CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.01.29
- 更新日2025.01.31
物流業界におけるM&Aの動向とは?市場規模や業界特有の注意点
EC市場の拡大や環境問題への対応、人材不足など、日本の物流会社・運送会社は多くの課題を抱えています。このような状況を背景に、業界ではM&Aが活発化しており、企業再編や効率化を目指す動きが加速している状況です。
今回は、物流業界の市場規模やM&A動向、買い手・売り手双方のメリットと注意点について徹底解説します。
目次
物流業界とは
物流業界は、商品の輸送・保管・流通を担う経済インフラであり、現代企業の経済活動を支える基盤的な役割を担います。昨今、この業界は大きな変革を迎えているといわれています。
特筆すべきは、業界内における企業再編の活発化です。これまでも経営戦略としてM&Aを活用してきた業界でしたが、近年はその動きが一段と加速しています。業界が直面する構造的な課題に対し、戦略的な対応としてM&Aを検討する企業が増えています。
物流業界特有の課題
物流業界特有の動向として、EC市場の急速な拡大にともなう需要増大が挙げられます。業界に新たな成長機会をもたらす一方で、人材確保や物流効率化などの課題を浮き彫りにしました。具体的に見ていきましょう。
人材不足と高齢化
物流業界は深刻な人材不足に直面しており、とりわけトラックドライバーの確保が喫緊の課題となっています。
物流業界向け経営支援サービスを提供する「X Mile」社のアンケート調査によると、回答企業の52.7%が「ドライバーの定着・確保に困難している」と答えています。激しい価格競争にともなうトラックドライバーの労働環境の悪化、高齢化などが背景にあるとされます。
【参考】X Mile株式会社「物流経営者300名に聞いた、2024年問題の実態調査」
小口配送の増加と積載率の低下
経済産業省の調査によると、BtoC-EC市場における物販分野の58.7%がスマートフォン経由での取引となっています。
個人による通販利用は増加傾向にあり、今後も配送の小口化が進むと考えられるでしょう。また、上記で解説したドライバーの高齢化、そして小口配送の増加にともない、トラック1台あたりの積載効率が低下しています。
コストの上昇
日本は燃料の大部分を輸入に頼っています。ロシアによるウクライナ侵攻など、世界情勢の変動を受けて燃料費や各種コストが高騰し、サービス価格に反映されている状況です。
環境問題への対応
SDGsなどの動きから、物流業界は環境負荷低減をはじめとする社会的要請を受けています。
問題解決に向けて、モーダルシフトの推進や環境配慮型車両の導入が進められていますが、これらの取り組みには多額の投資が必要です。環境対策への投資は大きな経営負担となっている実情があります。
物流業界の市場規模
なぜ日本の物流業界において、M&Aが増加傾向にあるのでしょうか。ここからは、物流業界の市場規模やM&A動向について詳しくお話します。
物流業界の市場規模
日本における物流事業全体の市場規模は、約29兆円とされます。このうちトラック運送事業が約19兆円を占め、物流業界全体の約60%を担う中核的な存在となっています。
【出典】公益社団法人全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題2023」
物流業界におけるM&Aの動向
物流業界におけるM&Aの件数は増加傾向にあります。その背景には、大手企業による事業ポートフォリオの再構築や、ファンドによる投資など、多様な要因が存在します。経営基盤の強化などを目的として、活発にM&Aが行われている状況です。
物流業界でM&Aが増加している背景
労働力不足の解消に向けて、物流業界では戦略的なM&Aが展開されています。特に深刻な問題が、上述したトラックドライバーの高齢化です。国土交通省の調査によると、大型トラックドライバーの平均年齢は47.5歳、中小型トラックドライバーは45.4歳と、全職種平均の42.2歳を大きく上回っています。
また、M&Aによって地理的なネットワークの拡充や、専門サービス領域への進出が可能となります。具体的には、運送ネットワークの効率化、新たな物流拠点の確保、特殊な輸送技術の獲得などを実現できるため、大手企業を中心に、M&Aに積極的な姿勢を見せています。
【売り手側】物流業界におけるM&Aのメリット・デメリット
M&Aは、業界特有の課題を効果的かつ効率的に解消できる手段です。ここからは、物流業界のM&Aにおける売り手側のメリットとデメリットについて詳しくご説明します。
売り手側のメリット
後継者不在に悩む中小企業にとって、M&Aは事業承継問題を解決する手段となります。従業員の雇用を守りながら、会社の存続を実現できる点が大きな魅力です。
加えて、大手企業の傘下に入ることで、経営基盤の強化も期待できます。昨今問題視されている2024年に適用される労働時間規制への対応や、デジタル化への投資といった課題に対して、盤石な体制で取り組めるでしょう。
売り手側のデメリット
経営の自主性が制限されたり、長年培ってきた企業文化に変化を求められたりする可能性があります。また、従業員のモチベーション維持や取引先との関係継続についても、慎重な対応が必要です。
【買い手側】物流業界におけるM&Aのメリット・デメリット
続いて、買い手側のメリットとデメリットを見ていきます。M&Aを検討する中小企業の経営者は、以下の点を把握しておきましょう。
買い手側のメリット
深刻な人手不足に直面している物流業界において、M&Aを通じて経験豊富な人材を一度に確保できるのは大きなメリットです。特にドライバーについては、即戦力となる熟練の人材を獲得できます。
また、事業規模の拡大という観点からも、M&Aは効果的な経営戦略といえます。新しい物流拠点の獲得や輸送ネットワークの拡大により、効率的な物流体制を構築できるでしょう。輸送コスト削減や配送効率向上が期待できます。
買い手側のデメリット
買い手側のデメリットとして、組織文化の違いによる従業員の流出リスクが挙げられます。特に管理職層や熟練社員の離職は、事業継続に大きな影響をおよぼす可能性があるでしょう。さらに取引先との関係維持も重要な課題です。M&A後の契約条件の変更、料金体系の見直しにより、取引先との関係が悪化するリスクも考慮しなければなりません。
物流業界におけるM&Aの相場とは
M&Aの件数が年々増加している物流業界ですが、具体的にどの程度の金額で取引されているのでしょうか。株式取得や株式譲渡、事業譲渡の基礎知識、そして企業価値の算出方法についてご説明します。
物流業界におけるM&Aの価格相場
物流業界のM&Aでは、「EBITDAマルチプル法」「年倍法」「純資産価額法」などの算出方法が使われます。評価において重視されるのは、車両等の資産状況、営業所・物流拠点の立地、人材(ドライバー)の質と定着率などです。
このほかに、取引先との契約内容や、許認可の承継可能性なども評価対象となります。具体的な価格に関しては、M&Aの専門家へご相談ください。
企業価値を算定する主な手法
コストアプローチ
コストアプローチとは、企業が保有する資産の時価評価額から負債を差し引いて企業価値を算出する手法です。物流業界特有の資産である車両や倉庫といった、実物資産の価値を適切に反映できる利点があります。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、市場における取引事例や類似企業の株価などを参考に企業価値を算定する手法です。同業他社の時価総額やM&A事例を比較することで、より客観的な価値評価が可能となります。
物流業界におけるM&Aの注意点
物流業界のM&Aでデューデリジェンスを実施する場合、法務面に関して「貨物自動車運送事業法に基づく許認可」「営業所ごとの許可内容」「労務関連の法令遵守状況」「事業用車両の登録状況」などの詳細な確認が行われます。
また、売り手側は主要ドライバーの退職などの人材流出リスク、サービス低下による顧客離反リスクに注意しましょう。これらのリスクを避けるためには、事前説明を丁寧に行うとともに、従業員への処遇維持の明確化、取引先との関係維持などに努めることが大切です。
さらに、物流業界のM&Aでは許認可関連の継承が不可欠であるため、専門家を交えた入念な事前確認を行いましょう。
物流業界のM&A事例
ロジストラスト・パートナーズ株式会社によるデイリートランㇲ株式会社のM&A
ロジストラスト・パートナーズ株式会社(東京都中央区)は、2024年4月1日付でデイリートランス株式会社(大阪府高槻市)の全株式を取得し、子会社化しました。本件は、物流業界における規制強化と人材不足に対応するための施策の一環です。
デイリートランスは食品や酒類を中心とした物流事業を展開する企業で、特に関西エリアにおける低温物流に強みを持ちます。今回の買収により、ロジストラスト・パートナーズはこのエリアでの物流機能を強化し、安定した輸送力の確保と事業領域のさらなる拡大を目指します。
トラック運送業界では2024年からドライバーの時間外労働規制が施行され、輸送能力の維持が課題となっています。この環境下でのM&Aは、物流機能の効率化と地域ごとの事業基盤強化を図る上で有効な手段といえるでしょう。ロジストラスト・パートナーズは国分グループ企業として、食品物流の品質向上と事業拡大に注力する方針を示しています。
【出典】ロジストラスト・パートナーズ株式会社「デイリートランス㈱を子会社化」
株式会社バローホールディングスによる中部興産株式会社のM&A
バローホールディングスの連結子会社である中部興産株式会社(岐阜県可児市)は、2024年4月2日付で株式会社鷺富運送(石川県白山市)の全株式を取得し、子会社化しました。
鷺富運送は、北陸地域を中心に食品や医薬品の輸配送を手掛け、3温度帯に対応する物流サービスを強みとしています。一方、中部興産は物流センターの運営や自社配送を展開し、東海・北陸・関東・関西エリアに広範な物流ネットワークを有しています。
今回のM&Aにより、両社は倉庫運営ノウハウの共有やシステム投資の効率化、人材交流の促進を図るとともに、両社のネットワークを活用した新規業務の拡大や配送効率の向上を目指します。また、両社の得意領域を生かしたサプライチェーンの高度化にも期待が寄せられています。
物流業界では効率的な物流システムの構築が重要な課題となっており、本件は地域密着型の物流強化を通じた競争力向上を目指す好例といえます。
【出典】株式会社バローホールディングス「当社連結子会社による株式取得(孫会社化)に関するお知らせ 」
アート引越センター株式会社によるヤマトホームコンビニエンス株式会社のM&A
アート引越センター株式会社(大阪府大阪市)は、2022年1月17日付でヤマトホールディングス株式会社(東京都中央区)の子会社であるヤマトホームコンビニエンス株式会社(以下、YHC)の株式51%を取得し、連結子会社化しました。
アート引越センターは、引越サービス業界の大手企業で、単なる引越だけでなく、生活支援を重視したサービス展開に力を入れています。一方、YHCは単身者向け引越サービス「わたしの引越」や「家財宅急便」を提供する専門性の高い企業です。両社は2020年10月から協業の可能性を検討し、2021年7月に株式譲渡契約を締結しました。
本件により、両社はネットワークと経営資源を共有し、荷物量や顧客ニーズに応じた幅広いサービスを提供する体制を構築。また、輸送の効率化やサービス品質の向上も期待されています。単身者から家族世帯まで対応する競争力のある事業基盤の強化が図られるM&Aとして注目されます。
【出典】アート引越センター株式会社「ヤマトホームコンビニエンス株式会社の株式取得に関するお知らせ」
まとめ|物流業界の特性を理解してM&Aを成功させよう
物流業界のM&Aでは、「許認可の承継可否の事前確認」「従業員(ドライバー)の処遇維持」「物流ネットワークの維持・拡大戦略」が特に重要となります。
これらのポイントを踏まえたうえで、明確な統合計画を立案し、専門家のサポートを受けることがM&A成功の鍵となります。スムーズな買収・売却を進めるために、専門知識を持つ専門家へご相談ください。
この記事の監修者
CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
CINC Capital取締役執行役員社長。リクルート関連会社や外資系製薬会社、大手・ベンチャー独立系M&A仲介会社で営業組織を牽引。 特にM&A実績の多い業界は調剤・IT・運送業。