CINC CapitalはCINC(証券コード:4378)のグループ会社です。
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業種
- 公開日2025.04.11
- 更新日2025.04.14
バス会社のM&A動向(2025年)メリットデメリット/事例/成功のポイントを解説
日本のバス業界は、経営環境の変化と構造的な課題に直面し、対応策としてM&Aに注目が集まっています。特に近年は、地方での事業統合や観光需要の回復にともなう戦略的なM&Aが活発化しています。
本記事では、バス業界のM&A最新動向や、売り手目線でのメリット・デメリット、成功に向けたポイントを解説します。
目次
バス業界の市場動向
「公益社団法人日本バス協会」が公表する資料「バス事業の現況 2022」によると、2020年度における乗合バス事業者数は2,337社(車両数57,914両)、貸切バス事業者数は3,789社(車両数45,026両)に達しています。
このうち乗合バスの利用者数は、長期的な減少傾向が続いている状況です。2022年度における乗合バス輸送人員は約31億2,055万人で、営業収入は5,758億5,600万円となっています。輸送人員は2021年度の約42億5,764万人と比較して減少しました。長期的な減少の背景として、都市部での鉄道の利便性向上や、地方での自家用車の普及などの要因が挙げられます。
同様に、高速バスを含む貸切バスの利用者数も減少傾向を示しています。2022年度における貸切バス輸送人員は約1億4,129万人で、営業収入は2,175億2,000万円です。こちらも輸送人員は2021年の2億7,458万人と比較して減少する結果となりました。
【出典】公益社団法人日本バス協会「バス事業の現況 2022」
バス業界が抱える課題
バス業界は深刻な経営課題に直面しています。人材不足・収益性の低下・燃料費高騰などの問題の解決手段として、M&Aに注目が集まっています。ここでは、日本のバス業界が抱える経営課題についてご紹介します。
地域交通の維持が困難
地方のバス利用者数の減少にともない、多くのバス会社が経営危機に陥っています。地方路線では人口減少の影響により利用者数が著しく低下し、独立採算での運営が困難な状況です。また、観光バス事業に関しても、航空機の低価格化による競争激化で厳しい経営環境が続いています。
深刻化する人材不足と高齢化問題
バス業界の人材不足と高齢化は深刻な状況です。「株式会社帝国データバンク」が2023年に実施した調査によると、民営路線バス運行業者の約8割にあたる98社が、路線の減便・廃止を余儀なくされています。業界では若手ドライバーの確保が難しく、賃金水準や労働環境の改善が急がれている状況です。運転手不足はバス会社にとって大きな経営課題であり、なかでも中小規模のバス会社においては問題が深刻化しています。
【出典】株式会社帝国データバンク「特別企画:全国『主要路線バス』運行状況調査(2023年)」
燃料費高騰による経営圧迫
近年はガソリン代の値上がりが続き、バス業界では企業の負担が増加しています。地域の公共交通を担うバス事業者にとって、燃料費の上昇は非常に大きな負担となり、経営を圧迫するほどの影響を及ぼしています。このような状況下で、多くのバス会社がM&Aを通じた経営基盤の強化を検討しています。
バス業界のM&A最新動向(2025年)
近年のバス業界では、地方での事業統合と観光需要の回復にともなう戦略的なM&Aが活発になっています。ここでは、バス業界におけるM&A最新動向をご紹介します。
地域バス会社の統合が加速
地方のバス会社は、慢性的な運転手不足と利用者の減少という二重の課題に直面しており、経営効率化を目指した統合の動きが進んでいます。特に近年は、運行コストの削減や経営資源の最適化を目的に、地域の中堅バス会社同士の経営統合が増加しました。
観光バス・高速バスのM&Aが活発化
コロナ禍からの需要回復にともない、高速バス事業を中心に成長機会を見据えたM&Aが増加しています。中でも訪日外国人向けの観光バス需要は拡大傾向にあり、大手運輸会社による地方の観光バス会社の買収が多く見られます。
異業種との提携
経営基盤の強化の観点から、鉄道会社や観光関連企業との戦略的提携が増加しています。デジタル技術を活用した予約システムの採用、環境に配慮した次世代車両の導入など、新たな分野での協業が進んでいます。また、地域の交通インフラを維持するため、自治体との連携も強まっています。
バス会社がM&Aをするメリット
中小バス会社にとって、M&Aは経営課題を解決する有効な手段だといえるでしょう。ここではメリットについて売り手目線で解説します。
事業存続と従業員の雇用維持
M&Aで事業譲渡や株式譲渡などを行うと、事業の継続性を確保して長年培ってきた運行サービスを利用者に提供し続けられます。買い手企業との交渉次第では、従業員の雇用・待遇の維持も期待できます。地域の交通インフラを守る観点からも、M&Aは重要な選択肢だといえるでしょう。
資本力のある企業と統合することで経営が安定
買い手企業である大手バス会社との経営統合により、財務基盤が強化され、売り手側は安定した経営体制を築けます。特に運転手不足や設備投資などの課題に対して、グループの経営資源を活用した解決が見込めるでしょう。
運行コストや設備投資の負担が軽減
M&Aによる経営統合では、買い手企業との車両や整備施設の共同利用により、運行コストの削減効果が期待できます。また、環境対応車両の導入など、親会社のサポートにより大規模な設備投資も実現できる可能性があります。
バス会社がM&Aをするデメリット
M&Aが活発化する一方で、売り手側には慎重に検討すべきデメリットも存在します。詳しく見ていきましょう。
統合後の運営方針が変わる可能性
買収企業の経営戦略次第では、これまで維持してきた路線の見直しや運行ダイヤの変更が必要となるケースがあります。なかでも過疎地域における路線バス事業では、採算性の低い路線が見直しの対象となる可能性が考えられます。
従業員の待遇が変わるリスク
M&Aによる売却後は、給与体系や勤務シフトの変更、福利厚生の見直しなど、従業員の労働環境が変化するケースがあります。これまで培ってきた企業文化や従業員間の関係性が変化し、個々のモチベーションが低下するリスクがあります。ベテラン人材が離職する場合もあるため注意が必要です。
バス会社がM&Aを成功させるためのポイント
ここでは、バス業界のM&Aの成功に向けたポイントを、売り手企業目線で解説します。売却を成功へ導くために、ぜひ参考にしてください。
適切な買い手を見つける
バス事業の特性を理解し、地域社会への貢献を重視する買い手を選定することが重要です。近年は、運転手不足の解消や経営効率化を目指す大手・中堅バス会社による買収需要が高まっています。企業文化や経営方針の親和性を慎重に見極めることで、M&A後の統合がスムーズに進みます。
従業員や地域への説明を適切に行う
バス事業は地域の公共交通を担う重要なインフラです。そのため、M&Aに際しては従業員や地域住民への丁寧な説明が欠かせません。運転手の雇用継続や路線維持について、具体的な計画を示すことで関係者の不安を解消できます。
専門家への相談
専門知識を持つM&Aアドバイザーを活用することで、企業価値を適正に評価し、かつ買い手の選定を効率的に進められます。なかでも重要なのは、バス業界特有の許認可や規制に精通した専門家を見つけることです。
例えばバス業界のM&Aでは、道路運送法に基づく事業譲渡や許可要件の引継ぎ、運行路線の維持に関する行政との調整など、業界特有の手続きが必要です。また、環境対応車両導入への補助金など、M&Aへ向けて公的な制度を活用できる可能性もあるでしょう。バス業界のM&Aに詳しい仲介会社など、専門家への相談をおすすめします。
バス会社のM&A事例
最後に、バス会社のM&A事例をご紹介します。自社のM&A検討時の参考にしてみましょう。
南海電気鉄道株式会社による明光バス株式会社のM&A
南海電気鉄道株式会社は2024年10月、和歌山県を中心に路線・高速バス事業を展開する明光バス株式会社の株式を追加取得し、出資比率を17.6%から72.9%に引き上げ、同社を子会社化しました。
明光バスは熊野古道や白浜温泉といった観光地を抱えるエリアで、地域交通の要として機能しており、都市圏と観光地を結ぶ高速バスも運行しています。南海電鉄は中期計画で「ツーリズム関連事業の強化」を掲げており、本件は和歌山を中心とした滞在・周遊型観光促進の戦略の一環です。
今回のM&Aにより、観光と交通の融合による地域振興やインバウンド需要の取り込みが期待され、今後の紀伊半島全体での観光施策における布石とも言えます。
【出典】南海電気鉄道株式会社「明光バス株式会社の株式取得に関するお知らせ」
東急バス株式会社と株式会社東急トランセのM&A
東急バス株式会社は、2024年4月1日付で100%子会社である株式会社東急トランセを吸収合併しました。トランセは1998年設立以来、渋谷~代官山エリアの循環バスや空港高速バス、貸切バスなどを手がけ、東急バスと一体的に事業を展開してきました。
バス業界では運転者不足が深刻化する中、今回の合併は採用活動の強化や乗務員の柔軟な配置を目的とした組織統合です。合併により両社の運行リソースが一本化され、効率的な運営体制が構築されると期待されます。
近年、労働力不足への対応や地域交通の維持を背景とした再編が進んでおり、本件もその一例といえます。
【出典】東急バス株式会社、株式会社東急トランセ「東急バス株式会社と株式会社東急トランセの合併に関するお知らせ」
神姫グリーンバス株式会社と株式会社ウエスト神姫の合併
2022年10月、神姫バス株式会社は、グループ傘下の神姫グリーンバス株式会社と株式会社ウエスト神姫を合併し、新会社「株式会社ウイング神姫」として再編しました。
両社は地域密着型のバス事業を展開しており、新型コロナウイルスによる移動需要の減退や地域の人口減少といった環境変化に直面する中で、経営資源の統合と効率化を図る狙いがあります。
合併により運転士や車両の最適配置、ノウハウの共有による事業運営の強化が可能となり、神姫バスグループ全体での地域交通ネットワークの持続的な発展が期待されます。地方交通事業者におけるグループ内再編は、経営体力の維持とサービス向上のための有効な手段となっています。
【出典】神姫バスグループ「神姫グリーンバスとウエスト神姫の合併について」
まとめ|バス業界のM&A動向を押さえてM&Aを成功させましょう
バス事業は公共交通を担う重要なビジネスでありながら、近年は人材不足や燃料費高騰などの課題に直面し、主に地方を中心として経営が困難になるケースが少なくありません。
そんな中でM&Aを成功させるには、適切な買い手の選定、従業員や地域への丁寧な説明、そして専門家のサポートが必須です。バス業界のM&Aを成功させるには、業界に詳しい仲介会社に相談し、二人三脚で売却を進めましょう。
CINC Capitalは、M&A仲介協会会員および中小企業庁のM&A登録支援機関として、M&Aのご相談を受け付けております。業界歴10年以上のプロアドバイザーが、お客様の真の利益を追求します。M&Aの相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

CINC Capital取締役執行役員社長
阿部 泰士
リクルートHRマーケティング、外資系製薬メーカーのバクスターを経て、M&A業界へ転身。 日本M&AセンターにてM&Aアドバイザーとして経験を積み、ABNアドバイザーズ(あおぞら銀行100%子会社)では執行役員営業本部長として営業組織を牽引。2024年10月より上場会社CINCの100%子会社設立後、現職に就任。