CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.07.01
- 更新日2025.07.01
ガラス業界のM&A動向は?事例や成功のポイントを解説【2025年】
ガラス業界でM&Aを検討する中で、技術継承や品質管理、取引先との関係維持に不安を感じていませんか?この業界では他業種と異なる配慮が必要で、慎重な判断が求められます。
本記事では、最新の動向や事例をもとに、M&A成功のためのポイントを解説します。
目次
ガラス業界の市場動向
日本のガラス業界は、建築用、自動車用、容器用など幅広い分野で展開され、2025年の市場規模は約1兆3,401億円と推計されています。今後5年間で年平均成長率2.34%で推移し、2030年には約1兆3,715億円に達する見込みです。
中でも容器用ガラスは2025年の137万トンから2030年に179万トンへと拡大が予測され、CAGRは5.47%と高い伸びが見込まれています。また、リサイクルガラス市場も成長が期待されており、環境意識の高まりと高機能製品の需要が業界の成長を支えています。
ガラス業界が抱えている課題
ガラス業界は、脱炭素社会への対応、国内需要の停滞、後継者不足といった複数の課題に直面しています。本章では、それぞれの課題について詳しく解説いたします。
脱炭素社会に対応する製造コストの重圧
ガラス製造業は、高温での溶解工程によりエネルギー消費が大きく、CO₂排出量も多い産業です。脱炭素社会への移行により、製造コストの増加が課題となっています。
AGCは、化石燃料に代わるアンモニアを燃料とするガラス溶解炉の実証実験に世界で初めて成功し、2050年のカーボン・ネットゼロに向けた一歩を示しました。今後は、技術革新とコストの両立が業界全体に求められています。
国内需要の停滞と高機能ガラスへの転換
日本国内における建築用や自動車用ガラスの需要は、人口減少や新築物件数の減少などにより停滞しています。特に、液晶用ガラス分野では、中国企業との価格競争が激化し、国内メーカーの収益性が低下しています。
このような状況を受けて、日本のガラスメーカーは、付加価値の高い製品の開発や海外市場への展開を進めています。例えば、AGCは、スマートフォンやタブレット向けの高機能ガラス製品の開発を強化し、グローバル市場での競争力を高めています。
中小企業の後継者不足と人材難
ガラス業界では、中小企業の経営者の高齢化が進み、後継者不足が深刻な問題となっています。2023年上半期には、後継者不在に起因する「後継者難」倒産が209件発生し、上半期では過去2番目の多さとなりました。
また、ガラス・土石製品製造業界では、慢性的な人手不足が問題視されており、身内や従業員に後継者となるべき人物がいない企業も少なくありません。このような状況を受けて、M&Aによる第三者への事業承継が進められています。
ガラス業界のM&A最新動向(2025年)
2025年のガラス業界では、異業種からの新規参入、中小企業の第三者承継、大手企業による事業再編といったM&Aの動きが活発化しています。
本章では、3つの動向について詳しく解説していきます。
異業種による新規参入M&Aが増加
近年、省エネ建材や高機能ガラスへの需要増加を背景に、異業種からのガラス業界への参入が進んでいます。たとえば、イチネンホールディングスは、日石硝子工業のガラス製品製造販売事業を譲り受けるため、同社の新設分割会社の株式を取得し、子会社化を決定しました。
これにより、同社はガラス業界へ本格参入することとなり、業界の再編にも影響を与えています。
中小企業の第三者承継が活発化
ガラス業界では、中小企業の経営者の高齢化が進み、後継者不足が深刻な問題となっています。このような状況を受けて、第三者への事業承継を目的としたM&Aが活発化しています。
中小企業庁の報告によれば、2023年度には、事業承継・引継ぎ支援センターにおいて、前年度を上回る23,722件の相談対応が実施されました。
また、後継者人材バンクには、1,562件の新規登録があり、累計登録者数は8,524名となっています。
大手企業による事業再編と選択と集中
ガラス業界の大手企業は、事業の選択と集中を進めることで、経営資源の最適化を図っています。これにより、競争力の強化や収益性の向上を目指す動きが見られます。
AGC株式会社は、ロシアで事業展開していた傘下2社の譲渡を完了し、同国から完全に撤退しました。譲渡したのは、建築・自動車用ガラスの製造・販売を手がけるAGC Bor Glassworks JSCとAGC Flat Glass Klin LLCです。これにより、AGCはロシア市場からの撤退を決定しました。
ガラス業界でM&Aを成功させるためのポイント
ガラス業界におけるM&Aの成功には、技術や製品の継承、顧客基盤の活用、品質管理の統合、環境対応の共有などが求められます。
本章では、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
技術や製品の継承体制を早期に構築する
ガラス業界では、熟練技術者の経験や製品づくりの知識が、企業の強みとなっています。M&A後に事業をうまく統合するには、こうした技術やノウハウをしっかり引き継ぐ仕組みを早く整えることが大切です。
例えば、墨田区のハンドメイドガラス工場では、職人の技術を次世代に伝える取り組みが行われており、技術継承の重要性が示されています。
顧客基盤や販路の相乗効果を意識する
M&Aによって拡大した顧客基盤や販路を活用し、クロスセルや販路再編を進めることで、シナジー効果を最大化できます。例えば、ジーエルサイエンスとアズワンの資本業務提携では、両社の販売チャネルを活用した販路拡大が図られています。
環境対応型経営の推進による企業価値の向上
近年、環境問題への対応は企業経営において重要な要素となっています。ガラス業界でも、省エネやリサイクルなどの環境対応が求められています。M&Aを機に、環境対応型の経営方針を導入することで、企業価値の向上や新たな市場の開拓が期待できるでしょう。
海外市場への展開による成長機会の創出
ガラス業界では、海外市場への展開が成長戦略の一環として注目されています。M&Aを通じて、海外企業との連携や現地法人の設立などが可能となります。これにより、新たな市場への参入やグローバルな競争力の強化が期待できるでしょう。
品質管理と安全規格の統合を徹底する
建築用や自動車用ガラスは、厳格な品質管理と安全規格が求められます。M&A後は、これらの基準を統一し、製造・検査体制を整備することが重要です。
例として、NSGとSYPの自動車ガラス事業の統合では、品質管理体制の統一が進められています。
ガラス業界のM&A事例
最後に、ガラス業界のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
株式会社イチネンホールディングスによる日石硝子工業株式会社のM&A
2025年3月、イチネンホールディングスは、日石硝子工業が新設分割により設立する新会社(日石硝子工業株式会社)の全株式を取得し、子会社化しました。
譲受対象となったのは、住宅・オフィス向けに幅広いガラス加工製品を提供するガラス製品の製造・販売事業で、直近の売上高は6.7億円。
これにより、同社傘下の新光硝子工業や新生ガラスとの技術連携や調達面のスケールメリット、商品ラインナップの拡充といったシナジーが期待されています。ガラス加工分野の収益性向上と事業拡大を狙った戦略的M&Aといえます。
【出典】株式会社イチネンホールディングス『日石硝子工業株式会社からの事業譲受を目的とした新設分割会社の株式取得(子会社化)に関する株式譲渡契約締結のお知らせ』
イケダガラス株式会社による株式会社クリーンガラスのM&A
2025年1月、総合加工ガラスメーカーのイケダガラス株式会社は、複層ガラス製造を手がける株式会社クリーンガラスの株式80%を取得し、子会社化しました。
クリーンガラスは冷凍・冷蔵ショーケース向けの複層ガラス製造に強みを持ち、これまでイケダガラスとも協業実績がありました。
今回のM&Aは、クリーンガラスの株主が事業継承を目的に株式を譲渡したことによるものです。イケダガラスはこの買収により、産業用複層ガラス製造の内製化を実現し、供給体制強化とコスト最適化を図ります。
また、クリーンガラスグループが持つ加工設備やサービスの向上によって、更なる競争力強化が期待されます。製造力と販売網の融合による業容拡大が今後の注目点です。
【出典】イケダガラス株式会社『【M&A】事業継承でクリーンガラスを子会社化のご紹介』
日本電気硝子株式会社によるPPG欧州ガラス繊維事業の買収
日本電気硝子株式会社は2016年10月、米国PPG Industries, Inc.の欧州ガラス繊維事業を取得し、英国およびオランダにおける拠点を子会社化しました。
英国Wigan工場の資産は新設子会社Electric Glass Fiber UK, Ltd.が継承し、オランダのPPG Industries Fiber Glass B.V.は株式取得によりElectric Glass Fiber NL, B.V.としてグループ傘下に入りました。
これにより同社は欧州生産拠点を確保し、主力製品であるチョップドストランドの拡販や製品ラインアップの拡充を図る体制を整えました。
ガラス繊維市場はグローバルな需要増が続いており、同社の世界供給体制強化は長期的な競争力の底上げにつながると見られます。
【出典】日本電気硝子株式会社『PPGの欧州ガラス繊維事業の資産取得及び株式取得(子会社化)の完了に関するお知らせ』
日本精工硝子株式会社による三洋化学工業株式会社のM&A
2025年2月、日本精工硝子株式会社は、樹脂容器やキャップの開発を手がける三洋化学工業株式会社を会社分割(吸収分割)により完全子会社化しました。
三洋化学工業は、独自性のある容器デザインと化粧品の製造・充填機能を備えた9Timesを傘下に持つグループ企業です。日本精工硝子は、ガラス瓶製造を130年にわたり手がけており、今回のM&Aによりガラスと樹脂製品の両素材でワンストップの製品供給体制を構築します。
今後は、コスト最適化やガバナンス強化を図りながら、製品開発力の強化と市場競争力の向上が期待されます。このM&Aは、容器業界の多様化ニーズに応える動きとして注目されます。
【出典】日本精工硝子株式会社『三洋化学工業グループの完全子会社化について』
まとめ│ガラス業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
ガラス業界では、脱炭素対応や職人技術の継承、国内市場の成熟化といった構造的課題に直面する中、M&Aを活用した事業の再編・成長が活発化しています。
事業価値を正しく引き出し、シナジーを最大化するには、業界特有の要素を理解したうえでの戦略的なアプローチが欠かせません。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。