CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.21
- 更新日2025.04.21
食品卸業界のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例を解説
近年、食品卸業界では多様化する消費者ニーズや流通構造の変化に対応するため、企業間提携やM&Aが大きな注目を集めています。物流コストの上昇や競合環境の激化など、市場を取り巻く課題は増えており、それに合わせた経営戦略の転換が求められています。こうした状況下で、M&Aを活用した事業再編やシナジー創出が業界全体から注目されているのです。
特に近年では、新型コロナウイルスの影響から少しずつ回復している外食需要やインバウンド需要が、食品卸業界の商機を後押ししています。一方で、原材料価格やエネルギーコストの変動などによって収益性の維持が難しくなり、経営環境は依然として不透明です。
本記事では、食品卸業界において進むM&Aの動向や最新事例、メリット・デメリットについて詳しく解説します。業界事情を踏まえた戦略的なM&Aを検討する際の参考にしていただければ幸いです。
目次
食品卸業界の最近の市場動向
世界的な経済変動に伴い、食品卸業界でも取扱製品の多角化や物流コストの高騰などが注目されています。
食品卸業界はメーカーと小売・外食店舗をつなぐ重要な中間役割を担っており、その市場規模は約88兆円を超えると試算されています。近年は消費者の健康志向や嗜好の多様化によって、取り扱う食品ジャンルが多角化する傾向にあります。これにより、より幅広い品目の流通管理や品質保持が求められ、物流網と在庫管理の高度化が不可欠となっているのです。
一方で、物流費の高騰や国際情勢の変動による輸入コストの増加は、卸業者の収益を直撃する大きな課題です。さらに、小売業の大型化によるプライベートブランド商品の増加など、従来の食品卸ビジネスにとっては競合要因も増しています。こうした環境変化に対応するため、企業規模の拡大や協業体制の構築を目的としたM&Aの動きが活発化している点が、現在の市場動向の特徴と言えるでしょう。
食品卸業界が直面する課題
食品卸業界では、社会構造や経済環境の変化を背景に、さまざまな課題に直面しています。ここでは、主な課題を3つ見てみましょう。
少子高齢化による消費市場の縮小
少子高齢化が進む日本では、総人口の減少によって国内の消費市場そのものが縮小傾向にあります。とりわけ若年層を対象とした商品が伸び悩む一方で、高齢者向けの健康食品や冷凍調理品への需要が増加している点が特徴です。
食品卸業者はこうしたトレンドを的確に捉え、新しい市場セグメントへのアプローチを強化する必要があります。従来の大量流通型ビジネスモデルから、より高付加価値・小ロット対応へシフトすることが重要となるでしょう。
食品価格の変動や輸入コストの上昇による利益率低下
国際的な原材料価格の高騰や為替レートの変動は、輸入食材を取り扱う企業にとって大きな負担となります。特に水産物や農産物などの生鮮食品では、調達コストの上昇が顕著で、利益率の圧迫要因となっています。
こうした環境下で利益を確保するには、一括購買や物流の効率化といったスケールメリットの追求が不可欠です。M&Aを通じて物流拠点の統合や取引条件の再交渉を実現することは、こうしたコスト上昇に対処する有効な手立てと言えます。
小売業や飲食業界との直接取引の増加による卸業者の役割低下
大手小売や外食チェーンでは、メーカーや農業生産者との直接取引を拡大し、コスト削減を図る動きが進んでいます。これにより、中間流通を担う卸業者は付加価値の低下や取引量の減少という厳しい状況に直面しています。
新商品開発のコンサルティングやマーケティングサポートなど、卸業者だからこそ提供できる付加価値が見直される必要があります。M&Aを活用し、専門性の高い業務領域への進出や他社のノウハウとの組み合わせを図ることが、存在意義の再定義に繋がるでしょう。
食品卸業界のM&A最新動向
食品卸業界では事業承継や物流効率化を狙ったM&Aが加速しており、大手企業だけでなく中堅・中小企業でも再編の動きが見られます。ここでは、主な最新動向を3つ見てみましょう。
深刻な後継者不足の加速
日本全体の中小企業が抱える後継者不足は、食品卸業界にも大きな影響を及ぼしています。特に家族経営の企業では、経営者の高齢化が進み、後継ぎが見つからないまま事業を停止せざるを得ないケースも顕在化しています。M&Aによって、事業基盤や顧客ネットワークを買い手が引き継ぐ形が増え、従業員や取引先にとっても安定的な事業継続が期待できます。
こうした後継者不足は今後さらに深刻化が予想され、M&Aがその解決策としてますます注目を集めています。
大手企業による積極投資
大手企業が食品卸を買収する際の目的は、流通の垂直統合や新たな市場への参入など多岐にわたります。特定分野に強みを持つ中小企業を傘下に収めることで、クロスセルの機会が増え、売上拡大と同時にリスク分散も図れるのです。
さらに、地域ブランドや独自の生産ネットワークを活用し、差別化戦略を推進することも可能となります。こうした積極的な投資姿勢は、業界再編を加速させる要因の一つと言えるでしょう。
物流・販売網拡大による効率化の追求
食品卸業は全国的な物流や地域密着の配送網を駆使し、多種多様な顧客に商品を届けています。しかし、それぞれの企業が個別に物流や販売網を維持するのはコスト面や効率面で課題が多いのも事実です。
M&Aによる企業統合で拠点の集約やシステムの統合を行えば、物流コスト削減とスピーディな流通が期待できます。販売や仕入れのスケールメリットを活かすことで、適正在庫管理やプライシング戦略にも余裕が生まれ、競争力の向上につながるでしょう。
【売り手】食品卸業界がM&Aをするメリット
株式譲渡や事業譲渡などにより、自社の持つ課題を解決できる可能性があります。ここでは、食品卸業界がM&Aをする売り手目線のメリットをご紹介します。
規模拡大によるコスト削減と効率化
M&Aを通じて事業規模が拡大すると、仕入れや物流におけるスケールメリットが得られます。例えば、大量発注により単価を下げられたり、配送拠点の統合で配送料を削減できたりと、コスト構造を大きく改善できる可能性があります。
また、経営資源をより広範に活用できるため、新規事業への投資や設備更新も効率良く進められます。こうした規模の拡大による経営効率化は、食品卸業界において高い競争優位性を確保する上で欠かせない要素です。
食の安全・品質管理体制の強化
食品卸業界においては、食の安全と品質管理は常に最優先課題です。大手企業とのM&Aでは、より高度な生産管理やトレーサビリティシステムの導入が期待でき、安全面での信用力を高めることができます。
さらに、取扱製品の品質や物流の基準が統一されることで、取引先との関係を強固にする効果もあります。消費者の信頼を得るための不可欠な要素として、M&Aを契機とした管理体制の充実は大きなメリットと言えるでしょう。
ブランド力向上と販路拡大
買収先の企業が持つブランドや販路を活用することで、市場での認知度を一気に高めることができます。元々地域限定で展開していた食品卸が、全国規模の販路を得るケースも少なくありません。
これにより、商品ラインナップの拡充はもちろん、異なる顧客層へのアプローチも容易になります。ブランドの相乗効果を生かした拡販戦略を実行できる点は、売り手企業にとって大きな魅力です。
【売り手】食品卸業界がM&Aをする注意点
M&Aには、いくつかのデメリットが存在します。今後M&Aを検討する中で、売り手側が知っておくべき注意点は以下の通りです。
従業員の雇用継続とブランド維持
大がかりなM&Aになるほど、従業員の雇用条件や人事制度にも大きな変化が生じる可能性があります。売り手としては、従業員の不安を払拭し、適切な情報共有を行うことで離職リスクを抑える施策が必要です。
また、これまで築いてきたブランドイメージを維持するためには、買い手との方針すり合わせが欠かせません。企業文化を尊重しながら統合を進めることで、M&A後の新体制も円滑に機能するでしょう。
財務・会計情報の正確性と開示
売却プロセスを成功させるには、デューデリジェンスに必要な財務情報を正確に整備し、タイミングを誤らず開示することが重要です。もし情報の不備や誤りが発覚すれば、買い手の信用を損ない、評価額の大幅なマイナスや交渉破談につながるリスクもあります。
特に食品卸業の場合、在庫管理や売掛金、物流コストなどの項目が複雑化しやすく、専門家のサポートが不可欠です。正確な情報開示は、M&A成功の大前提と言えるでしょう。
早期からの専門家相談の重要性
食品卸業界に特化したM&Aの専門家やファイナンシャルアドバイザーを活用することで、交渉や契約内容の最適化が期待できます。特に業界特有の対面商談や地域密着型の取引慣行など、一般的なM&Aとは異なる注意点が多々あるのも事実です。
早めに専門家を交えることで、潜在的なリスクを洗い出し、買い手との交渉を優位に進めることが可能になります。結果として、企業価値を適正に評価され、スムーズなクロージングへと導く要因となるでしょう。
【買い手】食品卸業界をM&Aするメリット・デメリット
買い手企業にとっては事業ポートフォリオの強化など多くのメリットがありますが、業界特有の商慣行などがリスクとなる場合もあります。
買い手企業としては、食品卸業界への参入によって既存のバリューチェーンを強化し、垂直統合を図るチャンスとなります。すでに確立された顧客基盤や物流ネットワークを活用することで、新分野への投資コストを抑えつつ売上拡大を目指すことができます。
また、食品卸企業が持つ信頼関係や地域密着型の取引があれば、ブランド力の補強にも繋がるでしょう。
一方で、業界特有の商慣行や長年培われてきた取引先との関係性をスムーズに引き継ぐのは容易ではありません。業務フローの違いや企業文化の相違など、PMI(Post Merger Integration)の段階で課題が顕在化することも考えられます。
さらに、在庫リスクや食品ロス管理といった業界固有の問題にも配慮が必要です。これらのデメリットを把握したうえで、綿密な計画を立てることでリスクを最小限に抑えることが可能となります。
食品卸業界の主なM&A事例
最後に、食品卸業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社ヤマタネによる株式会社ショクカイのM&A
2023年8月、物流・食品事業を展開するヤマタネは、業務用冷凍食品卸のショクカイを買収し、完全子会社化しました。取得株式数は約31万株、取得価額は約69億円です。ショクカイは全国規模で弁当・給食向け冷凍食品を安定供給する業界大手で、食品ロス削減や高付加価値商品の開発にも積極的に取り組んでいます。
本件により、ヤマタネは食品流通分野のソリューション強化を図るとともに、既存取引先との連携強化や全国販売網の活用による事業拡大が期待されます。
ショクカイの安定した事業基盤と商品開発力は、ヤマタネの「食の流通を通じた社会貢献」という長期ビジョンの実現を後押しする形となります。冷凍食品市場の成長を背景に、物流と食品の融合による相乗効果が注目されます。
【出典】株式会社ヤマタネ「株式会社ショクカイの株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
株式会社マルイチ産商による株式会社ダイニチのM&A
2024年9月、マルイチ産商は愛媛県の養殖魚事業者ダイニチを子会社化することを発表しました。ダイニチは真鯛やブリなどの養殖から加工・販売までを手がける企業で、特に真鯛では世界初のASC認証取得実績を持つなど、高度な養殖技術を有しています。
本件は、水産業界におけるビジネスモデルの転換期を見据えた戦略的M&Aであり、集荷・販売中心の従来型モデルから、利益率の高い生産分野へのシフトを加速する狙いがあります。
マルイチ産商は、本件を通じて国内外の販路を強化し、「協業型」の養殖ビジネスモデルを推進する方針です。今後は国内養殖推進部門の設立など体制強化を図り、2035年までに営業利益ベースで20億円の創出を目指しています。産地と市場をつなぐ新たな流通体制の構築が期待されます。
【出典】株式会社マルイチ産商「株式会社ダイニチの株式取得(子会社化)及び資金の借入に関するお知らせ」
株式会社トーカンによる三給株式会社のM&A
2021年4月、セントラルフォレストグループは、子会社トーカンを通じて三給株式会社を完全子会社化しました。三給は愛知県を拠点に給食向け食品卸売業を展開しており、子会社ヒカリも惣菜向け食品卸売を手がけています。
本件により、同グループは給食市場への本格参入と中食・惣菜市場での販路拡大を図る戦略です。両社の営業基盤や顧客層を活かすことでシナジーを創出し、企業価値の向上を目指します。
食品流通の多様化が進む中、特定地域に強みを持つ卸企業を取り込むことで、セントラルフォレストグループはより柔軟かつ競争力のある流通体制の構築を進めています。
【出典】セントラルフォレストグループ株式会社「三給株式会社の株式取得に関する株式譲渡契約書締結についてのお知らせ」
まとめ|食品卸業界の特徴を理解し、M&Aを成功へ
食品卸業界の特性を十分に理解し、適切なスキームを組むことで、M&Aの成功確率は大きく高まります。
食品卸業は生産者と消費者を結ぶ重要な役割を担い、スピード感や確実性が求められるビジネスモデルです。物流コストや原材料価格の影響を受けやすいため、経営環境の変化に合わせた柔軟な対応が不可欠となります。M&Aを上手く活用すれば、後継者問題の解消や新市場への進出、経営効率の向上といった様々な効果を得られる可能性があるのです。
しかしながら、買い手にとっては業界特有の商慣行や企業文化への理解、売り手にとっては財務情報の整備と従業員への配慮が欠かせません。両者が綿密な準備とコミュニケーションを図り、専門家の力も借りながらプロセスを進めることで、円滑かつ効果的なM&Aを実現できます。食品卸業界ならではの特徴を把握した上で、適切な戦略を立てることが、今後のビジネス成長において一層重要となるでしょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。