でのネットワークや経験を活かせる企業との統合で、事業の拡大が期待できます。
業界特有のノウハウを共有できる体制作り
PR業界の事業では、顧客に対して高い付加価値を提供するために、業界特有のノウハウや経験が重視されます。M&Aによる統合では、こうした業界特有のノウハウを共有できる体制作りが求められます。双方の企業文化や運営体制を理解し、スムーズに統合できる体制を整えることがポイントです。
人材流出リスクへの対応
PR業界において、クライアントとの関係構築に長けたコンサルタントやプランナーなどの人材は、重要な資産となります。M&A後にこのような人材が離職してしまうと、クライアント離れにつながるリスクがあります。
人材流出リスクを防ぐために、キーパーソンと一定期間の継続勤務契約を締結する、リテンションボーナスやストックオプションなどのインセンティブ制度を設計するといった方策を検討することが求められます。加えて、M&A後の役割と権限を明確に示し、不安を取り除く必要もあるでしょう。また、優秀な人材がM&A後も経営に参画できる体制を構築することで、モチベーション維持と継続的な価値創出が期待できます。
クライアント離脱リスクへの対策
長期的な信頼関係に基づくPR業務では、担当者変更や経営方針の転換がクライアントの不安を招く可能性があります。M&Aの際はクライアント離脱のリスクについても考慮し、対策を講じましょう。
M&Aの前には、守秘義務の範囲内で主要クライアントへの事前説明を行い、理解を得ることが大切です。担当チームの継続を保証することで顧客側も安心感を得られます。また、M&A後のサービス向上や付加価値について明確に伝えた上で、クライアント契約の再確認と更新を行うこともポイントです。綿密なコミュニケーション戦略を立て、クライアントとの信頼関係維持に努めましょう。
PR業界のM&A事例
最後に、PR業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社ベクトルによる株式会社 gracemodeのM&A
2025年4月、戦略PRを中核とするマーケティング支援企業・株式会社ベクトルは、美容・コスメ領域に特化したSNSマーケティングを展開する株式会社gracemodeを買収し、連結子会社化することを発表しました。
gracemodeはSNSメディアを活用した認知拡大から購買促進までを一貫支援する体制を強みとしており、成長著しい企業です。
今回の買収により、ベクトルはSNSを中心としたデジタル領域でのサービス強化を図り、既存のPRノウハウとgracemodeの知見を掛け合わせることで、顧客へのマーケティング支援の幅を拡大します。
インターネット広告市場が拡大を続ける中、特にSNS広告のニーズは高まっており、本件はデジタルシフトへの対応を強化する戦略的M&Aといえます。
【出典】株式会社ベクトル「株式会社 gracemodeの株式の取得(連結子会社化)に関するお知らせ」
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社による株式会社cadreのM&A
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社は2025年3月、総合家電・美容商品メーカーである株式会社cadreの発行済株式51%を取得し、子会社化すると発表しました。
cadreはYouTube番組「Nontitle」から生まれたスタートアップで、直感的操作と高いデザイン性を備えたヘアドライヤーや高機能ヘアオイル、食品洗浄器などのD2C製品を展開。発売初日で1億円の売上を達成するなど急成長を遂げています。
アジャイル社はファンマーケティングに強みを持ち、cadreのデジタル戦略やSNS活用と自社のインフルエンサーネットワークとの相乗効果を見込んでいます。
さらに、グループが展開するEC小売事業との連携によって、製品ラインナップの拡充と収益基盤の強化を図る狙いです。D2CやSNSマーケティングを活用する新興企業との提携は、今後の成長ドライバーとして注目されています。
【出典】アジャイルメディア・ネットワーク株式会社「株式会社cadreの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
株式会社イルグルムによるルビー・グループ株式会社のM&A
株式会社イルグルムは2024年8月、ラグジュアリーブランド向けにECサイトの構築・運営を手がけるルビー・グループ株式会社の全株式を、親会社であるSMN株式会社から取得し、子会社化することを発表しました。
イルグルムはこれまで、EC構築プラットフォーム「EC-CUBE」などを中心にコマース支援事業を展開しており、今回の買収により、ルビー・グループが持つEC運用代行やフルフィルメント機能を取り込むことで、構築から運用までを一気通貫で提供する垂直統合モデルをさらに強化します。
ルビー・グループは、高価格帯ブランドに特化したEC支援実績を有しており、今後の成長ドライバーとして期待されています。EC市場の競争が激化する中、運用支援まで担う企業の価値が高まっており、本件はECソリューション提供企業の競争力強化を目的とした戦略的M&Aといえます。
【出典】株式会社イルグルム「ルビー・グループ株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
まとめ|PR業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
PR業界のM&Aは、デジタル化の加速と市場競争の激化により今後も活発化すると予想されます。成功のポイントは、クライアント基盤の継続性確保・優秀な人材の流出防止・デジタル対応力とグローバル展開力の強化・企業文化の融合にあります。
特にPR業界では、単なる規模拡大だけでなく、専門性と創造性を維持しながら新たな価値を作り出すことが重要です。M&Aを検討する際は、業界動向を熟知した専門家のサポートを受けることで、リスクを最小化しながらより大きな統合効果につなげられるでしょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、PR業界のM&Aに関するご相談を受付中です。PR業界特有の課題に精通した業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の戦略的なM&Aをサポートいたします。PR会社経営者の皆様のM&A・事業承継のご相談をお待ちしております。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。