CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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- 公開日2025.04.11
- 更新日2025.04.14
病院の売却動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
近年、病院の売却を検討する経営者が多くなっています。病院の経営環境は年々厳しくなっており、後継者が見つからないケースも少なくありません。その一方で、M&Aによる課題解決の動きが活発化しており、適切な売却先を見極めることが重要になっています。
本記事では、2025年の病院売却の動向や成功のポイント、実際の事例を解説します。
目次
病院・医療業界の市場動向
日本の医療業界では、高齢化の進行にともない医療費が増加を続けています。内閣府が公表する「令和6年版高齢社会白書」によると、2023年10月1日時点における65歳以上人口は3,623万人、75歳以上人口は2,008万人となっている状況です。
また、厚生労働省が公表する「令和5年度 医療費の動向」によると、2023年度の医療費は47.3兆円に達し、前年度比で約1.3兆円(2.9%増)の増加となりました。
このように高齢化が進行する一方で、病院数は減少傾向が続いています。厚生労働省が公表する「令和6年 医療施設動態調査」によると、2024年2月時点における病院の施設数は8,110院です。病院の施設数は、前月である2024年1月時点と比較して5施設減少しました。
病院数が減少する主な要因として、経営破綻や後継者不足に伴う閉院、統合・再編の増加が挙げられます。病院のM&A(合併・買収)を通じた事業承継や経営改善の動きが加速中です。
【出典】内閣府「令和6年版高齢社会白書(全体版) 第1章 高齢化の状況(第1節 1)」
病院・医療業界が抱える課題
日本の病院業界は、高齢化にともなう医療ニーズの増加と同時に、経営環境の悪化という大きな課題を抱えています。ここでは、病院・医療業界が抱える課題をご紹介します。
赤字経営の増加
病院経営の悪化は年々進んでおり、多くの病院が厳しい財務状況に置かれています。独立行政法人福祉医療機構が公表するレポート「2022年度 医療法⼈の経営状況について」によると、2022年度の医療法人の経費率は22.7%となり、前年度と比べて事業利益率や経常利益率が低下しました。また、2022年度の赤字法人割合は32.5%に達しています。
【出典】独立行政法人福祉医療機構「2022年度 医療法人の経営状況について」
人手不足の深刻化
医療業界では慢性的な人手不足が続いています。厚生労働省が2024年に公表した「一般職業紹介状況」によると、2024年6月時点での有効求人倍率は全体平均が1.23倍であるのに対して、医療関連職種では高い数値を示しています。
例えば「医師・歯科医師・獣医師・薬剤師」の有効求人倍率は2.01倍、「保健師・助産師・看護師」は1.84倍、「医療技術者」は2.83倍と、深刻な人材不足が浮き彫りとなっています。
設備・施設の老朽化
日本の病院施設のなかには、築年数が経過している建物が少なくありません。老朽化した病院施設は、安全性や衛生面でのリスクが高まり、改修や建て替えが求められます。しかし、経営が厳しい病院では、資金不足のために設備投資が難しく、修繕や建て替えが進まないケースが多いのが現状です。
病院・医療業界のM&A最新動向(2025年)
ここでは、2025年の主なM&A動向について3つのポイントを取り上げ、具体的な傾向と影響を解説します。
地域医療の強化を目指した病院間の統合
地方都市や人口減少地域では、医療資源の分散による非効率が大きな課題となっています。そこで、病院の統合による効率化を進めて、地域全体の医療サービスの質を向上させる取り組みが始まっています。
病院同士が連携して運営することで、医療スタッフ不足の解消や施設の老朽化問題の改善を実現し、経営面での効率化と医療サービスの質の向上が期待されている状況です。
テクノロジー企業による医療分野への参入
近年、大手IT企業やスタートアップ企業が医療分野に進出し、医療データの解析や遠隔医療などの革新的な技術を提供しています。例えば、AIを活用した診断支援システムや、医療機関との提携による診断精度の向上、医師の負担軽減などが進んでいます。
こうしたテクノロジー企業とのM&Aは、医療業界に革新をもたらすとともに、サービス向上に貢献しています。
M&Aによる地域医療の再構築と安定化
医療業界では、事業承継を目的としたM&Aが増加傾向にあります。特に地方では病院の人手不足や財政難が深刻な問題となっており、M&Aを通じて経営基盤の強化が進んでいる状況です。地域の医療提供体制を強化するために、統合や再編を進め、患者が適切な医療を受けられる体制が整備されています。
病院がM&Aで売却するメリット
ここでは、病院がM&Aを行う際に得られる具体的なメリットを、売り手側の視点でご紹介します。
経営の安定化と医療体制の強化
病院がM&Aを行うことにより、事業基盤の安定化を実現できます。経営が厳しい病院を売却し、大手医療法人グループに組み込まれることで、地域医療の連携体制にも参加できるようになるでしょう。医療の質を向上させるための設備投資や業務効率化が可能になり、地域全体の医療体制の強化にも寄与します。
事業承継の確保と引退後の生活資金
後継者問題を抱えている売り手側の病院にとって、M&Aは事業承継の手段となります。また、経営者が引退後の生活資金を確保する手段としても売却が有効です。選択したM&Aスキームや状況によっては、買い手の信用力により経営者保証が解除され、経営者自身の負担を軽減できる可能性があります。
コア事業への集中と効率的な経営
売り手側の病院は、M&Aを通じて採算性の低い事業を売却し、売却益をコア事業に集中させることが可能です。例えば、グループ内の一部の医療機関を売却し、その資金を主要な医療サービスに投資することによって、事業構造改革を進められるでしょう。M&Aは病院の経営効率を向上させ、持続可能な成長を支える手段となります。
病院がM&Aで売却するデメリット
ここでは、病院がM&Aを行う際に考慮すべき主要なデメリットを、売り手側へ向けてご紹介します。
組織文化の統合の難しさ
M&Aで病院間の異なる経営理念や業務プロセスを統合する際は、コミュニケーションが円滑に進まず、職場環境が悪化するおそれがあります。特に注意したいのは、経営陣が統合後に新しい方針を一方的に決定した結果、職員の士気が低下し、退職者が増加するケースです。統合に失敗すると、業務効率や医療サービスの質が低下するリスクがあります。
経済的リスクの増大
M&Aの初期投資で病院の財務負担が一時的に大きくなることがあります。また、予期せぬ経済的問題が発生した場合は、売り手側だけでなく、統合した病院全体に悪影響を与える可能性もあるでしょう。
患者への影響とサービスの低下
病院の再編成やサービスの変更により、患者が受ける医療サービスの質が一時的に低下することがあります。例えば、専門診療科の閉鎖や施設の移転により、患者が治療を継続できなくなる場合があります。さらに、統合後の新しい体制へ移行する際には、医療スタッフの負担が増加し、対応が遅れることもあるでしょう。患者の満足度が低下し、病院に対する信頼が揺らぐリスクがあります。
病院がM&Aで売却を成功させるためのポイント
ここでは、医療法人がM&Aを成功させるために注目すべき、重要なポイントをご紹介します。
ガバナンスコントロールの重要性
病院・医療法人のM&Aでは、経営権のコントロールが一つの重要な課題です。株式会社では株主総会での議決権を通じて経営権を得ますが、医療法人では社員総会の議決権が平等に分配されているため、株式比率でのコントロールが難しくなります。そのため、経営権を取得するためには、社員総会での支持を得ることが不可欠です。
M&A後の経営方法の選択肢
医療法人のM&Aにおいては、経営権を確立する方法として「直接経営」と「間接経営」があります。直接経営とは、出資比率に応じて経営権を得る方法です。ただし、医療法人では社員の支持を得なければならないため、慎重なアプローチが求められます。一方、間接経営は債権者となることで間接的に経営をコントロールする方法です。
適切なM&A仲介会社の選定と手数料の透明性
病院のM&Aを成功させるためには、医療業界に精通したM&A仲介会社を選ぶことが重要です。
特に注目すべきポイントとして、手数料体系の透明性が挙げられます。従来のM&A仲介会社では複雑な手数料体系を採用していることが多く、最終的なコストが見えにくいケースがありました。しかし、近年では業界最低水準の手数料で明瞭なサービスを提供する仲介会社も登場しています。
また、M&A仲介会社を選ぶ際には、担当者の経験や専門性も重視しましょう。医療業界は特有の規制や制度があるため、業界歴10年以上の経験豊富な担当者や、医療業界に特化した知識を持つ専門家のサポートを受けられる仲介会社を選ぶことで、スムーズな取引になると期待できます。
さらに、デジタル技術を活用したM&A仲介サービスも注目されています。最新のマーケティングテクノロジーを活用することで、より多くの潜在的買い手候補とのマッチングが可能になり、最適な売却先を見つけられる確率が高まるでしょう。
病院のM&A事例
最後に、病院のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
メドピア株式会社による株式会社クラウドクリニックのM&A
医師専用コミュニティサイト「MedPeer」を運営するメドピア株式会社は、2022年7月、在宅医療事務アウトソーシングを手がける株式会社クラウドクリニックを簡易株式交換により完全子会社化しました。
高齢化社会の進行により在宅医療の需要が増す中、メドピアは医師15万人超のネットワークと医療関連事業の知見を活かし、クラウドクリニックの専門的サービスと連携することで、在宅医療分野の事業拡大を図る狙いです。
本件は、医療業界におけるICT活用と人材確保の重要性を示すM&Aであり、グループシナジーによる中長期的な成長が期待されます。
【出典】メドピア株式会社「簡易株式交換による株式会社クラウドクリニックの完全子会社化に関するお知らせ」
株式会社創建エースによる株式会社メディカルサポートのM&A
建設やイベントなど多角的に事業を展開する株式会社創建エースは、2024年7月、MS法人である株式会社メディカルサポートを株式交換により完全子会社化しました。
メディカルサポートは、美容クリニック「BON BON CLINIC」を展開する花霞会の経営支援を行う企業で、設立間もないながらも同会との業務契約を通じて美容医療領域での収益を見込んでいます。
創建エースは、本件を通じて美容医療分野に本格参入し、既存のアニメイベント事業との相互送客やSNS活用などを組み合わせたシナジー効果を期待しています。M&Aにより新たな収益源の確保と企業価値の向上を目指す動きです。
【出典】株式会社創建エース「簡易株式交換による株式会社メディカルサポートの完全子会社化に関するお知らせ」
日本郵政株式会社による広島逓信病院のM&A
日本郵政株式会社は、2022年10月1日付で広島市にある広島逓信病院を医療法人社団生和会へ事業譲渡しました。これにより、病院名は「広島はくしま病院」と改称され、所在地や診療体制は従来通り引き継がれます。
本譲渡は地域医療の発展を目的としており、生和会は今後も継続的な医療提供体制の維持と地域に根差した医療サービスの展開を目指すとしています。近年、企業が保有する医療施設の民間医療法人への譲渡は、経営資源の集中や地域医療の担い手確保の観点から増加傾向にあり、本件もその流れの一例といえます。
まとめ|病院・医療業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
病院のM&Aは、経営の効率化やサービスの質向上を目指す上での重要な手段の一つです。医療業界特有の課題やM&Aのリスクを理解し、計画的に交渉や手続きを進めることが求められます。
特に病院経営者の方々は、M&Aを検討する際に、医療業界に精通した専門家のサポートを受けることをおすすめします。CINC Capitalでは、10年以上の経験を持つM&A専門家による丁寧なサポートや、最新のマーケティングテクノロジーを活用した効率的なM&A仲介サービスを提供しています。業界最低水準の手数料体系も魅力の一つです。
病院経営の課題解決や円滑な事業承継を実現するためのM&Aをご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。